宇都宮市は関東平野の北端に位置し、人口約52万人を擁する栃木県の県庁所在地です。市域を北部の山地・丘陵地帯から中央の宇都宮台地、南部の低地へと段階的に地形が下がり、鬼怒川(東部)・田川(中心部)・姿川(西部)の3河川が市域を南北に縦断しています。
この地形の構造が、災害リスクの地域差として現れています。中心部では田川の洪水と内水氾濫(川が溢れなくても排水が追いつかず街が冠水する現象)、東部では鬼怒川の大規模氾濫、北西部では土砂災害と活断層による地震。2019年の令和元年東日本台風(台風19号)では田川が氾濫し、中心部を中心に甚大な被害を受けました。
宇都宮市を繰り返し襲ってきた災害の歴史#
ハザードマップに記載された浸水深や浸水範囲の数値は、過去の被害実績と科学的なシミュレーションの積み重ねから導かれています。宇都宮市の浸水域は一度決まれば変わらない固定値ではなく、2026年4月にもハザードマップの改訂が実施されたばかりです。
過去の水害・気象災害の記録#
| 年 | 災害名 | 宇都宮市域の被害 |
|---|---|---|
| 1947年 | カスリーン台風 | 渡良瀬川等が氾濫。明治以降最大の水害として栃木県全体で死者・行方不明者437名 |
| 1990年 | 台風19号(竜巻) | 市南部で竜巻が発生。全壊30棟、半壊37棟、負傷者25名 |
| 1998年 | 那須豪雨 | 那珂川支流が氾濫し、県内で甚大な被害 |
| 2014年 | 記録的大雪 | 積雪32cm(宇都宮市の観測開始以来最大)。多くの人的被害・農業被害 |
| 2019年 | 令和元年東日本台風(台風19号) | 田川が氾濫。住宅浸水1,123棟、最大避難者数9,146人 |
令和元年東日本台風(2019年)の宇都宮市の被害#
市内中心部を流れる田川が氾濫し、JR宇都宮駅西口周辺の商業エリアや住宅地が広範囲に浸水しました。
| 項目 | 宇都宮市のデータ |
|---|---|
| 住宅被害 | 浸水合計1,123棟(床上599棟、床下524棟) |
| 商工被害額 | 約15億4,900万円 |
| 農業被害額 | 約11億2,230万円 |
| 道路被害 | 239件 |
| 最大避難者数 | 3,905世帯、9,146人 |
この被害が「宇都宮市総合治水・雨水対策推進計画」の策定(令和3年度〜)につながり、現在も大規模なインフラ整備が進んでいます。
過去の地震災害の記録#
| 年 | 災害名 | 宇都宮市域の被害 |
|---|---|---|
| 1949年 | 今市地震 | M6.2・M6.4が連発。宇都宮市内でも強い揺れ、家屋損壊が発生 |
| 2011年 | 東日本大震災 | 宇都宮市で震度5強。液状化現象や地盤変状、多数の帰宅困難者が発生 |
宇都宮市のハザードマップの種類と確認方法#
宇都宮市は「洪水」「内水」「土砂災害」「ため池」の4つのリスク情報を統合した「宇都宮市防災ハザードマップ」を公開しています。令和8年4月1日に更新され、雨水出水浸水想定区域の追加や土砂災害警戒区域情報の更新、ため池リスク情報の追加が行われました。
WEB版(まちかど情報マップ)・PDF版・電子書籍版の3形式で確認でき、住所から自宅周辺のリスクを一括確認できます。
| マップ名 | 内容 |
|---|---|
| 防災ハザードマップ(洪水・内水・土砂・ため池) | 4種類のリスクを統合。WEB版・PDF版・電子書籍版で提供 |
| 土砂災害ハザードマップ | 土砂災害警戒区域(イエローゾーン)と特別警戒区域(レッドゾーン)を図示 |
紙版のハザードマップは市役所および各地区市民センターで配布しています。
宇都宮市のエリア別リスク早見表#
広大な市域を持つ宇都宮市では、居住エリアによってリスクの性質が大きく異なります。
| エリア | 洪水 | 内水氾濫 | 土砂災害 | 地震・地盤 |
