港区は夜間人口約26万人に対し、昼間人口が約100万人に達する国際都市です。湾岸の埋立地から標高30m超の台地まで高低差のある地形が連続し、芝・麻布・赤坂・高輪・芝浦港南という5地区でリスクの性質が大きく異なります。古川が区内を貫くほか、東京湾に直接面した低地も広がっており、地震・津波・液状化・土砂災害・内水氾濫という複合的なリスクを抱えた区です。
東京都の被害想定では港区全域が首都直下地震の最大震度域に入ると示されており、備えの優先度が高い地域のひとつです。
港区を取り巻く災害の歴史#
港区は歴史的に、大地震と津波の被害を繰り返し受けてきたエリアです。過去の被害の規模を知ることが、ハザードマップの数値を「自分事」として捉える出発点になります。
関東大震災(1923年)の被害#
1923年9月1日に発生した関東大震災(M7.9)は、現在の港区域に甚大な被害をもたらしました。芝区・麻布区・赤坂区では地震の揺れによる建物倒壊に加え、火災が広範囲に延焼しました。当時の低地・埋立地では地盤の液状化も発生したとされており、現在の芝浦・港南エリアへの教訓として受け継がれています。
想定される首都直下地震の被害規模#
東京都の2022年被害想定では、都心南部直下地震(M7.3)が冬・夕方・風速8m/sという条件で発生した場合の東京都全体への影響が示されています。港区はこのシナリオで最大震度域(震度6強〜7)に含まれます。
| 項目 | 東京都全体のデータ |
|---|---|
| 建物被害 | 約194,431棟(揺れ全壊 82,199棟、火災焼失 112,232棟) |
| 人的被害 | 死者 6,148人(揺れ 3,666人、火災 2,482人)、負傷者 93,435人 |
| 帰宅困難者 | 約453万人(都内全域) |
| 港区内のリスク | 特定緊急輸送道路沿道の建物倒壊、細街路閉塞率15%以上の局所エリアあり |
港区のハザードマップの種類と確認方法#
港区は複数のハザードマップを公式サイトで公開しています。港区ハザードマップポータルから、浸水・津波・液状化・土砂災害のリスクを地図上でまとめて確認できます。さらに、国土交通省の3D都市モデル「PLATEAU(プラトー)」を活用したデジタルツインシステムにより、ハザード情報を立体的に可視化したサービスも提供されています。
| マップ名 | 内容 |
|---|---|
| 津波ハザードマップ | 防潮施設が機能する場合(マップA)と機能しない場合(マップB)の2シナリオで浸水想定を表示 |
| 高潮ハザードマップ | 台風等による高潮時の浸水想定区域 |
| 洪水(浸水)ハザードマップ | 古川など区内河川の氾濫・内水氾濫による浸水想定 |
| 土砂災害ハザードマップ | 急傾斜地崩壊の警戒区域・特別警戒区域 |
紙版のハザードマップは各総合支所窓口でも配布しています。自宅の住所を入力して複数のリスクをまとめて把握することを推奨します。
港区のエリア別リスク早見表#
港区の5地区は、地形の違いにより主要リスクが大きく異なります。自分が住む・働くエリアの特性を把握することが備えの第一歩です。なお、液状化とは地震の揺れにより地中の水と砂が混合し、地盤が流動化する現象を指します。
| 地区 | 地盤・地形 | 地震・液状化 | 土砂災害 | 浸水・津波 |
|---|---|---|---|---|
| 芝地区 | 東側は埋立低地、西側は台地 | 高(新橋・西新橋・虎ノ門周辺) | 中(愛宕・芝公園周辺) | 中(東側低地) |
| 麻布地区 | 台地と古川沿い谷底低地が混在 | 中(六本木二〜四丁目周辺) | 高(元麻布・六本木等、区内最多) | 高(古川沿い内水氾濫) |
| 赤坂地区 | 台地と低地が混在、起伏激しい | 中(赤坂六・九丁目周辺) | 高(赤坂五〜九丁目等) | 中(窪地への雨水集中) |
| 高輪地区 | 北側・東側低地、大部分は台地 | 低〜中 | 高(地区全体に急傾斜地) | 低(台地主体) |
| 芝浦港南・台場地区 | 全域が東京湾の埋立低地 | 高(港南・海岸・お台場等) | 低 | 高(津波・高潮・孤立リスク) |
各エリアの特徴#
芝地区は東西でリスクの性質が分かれます。新橋・浜松町・海岸一丁目など東側の低地は液状化危険度が高く(PL値15超のエリアが面的に分布)、浸水リスクも重なります。虎ノ門・愛宕など西側の台地では土砂災害警戒区域が点在。木造建物の旧耐震率が約76.6%と高い点も課題です。
