ひとことで言うと#
問題が起きたとき、**目に見える「症状」ではなく、その奥にある「根本原因」**を掘り下げて特定し、対症療法ではなく根本的な対策を打つ分析手法。
押さえておきたい用語#
- 根本原因(Root Cause)
- 問題を引き起こしている最も深いレベルの原因のこと。これを取り除けば問題が再発しなくなる。多くの場合、個人のミスではなく仕組みやプロセスの欠陥にあたる。
- 直接原因(Direct Cause)
- 問題に直接つながっている表面的な原因のこと。根本原因に到達するための出発点になるが、ここで対策を止めると再発する。
- 対症療法(Symptomatic Treatment)
- 問題の症状だけを一時的に抑える対応のこと。根本原因に手を打たないため、形を変えて同じ問題が繰り返される。
- 水平展開(Yokoten)
- 一つの問題で見つかった根本原因と対策を、他の類似プロセスにも適用すること。トヨタ生産方式に由来する概念。
根本原因分析の全体像#
こんな悩みに効く#
- 同じ問題が何度も繰り返される
- 対策を打ったはずなのに、形を変えて同じ問題が再発する
- 問題が起きると犯人探しになり、建設的な改善につながらない
基本の使い方#
「何が、いつ、どこで、どの程度」起きたかを事実ベースで記述する。
- 「品質が悪い」(曖昧)
- 「3月5日に出荷した製品ロットAの不良率が通常の3倍(6%)だった」(具体的)
感情や推測を排除して、客観的な事実だけを書く。
問題に直接つながっている原因を特定する。
方法:
- 時系列分析: 問題発生前後に何が起きたかを時間順に並べる
- 変化点分析: 「以前はうまくいっていたのに、何が変わったか?」
- 5W1H: 誰が、何を、いつ、どこで、なぜ、どのように
例:不良率上昇の直接原因 → 「組立工程で部品Bの取り付け角度がズレていた」
直接原因に対して**「なぜそうなったか?」を5回繰り返す**。
- なぜ角度がズレた? → 新しい作業員が担当していた
- なぜ新人が担当? → ベテランが異動した
- なぜ引き継ぎが不十分? → 引き継ぎマニュアルがなかった
- なぜマニュアルがない? → 暗黙知に頼っていた
- なぜ暗黙知のまま? → マニュアル化の仕組みがなかった(根本原因)
根本原因は「個人のミス」ではなく「仕組みの欠陥」であることが多い。
根本原因に対して恒久的な対策を設計する。
- 暫定対策(今すぐ): ベテランに一時的に戻ってもらう
- 恒久対策(根本解決): 全工程のマニュアル整備 + 新人配属時の引き継ぎチェックリスト作成
- 水平展開: 他の工程でも同様の暗黙知依存がないか確認
対策の効果を測定する指標も設定する(例:不良率を2%以下に戻す)。
具体例#
問題定義: 4月のクレーム件数が前月比200%(30件→90件)。顧客満足度スコアも4.2→3.1に急落。
時系列分析:
- 3月末:カスタマーサポートのシステムを新ツールに移行
- 4月1日:新ツール運用開始
- 4月第1週:対応漏れが12件発生
- 4月第2週:クレームが急増、解約申し出が5件
5つのなぜ:
- なぜ対応漏れが発生? → 新ツールの通知設定が旧ツールと異なり気づかなかった
- なぜ通知設定を確認しなかった? → 移行テスト期間を設けなかった
- なぜテスト期間がなかった? → 「ツールを変えるだけだから大丈夫」と判断した
- なぜその判断? → ツール移行のリスク評価プロセスがなかった
- なぜプロセスがない? → システム変更時のチェックリスト・テスト手順が未整備
対策:
- 暫定: 旧ツールを並行稼働させ、漏れがないか確認
- 恒久: システム変更時のテスト手順書を作成、移行前に最低1週間のテスト運用を義務化
- 水平展開: マーケ、営業のツールも同様のリスク評価プロセスを適用
結果: 恒久対策の導入後、5月のクレーム件数は90件→25件に減少(移行前より改善)。その後6ヶ月間、システム変更起因のクレームはゼロ。「テスト手順書」は全社の標準プロセスになった。
問題定義: 従業員120名の電子部品工場で、Q3の不良率が1.8%→4.7%に急上昇。年間損失額は推定3,200万円。
