心臓突然死は、日本で年間約7万人に起きています。そのうち、AEDが使われたケースの救命率は約50%。使われなかったケースの救命率は約10%です。
AEDを使うかどうかが、命を分けるのです。
「でも、自分のような素人がAEDを使っていいの?」「間違えて使ったらどうしよう」——そう思う方は多いはずです。
答えは明確です。AEDは一般市民が使うことを前提に設計されています。電源を入れれば音声ガイドが手順を教えてくれます。そして、間違った使い方をしても、AEDが必要ないと判断すれば電気ショックは作動しません。
AEDとは?一般市民でも使える救命装置#
AEDの仕組み(心室細動と電気ショック)#
AED(Automated External Defibrillator:自動体外式除細動器)は、心臓が「心室細動」という異常な状態に陥った時に、電気ショックで正常なリズムに戻すための装置です。
心室細動とは: 心臓の心室が細かく震えて、血液を全身に送り出せなくなる状態です。心室細動が起きると、数分以内に脳に酸素が届かなくなり、10分以内に死に至ります。
AEDの役割: 心室細動を検知し、心臓に電気ショックを与えることで、震えを止め、正常な拍動を取り戻すチャンスを作ります。
重要なのは、心室細動が始まってからAEDで電気ショックを与えるまでの時間です。1分経過するごとに救命率は約7〜10%低下します。救急車の到着を待っていては間に合わないケースが多いため、その場に居合わせた人がAEDを使うことが求められています。
AEDを使うべき状況の判断方法#
AEDを使う判断は、実はシンプルです。
以下の2つの条件を満たした場合にAEDを使用します:
- 意識がない(呼びかけに反応しない)
- 正常な呼吸がない(呼吸をしていない、または普段どおりの呼吸ではない)
「死戦期呼吸」(あえぎ呼吸とも呼ばれる、ゆっくりとした不規則な呼吸)は「正常な呼吸」ではありません。判断に迷う場合は「正常な呼吸ではない」と判断してAEDを使ってください。
一般市民がAEDを使っても法的責任はない#
「AEDを使って相手に何かあったら責任を問われるのでは?」という不安を持つ方がいます。
結論から言うと、善意でAEDを使用した一般市民が法的責任を問われることは、まずありません。
民法第698条(緊急事務管理)により、緊急時に善意で行った救助行為について、悪意または重大な過失がない限り責任を負わないとされています。過去に一般市民がAEDを使用して法的責任を問われた判例はありません。
「何もしなかった後悔」の方が、「やって後悔」よりもはるかに大きい。迷ったら使ってください。
AEDの使い方【5ステップ図解】#
ステップ1:意識と呼吸を確認する#
倒れている人を見つけたら、まず安全を確認してから近づきます。
確認の手順:
- 肩を軽くたたきながら「大丈夫ですか?」と大きな声で呼びかける
- 反応がなければ「意識なし」と判断
- 胸とお腹の動きを10秒以内で観察し、「正常な呼吸」をしているか確認する
- 呼吸がない、または判断に迷う場合は「呼吸なし」として次のステップへ
「反応がない」「正常な呼吸がない」の2つが確認できたら、心停止の可能性が高いです。
ステップ2:119番通報とAEDの手配#
一人で対応しようとせず、周囲の人に助けを求めます。
やること:
- 大きな声で「誰か来てください!」と助けを呼ぶ
- 特定の人を指差して「あなた、119番に電話してください!」と依頼
- 別の人を指差して「あなた、AEDを持ってきてください!」と依頼
「誰か通報してください」ではなく、特定の人を指差して依頼するのがポイントです。「誰か」だと、全員が「他の人がやるだろう」と思ってしまう心理(傍観者効果)が働きます。
周囲に人がいない場合は、まず119番通報してから胸骨圧迫を開始してください。
ステップ3:胸骨圧迫を開始する#
AEDが届くまでの間、胸骨圧迫(心臓マッサージ)を行います。
胸骨圧迫の手順:
- 倒れている人を仰向けにする
- 胸の真ん中(乳頭を結ぶ線の中央)に手のひらの付け根を置く
- もう一方の手を重ねる
- 肘をまっすぐ伸ばし、真上から体重をかけて押す
- 約5cmの深さで、1分間に100〜120回のテンポで押す
テンポの目安: 「アンパンマンのマーチ」「ステイン・アライブ」のリズムが約100〜120回/分です。
重要: 胸骨圧迫は止めないでください。AEDが届くまで、可能な限り中断なく続けます。疲れたら周囲の人と交代してください。
ステップ4:AEDのパッドを貼る(位置の図解)#
AEDが届いたら、胸骨圧迫を続けながら(可能なら別の人に圧迫を代わってもらい)AEDを使います。
手順:
- AEDの電源を入れる(フタを開けると自動で電源が入るタイプもある)
- 音声ガイドが始まるので、指示に従う
- パッドを袋から取り出す
- パッドに描かれたイラストのとおりに体に貼る
パッドの貼る位置:
- 1枚目:右鎖骨の下(右胸の上部)
- 2枚目:左脇腹(左乳頭の下あたり)
パッドは素肌に直接貼ります。衣服の上からは貼らないでください。衣服を切る必要があれば、ためらわず切ってください。