|---|---|---|---|---|
| 中心部・南部 | 高(田川・釜川) | 高 | 低 | 中(沖積地) |
| 東部(河内) | 高(鬼怒川) | 低 | 低 | 中 |
| 北西部・西部 | 中(姿川・山田川) | 低 | 高 | 高(関谷断層) |
各エリアの特徴#
中心部・南部は田川と釜川が流れる高度に都市化した沖積地で、2019年の台風19号でも実際に田川が氾濫した洪水リスクエリアです。「暴れ川」として知られた釜川には大規模な地下貯留施設が整備されましたが、計画を上回る豪雨には依然として注意が必要です。また、市街地特有の微細な地形差で局所的な冠水が起きる「ブラックスポット」が点在しており、外水氾濫と内水氾濫が同時に発生するリスクがあります。
東部(河内エリア)は一級河川である鬼怒川の氾濫原が広がります。想定最大規模の降雨では浸水深が5m以上に達する地域を含んでおり、発災時は広域避難が前提となるエリアです。LRT(芳賀宇都宮電気軌道)の沿線整備に合わせ、調整池整備や山下川・越戸川バイパスなどの高度な治水工事が並行して進んでいます。
北西部・西部は急傾斜地が多く、土砂災害警戒区域が集中するエリアです。姿川・山田川沿いの洪水リスクに加え、「関谷断層」という活断層が伏在しており、直下型地震への備えも求められます。
宇都宮市の主要駅周辺の浸水リスク#
浸水想定には2つの基準があります。
- 計画規模 — 数十年〜百年に1回程度の大雨を想定
- 想定最大規模 — 1,000年に1回程度の極端な大雨を想定
| 駅名 | 関連河川 | 浸水リスクの概要 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| JR宇都宮駅 | 田川 | 想定最大規模で広範囲浸水 | 2019年台風19号で駅西口周辺216件が被災 |
| 東武宇都宮駅・中心市街地 | 田川・釜川 | 外水より内水氾濫のリスクが高い | アンダーパスや地下空間への局所的冠水に注意 |
JR宇都宮駅は西側を流れる田川との距離が近く、2019年の台風19号で実際に周辺商業エリアが浸水しました。市は止水板・防水扉の設置費用を民間施設へ補助する制度を運用しており、地下駐車場や地下施設への浸水対策が進んでいます。
東武宇都宮駅周辺の中心市街地は、洪水ハザードマップ上では浸水深が比較的浅いと予測されるエリアもありますが、アーケード街や地下空間では排水能力を超えた内水氾濫による局所的冠水が起きやすい構造です。特定の交差点やアンダーパスが「ブラックスポット」として知られており、冠水時の転落・転倒事故に注意が必要です。
なお、2011年の東日本大震災では宇都宮市内でも帰宅困難者が多数発生しました。令和7年3月に修正された「宇都宮市地域防災計画」では、帰宅困難者対策の強化が盛り込まれています。
宇都宮市の地震リスク#
関谷断層と直下型地震の想定#
宇都宮市の北西部には「関谷断層」が伏在しています。この断層が活動した場合、マグニチュード7.5程度の直下型地震が発生し、市内全域で震度6強の揺れ、建物全半壊率が約18%に達するシミュレーションがあります。今後30年以内の発生確率は「ほぼ0%」とされていますが、平均活動間隔が2,600〜4,100年とされる活断層である以上、長期的なリスクとして認識しておくことを推奨します。
出典:地震本部 関谷断層
また、2011年の東日本大震災では宇都宮市で震度5強を観測し、市内各地で液状化現象(地震の揺れにより地中の水と砂が混合し、地盤が流動化する現象)や地盤の変状が確認されました。
液状化リスク#
| リスク | 該当エリア |
|---|---|
| 高 | 田川・鬼怒川等の沖積地(河川沿いの低地) |
| 中 | 中心部市街地の一部 |
| 低 | 台地上(宇都宮台地の平坦部) |
