河川氾濫で命を落とす人の多くは「逃げ遅れ」です。台風シーズン前に、避難のタイミングを確認してください。
2020年の令和2年7月豪雨で球磨川が氾濫した際、犠牲になった方の多くが高齢者で、避難が間に合わなかったケースが目立ちました。国交省等の検証では、球磨川流域の死者のうち65歳以上の高齢者が約86%を占め、就寝中から早朝にかけて浸水が急拡大したこと、避難情報の発令と氾濫までの時間差が大きかった自治体があったことが逃げ遅れの要因とされています。
筆者はこの災害の後、改めて「避難のタイミングを事前に決めておく」ことの重要性を痛感しました。判断を迫られてから考えるのでは遅い。平時に「この条件になったら避難する」と決めておくことが、生死を分けます。
河川氾濫はどのように起きるか#
外水氾濫と内水氾濫の違い#
外水氾濫: 河川の水が堤防を越えたり(越水)、堤防が壊れたり(決壊)して、周辺に水があふれる現象。大量の水が一気に押し寄せるため、被害が甚大になりやすい。
内水氾濫: 大雨で河川の水位が上昇し、支流や下水道の水が本流に排水できなくなって、市街地にあふれる現象。都市部で頻発し、河川から離れた場所でも起きる。
外水氾濫は破壊力が大きく、内水氾濫は広範囲で発生しやすいという違いがあります。どちらも命に関わる危険があるので、河川の近くに住んでいる方は両方のリスクを認識してください。
氾濫の前兆サイン#
河川氾濫が起きる前には、いくつかの前兆があります。
- 河川の水位が急激に上昇している
- 河川の水が濁って泥水になっている
- 普段見えない堤防の裏側(住宅地側)に水がにじみ出ている
- 河川から異常な音(ゴロゴロという流木の音など)が聞こえる
- 堤防に小さな穴や亀裂が見える
これらのサインに気づいたら、すぐに自治体や河川事務所に通報するとともに、避難の準備を始めてください。ただし、川の様子を見に行く行為自体が危険なので、安全な場所から確認するか、河川カメラの映像で確認してください。
夜間の氾濫が特に危険な理由#
夜間に氾濫が起きると、以下の理由で被害が拡大します。
- 暗くて水位の上昇に気づきにくい
- 浸水した道路の危険(マンホールの蓋が外れている等)が見えない
- 避難行動自体が危険(転倒、溺水)
- 就寝中に避難指示に気づかない
夜間や未明にかけて水位が急上昇する事例は多く、就寝中は避難情報に気づきにくいという課題が指摘されています。天気予報で「夜間に大雨のピーク」が予想されている場合は、明るいうちに避難を完了させるのが鉄則です。
避難のタイミング【警戒レベル別の行動】#
レベル3(高齢者等避難)で要配慮者は避難開始#
警戒レベル3は、高齢者、障害のある方、乳幼児連れの方が避難を開始する段階。
「高齢者等避難」と名付けられていますが、これは高齢者だけの話ではありません。避難に時間がかかる人、支援が必要な人は全員がこの段階で動くべきです。
また、ハザードマップで浸水深が深い区域にいる人も、この段階で避難を開始するのが安全。「まだレベル3だから大丈夫」ではなく、「レベル3で動ける人は動いたほうがいい」と考えてください。
レベル4(避難指示)で全員避難#
レベル4が出たら、危険な場所にいる人は全員避難。これが最も重要なメッセージです。
2021年の災害対策基本法改正で、「避難勧告」は廃止され「避難指示」に一本化されました。つまり、レベル4が出た時点で「直ちに避難」。
避難指示は市区町村が発令します。テレビ、ラジオ、防災アプリ、緊急速報メール、防災行政無線で伝達されます。
レベル5(緊急安全確保)は手遅れ寸前#
レベル5は「すでに災害が発生している、または切迫している」状態。
この段階で安全に避難できる保証はありません。屋外に出ること自体が危険な場合もある。レベル5が出てから避難するのではなく、レベル4の段階で避難を完了しておくことが重要です。
レベル5で取るべき行動は「命を守る最善の行動」。具体的には:
- 自宅の2階以上への垂直避難
- 崖や山から離れた部屋への移動
- 頑丈な建物への緊急退避
避難情報・水位情報の確認方法#
川の防災情報(国土交通省)の見方#
国土交通省の「川の防災情報」(https://www.river.go.jp/)では、全国の河川水位をリアルタイムで確認できます。