ステップ5:音声ガイドに従い電気ショック#
パッドを貼ると、AEDが自動的に心電図を解析します。
AEDが「ショックが必要です」と言った場合:
- 「離れてください」と声をかけ、傷病者の体に誰も触れていないことを確認する
- ショックボタンを押す
- ショック後、すぐに胸骨圧迫を再開する
AEDが「ショックは不要です」と言った場合:
- すぐに胸骨圧迫を再開する
- AEDのパッドは貼ったまま、電源も入れたままにする
- 2分後にAEDが再度心電図を解析する
AEDが「ショック不要」と判断した場合、それは「AEDを使ったのが間違い」という意味ではありません。心室細動以外の心停止か、すでに心室細動が止まった状態です。胸骨圧迫を続けてください。
AEDを使う際の注意点#
体が濡れている場合の対処#
プールや風呂で倒れた場合など、体が濡れている場合は注意が必要です。
- パッドを貼る部分の水分をタオルで拭き取ってから貼る
- 水たまりの中にいる場合は、安全な場所に移動させてから使用する
- パッドと体の間に水分があると、電気ショックの効果が低下する
ペースメーカー装着者への対応#
胸にペースメーカーが埋め込まれている方(胸に出っ張りが見られる場合があります)にも、AEDは使用できます。
- ペースメーカーの真上にはパッドを貼らない
- ペースメーカーの出っ張りから3cm以上離してパッドを貼る
- それ以外の手順は通常と同じ
未就学児・小学生以上への使い方#
JRC蘇生ガイドライン2020の改訂により、AEDパッドの表記は「小児用」→「未就学児用」、「成人用」→「小学生から大人用」に変更されています(2021年以降)。
未就学児(小学校入学前、乳児を含む):
- 「未就学児用」パッド(または未就学児用モード)がある場合はそちらを使用する
- 「未就学児用」がなければ、「小学生から大人用」パッドを使用して構わない
- 体が小さくパッド同士が重なってしまう場合は、胸と背中に1枚ずつ貼り、心臓を挟むように配置する
小学生以上:
- 「小学生から大人用」パッドを使用する
- 貼る位置は大人と同じ(右胸の上部と左脇腹)
「未就学児用がないからAEDを使わない」のは最悪の選択です。「小学生から大人用」でも使わないよりは圧倒的に良いです。
AEDの実践に備えるために#
救命講習の受け方(消防署・日本赤十字社)#
AEDの使い方は、この記事を読んだだけでも概要は理解できます。しかし、実際に人形を使って練習すると、自信がまったく違います。
救命講習の受講先:
| 実施機関 | 講習名 | 時間 | 費用(目安) |
|---|---|---|---|
| 消防署 | 普通救命講習I | 3時間 | 無料〜数百円(自治体により異なる) |
| 消防署 | 上級救命講習 | 8時間 | 無料〜数千円(自治体により異なる) |
| 日本赤十字社 | 救急法基礎講習 | 4時間 | 教材費1,500円程度 |
| 日本赤十字社 | 救急法救急員養成講習 | 12時間 | 教材費2,100円程度 |
※費用は2025年時点の目安です。最新情報は各実施機関でご確認ください。最寄りの消防署や日本赤十字社各都道府県支部に問い合わせれば、講習の日程と申し込み方法を教えてもらえます。職場やPTAの団体で申し込むことも可能です。
職場・学校でのAED設置場所の確認#
AEDの使い方を知っていても、AEDの場所を知らなければ使えません。
確認すべきこと:
- 職場のAEDの設置場所(受付・廊下・エレベーターホールなど)
- 最寄りの駅・コンビニ・公共施設のAED設置場所
- 子どもの学校のAED設置場所
AED設置場所の検索サービス:
- 日本救急医療財団「全国AEDマップ」(https://www.qqzaidanmap.jp/)
- スマホアプリ「AEDオープンデータプラットフォーム」
通勤ルートや日常の行動範囲にあるAEDの場所を、1つでも把握しておくだけで、いざという時の対応スピードが格段に上がります。
よくある質問(FAQ)#
Q. AEDを使ったことで訴えられることはありますか?
A. 善意の救助行為に対して法的責任を問われたケースは、日本では報告されていません。緊急時に善意で行った行為については、民法の「緊急事務管理」の規定で保護されます。
Q. AEDの電気ショックは痛いですか?
A. 心停止の状態では意識がないため、痛みは感じません。電気ショックは一瞬で終わります。
Q. 女性にAEDを使う際、衣服を脱がせる必要がありますか?
A. パッドを素肌に貼る必要があるため、パッドを貼る位置の衣服を開ける必要があります。ただし、全裸にする必要はありません。パッドを貼った後、上からタオルや上着をかけてプライバシーに配慮してください。周囲の人に壁を作ってもらうなどの協力も有効です。命を救うことが最優先です。
Q. AEDは子どもでも使えますか?
A. はい、小学校高学年以上であれば、講習を受ければ十分に使えます。実際に子どもがAEDを使って人命救助を行った事例もあります。学校でのAED講習を積極的に受けさせてください。



