首都直下地震——東京を含む首都圏を直撃する大地震は、今後30年以内に70%の確率で発生するとされています。
3,500万人が暮らす世界最大の都市圏で巨大地震が起きたらどうなるのか。内閣府は2025年12月に12年ぶりに被害想定を更新し、最悪ケースで死者約1万8,000人、全壊・焼失建物約40万棟という数字を示しました(2013年想定の死者約2万3,000人・全壊焼失約61万棟からは減少しましたが、政府が掲げた「半減」目標には届いていません)。
しかし、この想定は「何も備えをしなかった場合」の数字です。一人ひとりが備えることで、被害は確実に減らせます。
首都直下地震とは?想定されるシナリオ#
首都直下地震の種類(都心南部直下・多摩直下等)#
「首都直下地震」は、単一の地震を指す言葉ではありません。首都圏の直下で発生しうる複数の地震シナリオの総称です。
内閣府が検討している主なシナリオは以下のとおりです。
| シナリオ | 想定M | 震源域 |
|---|---|---|
| 都心南部直下地震 | 7.3 | 東京都心南部(品川区〜大田区付近) |
| 都心東部直下地震 | 7.3 | 東京都心東部(墨田区〜江東区付近) |
| 都心西部直下地震 | 7.3 | 東京都心西部(新宿区〜中野区付近) |
| 多摩直下地震 | 7.3 | 多摩地域 |
| 立川断層帯地震 | 7.4 | 立川断層帯 |
| さいたま市直下地震 | 6.8 | さいたま市直下 |
| 千葉市直下地震 | 6.8 | 千葉市直下 |
最も被害が大きいと想定されているのが「都心南部直下地震」で、政府の被害想定はこのシナリオに基づいています。マグニチュード7.3は、阪神・淡路大震災と同規模です。
過去の関東の大地震(関東大震災・安政江戸地震)#
首都圏では、過去にも繰り返し大地震が発生しています。
関東大震災(1923年・M7.9): 死者・行方不明者10万5,000人以上。火災による死者が全体の約9割を占めた。東京の下町を中心に壊滅的な被害。
安政江戸地震(1855年・M推定6.9〜7.1): 町方の死者約4,700人、武家方・社寺方を含めると1万人を超えると推定。江戸の町家を中心に大きな被害が出たうえ、地震後に発生した火災で被害が拡大。
歴史が示す教訓は、首都直下地震における最大の脅威が「火災」であるということです。関東大震災では、地震そのものよりも、地震後に発生した大規模火災(火災旋風を含む)が最も多くの命を奪いました。
被害想定の全体像#
最大死者約1.8万人・全壊焼失40万棟(2025年更新)#
内閣府は2025年12月、「首都直下地震の被害想定」を12年ぶりに更新しました。主な数字は以下のとおりです(都心南部直下地震・冬・夕方ケース)。
| 項目 | 2025年想定(最大) | 参考:2013年想定 |
|---|---|---|
| 死者 | 約1万8,000人 | 約2万3,000人 |
| 全壊・焼失建物 | 約40万棟 | 約61万棟 |
| 帰宅困難者 | 約840万人 | 約800万人 |
| 経済被害 | 約83兆円 | 約95兆円 |
| 災害関連死(今回新たに試算) | 最大約4万1,000人 | — |
2025年想定では、死者約1万8,000人のうち建物倒壊による死者が約5,300人、火災による死者が約1万2,000人。耐震化の進展で揺れによる死者は減少したものの、火災が依然として最大の脅威です。
なお、東京都が2022年5月に公表した独自の被害想定では、都心南部直下地震(M7.3)が冬の夕方に発生した場合、都内の死者は最大約6,148人(揺れ3,666人・火災2,482人)、建物被害は約19万4,000棟、帰宅困難者は都内だけで約453万人とされています。
火災旋風リスクと木造密集地域#
首都直下地震で特に懸念されるのが、木造住宅密集地域(木密地域)における大規模火災です。
木密地域のリスク:
- 東京都内の木密地域の面積は約7,100ヘクタール(2025年時点。2016年の約1万3,000ヘクタールから不燃化の進展で縮小中)
- 特に環状7号線の外側(杉並区・中野区・板橋区・足立区・葛飾区等)に集中
- 老朽化した木造住宅が密集し、道路が狭いため消防車が入りにくい
- 同時多発火災が発生すると消防力が不足する
火災旋風の恐怖: 大規模火災が発生すると、上昇気流によって「火災旋風」が発生する可能性があります。関東大震災では、陸軍被服廠跡地で発生した火災旋風により、避難していた約3万8,000人が犠牲になりました。
木密地域にお住まいの方は、「地震後はすぐに火を消す」「初期消火が無理なら迷わず避難する」の2点を徹底してください。
帰宅困難者約840万人の問題#
首都直下地震が平日昼間に発生した場合、最大で約840万人の帰宅困難者が発生すると想定されています(2025年内閣府想定。2013年時点の約800万人から上方修正)。
帰宅困難者が引き起こす問題:
- 幹線道路を歩く帰宅者で道路が埋まり、緊急車両が通行できなくなる
- 駅に人が殺到し、将棋倒しのリスクが高まる
- 途中で被災する(余震・火災・落下物)リスク
- 家族の安否が確認できず、パニック状態になる
東京都の「帰宅困難者対策条例」では、地震発生後は「むやみに移動を開始しない」ことを基本方針としています。職場や学校にとどまり、安全が確認されてから帰宅を開始することが求められます。
ライフライン復旧までの時間目安#
首都直下地震後のライフライン復旧は、長期間にわたります。
| ライフライン | 復旧目安 |
