川口市は荒川・芝川・新芝川・鴨川など多くの河川を抱える、人口60万人超の埼玉県最大の中核市です。市域は北部の安定した「大宮台地」と、中南部に広がる軟弱な「荒川低地」に大きく分かれており、この地形の違いが地震時の揺れ方・液状化リスク・水害リスクの差となって現れます。
荒川を境とした西側・南側の低地では、最大規模の洪水が起きた場合に10〜20mという極端な浸水深が想定されており、垂直避難ではなく立ち退き避難が前提となるエリアが市内に広く存在します。地震についても、荒川低地では震度6強から7の揺れと高い液状化(地震の揺れにより地中の水と砂が混合し、地盤が流動化する現象)リスクが重なります。
川口市を繰り返し襲ってきた災害の歴史#
川口市の水害統計は明確な警告を示しています。防災アセスメント調査によれば、水害は過去55年間で79件(年間1.4件)発生しており、直近10年間では17件(年間1.7件)と気候変動の影響から増加傾向にあります。こうした実績データが、ハザードマップに記載されている浸水シミュレーションの基礎となっています。
水害の被害記録#
| 年 | 災害名 | 川口市域の被害 |
|---|---|---|
| 1947年 | カスリーン台風 | 利根川堤防の決壊により濁流が南下。芝川・新芝川周辺の低地部では長期間水が引かず、耕作地の壊滅と多数の家屋浸水が発生 |
| 2019年 | 令和元年東日本台風(台風19号) | 荒川の水位が「避難判断水位」を大きく超え、岩淵水門の閉鎖操作が実施。内水氾濫(川が溢れなくても排水が追いつかず街が冠水する現象)で床上浸水4件・床下浸水20件が発生。最大50か所の避難所が開設 |
カスリーン台風は荒川第一調節池など大規模治水インフラ整備の直接の契機となりました。2019年の台風19号では、荒川本流の水位上昇により芝川の排水が妨げられる「バックウォーター現象」(本流の水位上昇が支流への排水を阻む現象)が発生し、雨が止んだ後も水位が上昇し続ける事態が確認されています。
地震の発生統計#
埼玉県内では過去約1,200年間で25件の地震災害(平均約48年周期)が発生しており、川口市内でも震度4〜5強の揺れが数十年おきに記録されています。直下型地震への備えは川口市における恒久的な課題です。
川口市のハザードマップの種類と確認方法#
川口市は複数のハザードマップを公開しています。電子地図サービス「川口市ハザードマップポータル」を利用すれば、住所から自宅周辺の各種リスクをまとめて確認できます。
| マップ名 | 内容 |
|---|---|
| 洪水ハザードマップ(荒川・利根川) | 荒川・利根川の氾濫時浸水想定。最大規模の降雨を想定して作成 |
| 洪水ハザードマップ(芝川・中川等) | 芝川・新芝川・中川・綾瀬川等の氾濫による浸水想定区域 |
| 地震ハザードマップ(液状化) | 地盤の種類別に液状化リスクを判定。荒川低地の軟弱地盤エリアを明示 |
| 土砂災害ハザードマップ | 市内34か所の土砂災害警戒区域を掲載 |
| 避難場所マップ | 洪水・地震・土砂災害の各災害種別ごとに使用可能な避難施設と対応階数を記載 |
ハザードマップの紙版は各公民館・市役所窓口でも入手できます。地震ハザードマップについては、大宮台地と荒川低地では液状化リスクが大きく異なるため、自宅の住所で個別に確認することが重要です。
川口市のエリア別リスク早見表#
居住エリアがどのリスクに該当するかを以下の一覧で確認してください。
| エリア | 液状化リスク | 河川氾濫 | 主な懸念 |
|---|---|---|---|
| 中央・横曽根(荒川低地) | 極めて高い | 高(荒川・菖蒲川) | 住宅密集地による火災延焼リスクも重なる |
| 南平(荒川・芝川低地) | 高い | 高(荒川氾濫で最大20m) | 工場跡地等の軟弱地盤も分布 |
| 青木(芝川沿い) | 中程度 | 中(芝川氾濫) | 内水氾濫・都市型冠水が頻発しやすい |
| 神根・新郷(台地縁辺) | 低い(一部高) | 中(綾瀬川) | 谷中分(やちゅうぶん)での局所的液状化に注意 |
| 安行・戸塚(大宮台地) | 極めて低い | 低 | 綾瀬川断層付近のため直下型地震への備えが重要 |
