ひとことで言うと#
状況の把握→原因の分析→意思決定→リスクの評価の4つのプロセスで、複雑な問題を体系的に解決する手法。勘や経験に頼らず、**論理的な手順に沿って「何が起きているか」「なぜ起きたか」「何をすべきか」「何に備えるか」**を整理する。
押さえておきたい用語#
- SA(Situation Appraisal)
- 状況把握のこと。今起きている問題をすべてリストアップし、緊急度・重要度で優先順位をつけるプロセス。
- PA(Problem Analysis)
- 原因分析のこと。「起きていること」と「起きていないこと」の差異から真因を特定するプロセス。KT法の核心。
- DA(Decision Analysis)
- 決定分析のこと。MUST条件とWANT条件で選択肢を評価し、合理的に最適解を選ぶプロセス。
- PPA(Potential Problem Analysis)
- リスク分析のこと。決定した内容に対し、起こりうる問題を事前に洗い出し予防策と発生時対策を準備するプロセス。
- IS / IS NOT
- PA(原因分析)で使う**「起きている / 起きていない」の比較表**のこと。この差異にこそ原因が隠れているというのがKT法の考え方。
ケプナー・トリゴー法の全体像#
こんな悩みに効く#
- トラブルが起きたときに場当たり的な対応しかできない
- 重要な意思決定で「なんとなく」で選んでしまい、後悔することがある
- 問題の原因がわからず、対症療法を繰り返している
基本の使い方#
まず今起きていることを整理し、優先順位をつける。
- 現在抱えている問題や課題をすべてリストアップする
- それぞれの緊急度・重要度・拡大傾向を評価する
- 最も優先度の高い問題を選び、次のステップに進む
問いかけ:
- 何が起きている?(事実の整理)
- どれが一番緊急か?(優先順位)
- 次にやるべきは原因分析?意思決定?リスク評価?(プロセスの選択)
ポイント: 複数の問題が絡み合っているときに、まず「今取り組むべき1つ」を選ぶのがこのステップの目的。
問題の真の原因を特定するために、「起きていること」と「起きていないこと」を比較する。
4つの問いで問題を特定:
- What: 何に問題が起きている?何には起きていない?
- Where: どこで起きている?どこでは起きていない?
- When: いつから起きている?いつは起きていない?
- Extent: どの程度起きている?
次に、「起きている」と「起きていない」の違い(差異)を分析する。 その差異から考えうる原因を仮説として立て、検証する。
ポイント: 「起きていない」場所・時間との比較が核心。差異にこそ原因が隠れている。
最適な選択肢を合理的に選ぶプロセス。
- 決定目的を明確にする: 何を達成したいか?
- MUST条件とWANT条件を分ける:
- MUST: 絶対に満たすべき条件(これを満たさない選択肢は即却下)
- WANT: できれば満たしたい条件(重み付けして評価)
- 各選択肢をWANT条件で点数評価する
- 最高得点の選択肢のリスクを評価する
ポイント: 感情や政治で決めるのではなく、条件と点数で可視化する。意思決定の根拠が明確になり、後から説明しやすい。
決定した内容について起こりうる問題を事前に洗い出し、対策を打つ。
- 実行時に起こりうるトラブルをリストアップ
- 各リスクの発生確率と影響度を評価
- 予防策(起きないようにする)と発生時対策(起きた場合の対応)を決める
- トリガーポイント(「この兆候が出たら対策を発動する」基準)を設定
ポイント: プレモーテムと似た発想。楽観バイアスを排除して「うまくいかないケース」を考える。
具体例#
状況: 自動車部品メーカー(従業員250名)。A製品の不良率が先月から0.3%→1.8%に急増。顧客から品質改善要求。
SA(状況把握): 緊急度=高(顧客ペナルティ月500万円)、重要度=高、拡大傾向=あり。最優先で対応。
PA(原因分析):
| 問い | IS(起きている) | IS NOT(起きていない) | 差異 |
|---|---|---|---|
| What | A製品に寸法不良 | B製品は正常 | A製品専用の金型を使用 |
| Where | 第2ラインのみ | 第1ラインは正常 | 第2ラインの設備が異なる |
| When | 先月15日以降 | 14日以前は正常 | 15日に金型を交換 |
| Extent | ロット内の15〜20%が不良 | 残り80%は正常 | ロット前半に集中 |
差異の分析: 先月15日に第2ラインのA製品金型を交換。金型の据付精度にバラつきがあり、稼働初期に位置ずれが発生 → 金型の据付手順に問題があると特定。
DA(決定分析):