麻布地区は標高30m以上の台地と古川沿いの谷底低地が混在し、その境界に急傾斜地が集中しています。急傾斜地崩壊による全壊想定棟数は区内5地区で最多。古川流域の低地は、川が溢れなくても排水が追いつかず街が冠水する現象(内水氾濫)のリスクが特に高いエリアです。外国人居住者が10人に1人という地域特性もあり、多言語対応が防災上の重要課題になっています。
赤坂地区は起伏が激しく、赤坂見附駅付近などの窪地に雨水が集まりやすい地形です。昼夜間人口比率が約5.34倍と高く、赤坂見附駅・青山一丁目駅周辺で多数の帰宅困難者が発生することが想定されています。区内で最も高齢化率が高い地区(20.4%)でもあり、避難行動要支援者への対応が課題です。
高輪地区は大部分が台地のため浸水リスクは比較的低い一方、地区全体にわたって急傾斜地(土砂災害特別警戒区域等)が分布しています。木造建物の棟数と割合は区内最多で、白金台二・三丁目付近は建物倒壊リスクが高いと評価されています。
芝浦港南・台場地区は全域が埋立地であり、港南一・二丁目や海岸三丁目、お台場の一部で液状化危険度が高いエリアが広がっています。運河に囲まれた構造上、地震や津波で橋りょうが損壊すると地域全体が孤立するリスクがあり、台場エリアはレインボーブリッジ等でのみ区内と接続されています。
港区の主要駅周辺の浸水リスク#
通勤・通学・来街で利用する主要駅周辺の浸水想定を確認します。浸水深には2つの基準があります。
- 計画規模 — 数十年〜百年に1回程度の大雨を想定した浸水深
- 想定最大規模 — 1,000年に1回程度の極端な大雨を想定した浸水深
| 駅名 | 主なリスク | 注意点 |
|---|---|---|
| 品川駅 | 港南口側の低地部で浸水リスク、液状化 | 区内最大の約10.2万人の帰宅困難者が滞留する想定 |
| 田町駅 | 駅東側(芝浦側)の運河沿いで浸水想定 | 橋梁通行不能時に孤立リスク、約5.7万人の帰宅困難者 |
| 新橋駅 | 液状化危険度が高いエリアに位置 | 地下鉄・地下街への浸水流入に警戒 |
| 麻布十番駅 | 古川沿いの谷底地形、内水氾濫の複合リスク | 周囲の台地から雨水が集中的に流入しやすい構造 |
| 赤坂見附駅 | 窪地地形で雨水が溜まりやすい | 想定最大規模降雨時に周辺道路が冠水、地下鉄への浸水懸念 |
品川駅は港区内で最も多くの帰宅困難者が集中する拠点です。新幹線停車駅でもあり、津波・高潮による浸水と液状化による道路損壊が重なった場合、救援活動が著しく困難になります。
麻布十番駅周辺は、古川の増水と内水氾濫が同時に発生するリスクが高く、地下鉄出入口への浸水対策が特に重要なエリアです。各駅の詳細な浸水深は港区洪水・浸水ハザードマップで住所ごとに確認できます。
港区の津波リスク#
津波の浸水想定#
海溝型地震による最大津波高の想定は以下のとおりです。
| 想定地震 | 最大津波高 |
|---|---|
| 南海トラフ巨大地震(M9クラス) | 2.37m |
| 大正関東地震クラス(M8クラス) | 2.00m |
防潮堤が健全に機能し液状化による地盤沈下が0〜7cmの範囲にとどまる場合(津波ハザードマップA)、現状の防潮施設で浸水を抑制できると想定されています。ただし、防潮堤や水門が地震で機能不全となった場合(マップB)は、芝浦・港南・台場の埋立地エリアで大規模浸水が発生します。
津波到達と避難の時間#
南海トラフ巨大地震が発生した場合、港区への津波到達までに一定の時間的猶予があります。揺れを感じたら、地震情報の確認を待たず、すぐに津波避難ビルの2階以上へ徒歩で移動することが基本です。津波浸水区域外の学校・職場にいる場合は、安全が確認されるまでその場にとどまることが推奨されています。
港区の地震リスク#
想定される地震と発生確率#
| 地震タイプ | 規模 | 発生確率 | 港区での想定震度 |
|---|---|---|---|
| 都心南部直下地震 | M7.3 | 今後30年以内に約70% | 震度6強〜7 |
| 大正関東地震タイプ | M8クラス | 0〜6% | 震度6強 |
| 南海トラフ巨大地震 | M9クラス | 70〜80% | 震度5強以下 |
都心南部直下地震は港区全域が震源に極めて近く、最大震度域に含まれます。港区では特定緊急輸送道路沿道の建物倒壊リスクや、細街路の閉塞率が局所的に15%以上に達するエリアがあり、発災直後の救助活動が困難になる可能性があります。
液状化リスク#
