この記事は確率特化です。南海トラフ全体の総合解説は 南海トラフ地震はいつ来る? を、被害想定は 南海トラフ地震 被害想定 を参照してください。
最新の発生確率:2025年の2段階改訂#
2025年1月「80%程度」の公表#
地震調査研究推進本部(地震本部)は、2025年1月1日を評価基準日とした長期評価を更新し、南海トラフ地震(M8〜9クラス)の30年以内発生確率を**「80%程度」**と公表しました。これは前回(2024年1月基準値:70〜80%)から引き上げられた値です。
前回の地震(1946年昭和南海地震)から約80年が経過し、過去の平均繰り返し間隔に近づいたことが主な要因です。
2025年9月「60〜90%程度以上」「20〜50%」への改訂#
同年9月26日、地震本部は算出手法を抜本的に見直し、2つのモデルによる値を併記する形に改訂しました。
| モデル | 確率(30年以内) |
|---|---|
| すべり量依存BPTモデル | 60〜90%程度以上 |
| BPTモデル | 20〜50% |
改訂の直接原因は、計算に使用していた高知県室津港の隆起量データに誤差が含まれることを指摘する研究が公表されたためです。従来は時間予測モデルで1モデルのみ使用していましたが、誤差の不確実性を反映するため2モデル併用体制に移行しました。
確率の計算方法:BPT分布とポアソン過程#
ポアソン過程(基本モデル)#
地震発生をランダムな確率事象として扱う最もシンプルなモデルです。「前回からの経過時間」を考慮しないため、過去に地震が起きたかどうかに関わらず確率が一定になります。南海トラフのような繰り返し型プレート境界地震には適合が弱いとされ、現在の地震本部評価の主モデルからは外れています。
BPT分布(更新過程)#
BPT(Brownian Passage Time)分布は、前回の地震からの経過時間が長くなるほど次の地震の発生確率が高まるモデルです。ストレス蓄積・解放サイクルを統計的に表現しており、繰り返し型地震の評価に広く使われます。
計算に使用するパラメータ:
- 過去の地震発生間隔から求めた平均間隔(μ)
- 間隔のばらつき度合い(非周期性係数 α)
- 前回の地震からの経過時間
2025年9月改訂の「BPTモデル(20〜50%)」は、過去6回の南海トラフ地震の発生間隔データのみを入力値として使う、より保守的なモデルです。
すべり量依存BPTモデル(時間予測モデルの発展型)#
従来の「時間予測モデル」の考え方を引き継ぎ、BPT分布と組み合わせたモデルです。
時間予測モデルの原理: 地震発生時の断層のすべり量(ひずみの解放量)が大きいほど、次の地震発生まで時間がかかるという仮定に基づきます。1946年昭和南海地震の際の室津港の隆起量をすべり量の代理指標として使い、次の地震までの期間を88.2年と推定していました。
2025年9月の改訂では、この隆起量データに誤差があることを踏まえ、誤差を確率分布として組み込んだ「すべり量依存BPTモデル」に発展させた結果、「60〜90%程度以上」という幅のある値が算出されています。
歴史的発生間隔データ#
過去9回の発生記録#
684年の白鳳地震以降、南海トラフ地震は約9回記録されています。比較的記録が確実な近世以降の発生間隔は以下の通りです。
| 地震名 | 発生年 | 前回からの間隔 |
|---|---|---|
| 宝永地震 | 1707年 | — |
| 安政東海・南海地震 | 1854年 | 147年 |
| 昭和東南海・南海地震 | 1944/1946年 | 約90年 |
| 次の南海トラフ地震 | ? | 80年〜(継続中) |
繰り返し間隔の平均は90〜150年程度とされ、最短は約90年(安政→昭和)、最長の記録は約150年(宝永→安政)です。
発生間隔の「ばらつき」が確率に与える影響#
繰り返し間隔のばらつき(非周期性係数)が大きいほど、BPT分布の裾野が広がり、「まだ先かもしれないが、もう来てもおかしくない」という評価になります。南海トラフは比較的規則的な繰り返しを示しますが、記録に残る地震数が限られるため統計的不確実性が大きく、それが今回の2値併記につながっています。
時間経過と確率の変化#
地震本部の公表値の推移は確率の上昇を示しています。
| 評価基準日 | 30年以内発生確率 |
|---|---|
| 2013年1月 | 60〜70% |
| 2020年1月 | 70〜80% |
| 2025年1月 | 80%程度 |
| 2025年9月(改訂) | 20〜50% / 60〜90%程度以上(2値併記) |
2025年9月の改訂でモデルが変わったため単純な比較はできませんが、前回の地震からの経過時間が伸びるにつれて確率が上昇してきた傾向は明確です。現在も毎年1月に基準日を更新して公表されており、経過年数が増えるたびに値は上昇する方向に動きます。
確率の正しい読み方#
「30年以内」の期間の解釈#
30年以内の発生確率は超過確率です。「30年間のどこかで少なくとも1回発生する確率」を意味し、「30年目に発生する確率」ではありません。今日起きる可能性も、29年後に起きる可能性も、どちらも排除しません。
身近な確率との比較#
- じゃんけんで勝つ確率:約33%
- コインで表が出る確率:50%
- 南海トラフ(BPTモデル):20〜50%
- 南海トラフ(すべり量依存BPTモデル):60〜90%程度以上
低い側の値(20〜50%)であっても「じゃんけんで勝つ」程度以上の確率であり、発生しないと想定して備えを怠る根拠にはなりません。
他地震との比較#
- 首都直下地震(南関東M7クラス、30年以内):約70%
- 宮城県沖地震(M7.5前後、30年以内):約90%
南海トラフの確率は日本の主要地震評価の中で最高水準の部類に入ります。
海外評価との比較#
米国地質調査所(USGS)やカリフォルニア地震権威機関(UCERF)が公表するカスケード沈み込み帯やサンアンドレアス断層の評価でも、長期的な発生確率の計算にBPT分布や類似モデルが使われています。評価手法の国際的な共通基盤は存在するものの、各断層の特性・データ量・記録の信頼性によって算出値の不確実性は大きく異なります。
南海トラフは歴史記録が比較的豊富な断層帯ですが、それでも9回程度の記録しかないため、「過去の発生間隔を使った統計」には本質的な限界があります。確率の幅(20〜90%程度以上という大きな幅)はその限界を正直に示したものと理解すべきです。
よくある質問(FAQ)#
2025年9月改訂で確率が下がったということ?#
一概にそうとは言えません。従来の「70〜80%」は1つのモデルのみの値で、2025年9月改訂後の「20〜50%(BPTモデル)」は別の計算手法の値です。用いる手法が変わったため直接の比較はできません。「すべり量依存BPTモデル」の60〜90%程度以上は従来値と同等以上の水準です。
発生確率は毎年更新される?#
はい。地震本部は毎年1月1日を評価基準日として値を更新・公表しています。前回の地震からの経過時間が伸びるほど確率は上昇する方向に動きます。
「80%程度」はいつの値?#
2025年1月1日基準の公表値です。同年9月に算出手法の改訂が行われ、現在は「60〜90%程度以上」「20〜50%」の2値が最新の公式評価です。
確率が低いモデル(20〜50%)を採用すれば安心できる?#
安心の根拠にはなりません。20〜50%は「じゃんけんで勝つ確率」以上であり、30年間を通して見れば無視できる水準ではありません。どのモデルを採用するかではなく、発生した際の被害を最小化する備えを進めることが重要です。備えの具体的な内容は 南海トラフ地震はいつ来る? を参照してください。