| 対策 | MUST:今月中に対応 | WANT:コスト(重み3) | WANT:再発防止(重み5) | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 金型再据付 | ○ | 8×3=24 | 4×5=20 | 44 |
| 据付手順書の改訂+治具導入 | ○ | 6×3=18 | 9×5=45 | 63 |
| 新金型の発注 | ×(3ヶ月) | - | - | 却下 |
PPA(リスク分析): 手順改訂中も生産は続く → 予防策として改訂完了まで第1ラインに切り替え。
結果: 据付治具の導入により不良率が1.8%→0.2%に改善。顧客ペナルティを回避し、年間約6,000万円の損失を防止した。
状況: 従業員80名のBtoB SaaS企業。営業チーム15名のCRMが限界に達し、新ツールの導入を検討。予算は年間300万円。
SA: 現CRMの契約更新が3ヶ月後。緊急度=中だが今判断しないと移行が間に合わない。
DA(決定分析):
MUST条件(満たさなければ即却下):
- 年間ライセンス300万円以内
- Slack連携あり
- 日本語サポートあり
WANT条件と評価:
| WANT条件 | 重み | ツールA | ツールB | ツールC |
|---|---|---|---|---|
| API連携の柔軟性 | 5 | 9×5=45 | 7×5=35 | 5×5=25 |
| モバイル対応 | 3 | 7×3=21 | 9×3=27 | 8×3=24 |
| カスタマイズ性 | 4 | 8×4=32 | 6×4=24 | 9×4=36 |
| 導入の容易さ | 4 | 6×4=24 | 8×4=32 | 4×4=16 |
| 合計 | 122 | 118 | 101 |
PPA(リスク分析): ツールA選択時のリスク:
- データ移行の失敗 → 予防策:テスト環境で事前検証。発生時対策:旧CRMを1ヶ月間並行稼働
- 営業チームが使いこなせない → 予防策:導入研修2回実施。トリガー:2週間後の利用率が50%未満なら追加研修
結果: ツールAを選定。データ移行のテスト検証で2件の不具合を事前発見し修正。本番移行はノートラブルで完了。3ヶ月後に営業チームの商談管理効率が35%向上し、月間受注件数が12件→16件に増加した。
状況: 病床数200の地方総合病院。電子カルテが午前中に3回フリーズし、外来診療に30分×3回の遅延が発生。患者・スタッフから苦情。
SA: 緊急度=最高(診療に直接影響)、拡大傾向=あり(頻度が増加中)。
PA(原因分析):
| 問い | IS | IS NOT | 差異 |
|---|---|---|---|
| What | 電子カルテアプリがフリーズ | 他のシステム(会計・予約)は正常 | カルテアプリ固有の問題 |
| Where | 外来診療の端末(32台) | 病棟の端末(18台)は正常 | 外来のみ。ネットワークセグメントが異なる |
| When | 今週月曜から。特に9:00〜11:00 | 午後は発生していない | 午前の外来ピーク時間帯 |
| Extent | 1回あたり5〜10分のフリーズ | 週末は発生していない | 外来患者数が多い平日午前のみ |
差異: 月曜に何が変わった?→ 先週金曜にカルテシステムのアップデートを実施。外来セグメントのDBサーバーのメモリ割当が変更されていた。
真因: アップデートでDBのメモリ割当が8GB→4GBに縮小。外来ピーク時(同時接続30台超)にメモリ不足でフリーズ。
DA: メモリ割当を8GBに戻す(即時対応)+ 次回アップデート手順にリソース変更チェックを追加(再発防止)
結果: メモリ割当の修正で即日復旧。再発防止策として、アップデート後のリソース確認チェックリストを導入。以降6ヶ月間同様の障害はゼロとなった。
やりがちな失敗パターン#
- 原因分析を飛ばして対策に走る — 「たぶんこれが原因だろう」で対策を打つと、的外れな対応になる。「起きている/起きていない」の比較を省略しない
- MUST条件とWANT条件を混同する — すべてを「絶対条件」にすると選択肢がなくなり、すべてを「希望条件」にすると判断基準が曖昧になる。本当に譲れない条件だけをMUSTにする
- 全プロセスを毎回やろうとする — 4ステップすべてを使う必要はない。原因が明らかなら原因分析は飛ばしてよい。状況に応じて必要なプロセスだけ使う
- IS NOTの情報を集めない — 「何が起きているか」だけでは原因は絞れない。「どこでは起きていないか」「いつは正常だったか」という比較情報こそがKT法の威力を発揮する鍵
まとめ#
ケプナー・トリゴー法は、問題解決と意思決定を「感覚」から「論理」に変える4ステップの手法。特に原因分析での「起きている/起きていないの比較」は強力で、複雑な問題の真因に迫る。すべてのステップを毎回使う必要はないが、重要な問題に直面したときにこの枠組みがあるだけで、冷静かつ体系的に対処できる。