氷山モデル

英語名 Iceberg Model
読み方 アイスバーグ モデル
難易度
所要時間 30〜60分
提唱者 ドネラ・メドウズ、ピーター・センゲ(システム思考の研究者)
目次

ひとことで言うと
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目に見える「事象」は氷山の一角にすぎない。その下に隠れているパターン、構造、メンタルモデルの4層を掘り下げることで、問題の根本に到達するシステム思考のフレームワーク。表面的な対処ではなく、構造を変える打ち手を見つけるために使う。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
事象(Events)
目に見える具体的な出来事のこと。「今月の売上が下がった」「退職者が出た」など。多くの人はこの層だけを見て対処する。
パターン(Patterns)
事象を時間軸で並べたときに見える傾向・トレンドを指す。「毎年3月に退職者が増える」「四半期ごとに売上が落ちる」など。
構造(Structure)
パターンを生み出している仕組み・制度・関係性である。評価制度、情報の流れ、インセンティブ設計などがここに含まれる。
メンタルモデル(Mental Models)
構造の背後にある価値観・信念・前提。「成果主義が正しい」「残業する人が頑張っている」といった暗黙の思い込み。最も深い層であり、ここを変えないと構造も変わらない。

氷山モデルの全体像
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氷山モデル:見える事象の下に3つの層が隠れている
水面事象(Events)何が起きた?例: 「エースが退職した」パターン(Patterns)どんなトレンドがある?例: 「入社3年目の優秀層が毎年3月に辞める」構造(Structure)何がこのパターンを生んでいる?例: 「3年目までキャリアパスが不明確。昇進基準が非公開」メンタルモデル(Mental Models)どんな信念・前提がこの構造を維持している?例: 「若手にキャリアの話をすると辞めたくなる」という経営陣の思い込み対症療法引き留め面談予測来年も3月に起きる仕組みの変更キャリアパスの公開価値観の転換対話が人を育てる
氷山モデルの進め方フロー
1
事象を記録
何が起きているかを具体的に
2
パターンを探す
時間軸でトレンドを見る
3
構造を分析
パターンを生む仕組みを特定
メンタルモデルを問い直す
前提を変えて構造を変える

こんな悩みに効く
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  • 同じ問題が何度も起きて、対策を打っているのに改善しない
  • 組織の「文化」や「風土」が問題だと感じるが、どう変えていいかわからない
  • 施策を打つたびに別の場所で副作用が出る

基本の使い方
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ステップ1: 事象を具体的に記録する

まず「何が起きているか」を事実として書き出す。

  • 数字で記録する: 「退職者が増えた」→「過去6か月で8名退職。前年同期は2名」
  • 感情を排除して観察する: 「雰囲気が悪い」→「会議で発言する人が3名に固定。残り7名は沈黙」
ステップ2: パターン(トレンド)を探す

事象を時間軸で並べて、繰り返しや傾向を見つける。

  • 「毎年3月に退職者が出る」「新任マネージャーが来るたびにチームの生産性が下がる」
  • データを3年分以上見ると、パターンが浮かびやすい
  • パターンが見えると、将来の予測ができるようになる
ステップ3: 構造(仕組み)を特定する

パターンを生み出している制度、仕組み、関係性を探る。

  • 「なぜこのパターンが繰り返されるのか?」を問いかける
  • 制度(評価制度、報酬体系)、情報の流れ(誰が何を知っているか)、権力構造などに注目
  • 構造を変えると、パターンが変わる
ステップ4: メンタルモデル(前提)を問い直す

構造の背後にある「思い込み」を特定し、それが本当に正しいか検証する。

  • 「なぜこの制度をこう設計したのか?」の前提を探る
  • メンタルモデルの転換は最も困難だが、最も効果が大きい
  • 対話を通じて共有された信念を可視化し、意図的に書き換える

具体例
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例1:IT企業で毎年起きるプロジェクト炎上を構造から分析する

事象: 今年もQ3の大型プロジェクトが2か月遅延。残業が月平均80時間に達し、メンバー2名が体調不良で離脱。

パターン: 過去5年のデータを確認すると、10件中7件のプロジェクトがQ3に遅延している。遅延するのは常に「大型案件」で、小型案件は問題なし。

構造:

