防災を始める前に「自分のリスク」を知る#
「防災、やらなきゃと思ってるけど何から始めればいいかわからない」
この悩みは、防災セミナーに参加される方の9割が口にする言葉です。私が防災士として最初にお伝えするのはいつも同じ。**「まず、自分がどんなリスクにさらされているか知ってください」**ということです。
なぜなら、住んでいる場所によって備えるべき災害がまったく違うからです。海の近くなら津波、川の近くなら洪水、山の近くなら土砂災害。全部に備えようとするとキリがないので、まずは「自分にとって最もリスクが高い災害」を特定するところから始めましょう。
ハザードマップで自宅の危険度をチェック#
国土交通省が提供する「重ねるハザードマップ」(https://disaportal.gsi.go.jp/)を使えば、自宅の住所を入力するだけで、洪水・土砂災害・津波・高潮のリスクを確認できます。
筆者は2020年に引っ越しをした際、真っ先にハザードマップを確認しました。すると、候補にしていた物件のひとつが河川の氾濫浸水想定区域に入っていた。結果、別の物件を選びました。ハザードマップは防災の出発点であると同時に、住まい選びの必須ツールでもあるんです。
使い方の詳細は「ハザードマップの見方・使い方完全ガイド」で画像付きで解説しています。
地震・水害・土砂災害、地域ごとのリスクの違い#
日本はどこに住んでいても地震のリスクがあります。これは前提です。そのうえで、地域ごとに上乗せされるリスクが異なります。
- 沿岸部:津波、高潮
- 河川流域:洪水、内水氾濫
- 山間部・丘陵地:土砂災害、地すべり
- 都市部:建物倒壊、火災延焼、帰宅困難
- 埋立地:液状化
地震対策は全員共通、それに加えて自分の地域固有のリスクに対応する備えを追加する。この考え方がシンプルで実践的です。
ステップ1:まず非常用トイレと水を確保する#
防災の第一歩として、私が最も強くおすすめするのは非常用トイレと水の確保です。
「え、食料が先じゃないの?」と思うかもしれません。でも、人間は水なしでは3日、食料なしでも2週間は生存できるとされています。一方で、トイレは6時間以内に必要になります。
最優先で備えるべき理由#
2016年の熊本地震の教訓をお伝えします。避難所ではトイレの汚れがひどく、使いたくないからと水分を控える人が続出。結果、脱水症状やエコノミークラス症候群による災害関連死が多数発生しました。
トイレの問題は命に直結します。しかもトイレは代替手段が極めて少ない。食料はご近所からもらえるかもしれないし、炊き出しもある。でもトイレは自分で備えるしかないんです。
最低限の数量と予算の目安#
| 品目 | 1人3日分の数量 | 予算目安 |
|---|---|---|
| 非常用トイレ(凝固剤+袋) | 15回分 | 1,500〜2,500円 |
| 飲料水(2Lペットボトル) | 9本(18L) | 900〜1,200円 |
| 合計 | - | 約2,400〜3,700円 |
3,000円前後で最低限のトイレと水が揃います。これだけで、災害時の生存率と快適度が劇的に変わる。「防災何から始める?」の答えは、「3,000円でトイレと水を買う」です。
ステップ2:3日分の食料を備蓄する#
水とトイレの次は、3日分の食料を確保しましょう。ここで大事なのは「特別な非常食を買わなくてもいい」ということ。
ローリングストックで無理なく始める#
ローリングストックとは、普段食べている食品を少し多めに買っておき、消費したら補充するサイクルのこと。これなら「賞味期限が切れて無駄になった」という失敗がありません。
たとえば、レトルトカレーを普段5箱ストックしているところを10箱に増やす。5箱を消費したら5箱買い足す。これだけで常時5箱分の非常食が確保できている状態になります。
具体的なやり方は「ローリングストックのやり方を徹底解説」で詳しく説明しています。
最初に買うべき非常食リスト#
スーパーで買えるものだけでまとめた、1人3日分のリストです。
- レトルトカレー × 2食
