ひとことで言うと#
「何が起きているのか?」がわからない状況で、情報に意味を与え、行動の方向性を見出すプロセス。意思決定(Decision Making)が「選択肢の中から選ぶ」のに対し、センスメイキングは「そもそも何が起きているかを理解する」フェーズを扱う。正確な分析より前に、まず「物語」を作ることで状況を把握する。
押さえておきたい用語#
- キュー(Cue)
- 混沌とした状況の中から拾い上げる意味のある手がかりのこと。公式データだけでなく、直感・違和感・現場の声なども含む。
- ナラティブ(Narrative)
- 手がかりをつなぎ合わせて作る**暫定的なストーリー(物語)**のこと。「今何が起きているか」をチームで共有するための仮説。
- フレーム(Frame)
- 状況を解釈するための認知の枠組みのこと。同じ事実でもフレームが違えば意味が変わる。センスメイキングではフレームの再構築が重要。
- エナクトメント(Enactment)
- 行動することで環境に働きかけ、新たな手がかりを生み出すこと。センスメイキングでは「理解してから動く」ではなく「動いて理解する」。
センスメイキングの全体像#
こんな悩みに効く#
- 情報が多すぎて、何が重要で何が重要でないかわからない
- 前例のない事態に直面して、どう判断すればいいかわからない
- チーム内で「今何が起きているか」の認識がバラバラ
基本の使い方#
センスメイキングの出発点は「わからない」ことを認めること。
- 無理に「正解」を探さない: 情報が不十分な段階で結論を出すと、確証バイアスに陥る
- 曖昧さに耐える: 「もう少し情報が集まるまで待つ」のではなく、曖昧なまま動き始める
- 「何がわからないか」を明確にする: 不明点をリストアップするだけでも混沌の度合いが下がる
リーダーが「わからない」と言えることが、チームのセンスメイキングの第一歩。
混沌の中から意味のある手がかりを拾い上げる。
- 多様な情報源: 公式データだけでなく、現場の声、顧客の反応、SNSの動向、直感も含める
- 弱いシグナルに注目: 大きなトレンドだけでなく、「なんか違和感がある」という小さなサインを見逃さない
- 異なる視点を集める: 同じ状況でも、営業・開発・CS・経営で見え方が違う。すべてが手がかり
手がかりは「事実」だけではない。人々の感情、雰囲気、直感も重要な情報。
集めた手がかりをつなぎ合わせて、「今何が起きているか」のストーリーを構築する。
- 複数のストーリーを作る: 1つのストーリーに固執しない。同じ手がかりから異なる解釈が可能
- ストーリーは暫定的: 「これが正しい」ではなく「今のところ最も説得力のある説明はこれ」
- チームで共有する: 個人のストーリーをチームで共有し、より豊かなストーリーに発展させる
例: 「顧客の問い合わせが増えている」「開発チームのリリース頻度が上がっている」「SNSで不満の声が出ている」→ 「リリースを急ぎすぎて品質が下がり、顧客に影響が出始めている」というストーリー。
ストーリーに基づいて行動し、その結果から新たな手がかりを得てストーリーを更新する。
- 小さく行動する: 大きな賭けをするのではなく、状況を確認するための小さなアクションから
- 結果を観察する: 行動の結果は新たな手がかり。ストーリーの妥当性を検証する材料
- ストーリーを修正する: 新しい情報が得られたら、ストーリーを柔軟に書き換える
完璧な理解を待ってから行動するのではなく、行動を通じて理解を深める。
具体例#
状況: 従業員150名のSaaS企業。先月から解約率が2.1%→4.8%に急上昇。原因は不明。
ステップ1: 混沌を受け入れる
- CEOが全社ミーティングで「正直、なぜ解約が増えているかまだわからない」と宣言
- 各部門に「何か気になることはないか」と問いかける
ステップ2: 手がかりを集める
- CS: 「最近、操作方法の問い合わせが急増。特に新UIについて」
- 営業: 「更新面談で『使いこなせていない』という声が増えた」
- 開発: 「先月のUI刷新後、ヘルプページのアクセスが3.2倍に」
- SNS: 「前のUIに戻してほしい」という投稿が12件
ステップ3: 物語を作る
ストーリーA: 「UI刷新が既存ユーザーの操作体験を壊し、学習コストに耐えられない層が離脱している」
ストーリーB: 「競合が先月から大幅値下げをしており、価格比較で負けている」