確認手順:
- サイトにアクセス
- 地図上で確認したい河川をクリック
- 水位観測所の情報を表示
- 現在の水位とレベル(色分け)を確認
水位グラフで水位の上昇速度も把握できるため、「あとどのくらいで危険水位に達するか」の目安がわかります。
氾濫注意水位・避難判断水位・氾濫危険水位#
河川の水位には段階的な基準が設けられています。
| 水位名 | 意味 | 対応する行動 |
|---|---|---|
| 水防団待機水位 | 水防団が待機する水位 | 情報に注意 |
| 氾濫注意水位 | 氾濫の注意が必要な水位 | 避難準備 |
| 避難判断水位 | 避難の判断が必要な水位 | 高齢者等は避難開始 |
| 氾濫危険水位 | 氾濫の危険が高い水位 | 全員避難 |
氾濫危険水位を超えると、いつ堤防が越水・決壊してもおかしくない状態です。
防災アプリでのプッシュ通知設定#
「Yahoo!防災速報」で河川の水位上昇通知を設定しておくと、自宅近くの河川が危険水位に近づいた時にスマホに通知が届きます。
設定方法:
- Yahoo!防災速報アプリをインストール
- 地域を設定
- 通知設定で「河川洪水」をONに
- 通知レベルを設定(「氾濫注意情報」以上がおすすめ)
寝ている間に水位が急上昇するケースもあるので、通知音は聞こえるようにしておいてください。
避難時の注意点#
徒歩避難の水深限界(膝上は危険)#
冠水した道路を徒歩で避難する場合、水深の限界を知っておく必要があります。
| 水深 | 状況 |
|---|---|
| 10cm | 足首。歩行に大きな影響なし |
| 20cm | すね。流れがあると歩きにくい |
| 30cm | 膝。大人でも歩行困難。子どもは流される恐れ |
| 50cm以上 | 大人でも流される危険。避難不能 |
水深50cm(膝上)を超えるとほとんどの大人が避難困難になるとされ、30cm前後でも流れがあれば転倒リスクが高まります。流速が速ければ水深20cm程度でも歩行不能になる場合があるため、膝下の水深でも油断は禁物です。
車での避難が危険な状況#
- 道路がすでに冠水している(水深不明)
- アンダーパスに水が溜まっている
- 夜間で道路の状況が見えない
- 水流がある冠水道路
JAFの冠水路走行テストでは、水深30cmでもエンジンルームに多量の水が入り、水深30~50cmでエンジンが停止、水深50cm以上で車両が浮き始めてドアも開きにくくなることが報告されています。「車のほうが速い」と考えがちですが、冠水した道路では車は凶器になります。
逃げ遅れた場合の垂直避難#
すでに周囲が浸水して外に出られない場合は、建物内での垂直避難。
- 自宅の2階以上に移動する
- 鉄筋コンクリートの建物がより安全
- 土砂災害の危険がある場合は、山側と反対の部屋を選ぶ
- 水・食料・携帯電話・懐中電灯を持って上階へ
木造住宅で浸水深3m以上が想定される場合、家屋倒壊のリスクがあるため垂直避難でも十分な安全は確保できません。事前に鉄筋コンクリート造の避難先を確認しておくのが理想です。
よくある質問(FAQ)#
Q. 避難指示が出ていなくても避難すべき場合は? A. ハザードマップで浸水リスクが高い区域にいて、河川の水位が上昇傾向にある場合は、避難指示を待たずに自主避難を推奨します。特に夜間に大雨のピークが予想されている場合は、明るいうちに動いてください。
Q. 避難場所が遠くて間に合わない場合は? A. 近くの鉄筋コンクリート造の建物(マンション、公共施設など)の上階に緊急避難する選択肢があります。普段から近所の高い建物を把握しておくと、いざという時に役立ちます。
Q. ペットを連れて避難できる? A. 「同行避難」が原則ですが、避難場所によってはペット受入不可の場合があります。事前に最寄りの避難場所のペット対応を確認し、対応していない場合はペット可の避難先を複数リストアップしておいてください。
Q. 避難する際に持っていくべきものは? A. 非常持ち出し袋が基本。時間がない場合は最低限、財布(現金)、スマホ、充電器、保険証のコピー、常備薬、水。避難所での生活が数日になる場合に備えて、着替えや衛生用品も可能な限り持参してください。



