熊本地震で車中泊避難を経験した人は、推定約10万人。避難所に入れない、入りたくない——そんな人たちにとって、車は「動く避難所」でした。
しかし、準備なしの車中泊避難は命を落とすリスクがあります。熊本地震では車中泊が原因と見られるエコノミークラス症候群で複数の死者が出ました。
私は防災士として車中泊避難の準備についてもアドバイスを行っていますが、「避難所に行くのが嫌だから車で寝ればいい」と安易に考えている方が多いと感じています。車中泊避難は正しい知識と準備があってこそ安全な選択肢になるのです。
車中泊避難が選ばれる理由#
プライバシーの確保#
避難所は体育館や公民館の大部屋で、プライバシーはほぼゼロです。着替えも、授乳も、家族の会話も、すべて周囲の目にさらされます。
車内なら窓にシェードを装着すれば完全なプライベート空間になります。内閣府の調査でも、避難所を避けた理由の上位に「プライバシーが確保できない」が挙がっています。
ペットと一緒に避難できる#
避難所でのペットの受け入れは限定的です。同伴避難(ペットと同じ室内で過ごす)ができる避難所は全体の1割以下。ペットを飼っている家庭にとって、車中泊は現実的な選択肢になります。
避難所に入れない場合の代替手段#
大規模災害では避難所が満員になることがあります。東日本大震災では、想定を超える避難者で収容しきれない避難所が多数発生しました。
そうした状況で「帰る家もない、避難所にも入れない」というとき、車があれば当面の居場所を確保できます。
車中泊避難に必要なものリスト#
車内快適グッズ(シェード・マット・寝袋)#
シェード(窓の目隠し)
- 車種専用のサンシェードセット — プライバシーと断熱の両方を確保
- 銀マットを窓の大きさに切って代用もOK
マット・寝袋
- 車中泊用エアマット — シートの凹凸をフラットにする。これがないと腰が痛くて寝られない
- 寝袋(3シーズン対応以上)— 車内は思った以上に冷える
- 枕(空気注入式)— コンパクトに収納可能
車中泊避難で最も重要なのは「フラットな寝床の確保」です。シートを倒しただけでは段差ができ、体への負担が大きい。エアマットを敷いて段差を解消することが、エコノミークラス症候群の予防にもつながります。
電源確保(シガーソケット充電器・ポータブル電源)#
- シガーソケットUSB充電器 — スマホの充電。エンジンをかけなくても使えるものを
- ポータブル電源(300Wh以上推奨) — スマホ充電だけでなく、扇風機や電気毛布も使える
- ソーラーパネル(50W以上) — ポータブル電源の充電用。長期化に備えて
ポータブル電源は近年急速に普及しています。Jackery やEcoFlow などのメーカーから、車中泊に適した容量のものが販売されています。300Whあれば、スマホ20回以上、LEDランタン50時間以上使用可能です。
食料・水・トイレ#
車中泊でも食料・水・トイレの基本は変わりません。
- 飲料水:2Lペットボトル × 3〜5本
- 食料:加熱不要の非常食 3日分(車内での火の使用はNG)
- 携帯トイレ:最低15回分
- ゴミ袋(45L)× 10枚以上
- ウェットティッシュ
車内での調理は一酸化炭素中毒と火災のリスクがあるため、原則禁止です。カセットコンロは必ず車外で使用してください。
車中泊避難の注意点#
エコノミークラス症候群の予防法#
車中泊避難における最大のリスクがエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)です。
長時間同じ姿勢で座ったまま寝ると、脚の静脈に血栓(血のかたまり)ができる。この血栓が肺に飛ぶと、肺塞栓症を起こして命を落とすことがあります。
熊本地震では、車中泊に起因するエコノミークラス症候群が51人に発生し、うち1人が死亡したと厚生労働省が報告しています。
予防のための5つの対策:
- 足を伸ばして寝る — シートを倒すだけでなく、フラットな寝床を作る
- 定期的に体を動かす — 2時間に1回は車外に出て歩く・ストレッチする
- 十分な水分を摂る — 脱水は血栓リスクを高める。1日1.5L以上
- 弾性ストッキングを着用する — 脚の血流を助ける。着圧ソックスでもOK
- アルコールは控える — アルコールは利尿作用で脱水を促進する
一酸化炭素中毒の防止(エンジンかけっぱなし厳禁)#
冬場にエアコンを使うためにエンジンをかけっぱなしにする——これは絶対にやってはいけません。
排気管が雪や土砂で塞がれると、排気ガスが車内に逆流して一酸化炭素中毒を起こします。一酸化炭素は無色・無臭で、気づかないうちに意識を失い、死に至ることがあります。
消防庁のデータによると、車内での一酸化炭素中毒事故は毎年発生しています。エンジンをかける場合は、必ず換気を確保し、排気管周辺に障害物がないか確認してください。
暖房はエンジンではなく、電気毛布 + ポータブル電源、もしくは寝袋 + カイロで対応しましょう。
季節ごとの暑さ・寒さ対策#
夏の車中泊: 車内温度は真夏の直射日光下で70℃以上に達します。JAFの実験では、窓を少し開けた状態でも車内温度は45℃を超えました。
- サンシェードを全窓に装着
- USB扇風機 + ポータブル電源
- 冷却タオル、冷却シート
- こまめな水分補給
- 直射日光の当たらない木陰に駐車
冬の車中泊: 車内温度は外気温とほぼ同じまで下がります。エンジンを切った車内で一晩過ごすと、低体温症のリスクがあります。
- 冬用寝袋(耐寒温度−5℃以下)
- 電気毛布 + ポータブル電源
- 使い捨てカイロ(貼るタイプ)
- 断熱マット(銀マット)を床に敷く
- 窓の結露対策(結露吸収シート)
車中泊避難の場所選び#
安全な駐車場所の選び方#
車中泊避難をする場所は慎重に選んでください。
避けるべき場所:
- 崖の下、山の斜面付近(土砂災害リスク)
- 河川の近く(氾濫リスク)
- 建物の倒壊が懸念される場所の近く
- 液状化の恐れがある埋立地
適した場所:
- 大型駐車場(学校のグラウンド、大型商業施設など)
- 道の駅(トイレ・水道が使える)
- 自治体が指定する車中泊スペース
自治体の車中泊避難スペース情報#
熊本地震以降、車中泊避難を想定したスペースを事前に指定する自治体が増えています。
例えば熊本市では、大規模災害時に車中泊避難が可能な場所として公園や駐車場をリスト化しています。お住まいの自治体のホームページや防災計画で、車中泊避難スペースの有無を確認してください。
なお、道の駅は「宿泊施設ではない」という立場をとっている施設も多いです。緊急時の一時利用として了解を得る姿勢が大切です。
まとめ|車中泊避難グッズチェックリスト#
車中泊避難は「避難所の代わり」として有効な選択肢ですが、準備なしでは危険です。特にエコノミークラス症候群と一酸化炭素中毒——この2つのリスクを理解し、対策することが最低条件です。
車に常備するもの:
- 車中泊用エアマット
- 寝袋(季節に応じたもの)
- 窓用シェード一式
- 携帯トイレ 15回分以上
- 飲料水 2Lペットボトル × 3本
- 非常食 3日分(加熱不要のもの)
- 弾性ストッキングまたは着圧ソックス
あると大きく変わるもの:
- ポータブル電源(300Wh以上)
- USB扇風機(夏用)
- 電気毛布(冬用)
- ソーラーパネル
まずは車のトランクにエアマットと携帯トイレだけでも積んでおくことから始めてみてください。それだけで、いざという時の選択肢が一つ増えます。