| 芝(芝川・菖蒲川沿い) | 中〜高 | 高(菖蒲川等、浸水深3〜5m) | 市外からの氾濫水の流入が想定される |
各エリアの特徴#
荒川低地に位置する中央・横曽根・南平の各エリアは、荒川の大規模氾濫が発生した場合に最も深刻な被害を受ける地域です。想定浸水深は場所によって5.0m〜20.0mに達し、木造・低層建物での垂直避難は安全な選択肢になりません。浸水が始まる前の立ち退き避難を前提として計画を立ててください。
芝エリアは、芝川本流の氾濫に加え、前述のバックウォーター現象により、雨が止んだ後も浸水が拡大し続ける可能性があります。避難の判断は芝川の水位動向だけでなく、荒川全体の状況をあわせて確認することが重要です。
北部の安行・戸塚エリアは大宮台地に属し液状化リスクは低いものの、綾瀬川断層が近接しています。活断層による直下型地震では強い揺れと建物被害が生じるリスクがあり、老朽化した木造建物の耐震補強が優先課題です。
出典:川口市地域防災計画
川口市の主要駅周辺の浸水リスク#
川口市内の主要駅の多くが荒川低地に位置しており、大規模水害時には交通機能が麻痺するリスクがあります。浸水想定には2つの基準があります。
- 計画規模 — 数十年〜百年に1回程度の大雨を想定
- 想定最大規模 — 1,000年に1回程度の極端な大雨を想定
| 駅名 | 関連河川 | 計画規模 | 想定最大規模 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| JR川口駅 | 荒川 | 3.0〜5.0m | 5.0〜10.0m | 駅周辺の商業施設1階が完全水没。立ち退き避難が必須 |
| JR西川口駅 | 荒川 | 3.0〜5.0m | 5.0〜10.0m | 荒川堤防に至近。氾濫前の広域避難を優先 |
| JR蕨駅(芝地区) | 芝川・菖蒲川 | 局所的 | 3.0m程度 | 戸田市側からの流入水も加わるリスク |
| 埼玉高速鉄道 川口元郷駅・南鳩ヶ谷駅 | 芝川・新芝川 | 0.5〜3.0m | 3.0m以上 | 地下駅舎は浸水に極めて脆弱。地上部の浸水が深い場合は止水板でも防ぎきれない危険性あり |
| JR東川口駅・戸塚安行駅 | 綾瀬川 | 内水氾濫のみ | 局所的 | 台地部のため荒川氾濫の直接影響は小さいが、集中豪雨による道路冠水・床下浸水に継続的な警戒が必要 |
出典:川口市洪水ハザードマップ
川口駅・西川口駅周辺は「家屋倒壊等氾濫想定区域」にも含まれるエリアです。荒川の堤防が決壊した場合には激しい流れが発生し、家屋が構造ごと流出・倒壊する危険があります。この区域では頑強なマンションの上層階以外での垂直避難は安全とは言えず、浸水前に市内北部(東川口・安行方面)など台地部へ移動することが基本の避難方針となります。
地下駅については、地上部の浸水が数メートルに及んだ場合、改札口からの急速な流入リスクが高まります。地下空間への立入りは避難情報の発令前から見合わせてください。
川口市の地震リスク#
想定される地震と被害#
川口市地域防災計画(概要版)では、最大規模の地震が発生した場合の被害として以下の数値が示されています。最も厳しい条件(冬の18時、風速7m/s、震度7シナリオ)での推計です。
| 項目 | 被害想定 |
|---|---|
| 木造建物の全壊数 | 19,138棟(全壊率15.5%) |
| 火災による焼失数 | 48,676棟(焼失率30%) |
| 地震による死者数(建物倒壊) | 856人 |
| 地震による死者数(火災) | 1,800人 |
火災による死者が倒壊による死者を大きく上回る点が川口市の特徴です。住宅密集市街地における同時多発火災が公助の限界を超えるリスクがあります。感震ブレーカーの設置と初期消火の備えが、地震対策の中心となります。
液状化リスク#
荒川低地を中心に、液状化の可能性が高い地盤が広く分布しています。震度5強〜6強の地震で液状化が発生すると、建物の沈下・傾斜に加え、下水道管の損壊やマンホールの浮上、ガス供給の自動停止などライフラインへの影響も長期化します。
| リスク | 該当エリア |
