この記事は南海トラフの「メカニズム」特化です。発生確率・被害想定・対策の総合情報は 南海トラフ地震はいつ来る? を、都道府県別被害は 南海トラフ地震 地域別被害 を参照してください。
南海トラフとは?場所と地形#
「南海トラフ」という言葉はニュースでよく耳にしますが、そもそも何を指しているのか、正確に説明できる人は多くないかもしれません。地震の仕組みを理解することが、備える第一歩になります。
静岡〜九州沖に延びる海底の溝#
南海トラフとは、静岡県の駿河湾から九州の日向灘(宮崎県沖)にかけて、海底に延びる深い溝(トラフ)のことです。全長は約700キロメートルにも及びます。
南海トラフは太平洋側の海底に位置し、おおよそ以下のルートを通っています。
- 東端:駿河湾(静岡県)
- 中部:紀伊半島沖(三重県・和歌山県)
- 西端:日向灘(宮崎県沖)
陸地からの距離は場所によって異なり、駿河湾では海岸のすぐ近くまでトラフが迫っています。これが静岡県での津波到達時間が極めて短い理由の一つです。
トラフと海溝の違い#
「トラフ(trough)」は英語で「細長いくぼみ」を意味し、水深が比較的浅い海底の凹地を指します。一方、「海溝(トレンチ)」は水深6,000メートル以上の深い溝で、代表例が東日本大震災の震源となった日本海溝です。
南海トラフの水深は約4,000メートルで、海溝ほど深くはありません。しかしプレート境界に形成された地質学的に極めて重要な構造であり、超巨大地震の発生源となります。
| 比較項目 | 南海トラフ | 日本海溝(参考) |
|---|---|---|
| 水深 | 約4,000m | 約8,000m |
| 種別 | トラフ | 海溝 |
| 関係プレート | フィリピン海プレート/ユーラシアプレート | 太平洋プレート/北米プレート |
| 最大想定M | M9.1 | M9.0(東日本大震災実績) |
フィリピン海プレートとユーラシアプレートの沈み込み#
2枚のプレートの関係#
日本列島は4つのプレートがぶつかり合う世界的にもまれな場所に位置しています。南海トラフに関わるのは、フィリピン海プレートとユーラシアプレートの2枚です。
フィリピン海プレートは南東から北西に向かって年間3〜5センチメートルの速さで移動し、ユーラシアプレートの下に沈み込んでいます。この境界面が南海トラフ地震の震源になります。
| 項目 | データ |
|---|---|
| 全長 | 約700km |
| 水深 | 約4,000m |
| プレートの沈み込み速度 | 年間約3〜5cm |
| 想定される最大マグニチュード | M9.1 |
年間3〜5センチメートルという沈み込み速度は一見わずかに見えますが、100年では3〜5メートルのひずみが蓄積される計算です。
ひずみ蓄積と地震発生のメカニズム#
沈み込みの際、陸側のプレート(ユーラシアプレート)の先端は海側のプレート(フィリピン海プレート)に引きずり込まれ、下向きに曲がります。まるでゴム板を下から引っ張っているような状態です。このゆがみ(ひずみ)が限界を超えると、陸側プレートが一気に跳ね返ります。
この跳ね返りが南海トラフ地震であり、跳ね返った際に海底が大きく持ち上がることで津波が発生します。地震が発生すると、プレート境界の数百キロメートルにわたって一気にずれが広がります。
スロースリップ現象#
通常の地震は数秒〜数分で大量のエネルギーを放出しますが、プレート境界では「スロースリップ」と呼ばれるゆっくりとした滑りが常時発生しています。
スロースリップは数日〜数年かけてじわじわとプレートが動く現象で、地震計には揺れとして記録されません。しかし、スロースリップが活発化した直後に本震が発生した事例もあり、南海トラフでの観測は「地震の前触れ」を探る重要な指標の一つとされています。
注意点: スロースリップが観測されても、直ちに巨大地震につながるとは限りません。現時点では「通常より発生確率が相対的に高まる可能性がある」という判断基準にとどまります。
東海・東南海・南海の3領域区分#
震源域を3つに分ける理由#
南海トラフの震源域は、東から西に3つの領域に分けられています。この区分は過去の地震の発生パターンを分析した結果に基づいており、それぞれ独立して、あるいは連動して地震を起こすことがあります。
| 領域 | 別称 | 震源域の中心 |
|---|---|---|