液状化が発生すると、建物の傾斜・沈下やマンホールの浮上、道路の隆起・陥没が起こり、地下埋設管(上下水道等)の断裂にもつながります。
| リスク | 該当エリア |
|---|---|
| 高 | 港南一・二丁目、海岸三丁目、お台場の一部(埋立地)、新橋・西新橋・虎ノ門北側 |
| 中 | 六本木二〜四丁目付近、赤坂六・九丁目付近 |
| 低 | 麻布・赤坂・高輪の台地上 |
土砂災害リスク#
麻布・赤坂・高輪の各地区では、台地と低地の境界に急傾斜地が集中しています。元麻布、麻布永坂町、六本木周辺、赤坂五〜九丁目、南青山四丁目周辺、高輪地区全体にわたって土砂災害特別警戒区域が分布しており、強い雨や地震時の崩壊に注意が必要です。
出典:港区地域防災計画 概要版
浸水深の目安と避難判断#
港区のハザードマップに示される浸水深が実際にどのような状況かを、行動の目安とあわせて整理します。
| 浸水深 | 状況 | 行動の目安 |
|---|---|---|
| 0.5m未満 | 大人の膝下 | この段階に達する前に避難を完了させる |
| 0.5〜1.0m | 大人の腰 | 歩行による避難は危険。0.5mが歩行の限界 |
| 1.0〜3.0m | 1階が完全に水没 | 2階以上への垂直避難。木造家屋は倒壊・流出リスクあり |
| 3.0m以上 | 2階の床下まで浸水 | 事前の立ち退き避難が必須 |
| 5.0m以上 | 2階建て家屋の屋根に達する | 立ち退き避難が唯一の手段 |
芝浦港南・台場地区の埋立低地や、古川沿いの低地にお住まいの方は、高潮・洪水警報が発表された時点で早めに避難行動を開始することが重要です。警戒レベル3(高齢者等避難)の発令段階で、高齢者や乳幼児のいる家庭は避難を開始してください。
避難場所と避難所の違い#
「避難場所」と「避難所」は役割が異なります。この違いを事前に押さえておくと、災害時に迷わず動けます。
| 種別 | 役割 | 具体例 |
|---|---|---|
| 区民避難所(地域防災拠点) | 避難生活を送る施設 | 小中学校等(各地区に複数) |
| 津波避難ビル | 津波からの一時避難 | 区内の指定高層建物2階以上 |
| 福祉避難所 | 配慮が必要な方の二次避難先 | 介護・医療対応施設(直接避難は不可) |
主な区民避難所(地域防災拠点)#
港区では小中学校などの公共施設を区民避難所として指定しています。地区ごとの主な施設は以下のとおりです。
| 地区 | 主な避難所 |
|---|---|
| 芝地区 | 御成門学園、芝小学校、生涯学習センター、エコプラザ 他 |
| 麻布地区 | 麻布小学校、本村小学校、笄小学校、六本木中学校 他 |
| 赤坂地区 | 赤坂学園、青山小学校、青山中学校、赤坂区民センター 他 |
| 高輪地区 | 高輪区民センター、三田中学校、白金小学校、高輪台小学校 他 |
| 芝浦港南・台場地区 | 芝浦小学校、港南中学校、みなとパーク芝浦、お台場学園 他 |
工事等で使用できない施設があります。避難時は港区避難所一覧や防災アプリで最新の開設状況を確認してください。
重要な注意点#
大雨や高潮の際には、浸水リスクにより開設されない避難所があります。特に芝浦港南・台場地区では、橋りょうが通行不能になると避難所へのアクセス自体が困難になる可能性もあります。水害時に使える避難所と経路は、平時に確かめておきましょう。
福祉避難所は発災直後に直接避難する施設ではありません。まず区民避難所に避難し、専門職の確認を経て案内される仕組みです。
出典:港区 避難所
防災情報の入手方法#
情報の入手手段は最低2つ確保することを推奨します。特に港区は高層マンションの気密性が高く、屋外の防災行政無線が聞こえにくい環境のため、複数の受信手段を組み合わせることが有効です。
| 手段 | 概要 |
|---|---|
| 港区防災ラジオ | 緊急放送が自動で割り込み起動する専用ラジオ(1世帯1台・自己負担1,000円) |
| 港区防災ポータルサイト | 避難情報・避難所開設状況をリアルタイム確認 |
| 港区避難所リスト | 地区別の区民避難所・福祉避難所の一覧 |
緊急速報メール(エリアメール)は、避難指示・津波警報を携帯キャリア経由で強制受信する仕組みのため、事前登録は不要です。
警戒レベルと行動#
| レベル | 発表される情報 | 住民の行動 |
|---|---|---|
| 1 | 早期注意情報 | 災害への心構えを高める |
| 2 | 大雨・洪水注意報 | ハザードマップで避難先を再確認 |