|---|---|
| 電力 | 1週間〜(火力発電所被害の場合はさらに長期) |
| 都市ガス | 数週間〜約2ヶ月 |
| 水道 | 1〜数週間 |
| 下水道 | 数週間〜1ヶ月 |
| 固定電話 | 数日〜1週間 |
| 携帯電話 | 数日〜(基地局被害の場合はさらに長期) |
| 鉄道 | 1週間〜1ヶ月(路線による) |
ガスの復旧に2ヶ月かかる可能性がある点は、見落としがちなポイントです。カセットコンロとカセットボンベの備蓄は必須です。
首都直下地震に備える対策#
自宅の地震対策(耐震・家具固定)#
建物の安全性確認:
- 1981年以前に建てられた建物は旧耐震基準のため、耐震診断を受ける
- 東京都は木造住宅の耐震診断助成・耐震改修助成を実施中
- マンションの場合は管理組合を通じて耐震診断を検討
室内の安全対策:
- 家具の転倒防止(L字金具・突っ張り棒・転倒防止ベルト)
- テレビ・本棚・食器棚には特に注意
- 寝室には大型家具を置かない
- ガラス飛散防止フィルムを窓に貼る
- スリッパを枕元に用意する(ガラスの破片対策)
職場・通勤中の地震対策#
首都圏に通勤する人にとって、「勤務時間中の被災」は高い確率で起こりうるシナリオです。
職場での備え:
- 会社に1泊分の備蓄を置いておく(水・食料・防寒具・常用薬)
- デスク周りの転倒防止(モニター・キャビネット)
- 職場の避難経路と集合場所を確認する
- 安否確認システムの使い方を把握しておく
通勤中の備え:
- 通勤カバンに防災ポーチを入れておく(モバイルバッテリー・ホイッスル・絆創膏・常用薬)
- 電車内で地震が起きた場合:低い姿勢を取り、吊り革や手すりにつかまる
- 地下鉄内で地震が起きた場合:係員の指示に従い、勝手に線路に降りない
- 地上を歩いている場合:建物から離れ、頭を守る
帰宅困難者にならないための備え#
「地震が起きたらすぐ帰る」は間違いです。
帰宅困難者対策の基本:
- 発災後3日間はむやみに移動しない
- 家族の安否確認手段を事前に決めておく(災害伝言ダイヤル171、LINE等)
- 職場に3日分の水と食料を備蓄する
- 歩きやすい靴を職場に置いておく(帰宅を開始する時用)
- 帰宅ルートの「一時滞在施設」(コンビニ・ガソリンスタンド等のステッカー表示店)を確認する
家族と「地震が来ても、安全が確認されるまでは無理に帰らない」というルールを共有しておくことが最も重要です。
備蓄は最低7日分を確保#
首都直下地震では、支援物資の配送が困難になることが予想されます。最低7日分の備蓄を目指しましょう。
1人7日分の備蓄の目安:
- 水:21リットル
- 主食:21食分(アルファ米・パックご飯・カップ麺等)
- おかず:レトルト食品・缶詰を21食分
- カセットボンベ:3〜4本
- 簡易トイレ:49回分
- ウェットティッシュ・トイレットペーパー
- 現金(ATMが使えない場合に備えて)
地域別のリスクと対策(23区・多摩・埼玉・千葉・神奈川)#
地域危険度ランキングの確認方法#
東京都は、都内5,192の町丁目ごとに「地震に関する地域危険度」を公表しています。建物倒壊危険度・火災危険度・総合危険度の3つのランク(1〜5)で評価されています。
確認方法:
- 東京都都市整備局のウェブサイト「地震に関する地域危険度測定調査」
- 住所を入力すると、自分の地域の危険度ランクが表示される
危険度ランク5の地域は、建物の耐震化・不燃化が特に急がれるエリアです。自分の住む地域のランクを確認し、備えの優先順位を決めましょう。
自宅の地盤・液状化リスクの調べ方#
首都圏は、埋立地や旧河道など、液状化リスクの高い地盤が広がっています。
液状化リスクの高いエリア:
- 東京湾岸の埋立地(江東区・港区・品川区の一部)
- 旧河道・旧池沼跡地
- 東京低地(荒川・隅田川流域)
- 千葉県浦安市・市川市の一部
自分で調べる方法:
- 自治体が公表する液状化予測図
- 地盤サポートマップ(ジャパンホームシールド)
- J-SHIS(地震ハザードステーション)
- 国土地理院の土地条件図
液状化が懸念されるエリアにお住まいの方は、家の傾き防止や地盤改良について専門家に相談することをおすすめします。
よくある質問(FAQ)#
Q. 首都直下地震と南海トラフ地震はどちらが先に来ますか?
A. どちらが先に発生するかは予測できません。両方とも「いつ発生してもおかしくない」段階にあり、それぞれに備える必要があります。
Q. タワーマンションは首都直下地震に耐えられますか?
A. 新耐震基準(1981年以降)に適合したタワーマンションは、震度6強〜7でも倒壊しない設計です。ただし、長周期地震動による上層階の大きな揺れ、エレベーターの停止、給水ポンプの停止による断水など、「建物は壊れないが生活できない」状態になるリスクがあります。高層階にお住まいの方は、水と食料の備蓄を特に多めにしておきましょう。
Q. 東京から引っ越した方がいいですか?
A. 地震リスクは日本全国にあり、東京だけが危険なわけではありません。住む場所を変えることが現実的でない場合は、自宅の耐震化・家具固定・備蓄の充実という「その場でできる対策」を最大限行うことが合理的です。
Q. 首都直下地震が起きたら、いつ会社に出勤すればいいですか?
A. 発災後3日間はむやみに移動しないのが原則です。勤務先からの連絡を待ち、交通機関の安全が確認されてから出勤を判断してください。在宅勤務が可能な場合は在宅勤務に切り替えるのが最善です。