|---|---|
| 極めて高い | 中央・横曽根・南平エリア(荒川・芝川沿いの南西部) |
| 高い | 青木・芝エリアの一部 |
| 低い | 安行・神根・戸塚エリア(大宮台地) |
北部の台地部であっても、谷中分など地形的な低地や盛り土造成地では局所的な液状化が発生した事例があります。自宅の地盤を川口市公開の液状化リスク図で個別に確認してください。
出典:川口市液状化リスク図
浸水深の目安と避難判断#
ハザードマップに示される浸水深が実際にどのような状況を意味するのか、行動の目安とあわせて整理します。
| 浸水深 | 状況 | 行動の目安 |
|---|---|---|
| 0.5m未満 | 大人の膝下 | この段階に達する前に避難を完了させる |
| 0.5〜1.0m | 大人の腰 | 歩行による移動は危険。0.5mが歩行の限界 |
| 1.0〜3.0m | 1階が水没 | 2階以上への垂直避難。ただし木造家屋は倒壊リスクあり |
| 3.0〜5.0m | 2階の床下まで浸水 | 立ち退き避難が前提。事前の移動が必須 |
| 5.0m以上 | 2階建て家屋の屋根を超える | 垂直避難では生存不能。広域立ち退き避難が唯一の手段 |
川口駅・西川口駅周辺(想定最大規模で5〜10m)や南平エリア(最大20m)にお住まいの方は、警戒レベル3(高齢者等避難)の段階で避難行動を開始してください。降雨が強まってから動き始めると、道路冠水により移動が困難になります。
避難場所と避難所の違い#
「避難場所」と「避難所」は異なる役割を持つ施設です。川口市の洪水ハザードマップでは、施設ごとに洪水時の対応可否と使用可能な階数が指定されているため、事前の確認が重要です。
| 種別 | 役割 | 川口市の具体例 |
|---|---|---|
| 指定避難所 | 避難生活を送る施設 | 市立小中学校等(洪水時の使用階数が施設ごとに指定) |
| 広域避難場所 | 大火災時に逃げ込む広い空間 | 荒川河川敷・グリーンセンター・戸塚榎戸公園等 |
| 一次避難場所 | 一時的に身を寄せる場所 | 川口西公園・青木町公園・オートレース場等 |
| 福祉避難所 | 配慮が必要な方の二次避難先 | 市内各所(直接避難は不可) |
洪水時には、避難所によって使用できる階が異なります。中央エリアの「仲町小学校」は3階以上、「西中学校」は4階以上、南平エリアの「元郷小学校」は3階以上が指定されており、「南平公民館」は洪水時に避難所として使用できません。荒川氾濫時の最大浸水深が地区によっては20mに達する可能性があることを踏まえると、指定された階に滞在しても水没するリスクがあるエリアでは、浸水想定区域外(北部エリア等)への広域避難を優先してください。
福祉避難所は、発災後に直接避難する施設ではありません。まず指定避難所へ移動し、専門スタッフによる状態確認を経て必要に応じて案内される仕組みです。
川口市立医療センターは基幹災害拠点病院として機能するため、一般の避難所指定からは除外されています。
出典:川口市避難場所一覧
防災情報の入手方法#
情報の入手手段は最低2つ確保しておくことを推奨します。
| 手段 | 概要 |
|---|---|
| きらり川口情報メール | 気象警報・避難情報をメールで自動受信 |
| 川口市公式LINE | プッシュ通知で避難情報・開設避難所を受信 |
| 危機管理課公式X(旧Twitter) | 令和6年3月から運用開始。リアルタイムの災害情報を発信 |
| 川口市ホームページ | 避難情報・避難所の開設状況を随時更新 |
| 防災行政無線 | 令和3年度から高規格スピーカーへ順次更新。音達範囲と明瞭度を改善中 |
令和5年10月からは、視覚・聴覚に障害がある要配慮者向けに電話・FAXで避難情報を通知する「災害緊急情報配信システム」が本格稼働しています。緊急速報メール(エリアメール)は事前登録不要で、携帯キャリア経由で強制受信されます。
警戒レベルと行動#
| レベル | 発表される情報 | 住民の行動 |
|---|---|---|
| 1 | 早期注意情報 | 災害への心構えを高める |
