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防災知識

エコノミークラス症候群の予防法|災害時の車中泊・避難所で命を守る

更新 2026年4月10日

2016年の熊本地震で、避難所ではなく車の中で生活していた女性が、エコノミークラス症候群で亡くなりました。

地震から4日後のことでした。車内で長時間足を動かさず、水分摂取も不十分だった。車中泊は地震の余震を恐れて多くの人が選んだ避難形態でしたが、その裏に潜むリスクに気づいていた人は少なかった。

この地震では、エコノミークラス症候群で入院した人が少なくとも51人、死亡者も複数確認されています(熊本県の報告)。飛行機の中だけの病気ではない。災害時こそ警戒が必要な、命に関わるリスクです。

私は熊本地震以降、防災講座で「エコノミークラス症候群の予防」を必ず話すようにしています。知っていれば防げる。それだけに、知らないことが怖いのです。

エコノミークラス症候群とは
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発症メカニズム(深部静脈血栓症→肺塞栓症)
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エコノミークラス症候群の正式な医学名は「静脈血栓塞栓症(VTE)」です。

発症のメカニズム:

  1. 長時間同じ姿勢で足を動かさない
  2. ふくらはぎの血流が悪くなる
  3. 足の深部静脈に血の塊(血栓)ができる(深部静脈血栓症
  4. 立ち上がったときなどに血栓が剥がれる
  5. 血流に乗って肺の血管に詰まる(肺塞栓症
  6. 呼吸困難、胸の痛み。最悪の場合、突然死

怖いのは、足に血栓ができている間は自覚症状がほとんどないこと。「足がちょっとむくんでいるな」程度で、立ち上がった瞬間に血栓が飛んで肺を詰まらせる。この「突然性」がエコノミークラス症候群の最大のリスクです。

災害時に多発する理由(車中泊・避難所生活)
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車中泊:

  • 座席で寝るため、足が下がった状態が長時間続く
  • 車内が狭く、体勢を変えにくい
  • トイレに行く回数を減らすため、水分を控えがち
  • 余震の恐怖で車外に出にくい

避難所生活:

  • 狭いスペースで動けない
  • プライバシーがなく、足を伸ばしにくい
  • ストレスで血圧が上昇し、血液が固まりやすくなる
  • トイレの混雑を避けて水分を控える

過去の災害での発生事例
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災害エコノミークラス症候群の報告
新潟県中越地震(2004年)車中泊での発症例が初めて広く知られた。死亡者あり
東日本大震災(2011年)避難所生活での発症が多数報告
熊本地震(2016年)入院51人以上。死亡者複数。車中泊が問題に
能登半島地震(2024年)車中泊・避難所での発症注意が繰り返し呼びかけられた

新潟県中越地震以降、災害とエコノミークラス症候群の関連が広く認知されるようになりました。しかし、熊本地震では対策の浸透が不十分で、再び犠牲者が出てしまった。

エコノミークラス症候群の症状
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ふくらはぎの腫れ・痛み
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足の深部静脈に血栓ができると、以下の症状が現れることがあります。

  • 片足のふくらはぎが腫れる(左右差がある)
  • ふくらはぎに痛みや圧痛がある
  • 足首のあたりがむくむ
  • 皮膚が赤っぽく変色する
  • 足を触ると熱い感じがする

注意点: これらの症状が全くない状態でも、肺塞栓症を発症することがあります(無症候性の深部静脈血栓症)。

息切れ・胸の痛み(肺塞栓の症状)
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血栓が肺に達すると、以下の症状が現れます。

  • 突然の息切れ・呼吸困難
  • 胸の痛み(特に深呼吸で悪化)
  • 動悸
  • 冷や汗
  • 意識がもうろうとする

これらの症状は生命に関わる緊急事態です。

こんな症状が出たらすぐ受診
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以下に一つでも当てはまったら、すぐに医療機関を受診するか、119番通報してください。

  • 片足だけが急に腫れた
  • 長時間座っていた後に突然の息切れ
  • 胸の痛みが続く
  • 突然の失神

避難所では医療チームが巡回していることが多いので、遠慮せずに相談してください。「大げさかな」と思わず、早めの受診が命を守ります。

エコノミークラス症候群の予防法 7つ
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1. こまめに水分を摂る
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脱水状態は血液をドロドロにし、血栓のリスクを高めます。

  • 1日1.5〜2Lの水分を摂る
  • のどが渇く前に飲む(渇きを感じたときにはすでに脱水)
  • 「トイレに行きたくない」と水分を控えるのは非常に危険

避難所ではトイレの問題から水分を控える人が多いですが、これが最も危険な行動の一つ。トイレの不便さを我慢するか、エコノミークラス症候群のリスクを取るか。命を守る選択は明白です。

2. 足の運動(足首回し・つま先立ち)
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座った状態でも、足を動かすだけで血流が改善します。