河川沿いの低地では地盤が軟弱で地震時の揺れが増幅しやすく、液状化リスクも重なります。自宅周辺の地盤状況は、防災ハザードマップのWEB版(まちかど情報マップ)で確認できます。
浸水深の目安と避難判断#
ハザードマップに示される浸水深が実際にどのような状況を意味するのか、行動の判断基準とあわせて整理します。
| 浸水深 | 状況 | 行動の目安 |
|---|---|---|
| 0.5m未満 | 大人の膝下 | この段階に達する前に避難を完了させる |
| 0.5〜1.0m | 大人の腰 | 歩行による避難は危険。0.5mが歩行の限界 |
| 1.0〜3.0m | 1階が水没 | 2階以上への垂直避難。木造家屋は倒壊・流出リスクあり |
| 3.0〜5.0m | 2階の天井まで | 事前の立ち退き避難が必須 |
| 5.0m以上 | 2階建て家屋の屋根を超える | 立ち退き避難のみ。発生後の脱出は不可能に近い |
鬼怒川沿いの東部エリア(想定最大規模で5.0m以上)にお住まいの方は、警戒レベル3(高齢者等避難)の発令段階で避難行動を開始することが重要です。中心部の田川沿い(想定最大規模で0.5〜3.0m)でも、降雨が強まってからの避難は遅すぎる場合があります。
避難場所と避難所の違い#
「避難場所」と「避難所」は異なる役割を持つ施設です。宇都宮市は災害の性質や段階、避難者の属性に応じて複数の種別を設けています。
| 種別 | 役割 | 具体例 |
|---|---|---|
| 指定緊急避難場所 | 迫りくる災害から一時的に命を守る場所 | 公園、運動場など |
| 指定避難所 | 住居を失った場合などに滞在する施設 | 小中学校体育館、地区市民センター |
| 福祉避難所 | 高齢者・障害者・妊産婦など要配慮者の二次避難先 | バリアフリー設備と専門スタッフを配置した施設 |
| 車両退避場所 | 車中避難ニーズに対応した浸水リスクの低い民間施設 | 風水害時限定で開放 |
重要な注意点#
水害時には浸水リスクにより開設されない避難所があります。最寄りの避難所が洪水時に使用できるかどうか、事前に確認しておくことを推奨します。
福祉避難所は発災直後に直接避難する施設ではありません。まず指定避難所に避難し、専門職が状態を確認した上で必要に応じて案内される仕組みです。
車両退避場所は宇都宮市独自の制度で、2019年の台風19号で車中避難を選択する市民が増えた実態を踏まえて整備されました。浸水リスクが低い民間施設を事前に指定しており、風水害時に開放されます。避難所の位置と経路は、後述の防災アプリ「全国避難所ガイド」でも検索できます。
出典:宇都宮市 防災・安心安全
防災情報の入手方法#
災害時に正確な情報を迅速に入手できるかどうかが、避難行動の成否に直結します。情報入手手段は最低2つ確保してください。
| 手段 | 概要 |
|---|---|
| 宇都宮市防災情報 | 市公式サイト。避難情報・ハザードマップを確認 |
| 全国避難所ガイドアプリ | 最寄り避難所の検索・ルート案内、プッシュ通知対応。英語・中国語・韓国語に対応 |
| 宇都宮市防災ラジオ | 緊急放送信号を受信すると自動で電源が入り最大音量で放送。難聴地域・インターネット非接続世帯向け |
上記に加え、緊急速報メール(エリアメール)は携帯キャリア経由で強制受信される仕組みのため、事前登録は不要です。FM Mot.Comをはじめとする地元ラジオ局は、停電時でも使える情報源として有効です。
警戒レベルと行動#
| レベル | 発表される情報 | 住民の行動 |
|---|---|---|
| 1 | 早期注意情報 | 災害への心構えを高める |
| 2 | 大雨・洪水注意報 | ハザードマップで避難先を再確認 |
| 3 | 高齢者等避難 | 高齢者・乳幼児のいる家庭は避難開始 |
| 4 | 避難指示 | 危険な場所から全員避難 |
| 5 | 緊急安全確保 | 命を守る行動を直ちにとる |
