ストローマン提案

英語名 Straw Man Proposal
読み方 ストローマン プロポーザル
難易度
所要時間 15〜30分(作成)+ 30〜60分(議論)
提唱者 コンサルティング業界で広く使われる議論手法
目次

ひとことで言うと
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完璧を目指さず、あえて「叩き台」を粗い状態で出すことで、チームの議論を加速させる手法。白紙から議論するより、「ここがダメ」「こう直すべき」と反応するほうが人は意見を出しやすいという心理を活用する。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
ストローマン(Straw Man)
直訳は藁人形。壊される前提で作られた「叩き台」を意味する。議論の論点を可視化し、反応を引き出すための出発点。
スチールマン(Steel Man)
ストローマンの対義語で、相手の主張を最強の形に強化して議論する手法を指す。ストローマンで方向性を決めた後、スチールマンで磨き上げるのが理想的な流れ。
叩き台
日本語でストローマンに最も近い表現。修正される前提で出す初期案を指す。
イテレーション
叩き台を修正し、再度フィードバックを受ける反復サイクルである。2〜3回のイテレーションで叩き台が最終案に近づく。

ストローマン提案の全体像
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ストローマン提案:粗い案を出して議論で磨き上げる
叩き台完成度30%でOK粗くていい、出すのが大事壊される前提議論・フィードバック「ここは違う」「こうした方がいい」意見が出やすくなる磨かれた案チームの知恵が入った全員が納得できる案完成度80%以上修正して再提出白紙から議論沈黙… → 意見が出ない → 時間切れVS叩き台から議論「ここは違う」→ 議論が活性化人は「白紙に書く」より「赤ペンを入れる」方が得意
ストローマン提案の進め方フロー
1
叩き台を作る
完成度30%でスピード重視
2
チームに共有
「壊す前提」と宣言して出す
3
フィードバックで修正
指摘を反映して磨き上げる
チーム合意の最終案
全員の知恵が入った案に

こんな悩みに効く
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  • 会議で「何かアイデアありますか?」と聞いても沈黙が続く
  • 完璧な企画書を作ろうとして、いつまでも出せない
  • プロジェクトの方向性が決まらず、議論がループしている

基本の使い方
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ステップ1: 叩き台を短時間で作る

完成度は30%で十分。むしろ粗い方がよい。

  • A4で1〜2枚、またはスライド3〜5枚程度
  • 構成の骨子、方向性、大まかな数字が入っていれば十分
  • 「穴がある」「突っ込みどころがある」のが正常

叩き台に30分以上かけない。 かけすぎると「自分の案」への愛着が生まれ、壊されるのが辛くなる。

ステップ2: 「壊す前提です」と宣言して共有する

共有するときに必ず「これは叩き台です。壊してください」と明言する。

  • この宣言がないと、メンバーは「上司の案を批判していいのか?」と遠慮する
  • 「ここが弱いと思っている」と自ら弱点を指摘すると、さらに意見が出やすくなる
  • 共有は会議の場でもSlackでもよい。非同期で書き込む方がじっくり考えた意見が出ることもある
ステップ3: フィードバックを反映して磨き上げる

出てきた意見を整理し、叩き台を修正する。

  • すべての意見を取り入れる必要はない。「この指摘は反映する/しない」の判断を明示する
  • 2〜3回のイテレーションで十分な品質になるケースが多い
  • 最終案は「チーム全員で作った案」になるため、実行段階での抵抗が少ない

具体例
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例1:飲食チェーンの新メニュー開発会議で沈黙を打破する

状況: 全15店舗の飲食チェーン。夏の新メニュー企画会議で「何かアイデアありませんか?」と聞くも、8人の参加者全員が沈黙。過去3回の会議も同じパターン。

叩き台(完成度30%):

  • コンセプト: 「猛暑に負けない冷製パスタフェア」
  • メニュー案: 冷製トマトパスタ(980円)、冷製ジェノベーゼ(1,080円)
  • 期間: 7月1日〜8月31日
  • 売上目標: 月120万円/店(全店で月1,800万円)

議論で出た意見:

  • 「冷製パスタは昨年もやった。差別化にならない」→ 和風の冷やし麺もラインナップに追加
  • 「売上目標が根拠なし」→ 昨年夏の実績データを基に再計算 → 月95万円/店が現実的
  • 「ジェノベーゼは食材コストが高い」→ バジルを契約農家から直接仕入れる案が出た
  • 「写真映えが必要」→ 器をガラスボウルに変更してSNS映えを強化

最終案は叩き台から大きく変わったが、会議は45分で結論が出た。白紙から議論していた過去3回はいずれも結論が出ず持ち越しだった。

例2:SaaS企業で来期のプロダクトロードマップを決める

状況: 従業員80名のSaaS企業。来期のロードマップを決めたいが、営業・開発・CSの要望がバラバラで、3回の経営会議でも合意に至らない。

叩き台(PM1名が2時間で作成):

四半期開発テーマ狙い
Q1ダッシュボードのリニューアル解約理由1位「UIがわかりにくい」への対応
Q2API公開大企業向けの連携ニーズに対応
Q3モバイルアプリ営業からの要望Top3に常に入っている
Q4AI自動レポート競合差別化の目玉機能

議論で出た修正:

  • 営業部長: 「API公開はQ2では遅い。大手A社の案件がQ1に入札。Q1に前倒しすべき」
  • 開発リーダー: 「API公開をQ1にするならダッシュボードはQ2に。同時進行は人員的に無理」
  • CS: 「モバイルアプリより先にCSV一括インポート機能が欲しい。問い合わせの25%がこれ」
  • CEO: 「AI自動レポートは技術的に不確実。Q4に入れるのはリスクが高い」

最終案ではQ1にAPI公開、Q2にダッシュボード、Q3にCSV機能、Q4をAIのPoCに変更。全員が参加して決めたロードマップのため、各部門の協力体制がスムーズに立ち上がった。

例3:NPO法人が地域イベントの企画を住民と一緒に作る

状況: 人口1.2万人の町で、商店街の活性化イベントを企画したい。住民説明会を開いても「何がいいと思いますか?」の問いに反応がない。

叩き台(NPOスタッフが作成):

  • イベント名: 「〇〇町 夜の商店街マルシェ」
  • 日時: 8月の土曜日18:00〜21:00
  • 内容: 商店街の10店舗が軒先で特別メニューを出す+地元高校生バンドの演奏
  • 予算: 50万円(自治体補助30万円+協賛20万円)
  • 目標来場者: 500人

住民から出た意見:

  • 「夏は暑すぎる。10月の方がいい」→ 開催を10月に変更
  • 「夜だけじゃなく、午後からやった方が家族連れが来る」→ 15:00〜20:00に拡大
  • 「高校生だけじゃなく、地元のおばあちゃんたちの踊りも入れたら」→ 地元民謡サークルに出演依頼
  • 「50万円じゃ足りない。クラウドファンディングで集めよう」→ 目標30万円のCFを追加

叩き台があったことで、住民は「自分ごと」としてアイデアを出し始めた。最終的に実行委員会に住民12名が参加し、当日の来場者は目標500人に対して830人を記録した。

やりがちな失敗パターン
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  1. 叩き台を作り込みすぎる — 完成度が高いと「もう決まっているのでは」と思われ、意見が出にくくなる。あえて粗さを残す勇気が大事
  2. 「壊す前提」の宣言を忘れる — この一言がないと、メンバーは叩き台を「上司の決定」と受け取る。特に上下関係がある組織では致命的
  3. フィードバックを全部取り入れようとする — 矛盾する意見も出るので、すべてを反映するのは不可能。PMが取捨選択し、判断理由を説明する
  4. 叩き台を壊されて傷つく — 自分の案が否定されるのは気持ちのいいものではない。しかしストローマンの本質は「議論の触媒」であって「自分の作品」ではない。最初からそのつもりで出す

まとめ
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ストローマン提案は「完璧な案を出す」のではなく「壊される前提の叩き台を出す」ことで議論を加速させる手法。白紙から創造するより、既存の案に赤ペンを入れる方が人は得意。叩き台は30%の完成度でいい。大事なのはスピードと「壊してください」の一言。チームの知恵を引き出す最も効率的な方法の一つ。