| 東海地震 | A領域 | 駿河湾〜遠州灘(静岡県中心) |
| 東南海地震 | B領域 | 遠州灘〜紀伊半島沖(三重・愛知県中心) |
| 南海地震 | C領域 | 紀伊半島沖〜四国沖(和歌山・高知県中心) |
連動型地震のメカニズム#
3つの震源域が連動して動いた場合、マグニチュードは9クラスに達する可能性があります。連動の仕方によって地震の規模や津波の影響範囲が大きく変わります。
過去の記録では、東側が先に動いてから西側が連動するパターンが比較的多いです。「半割れ」と呼ばれるこのパターンでは、最初の地震から数時間〜数日以内に残りの半分でも大地震が発生するリスクがあります。
3つの震源域がすべて同時に動いた場合(宝永地震型)と、時間差で動いた場合(安政地震型)で、被害の性格が大きく変わります。
歴史的な南海トラフ地震#
宝永地震(1707年・M8.6)──全域連動型#
宝永地震は、南海トラフの東海・東南海・南海の全領域が一度に動いたとされる最大級の地震です。マグニチュードは8.6と推定されており、静岡から九州にかけて甚大な被害が発生しました。
大阪にも津波が到達し、道頓堀川沿いの船が内陸に押し流された記録が残っています。死者は約2万人。この地震の49日後には富士山が宝永大噴火を起こしており、巨大地震と火山噴火の連動を示す事例としても重要です。
安政東海・南海地震(1854年)──時間差連動型#
1854年12月23日に安政東海地震(M8.4)が発生し、そのわずか32時間後に安政南海地震(M8.4)が発生しました。東半分(東海・東南海)と西半分(南海)が連動して動いた典型的なケースです。
下田では津波高7〜9メートルが記録されており、町の大部分が壊滅しました。大阪でも2メートルを超える津波が到達しています。2つの地震の合計死者は数千人とされています。
昭和東南海・南海地震(1944年・1946年)#
1944年12月7日に昭和東南海地震(M7.9)が発生し、その2年後の1946年12月21日に昭和南海地震(M8.0)が発生しました。この間隔は宝永・安政地震と比較してやや大きく、連動のパターンが異なります。
昭和南海地震の死者は1,330人で、宝永地震や安政地震と比べると被害は小さいです。ただし、「やや小規模」だったことは、次の地震では蓄積されたエネルギーが多い分、より大きな地震になる可能性を示唆しているとも言われています。
繰り返し周期(100〜150年)#
過去の記録から、南海トラフ地震は100〜150年の間隔で繰り返し発生していることがわかっています。
| 地震 | 年 | 前回からの間隔 |
|---|---|---|
| 宝永地震 | 1707年 | ── |
| 安政東海・南海地震 | 1854年 | 147年 |
| 昭和東南海・南海地震 | 1944〜1946年 | 約90年 |
| 現在(2026年) | 2026年 | 約80年 |
前回の昭和南海地震から80年が経過しており、過去の間隔からすると「いつ発生してもおかしくない」時期に入っています。
よくある質問(FAQ)#
南海トラフと東日本大震災の違いは?#
東日本大震災は太平洋プレートと北米プレートの境界(日本海溝)で発生した地震です。南海トラフはフィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界であり、場所もメカニズムも異なります。ただし、どちらもプレート境界型の巨大地震であり、沈み込むプレートが陸側プレートを引きずって跳ね返るという基本的なメカニズムは共通しています。
トラフと海溝はどう違う?#
深さが主な違いです。国際定義では水深6,000メートル未満のものをトラフ、それ以上を海溝(トレンチ)と呼びます。南海トラフは水深約4,000メートルでトラフに分類されますが、地震・津波の発生源としての危険性は海溝と同等かそれ以上です。
スロースリップが観測されたらすぐ逃げるべき?#
スロースリップは日常的に観測されており、それ単独では避難の根拠にはなりません。政府が「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」を発表した場合に避難行動の検討が必要です。気象庁の臨時情報に注意してください。
発生確率・被害想定・具体的な対策については 南海トラフ地震はいつ来る?総合ガイド をご覧ください。都道府県別の被害想定は 南海トラフ地震 地域別被害 で確認できます。