座ったままできる運動:

  • 足首回し:両方向に10回ずつ
  • つま先立ち:かかとの上げ下げを20回
  • 足の指のグーパー:足の指を握ったり開いたり10回
  • ふくらはぎの筋肉を伸ばす:つま先を手前に引く

これらの運動を1〜2時間ごとに行ってください。筆者は避難所の防災講話で、みんなで一緒に「足首回し体操」をやってもらうことがあります。一人だとサボりがちでも、みんなでやれば続けやすい。

3. 定期的に歩く
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歩くことが最も効果的な予防法です。

  • 2〜3時間ごとに数分間歩く
  • トイレに行くだけでもOK
  • 車中泊の場合は、定期的に車外に出て歩く

夜間の車中泊でも、深夜にトイレに立つタイミングで少し足を動かすことを意識してください。

4. 弾性ストッキングの着用
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弾性ストッキング(着圧ソックス)は、ふくらはぎの血流を促進して血栓の形成を予防する効果があります。

  • ドラッグストアやネットで1,000〜3,000円で購入可能
  • 「着圧ソックス」「フライトソックス」で検索
  • 膝下タイプが手軽で使いやすい
  • 適度な圧迫感のあるものを選ぶ(きつすぎるとNG)

防災バッグに弾性ストッキングを1足入れておくことを強くおすすめします。 軽くてかさばらないのに、エコノミークラス症候群の予防効果は高い。費用対効果で言えば最高の防災グッズの一つです。

5. ゆったりした服装
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体を締め付ける服装は、血流を妨げます。

  • ベルトを緩めるか外す
  • 靴は脱ぐ(靴下のまま過ごす)
  • きつい靴下やタイツは避ける
  • ウエストゴムのゆったりしたパンツがベスト

避難時は動きやすい服装が優先ですが、避難所に落ち着いた後は、なるべく体を締め付けない服に着替えてください。

6. アルコール・カフェインを控える
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アルコールとカフェインには利尿作用があり、脱水を促進します。

  • アルコールは控える(災害時のストレスで飲酒量が増えがち)
  • コーヒー・紅茶の大量摂取も避ける
  • 水やお茶(カフェインの少ない麦茶等)を優先

7. 足を上げて寝る
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寝るときに足を心臓より高い位置に置くと、血流が改善します。

  • 丸めた毛布やクッションを足の下に置く
  • 10〜15cm程度上げるだけで効果がある
  • 車中泊の場合は、助手席を倒して足を上げるポジションを作る

車中泊を余儀なくされたときの対策
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座席のフラット化
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車中泊で最も重要なのは、できるだけ体を横にして寝ること。

  • 後部座席を倒してフラットにする
  • フラットにできない場合は、座席の段差をクッションや毛布で埋める
  • 運転席で寝るのは最もリスクが高い(足が下がった状態が長時間続く)

SUVやミニバンなど、座席をフラットにできる車種は有利です。平時にいちど座席のフラット化を試しておくと、いざというときスムーズにできます。

休憩・ストレッチのタイミング
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車中泊でのストレッチスケジュール:

  • 就寝前:足の運動を5分間行う
  • 2〜3時間ごと:目が覚めたら足首回し・つま先立ち
  • 起床時:車外に出て5分以上歩く
  • 日中:最低でも2時間に1回は車外に出る

スマートフォンのアラームを2〜3時間ごとにセットしておくと、足を動かすタイミングを逃しません。

よくある質問(FAQ)
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Q. エコノミークラス症候群になりやすい人は? A. 以下の方は特にリスクが高いです。高齢者、肥満の方、妊娠中の方、経口避妊薬を服用中の方、過去に血栓症の既往がある方、下肢の怪我や手術後の方。これらに該当する方は、予防策を徹底してください。

Q. 血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)を飲んでいる場合は? A. すでに服用中の方は、災害時も必ず服薬を続けてください。避難の際には常備薬を忘れずに持ち出すこと。薬を切らした場合は医療チームに早急に相談してください。

Q. 弾性ストッキングと普通の着圧ソックスの違いは? A. 医療用の弾性ストッキングは圧迫圧が正確に設計されています。市販の着圧ソックスも一定の効果はありますが、リスクの高い方は医療用を使う方が確実です。防災備蓄としては市販の着圧ソックスで十分です。

Q. 子どもでもエコノミークラス症候群になる? A. 子どもでの発症は稀ですが、長時間同じ姿勢でいればリスクはあります。子どもは自分から「足が痛い」と言わないこともあるので、保護者が意識的に足を動かす遊び(じゃんけんぽん、足じゃんけんなど)を取り入れてあげてください。


※本記事の内容は日本循環器学会「肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン(2025年改訂版)」および日本呼吸器学会のエコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)に関するQ&Aに基づいています。症状が出た場合は直ちに医療機関を受診してください。

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