- パックごはん × 3食
- カップ麺 × 2食(水で作れるものもある)
- さば缶 or 焼き鳥缶 × 2缶
- カロリーメイト × 1箱
- チョコレート or ようかん × 1つ
- 野菜ジュース × 3本
合計で約2,000円。これに先ほどの水とトイレを合わせても、5,000円あれば3日分の最低限の備蓄が完成します。
「もっと本格的な非常食を揃えたい」という方は、「非常食おすすめ完全ガイド」を参考にしてください。
ステップ3:家具の転倒防止をする#
食料と水を確保したら、次は地震対策です。阪神・淡路大震災(1995年)では、死因の約8割が建物の倒壊や家具の転倒による圧死・窒息死でした。
家具の転倒防止は、文字どおり命を守る対策です。
寝室・リビングの優先順位#
すべての家具を一度に固定するのは大変なので、優先順位をつけましょう。
最優先:寝室 就寝中は無防備です。タンス、本棚、テレビなど、倒れてきたら直撃するものを固定します。
次に:リビング 滞在時間が長いリビングの大型家具を固定。食器棚は中の食器が飛び出さないよう、扉ロックも付けましょう。
その次:キッチン 冷蔵庫は転倒すると避難経路を塞ぎます。転倒防止ベルトで壁に固定するか、ジェルマットで床に固定しましょう。
賃貸でもできる方法#
「賃貸だから壁に穴を開けられない…」という方、大丈夫です。穴を開けない固定方法はたくさんあります。
- 突っ張り棒式ポール(天井と家具の間に設置)
- 粘着ジェルマット(家具の底面に貼る)
- 転倒防止ベルト(粘着式で壁に貼る)
東京消防庁の実験では、突っ張り棒式ポールとジェルマットを併用することで、震度6強でも家具の転倒を防げるという結果が出ています。
詳しくは「賃貸でも安心!穴を開けない家具固定の方法」で解説しています。
ステップ4:情報収集と連絡手段を決める#
災害が起きたとき、最も不安になるのは「何が起きているかわからない」状態と「家族と連絡が取れない」状態です。
防災アプリ・防災ラジオの準備#
今すぐスマホに入れるべきアプリ
- Yahoo!防災速報:地震・津波・大雨など多種の速報をプッシュ通知
- NHK ニュース・防災:信頼性の高い情報をリアルタイムで配信
- 特務機関NERV:気象庁のデータを最速で配信する防災アプリ
スマホのアプリは便利ですが、停電が長引くとバッテリーが切れます。そんなときに頼りになるのが手回し充電式の防災ラジオ。電池がなくてもハンドルを回せば使えます。
ラジオは「古い」と思われがちですが、災害時の情報入手手段としては最も安定しています。基地局の被害に関係なく受信できるからです。
家族との安否確認ルールを決める#
大規模災害が発生すると、携帯電話の回線はパンクします。東日本大震災では、携帯電話の通話接続率が一時的に約1%まで低下しました。
電話がつながらない前提で、安否確認の方法を家族と事前に決めておきましょう。
おすすめの安否確認手段
- 災害用伝言ダイヤル(171):NTTが提供する電話伝言サービス。毎月1日と15日に体験利用ができる
- 災害用伝言板(web171):インターネット版の伝言板
- LINE等のSNS:テキストメッセージは電話より回線を使わないため、つながりやすい
- 集合場所の事前決定:「〇〇小学校に集まる」と決めておく
筆者の家族では、毎年9月1日(防災の日)に災害用伝言ダイヤル171の練習を全員で行っています。5分あれば終わりますし、年に1回やるだけで安心感が違います。
ステップ5:避難計画を立てる#
最後のステップは、いざという時の避難計画です。ここまでのステップ1〜4が「備蓄(自宅を守る備え)」だったのに対し、ステップ5は「自宅から離れる場合の備え」です。
避難場所と避難所の違いを理解する#
この2つ、混同している方がとても多いんです。
- 避難場所(指定緊急避難場所):災害の危険から命を守るために一時的に逃げる場所。公園や広場など。
- 避難所(指定避難所):自宅が被災して住めなくなった場合に、一定期間生活する場所。学校の体育館など。