ストーリーC: 「景気後退でSaaS全般の見直しが進んでいる」
ステップ4: 行動してストーリーを更新
- 解約した直近20社に電話ヒアリング → 14社が「UIが変わって使いにくくなった」と回答 → ストーリーA支持
- 競合の価格を調査 → 値下げはなし → ストーリーB否定
- 業界全体の解約率を確認 → 横ばい → ストーリーC否定
更新されたストーリー: 「UI刷新の移行サポートが不十分で、既存ユーザーの操作習慣が壊れている。特に利用歴2年以上のヘビーユーザーに影響が大きい」
次のアクション: 旧UIへの一時復帰オプション提供、既存ユーザー向け移行ガイドの即日公開、利用歴2年以上のユーザー100社にCS担当が個別フォロー。翌月の解約率は3.0%に改善。
状況: 創業60年の文具メーカー。20代の購入率が5年前の32%から18%に低下。「若者が文具を使わなくなった」と社内では語られている。
手がかりの収集:
- マーケ: 「20代向け広告のクリック率は悪くない(CTR 2.8%)。でも購入に至らない」
- 営業: 「文具専門店の来客数自体が年12%減少している」
- SNS調査: 自社ブランドの言及数は減少。しかし「文具」全体の投稿は年18%増加中
- Z世代社員の声: 「ブランドは知ってるけど、Amazonで検索しても出てこない」
複数のストーリー:
- ストーリーA: 「若者が文具を使わなくなった」(社内の定説)
- ストーリーB: 「若者は文具に興味があるが、購入チャネルがずれている。ECでの存在感がない」
小さなアクションと検証:
- Amazon出品をテスト(3商品・1ヶ月)→ 20代の購入が全体の47%を占めた
- Instagram広告からECへの導線を設計 → CVR 4.2%(店舗誘導の2.8倍)
更新されたストーリー: 若者の文具離れではなく「チャネル離れ」だった。購買行動がオフラインからオンラインに移行しただけで、需要は存在する。
EC本格展開を決定。半年後、20代の売上構成比が18%→29%に回復。
状況: 病床数180床の地方総合病院。看護師の年間離職率が8%→15%に悪化。「給与が低いから」という理由で昇給を検討中だが、予算が厳しい。
手がかりの収集:
- 人事: 「退職面談の理由は『家庭の事情』が65%だが、本音かどうか疑問」
- 看護師長: 「夜勤の交代が回らず、特定の人に偏っている」
- 匿名アンケート: 「給与より、夜勤回数と人間関係がつらい」が72%
- 退職者3名に非公式ヒアリング: 「師長に相談しても『みんな大変だから』で終わる」
物語の構築:
- ストーリーA: 「給与水準が地域の他病院より低い」→ 調査すると中央値とほぼ同等 → 否定
- ストーリーB: 「夜勤の負荷が特定の看護師に集中し、声を上げても改善されないことが離職の根本原因」
小さなアクション:
- 夜勤シフトの偏りを可視化 → 上位10%の看護師が夜勤の38%を担当していた
- 試験的に1病棟で夜勤の均等配分を実施(3ヶ月)
結果: 試験病棟の離職意向が42%→18%に低下。昇給よりもシフト配分の公平性と「声が届く」実感のほうが離職防止に効果的だと判明。全病棟に展開し、年間離職率は翌年10%に改善。
やりがちな失敗パターン#
- すぐに「原因」を特定しようとする — データが不十分な段階で「これが原因だ」と決めつけると、確証バイアスに陥る。まず手がかりを幅広く集め、複数のストーリーを作る
- リーダーが一人でストーリーを作る — リーダーの視点だけではストーリーが偏る。現場の声、顧客の声、異なる部門の視点を統合する
- ストーリーを固定化する — 最初に作ったストーリーに執着し、新しい情報が入っても修正しない。センスメイキングは継続的なプロセスであり、ストーリーは常に暫定的
- 行動せずに分析を続ける — 「もう少し情報が集まってから」と待ち続けるのはセンスメイキングではない。不完全な理解のまま小さく動き、その結果から学ぶのが本質
まとめ#
センスメイキングは「わからない」状況で「意味」を作り出すプロセス。完璧な分析ではなく、手がかりからストーリーを作り、行動して検証し、ストーリーを更新する。不確実性の高い時代に最も必要なスキルは、混沌に耐えながら意味を見出し、チームで共有し、行動につなげる力。「今何が起きているか」をチームで語り合うことから始めよう。