| 2 | 大雨・洪水注意報 | ハザードマップで避難先を再確認 |
| 3 | 高齢者等避難 | 高齢者・乳幼児のいる家庭は避難開始 |
| 4 | 避難指示 | 危険な場所から全員避難 |
| 5 | 緊急安全確保 | 命を守る行動を直ちにとる |
荒川沿いの低地にお住まいの方は、レベル4では道路冠水により安全な移動が困難になっている可能性があります。岩淵水門(上)の水位が「避難判断水位6.50m」に近づいた段階(氾濫危険水位7.70mの約3時間前が目安)で、自らの判断で避難を完了させてください。
出典:荒川下流タイムライン
マイ・タイムラインの作成#
「いつ」「誰が」「何をするか」を時系列で整理した避難行動計画が「マイ・タイムライン」です。荒川の水位変動は数時間単位で進行するため、事前の計画が特に重要です。
以下の3ステップで作成します。
- リスクを確認する — ハザードマップで自宅の浸水深と液状化リスクを確認し、想定浸水深が3.0m以上かどうかを判断する
- 避難方法を決める — 荒川低地の5.0m以上のエリアは広域立ち退き避難が前提。台地部の北部エリアまでのルートを実際に確認する
- タイミングを決める — 岩淵水門(上)の水位「氾濫注意水位4.10m」を避難開始の目安として、家族の役割分担を具体的に決めておく
川口市の独自の防災対策#
川口市は「強靭な中核市」を目指し、令和6年度に地域防災計画を全面改定するなど、ハード・ソフト両面から多層的な施策を進めています。
| 施策・施設 | 内容 |
|---|---|
| 防災中枢拠点の整備 | 第一本庁舎を防災中枢拠点、鳩ヶ谷庁舎を代替庁舎として指定。業務継続体制を確保 |
| ICS(指揮統制システム)の導入 | 米国の「Incident Command System」を災害対策本部に適用。縦割りを超えた迅速な意思決定を実現 |
| マンホールトイレの整備 | 主要な学校・公園に下水道直結型マンホールトイレを配備。断水時でも機能する |
| 防災井戸の整備 | 飲用目的以外(トイレ洗浄水等の生活用水)の防災井戸を市内各所に整備 |
| 民間企業との防災協定 | 野村不動産・ゼンリン・損害保険会社・コンビニエンスストア・通信事業者と相互応援協定を締結 |
| 要配慮者支援の強化 | 「避難行動要支援者」名簿の整備と個別避難計画の策定を推進。DHEAT(災害時健康危機管理支援チーム)の受け入れ体制を構築 |
| ペット同伴避難の整備 | ペット同伴可能な避難先の整備と、衛生管理のための訓練を町会単位で実施 |
| AI・IoT活用による避難所混雑可視化 | 避難所の混雑状況をリアルタイムで把握できるシステムの構築を推進 |
出典:川口市地域防災計画
防災チェックリスト#
ここまでの内容を踏まえ、川口市民が確認しておくべき項目を一覧にまとめました。
備蓄の目安は、水が1人1日3リットル、非常用トイレが1人1日5回分で、1週間分を基準にします。荒川低地の低層住宅にお住まいの方は、排水口への逆流対策(水のうによる塞ぎ)もあわせて確認してください。浸水が長期化する場合は1〜2週間分の備蓄が生存戦略の前提です。
| 確認 | 項目 |
|---|---|
| ☐ | 川口市ハザードマップポータルで自宅の浸水深・液状化リスクを確認した |
| ☐ | 浸水深3.0m以上のエリアの場合、立ち退き避難ルート(北部台地方面)を決めた |
| ☐ | 最寄りの避難所が洪水時に何階以上を使用できるかを確認した |
| ☐ | 岩淵水門(上)の水位を確認できるサービスをブックマークした |
| ☐ | マイ・タイムラインを作成し、家族全員で確認した |
| ☐ | きらり川口情報メール・LINE・緊急速報メールを登録・確認した |
| ☐ | 1週間以上分の水・食料・非常用トイレを備蓄した |
| ☐ | 感震ブレーカーを設置した(木造住宅・住宅密集地の方) |
| ☐ | 家具の転倒防止・ガラスの飛散防止処置をした |
| ☐ | 地震保険の加入状況を確認した |
| ☐ | 住宅の耐震診断・補強を検討した(旧耐震基準の建物の方) |
| ☐ | 排水口の逆流対策(水のう)を準備した(低地・低層住宅の方) |