まず避難場所に逃げて安全を確保し、自宅に戻れない場合に避難所へ移動する。この二段構えを覚えておいてください。
避難ルートを実際に歩いて確認する#
地図上で避難場所を確認するだけでは不十分です。実際に歩いて確認してください。
なぜなら、地図ではわからない危険があるからです。
- 細い路地はブロック塀が倒れて通れなくなる可能性がある
- 高架下はコンクリートの落下リスクがある
- 川沿いの道は増水時に使えない
筆者は自宅から最寄りの避難場所まで、ルートを2つ確保しています。メインルートが使えない場合のバックアップです。休日に散歩がてら歩いてみると、意外な発見があって面白いですよ。
避難計画を立てる際のチェックポイント
- 最寄りの避難場所の場所と名称
- 最寄りの避難所の場所と名称
- 避難ルート(最低2つ)
- 家族の集合場所
- 持ち出し袋の準備と置き場所
防災準備でよくある「挫折パターン」とその対策#
ステップ1〜5を紹介してきましたが、「やろうと思ったけど結局続かなかった」という声も正直多い。防災士として、よくある挫折パターンとその対策をお伝えしておきます。
挫折パターン1:完璧を目指して手が止まる#
「7日分揃えないと意味がない」「全部一気に買わないと」と考えて、結局何もしない。これが最も多い挫折パターンです。
対策:今日できることを1つだけやる。水を2L×3本買う。それだけで十分。1日分の水があるのとゼロでは天と地の差です。
挫折パターン2:買って満足して放置#
防災セットを購入した直後は安心感がある。でも、そこから管理をしなくなり、数年後に全部期限切れ。
対策:ローリングストック方式に切り替える。日常で使う食品を備蓄にすれば、「管理する」という意識すら不要になります。
挫折パターン3:家族の理解が得られない#
「そんなの起きないよ」「お金がもったいない」と家族に反対される。
対策:いきなり防災グッズの話をするのではなく、ニュースで地震や台風の報道があったときに「うちはどうする?」と自然に話を振ってみる。2024年の能登半島地震以降、防災への関心は確実に高まっています。
筆者のセミナーでも、家族の反対に悩む参加者には「まず自分の分だけ備えてください。それを見て家族の意識が変わることが多いです」とアドバイスしています。
まとめ|防災準備チェックリスト(印刷用)#
5つのステップをまとめます。上から順に進めていけば、最低限の防災準備が整います。
【ステップ1】トイレと水を買う(予算:約3,000円)
- 非常用トイレ 15回分
- 飲料水 2L × 9本
【ステップ2】3日分の食料を備蓄する(予算:約2,000円)
- レトルト食品 5〜6食分
- 缶詰 2〜3缶
- お菓子・補食 2〜3種類
【ステップ3】家具の転倒防止をする(予算:約3,000円)
- 寝室の家具を固定
- リビングの大型家具を固定
- 食器棚の扉ロック
【ステップ4】情報収集・連絡手段を整える(予算:0円〜)
- 防災アプリのインストール
- 災害用伝言ダイヤルの使い方を確認
- 家族との安否確認ルールを決定
【ステップ5】避難計画を立てる(予算:0円)
- ハザードマップで自宅のリスクを確認
- 避難場所・避難所を確認
- 避難ルートを実際に歩いて確認
全部合わせても予算は1万円以内。週末の数時間で大部分が完了します。
防災は特別なことじゃありません。風邪薬を常備薬として持っているのと同じ。「備えがある」という事実が、日常の安心感につながります。今日、ステップ1だけでもいいので始めてみてください。
最後にひとつ、防災士として長年活動してきた中で確信していることがあります。防災準備をしている人は「漠然とした不安」から解放されます。地震のニュースを見たとき、台風の予報が出たとき、「うちは備えがあるから大丈夫」と思えるかどうか。その心の余裕が、日常生活の質を確実に上げてくれます。
より詳しい防災グッズの選び方は「防災グッズ本当に必要なものランキング」、非常食の選び方は「非常食おすすめ完全ガイド」、トイレの備えは「非常用トイレ完全ガイド」を参考にしてください。