変化点分析:
| 時期 | 不良率 | 変化 |
|---|---|---|
| Q1 | 1.6% | - |
| Q2 | 1.8% | 新ライン稼働開始 |
| Q3 | 4.7% | 急上昇 |
5つのなぜ(Q2→Q3の変化に注目):
- なぜ不良が増えた? → はんだ付け工程の温度ばらつきが±3℃→±8℃に拡大
- なぜ温度がばらついた? → 新ラインのはんだ装置が旧型と異なるメーカー品
- なぜ温度校正を行わなかった? → 新装置の校正手順書がなかった
- なぜ手順書がなかった? → 旧装置の手順書をそのまま適用し、機種差を確認しなかった
- なぜ機種差を確認しなかった? → 新設備導入時の立ち上げ検証プロセスが存在しなかった
対策:
- 暫定: 新ラインの温度校正を手動で毎日実施(不良率を2.0%に暫定的に低下)
- 恒久: 新設備導入チェックリストを作成(校正方法・許容公差の確認を必須化)。装置メーカーとの合同立ち上げ研修を義務化
- 水平展開: 既存5ラインの装置校正手順を全て見直し → 2ラインで同様の未校正を発見し修正
結果: Q4の不良率は4.7%→1.4%に改善。水平展開で発見した2ラインの修正も含め、年間で推定4,800万円のコスト削減。「設備導入チェックリスト」はISO品質マニュアルに組み込まれた。
問題定義: 月間PV5万の個人ブログが、3ヶ月で2.4万PVに半減。広告収入が月4万円→1.8万円に減少。
時系列分析:
- 1月: PV 5.0万(通常通り)
- 2月: PV 3.8万(Google検索からの流入が30%減)
- 3月: PV 2.4万(さらに減少、SNSからの流入も減)
5つのなぜ:
- なぜ検索流入が減った? → 主力記事10本の検索順位が1〜3位→8〜15位に下落
- なぜ順位が下落? → Googleのコアアップデートで競合の大手メディアが上位に
- なぜ大手に負けた? → 記事の情報量と専門性で大手に劣るようになった
- なぜ更新しなかった? → 新規記事の執筆に追われ、既存記事のリライトをしていなかった
- なぜリライトの仕組みがない? → コンテンツのメンテナンス計画(定期的なリライトスケジュール)が存在しなかった
対策:
- 暫定: 検索順位が下落した上位10記事を優先的にリライト(2週間で完了)
- 恒久: 月次でSearch Consoleをチェックし、順位下落した記事をリライト対象にする仕組みを導入。新規:リライト比率を8:2→5:5に変更
- 水平展開: アフィリエイト記事、まとめ記事など全カテゴリで情報鮮度をチェック
結果: リライト開始から3ヶ月後にPVが2.4万→4.8万に回復。リライトした10記事のうち7記事が3位以内に復帰。「新規記事を書き続けるだけでは、ブログは維持できない。定期メンテナンスの仕組みが必要だった」という学びを得た。
やりがちな失敗パターン#
- 「人のせい」で止まる — 「担当者がミスした」は根本原因ではない。「なぜミスが起きる仕組みになっていたか」まで掘り下げる。根本原因は常に仕組み・プロセスのレベルにある
- 「なぜ」の深さが足りない — 1〜2回の「なぜ」で止まると、対症療法的な対策しか出ない。最低5回は繰り返す。ただし機械的に5回やればいいわけではなく、「仕組みレベル」に到達したら止める
- 対策が「気をつける」「注意する」になる — 精神論は対策ではない。チェックリスト、自動化、プロセス変更など、仕組みとして再発を防止する対策を立てる
- 水平展開を忘れる — 1つの問題で見つかった根本原因は、他のプロセスにも潜んでいる可能性が高い。「同じ構造の問題が他にないか?」を必ず確認する。ある工場では1件のRCAから水平展開で12件の潜在リスクを発見した
まとめ#
根本原因分析は、表面的な症状ではなく問題の真の原因を突き止め、再発を防止する手法。「なぜ?」を繰り返して個人のミスから仕組みの欠陥にたどり着き、精神論ではなく構造的な対策を打つ。同じ問題が繰り返されるのは、根本原因に手を打っていないサインだと考えよう。対策を立てたら水平展開で他のプロセスにも適用することが、組織全体の改善につながる。