  • 営業部が受注数をKPIとしており、Q1〜Q2に大量受注 → Q3に開発リソースが逼迫
  • プロジェクト間のリソース配分を調整する仕組みがない
  • 「遅延しそう」という報告が出にくい(報告すると「能力不足」と評価される)

メンタルモデル: 「受注は多ければ多いほどいい」「遅延は現場の努力不足」という経営陣の信念。

介入: 受注のKPIを「受注数」から「利益率×納期遵守率」に変更。リソース管理委員会を設置し、月次でプロジェクト間の負荷を調整。遅延リスクの早期報告を「貢献」として評価する制度に変更。翌年、Q3の遅延率は70% → **20%**に改善した。

例2:小売チェーンの万引き率が一部店舗だけ高い理由を掘り下げる

事象: 全20店舗のうち3店舗だけ万引き率が2.8%と高い(全体平均0.9%)。年間損失額は3店舗合計で約1,400万円。

パターン: 3店舗の万引き率は過去3年間ずっと高い。店長が交代しても改善しない。セキュリティカメラを増設した後も変わらない。

構造:

  • 3店舗はいずれもパート比率が85%以上(全体平均60%)
  • パートの在籍期間が平均4か月と短く、顔馴染みの客がいない
  • 声かけマニュアルはあるが、短期スタッフに研修が行き届いていない
  • 店長が「万引き対策はセキュリティの仕事」と考えており、スタッフへの教育を重視していない

メンタルモデル: 「万引きは防犯設備で防ぐもの」という思い込み。実際は「店員の目が行き届いている」と感じさせることが最大の抑止力。

パート全員に入社初日の30分研修(声かけの練習)を義務化し、在籍3か月以上のパートに時給+50円の定着手当を導入。6か月後、3店舗の万引き率は2.8% → **1.1%**に低下。年間損失額は約900万円の削減になった。

例3:NPO法人でボランティアのリピート率が低い原因を探る

事象: 子ども食堂を運営するNPO法人。新規ボランティアは月平均12名参加するが、2回目以降の参加は平均3名(リピート率25%)。

パターン: 開設3年間ずっとリピート率が20〜30%で推移。季節による変動はなし。「楽しかった」という感想が9割なのにリピートしない。

構造:

  • 初回参加後のフォローアップが皆無(「また来てください」のメールだけ)
  • 次回の参加方法がわかりにくい(毎回異なるGoogleフォームを探す必要がある)
  • ボランティア同士の横のつながりがない(来て、作業して、帰るだけ)
  • 「役に立てた実感」がない(調理補助だけで、子どもと接する機会がない)

メンタルモデル: 「ボランティアは善意で来るもの。わざわざ繋ぎ止める必要はない」という運営側の信念。

LINEグループを作成し、次回日程を自動リマインド。初回参加者には翌日に「あなたが準備してくれた食事で48名の子どもが食べました」とお礼メッセージを送付。3回目以降の参加者には子どもとの交流タイムを設けた。半年後、リピート率は25% → **58%**に改善。運営の安定性が大幅に向上した。

やりがちな失敗パターン
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  1. 事象の層だけで対策を打つ — 「退職者が出た→引き留め面談」は対症療法。パターンと構造まで掘り下げないと、来年も同じことが起きる
  2. パターン探しをデータなしでやる — 「なんとなくこういう傾向がある」は思い込みかもしれない。最低3年分のデータでパターンを検証する
  3. 構造を変えずにメンタルモデルだけ変えようとする — 「意識改革」だけでは変わらない。構造(制度・仕組み)を変えてから、それを支えるメンタルモデルを浸透させる
  4. メンタルモデルの層に踏み込むのを避ける — 組織の信念や価値観に触れるのは政治的にリスクがある。しかしここを避けると、構造を変えてもまた元に戻る。経営層を巻き込んだ対話が必要

まとめ
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氷山モデルは、目に見える事象の下にある3つの層(パターン、構造、メンタルモデル)を掘り下げて、問題の根本に到達するフレームワーク。深い層ほど変えるのが困難だが、効果も大きい。「同じ問題が繰り返される」と感じたら、それは事象の層だけで対処している証拠。水面下の構造とメンタルモデルに目を向けることで、問題の再発を根本から断てる。