ひとことで言うと#
多くの問題が解けないのは、解き方が間違っているからではなく問いの立て方が間違っているから。問題の再定義法は、同じ問題を複数の異なる言い方で表現し直すことで、見えていなかった切り口や解決策を発見する技法。「売上が落ちている」を「新規顧客が減っている」「既存顧客の単価が下がっている」「特定チャネルの集客力が落ちている」と言い換えるだけで、取るべきアクションがまったく変わる。
押さえておきたい用語#
- 問題の再定義(Problem Restatement)
- 元の問題を別の表現・別の視点・別の抽象度で言い換えること。同じ状況を複数の問いとして表現することで、解決策の幅が広がる。
- フレーミング(Framing)
- 問題の切り取り方・枠組み。同じ事実でも、どのフレームで見るかによって解釈と打ち手が変わる。再定義はフレームを意図的に付け替える行為。
- 抽象度の上げ下げ(Abstraction Ladder)
- 問題をより抽象的に(「なぜそれが問題なのか?」)、またはより具体的に(「具体的には何が起きているのか?」)表現し直すこと。
- 「How Might We」構文
- 問題を**「どうすれば〜できるか?」**の形に変換する手法。デザイン思考で多用され、問題を解決可能なチャレンジとして再定義する効果がある。
問題の再定義法の全体像#
こんな悩みに効く#
- 会議で「売上を上げるには?」という問いを繰り返すが、新しいアイデアが出ない
- 問題は明確だが、同じ解決策しか思いつかない
- 「そもそも何が本当の問題なのか」が曖昧なまま議論が進んでいる
基本の使い方#
最初は現在の問題認識をそのまま言語化する。正確でなくてよい。
- 「売上が前年比20%減少している」
- 「チームの離職率が高い」
- 「新サービスの利用者が増えない」
- ここでは編集しない。ありのままの問題認識をメモする
同じ問題を異なる角度から表現し直す。
- 抽象化:「なぜそれが問題なのか?」と問い、一段上の視点で書き直す
- 具体化:「具体的にはどの部分が?」と問い、一段下に降りる
- 視点変更:顧客・競合・パートナー・新入社員の目線で書き直す
- HMW変換:「どうすれば〜できるか?」の形に変換する
- 最低5つ、できれば8〜10の異なる表現を目指す
すべての問いを解く必要はない。1つの問いに集中する。
- 各問いに対して「この問いに答えられたら、どれだけインパクトがあるか」を評価
- 同時に「この問いは解きやすいか(データがある、実験できる)」も評価
- インパクト×解きやすさが最も高い問いを選び、そこから解決策を考える
- 元の問いとは全く違う問いが選ばれることも多い。それが再定義の価値
具体例#
状況: 全国30店舗の定食チェーン。売上が前年比15%減。「売上を上げるにはどうするか」で会議を3回やったが、「メニューを増やす」「広告を出す」しか出ない
問題の再定義:
- 元の問題:「売上が前年比15%減少している」
- 抽象化:「顧客にとっての利用価値が低下している」
- 具体化:「ランチの客数は維持だが、ディナーの客数が30%減少」
- 視点変更(顧客):「仕事帰りに寄る理由がなくなった(テレワークで)」
- HMW:「どうすれば、テレワーク層の夕食ニーズを取り込めるか?」
選択した問い: 「テレワーク層の夕食ニーズ」に着目
解決策: 自宅近くの店舗でテイクアウト弁当を17:00〜19:00に販売。オフィス街の店舗ではなく住宅地の店舗にリソースを集中
結果: テイクアウト売上が3ヶ月で月商の18%を占めるまでに成長。ディナーの来店客数も「テイクアウトのついでに」で8%回復。元の「メニューを増やす」では到達できなかった解決策だった。
状況: BtoB SaaSのチャーン率が月5%。「どうすれば解約を防げるか」という問いでCS(カスタマーサクセス)チームが施策を打っているが改善しない
問題の再定義:
- 元の問題:「月次チャーン率が5%で高い」
- 具体化:「契約3ヶ月目の解約が全体の60%を占めている」
- 視点変更(解約した顧客):「導入したが社内で誰も使わなかった」
- 抽象化:「導入企業の中でプロダクトが組織に定着していない」
- HMW:「どうすれば契約後2ヶ月以内に、社内の5人以上が日常的に使う状態を作れるか?」
選択した問い: 「5人以上が使う状態を2ヶ月以内に作る」
解決策: 契約後のオンボーディングを「管理者1名への説明」から「チーム5名への導入ワークショップ」に変更。初期設定を代行し、実データで動くデモ環境を用意
結果: 3ヶ月目の解約率が60%→22%に激減。月次チャーン率が5%→2.1%に改善。「解約を防ぐ」ではなく「定着を促進する」という問いの変換が突破口だった。
状況: 小学3年生の娘が「算数嫌い」と言い始めた。母親は「どうすれば算数を好きにさせられるか」と考え、ドリルを増やしたが逆効果で泣き出すように
問題の再定義:
- 元の問題:「娘が算数を嫌いになった」
- 具体化:「掛け算の筆算でつまずいている」
- 視点変更(娘):「間違えるのが怖い。みんなの前で恥ずかしい」
- 抽象化:「算数が嫌いなのではなく、間違えることが怖い」
- HMW:「どうすれば、間違えても大丈夫と思える環境を作れるか?」
選択した問い: 「間違えても大丈夫」に着目
解決策: ドリルを廃止し、「間違いノート」を導入(間違えた問題を貼って「ナイストライ」のシールを貼る)。母親自身も「ママもここ間違えそうだな〜」と一緒に考える時間を作った
3週間後: 「間違えたけどシールもらった!」と楽しそうに報告するようになった。掛け算の筆算も「間違いノート」で繰り返すうちに定着。算数のテストが65点→82点に改善したが、それ以上に「算数の時間が嫌じゃなくなった」という変化が大きい。
やりがちな失敗パターン#
- 言い換えが「言葉のバリエーション」で終わる — 「売上が落ちている」を「収益が減少している」に言い換えても再定義ではない。視点・抽象度・主語を変えることが重要
- 最初の問いに固執する — 再定義で出た新しい問いの方が有効でも、「そもそもの問いはこっちだから」と元に戻ってしまう。最も解決インパクトの大きい問いを選ぶ柔軟さが必要
- 再定義を1人でやる — 自分1人では視点が限られる。チームで行うと、異なる立場からの問いが出て効果が倍増する
- 問いの数が少ない — 2〜3個では再定義の効果が薄い。5個を超えたあたりから「思ってもみなかった切り口」が出始める
まとめ#
問題の再定義法は「答えを変える前に、問いを変える」アプローチだ。同じ問題を5つ以上の異なる言い方で表現し直すことで、見えていなかった原因や解決策が浮かび上がる。特に「視点変更」と「HMW変換」は強力で、自社視点の問いを顧客視点に切り替えるだけで、打ち手がまったく変わることがある。行き詰まったときこそ、解き方ではなく「問いそのもの」を疑ってみてほしい。