「3日分の備蓄があれば大丈夫」——そう思っていた自分の甘さを、このシミュレーションで痛感しました。
防災士として「最低3日分の備蓄を」と人に伝えている立場なのに、実際に3日間、断水・停電の生活を試したことがなかったんです。これはまずいと思い、自宅で在宅避難シミュレーションを実施しました。
結論から言うと、3日間は想像以上に長かった。そして備蓄は「量」だけでなく「種類」が重要だと身をもって知りました。
シミュレーションの設定と条件#
想定シナリオ(震度6弱、断水・停電3日間)#
想定したのは「首都直下地震で震度6弱、自宅の建物は無事だが断水・停電が3日間続く」というシナリオです。
内閣府の首都直下地震等対策検討ワーキンググループの報告書(2013年)によると、首都直下地震では最大約1,440万人が断水の影響を受け、電力の復旧には最大7日程度かかると想定されています。3日間のシミュレーションは、むしろ楽観的なシナリオです。
使用する備蓄品と制約ルール#
ルールは以下の通り。
- 水道を使わない(蛇口にテープを貼って封印)
- ブレーカーを落とす(電気を全て遮断)
- ガスは使用可(都市ガスは復旧が早い想定)
- 備蓄品のみで生活(買い物禁止)
- スマホは1日1回の充電制限(モバイルバッテリーのみ使用)
- 1人での実施(妻には通常生活を送ってもらい、いざというときの安全確保)
用意した備蓄品は以下の通り。
- 飲料水:2Lペットボトル × 5本(計10L)
- 生活用水:ポリタンク20L × 1個
- 食料:アルファ米8食、缶詰5個、えいようかん1箱、カップ麺3個
- 簡易トイレ:15回分
- ヘッドライト、ランタン、予備電池
- モバイルバッテリー20000mAh × 1個
- カセットコンロ + ボンベ3本
- その他衛生用品
1日目:断水・停電の始まり#
水の消費量と配分#
朝7時、ブレーカーを落とし、水道にテープを貼ってシミュレーション開始。
最初に直面したのは「水をどう配分するか」という問題です。飲料水10L、生活用水20L。農林水産省の推奨は1人1日3Lの飲料水。3日分で9Lなので、飲料水はギリギリの計算です。
初日の水の使い方を記録しました。
- 朝の飲水:コップ1杯(200ml)
- 朝食の調理(アルファ米):160ml
- 昼の飲水:500ml
- 昼食の調理:0ml(缶詰をそのまま)
- 午後の飲水:300ml
- 夕食の調理(カップ麺):300ml + 飲水200ml
- 歯磨き用:コップ半分(100ml)
1日目の飲料水消費量:約1.8L
意識的に節約して1.8L。推奨の3Lには全然届いていません。喉が渇いても「もったいない」という心理が働いて、飲む量を抑えてしまう。これが実際の災害時にも起きるのだと実感しました。脱水症状のリスクです。
簡易トイレの初使用レポート#
正直に書きます。簡易トイレ、最初は抵抗がありました。
自宅のトイレの便座に袋をセットして、凝固剤を入れて用を足す。頭ではわかっていても、心理的なハードルがあります。特に大の方は、自分の排泄物を袋に入れて縛るという行為に慣れるまで時間がかかりました。
使用感として、凝固剤(高吸水性ポリマー)の固まる速さは想像以上。液体が30秒ほどでゼリー状になります。BOS防臭袋の効果も高く、袋を縛ればほぼ無臭でした。
初日の簡易トイレ使用回数:5回(小4回、大1回)
15回分の備蓄で3日間。1日5回ペースだと15回でぴったり。余裕はゼロです。
夜の過ごし方(照明・寒さ対策)#
停電で一番困ったのは、日没後の暗さでした。シミュレーションを実施したのは3月上旬。日没が18時頃。18時以降は完全な暗闘——ではないのですが、窓からの街灯の光だけでは何もできません。
ヘッドライトとLEDランタンを点灯。ランタンをテーブルの中央に置くと、食事はできるレベルの明るさになりました。ただし読書やスマホ操作にはヘッドライトが必要。
3月の夜は室温が10℃前後まで下がります。暖房が使えないので、ダウンジャケットを着てアルミブランケットにくるまって就寝。寝袋があればもっと快適だったと反省しました。
2日目:備蓄の減りと精神的な変化#
食事の準備と工夫#
2日目の朝、残りの備蓄を確認して少し焦りました。
- 飲料水:残り約8.2L(消費1.8L)
- 生活用水:残り約17L(手洗い等で3L消費)
- 食料:まだ余裕あり
- 簡易トイレ:残り10回分
食料は量的には足りているのですが、食べたいものが限られるストレスが出始めました。アルファ米は美味しいけれど、3食連続は飽きる。缶詰もバリエーションが少ない。