レベル5は災害がすでに発生または切迫している状態を示します。レベル4までに避難を完了させることが原則で、レベル5の発表後は安全な避難が保証されません。
マイ・タイムラインの作成#
「いつ」「誰が」「何をするか」を事前に時系列で整理する避難行動計画が「マイ・タイムライン」です。宇都宮市は作成ツール・解説ページを公開しています。
以下の3ステップで作成します。
- リスクを確認する — ハザードマップで自宅の浸水深と土砂災害リスクを確認
- 避難方法を決める — 鬼怒川沿いの5.0m以上エリアは立ち退き避難が必須。田川沿いの1.0〜3.0mエリアは2階への垂直避難が可能だが、孤立リスクも考慮
- タイミングを決める — 田川の大曽観測所で水位2.60m到達(警戒レベル3)の段階で避難開始するなど、河川水位と連動した行動計画を立てる
完成したタイムラインを家族全員が確認できる場所に掲示しておくことで、緊急時の判断の迷いを減らせます。
宇都宮市の独自の防災対策#
総合治水・雨水対策インフラ#
宇都宮市は「宇都宮市総合治水・雨水対策推進計画(令和3〜12年度)」に基づき、「流す・貯める・備える」の3本柱で整備を進めています。
| 施設・事業 | 内容 |
|---|---|
| 越戸川バイパス | 住宅密集地での河道拡幅に代えて道路下に大型バイパス水路を施工 |
| 山下川(LRT沿線) | 直径2.5mのヒューム管3本を推進工法で敷設し流量不足を解消 |
| 奈坪川トンネル河川 | 全長0.85kmのトンネルで上流からの流入をバイパス制御 |
| 雨水管拡張 | 駅東部など内水氾濫多発地帯に直径2m規模の雨水管を敷設 |
防災DXと市民支援制度#
| 施設・制度 | 内容 |
|---|---|
| ワンコイン浸水センサ | 道路冠水の多発地点に低コストセンサを設置し、冠水状況をリアルタイム監視。通行規制や避難指示の客観的根拠として活用 |
| 全国避難所ガイドアプリ | 多言語対応・ルート案内・安否確認機能を備えた無料スマートフォンアプリ。市がファーストメディア株式会社と協定を締結して提供 |
| 都市機能誘導施設浸水対策補助 | 病院・大規模商業施設等が止水板・防水扉・電気設備嵩上げを行う際、費用の1/3(最大500万円)を補助 |
| 防災地域活動補償制度 | 自主防災会が訓練・見回り中に事故が発生した際、市が保険料を負担して補償。地域の自発的な防災活動を支援 |
| 防災協力事業所等登録制度 | 民間企業が保有する資機材・飲料水・避難スペースを平常時から登録し、災害時に行政と迅速にマッチング |
出典:宇都宮市 防災・安心安全
防災チェックリスト#
備蓄の目安は、水が1人1日3リットル、非常用トイレが1人1日5回分で、最低でも3日分、できれば1週間分が推奨されています。低地にお住まいの方は、排水口へのビニール袋水のうによる逆流防止対策もあわせて確認してください。
| 確認 | 項目 |
|---|---|
| ☐ | 防災ハザードマップ(まちかど情報マップ)で自宅の洪水・内水・土砂リスクを確認した |
| ☐ | 自宅が計画規模・想定最大規模でどの程度浸水するか把握した |
| ☐ | 最寄りの指定避難所が洪水時に使用できるか確認した |
| ☐ | 東部(鬼怒川沿い)にお住まいの場合、広域避難の方法を確認した |
| ☐ | 田川・鬼怒川・姿川の水位観測情報の確認方法を把握した |
| ☐ | マイ・タイムラインを作成した |
| ☐ | 家族で避難のタイミングと集合場所を決めた |
| ☐ | 全国避難所ガイドアプリをスマートフォンにインストールした |
| ☐ | 緊急速報メールの受信設定を確認した |
| ☐ | 家具の転倒防止をした(地震・液状化対策) |
| ☐ | 3日〜1週間分の水・食料・非常用トイレを備蓄した |
| ☐ | 低地にお住まいの方は排水口の逆流対策を確認した |



