ひとことで言うと#
課題を「How Might We(私たちはどうすれば〜できるだろうか?)」という問いの形に変換し、チームの発想を前向きに引き出すフレームワーク。P&Gで生まれ、IDEOやGoogleのデザインスプリントで定番手法となった。
押さえておきたい用語#
- HMW(エイチエムダブリュー)
- How Might We の略称。課題を解決可能な問いへ変換するフォーマットを指す。
- How
- 「どうすれば」を意味する。具体的な方法を問うことで、解決策の方向性を自然に探り始める効果がある。
- Might
- 「〜できるかもしれない」という可能性のニュアンスを持つ助動詞。正解を求めるのではなく、探索的な姿勢を促す。
- We
- 「私たちは」を指す。個人の責任追及ではなく、チーム全体の課題として捉える意図が込められている。
- デザインスプリント(Design Sprint)
- Googleが体系化した5日間の集中プロトタイピング手法。HMWはその序盤で課題を問いに変換する場面で使われる。
How Might Weの全体像#
こんな悩みに効く#
- 課題は見つかるのに、解決策の議論がいつもネガティブになる
- ブレストを始めても「それは無理」「予算がない」で止まってしまう
- チームで取り組むべき方向性が定まらず、議論が空回りする
基本の使い方#
ユーザーインタビュー、現場観察、データ分析などから見えた課題を付箋に書き出す。この段階では解決策を考えず、「何が起きているか」「何に困っているか」だけを集める。
- 1枚の付箋に1つの課題
- 事実ベースで書く(「売上が落ちた」ではなく「リピート率が前年比12%低下している」)
- 最低10個は出す
集めた課題を「How might we 〜?(どうすれば私たちは〜できるだろうか?)」に書き換える。このとき、広すぎず狭すぎない「ちょうどいい粒度」を意識する。
- 広すぎる例: 「どうすれば売上を上げられるか?」 → 抽象的すぎてアイデアが出ない
- 狭すぎる例: 「どうすればLPのCTAボタンを緑にできるか?」 → すでに答えが決まっている
- ちょうどいい例: 「どうすれば初回訪問者がもう一度来たくなる体験を作れるか?」
全員が書いたHMWを壁に貼り出し、ドット投票(1人3票程度)で取り組む問いを決める。投票の基準は「この問いに答えが見つかれば、最もインパクトがあるか?」。
- 似た問いはグルーピングしてからまとめて投票する
- 上位2〜3問を選ぶのがちょうどいい
- 選ばなかった問いも捨てずに残しておく
選んだHMWを起点にブレインストーミングやCrazy Eightsでアイデアを出す。HMWの形が「どうすれば〜?」なので、自然と前向きな発想が出やすくなる。
- 1つのHMWに対して最低8個のアイデアを目指す
- 質より量。批判は後回し
- 出たアイデアは次のプロトタイピングや検証フェーズに引き継ぐ
具体例#
駅前のパン屋(従業員4名、月商180万円)。朝と昼はにぎわうが、14時以降は客足が激減し、閉店時に毎日パン15個ほどが廃棄ロスになっていた。
オーナーがスタッフ全員と30分のワークを実施。まず課題を出す。
- 14時以降の来客が1日平均8人(午前は65人)
- 夕方に「焼きたてのパンがない」というクチコミがGoogleに3件
- 近隣の会社員が15時に「おやつ需要」を感じている(聞き取り調査)
HMWに変換した結果、「どうすれば午後にわざわざ来たくなる理由を作れるか?」 を最重要の問いに選んだ。
ここからアイデアを8個出し、「15時焼き上がりの午後限定メニュー」と「焼き上がり時刻をInstagramストーリーで通知」を実行。3か月後、14時以降の来客は 8人 → 27人 に増え、廃棄ロスは1日3個以下に減った。
プロジェクト管理ツールを提供するBtoB SaaS(ARR 4.2億円、従業員45名)。無料トライアルからの有料転換率が 11% と業界平均の18%を大きく下回っていた。
プロダクトチーム6名でHMWセッションを実施。データとユーザーインタビューから課題を抽出した。
| 課題 | HMWへの変換 |
|---|---|
| 初期設定で72%が離脱する | どうすれば初期設定なしで価値を体感させられるか? |
| 「何から始めればいいかわからない」が最多の声 | どうすれば最初の5分で成功体験を届けられるか? |
| チームメンバーの招待率が23%と低い | どうすれば1人で使っても便利だと感じてもらえるか? |
投票の結果、2番目の問い 「最初の5分で成功体験」 にフォーカス。サンプルプロジェクトの自動生成とガイド付きウォークスルーを実装した結果、トライアル→有料転換率は 11% → 19% に改善。HMWの問いが「設定画面のUI改善」ではなく「体験設計」に議論を向けたことが転換点だった。
創業50年の温泉旅館(客室12室、年間稼働率48%)。宿泊客の平均年齢は62歳。30代以下の比率はわずか 7% で、10年後の経営が見通せない状態だった。
3代目の若女将が、大学時代の友人5人に声をかけてオンラインHMWワークショップを開催。「若い人が温泉旅館に行かない理由」を事前アンケート(回答数83件)で集めたうえで、問いに変換した。
- 課題: 予約が電話のみ → HMW「どうすれば予約のハードルを3タップ以内にできるか?」
- 課題: 食事が18時固定 → HMW「どうすれば自分のペースで過ごせる自由さを提供できるか?」
- 課題: 何をすればいいかわからない → HMW「どうすればチェックイン直後にワクワクを感じてもらえるか?」
3つ目の問いを最優先に選び、「到着後すぐに楽しめる90分の体験プラン(貸切露天風呂+地酒3種飲み比べ+館内マップ付きスタンプラリー)」を企画。InstagramとじゃらんのOTA連携で露出を増やしたところ、半年で30代以下の宿泊比率は 7% → 22% に。問いの力でチーム全体が「若者向けに値下げする」という安易な方向から離れ、体験価値にフォーカスできた。
やりがちな失敗パターン#
- 問いが広すぎる — 「どうすれば世界を良くできるか?」レベルの問いでは抽象的すぎてアイデアが出ない。「誰の・どんな場面の・何を」を含む粒度にする
- 答えを問いに埋め込む — 「どうすればアプリを作れるか?」は手段が決まっていて問いになっていない。手段を外して「どうすれば通勤中に学習を続けられるか?」にする
- 1つの問いに固執する — 最初に出した問いが最適とは限らない。最低5個は書いてから選ぶことで、視野の狭さを避けられる
- 変換だけして満足する — HMWは問いを作って終わりではなく、その先のブレストや検証につなげて初めて価値が出る。問いの後にアイデア発散の時間を必ずセットで確保する
まとめ#
How Might Weは、課題を 「どうすれば〜できるだろうか?」 という問いに変換するだけのシンプルな手法。たった3語の構造が、チームの意識を問題追及から解決探索へ切り替える。問いの粒度さえ間違えなければ、ブレストやワークショップの質が格段に上がる。課題にぶつかったら、まず付箋とペンを持って「HMW…」と書き始めてみてほしい。