ここで気づいたのは、調味料の重要性。塩、醤油、マヨネーズがあるだけでアルファ米の味が変わる。備蓄リストに小分け調味料を追加しようと心に決めました。
カセットコンロでお湯を沸かせるのは救いでした。温かい食事と冷たい食事では、精神的な満足度が全く違います。カセットボンベ1本で約60分使用可能。3本あれば3日間は持ちますが、使い方に気を遣う必要がありました。
情報収集の方法#
停電でテレビは使えません。スマホが唯一の情報源ですが、充電制限があるので長時間使えない。
手回し充電ラジオを使ってNHKラジオを聞きました。ラジオの情報量は意外と多く、テレビがなくても災害情報は十分取得できます。ただし、手回し充電は1分回して5〜10分聞ける程度。延々と回し続けるのは現実的ではありません。
モバイルバッテリー20000mAhでスマホ(iPhone)を充電したところ、1回のフル充電で約25%の容量を消費。単純計算で4回フル充電できますが、3日間を1日1回の充電で乗り切る必要があります。スマホの使用は安否確認と災害情報の確認に限定しました。
想定外の困りごと#
手洗い用の水が想像以上に減る。 トイレのたびに手を洗いたくなるのですが、水をジャーッと流すとあっという間にポリタンクが空になる。2日目からはウェットティッシュで手を拭くことに切り替えました。
ゴミの問題。 特に使用済み簡易トイレの保管場所。防臭袋に入れているとはいえ、数が増えてくるとベランダに出さざるを得ない。真夏だったら臭いの問題は深刻だろうと想像しました。
3日目:復旧を待つ最終日#
備蓄の残量チェック#
3日目朝の時点での残量。
- 飲料水:残り約4.8L(2日間で5.2L消費。1日あたり2.6L)
- 生活用水:残り約10L
- 食料:アルファ米2食、缶詰1個、えいようかん3本
- 簡易トイレ:残り5回分
- カセットボンベ:残り1.5本分
飲料水は3日目を乗り切れるが、4日目は厳しい。簡易トイレは残り5回で1日分。もし復旧が1日遅れたら、トイレが足りなくなるところでした。
3日間で本当に必要だったもの#
3日間を終えて「これがなかったら無理だった」と感じたもの。
- 簡易トイレ — 断水生活の最大の課題。15回分では正直ギリギリ。
- カセットコンロ — 温かい食事が精神安定に直結。
- ヘッドライト — 夜間の移動・作業に不可欠。
- モバイルバッテリー — スマホが使えないと情報も連絡も途絶える。
- ウェットティッシュ — 水を節約するための必需品。
逆に「あると思って持っていたけど使わなかったもの」は、ロープとラジオペンチ。在宅避難では出番がありませんでした。
シミュレーションで分かった改善点#
備蓄量の過不足#
不足していたもの:
- 簡易トイレ:15回分 → 30回分に増量(1日7〜8回を想定)
- ウェットティッシュ:2パック → 5パックに増量
- 飲料水:10L → 15Lに増量(1日3L確保するため)
- 調味料:未備蓄 → 小分け醤油・塩・マヨネーズを追加
十分だったもの:
- 食料(8食分 + 缶詰 + おやつ)→ 3日間で適量
- カセットボンベ3本 → ちょうど使い切る量
- 生活用水20L → 手洗いを控えれば足りる
追加購入を決めたもの#
シミュレーション終了後、即購入したものがあります。
- 寝袋:冬場の停電で暖房が使えない場合、布団だけでは寒い
- 小分け調味料セット:味の変化が精神的に重要
- ドライシャンプー:3日間髪を洗えないのは想像以上に不快
- 簡易トイレ追加分:15回分 → 50回分に大幅増量
- 折りたたみバケツ:生活用水の小分けに便利
まとめ|在宅避難シミュレーションから学んだ教訓#
3日間の在宅避難シミュレーションで得た最大の教訓は、**「備蓄は量だけでなく種類と質が重要」**ということです。
水と食料の量は計算で出せますが、トイレの回数予測、精神的なストレスへの対処、想定外の水の使い方——これらは実際に体験しないと分かりません。
内閣府の調査では、災害に備えて「特に何もしていない」と回答した人が約40%。備蓄している人でも、実際に使ってみた経験がある人はごくわずかです。
私から一つお願いがあります。週末でいいので、半日だけでも「水道を使わない生活」を試してみてください。蛇口を止めて、ペットボトルの水だけで過ごす。それだけで、備蓄に対する意識が劇的に変わります。
在宅避難は「避難所に行かなくていい」というメリットがある反面、すべてを自分の備蓄で賄わなければならないという責任が伴います。その責任に備えるために、シミュレーションは最も効果的な方法だと確信しています。