| 3 | 高齢者等避難 | 高齢者・乳幼児のいる家庭は避難開始 |
| 4 | 避難指示 | 危険な場所から全員避難 |
| 5 | 緊急安全確保 | 命を守る行動を直ちにとる |
レベル5は災害がすでに発生または切迫している状態です。レベル4までに避難を完了させることが原則で、レベル5発令後の安全な避難は保証されません。
高潮・洪水の場合、港区では高潮特別警戒水位(A.P.+3.6m)に到達する数時間前を目安にレベル3が発令され、潮位が危険潮位(T.P.+2.4m)を超えると予測される場合にレベル4が発令されます。
出典:港区 水防計画
マイ・タイムラインの作成#
「いつ」「誰が」「何をするか」を事前に時系列で整理する避難行動計画がマイ・タイムラインです。港区は「港区版わが家のマイ・タイムライン」の作成を推奨しており、平日昼間に家族が分散している状況での南海トラフ地震を想定したシナリオが参考になります。
以下の3ステップで作成します。
- リスクを確認する — ハザードマップで自宅・職場周辺の浸水深、液状化、土砂災害リスクを確認する
- 避難方法を決める — 在宅避難が可能か(高層マンションで構造安全が確認された場合)、立ち退き避難が必要かを判断する
- タイミングを決める — 警戒レベルに応じて「レベル3で高齢者・乳幼児は移動開始」「レベル4で全員避難完了」のように、家族の役割分担を時系列で決める
港区では、建物の構造安全が確認されれば在宅避難が基本方針です。ただし地上との往復が困難になることを前提に、高層階での1週間分以上の物資備蓄を推奨します。
港区の独自の防災対策#
港区は高い財政力と都市特有のリスクに対応するため、他の自治体にはない独自の防災施策を展開しています。
| 施策・事業 | 内容 |
|---|---|
| 防災ラジオ配付 | 区内1世帯1台・自己負担1,000円。2024年8月から古川水位情報対応の特別モデルも配付開始。聴覚障害者向けには光と文字表示で情報を伝える特別仕様あり |
| 携帯トイレの全戸配付 | 区内全世帯を対象に携帯トイレ520万個を無償配付するプロジェクトを推進 |
| マンション防災認定制度 | マンション管理組合の防災活動を評価・認定し、在宅避難体制の強化を支援 |
| 止水板設置助成(2026年4月開始) | 内水氾濫・局地的大雨から建物を守る防水板の設置費用を助成 |
| 感震ブレーカー設置補助(2026年3月開始) | 通電火災を防ぐ感震ブレーカーの設置費用を助成 |
| エレベーター用防災チェア配付(2026年3月開始) | 地震によるエレベーター閉じ込め対策として、非常食・飲料水・簡易トイレを備蓄できる防災チェアを無償配付 |
| デジタルツイン(PLATEAU)導入 | 浸水・液状化等のハザード情報を3D空間上で可視化するシステムを提供 |
防災ラジオは2022年から大使館やマンション管理組合にも配付対象を拡大しており、外国人居住者への情報伝達対応も強化されています。
出典:港区防災ポータルサイト
防災チェックリスト#
ここまでの内容をもとに、港区在住・在勤の方が確認しておくべき項目を一覧にまとめました。
備蓄の目安は、水が1人1日3リットル、非常用トイレが1人1日5回分で、日数は1週間分です。高層マンションにお住まいの方は地上との往復が困難になることを前提に、各階・各戸での物資完結を意識した備えが求められます。
| 確認 | 項目 |
|---|---|
| ☐ | 港区ハザードマップポータルで自宅・職場のリスクを全種類確認した |
| ☐ | 津波ハザードマップでマップA・Bの両シナリオを確認した |
| ☐ | 自宅・職場が液状化高リスクエリアかどうか確認した |
| ☐ | 近くの土砂災害警戒区域・急傾斜地を確認した(麻布・赤坂・高輪在住の方) |
| ☐ | 最寄りの区民避難所と、水害時に開設されるかどうかを確認した |
| ☐ | 近くの津波避難ビルを確認した(芝浦・港南・台場在住の方) |
| ☐ | 橋りょう損壊時の避難経路を考えた(芝浦・台場在住の方) |
| ☐ | 港区防災ラジオを申請・取得した |
| ☐ | マイ・タイムラインを作成し、家族・同居者と共有した |
| ☐ | 家族が分散している昼間の発災時の合流方法を決めた |
| ☐ | 1週間分の水・食料・トイレを備蓄した |
| ☐ | 家具の転倒防止・感震ブレーカーの設置を確認した |
| ☐ | 帰宅困難者になった場合の職場や施設での待機方針を確認した |



