ひとことで言うと#
意思決定のポイントを**樹形図(ツリー)**で描き、各選択肢の先にある結果やリスクを可視化する手法。「なんとなく」の判断を「見える化された根拠」に変えてくれる。
押さえておきたい用語#
- 決定ノード(Decision Node)
- 図中で□で表される自分で選択できる分岐点のこと。「参入する/しない」「内製/外注」のように、意思決定者がコントロールできる選択肢を示す。
- 確率ノード(Chance Node)
- 図中で○で表される自分ではコントロールできない不確実な事象のこと。「市場が拡大する(60%)/縮小する(40%)」のように確率で表現する。
- 期待値(Expected Value)
- 各結果の金額に確率を掛けて合計した加重平均の値のこと。複数の選択肢を同じ基準で比較するために使う。
- リーフ(Leaf / End Node)
- ツリーの末端にある最終的な結果のこと。売上見込み・利益・損失額などの具体的な数値を記入する。
デシジョンツリーの全体像#
こんな悩みに効く#
- AとBのどちらを選ぶべきか、頭の中だけでは比較しきれない
- リスクがあるのはわかっているが、どのくらいのリスクか定量的に把握したい
- 複数の選択肢があり、それぞれの結果が連鎖的に変わるので複雑すぎる
基本の使い方#
まず、今判断しなければいけないことを左端に四角(□)で描く。
例:
- □「新規事業に参入するか?」
- □「内製するか外注するか?」
ここが「出発点」になる。
四角(□)から出る枝は自分で選べる選択肢。丸(○)から出る枝は自分ではコントロールできない不確実な事象。
例:
- □ 新規事業に参入する → ○ 市場が拡大する(確率60%)/ 市場が縮小する(確率40%)
- □ 参入しない → 現状維持
各枝の先にさらに判断や不確実性がある場合は、同じルールで枝を伸ばしていく。
ツリーの末端(リーフ)に、期待される成果やコストを数値で記入する。
- 売上見込み、利益、コスト、損失額など
- 不確実性の枝には確率をつける
- 確率は正確でなくてOK。「だいたい6割くらい」のレベルで十分
数値化することで「なんとなく良さそう」を「具体的にどのくらい良いか」に変換できる。
ツリーの右端から左に向かって、期待値を計算していく。
期待値 = 結果の数値 × 確率
例:
- 参入して市場拡大(60%)→ 利益3,000万円 → 期待値 = 1,800万円
- 参入して市場縮小(40%)→ 損失500万円 → 期待値 = -200万円
- 参入の総期待値 = 1,800万 - 200万 = 1,600万円
- 参入しない → 0円
→ 期待値1,600万円なので、参入する方が合理的と判断できる。
具体例#
状況: 従業員60名のBtoB SaaS企業。業務管理システムの刷新が必要。自社開発とSaaS導入の2案がある。
□ 判断:業務システムをどうするか?
枝A:自社開発する(初期コスト2,000万円)
- ○ 開発が予定通り完了(確率70%)→ 年間コスト削減800万円/年
- ○ 開発が遅延・追加費用(確率30%)→ 追加コスト1,000万円、年間削減400万円/年
枝B:SaaSを導入する(初期コスト200万円)
- ○ 業務にフィットする(確率80%)→ 年間コスト削減500万円/年
- ○ カスタマイズが必要(確率20%)→ 追加費用500万円、年間削減300万円/年
3年間の期待値比較:
| シナリオ | 初期コスト | 3年間の削減 | 純利益 | 確率 | 期待値 |
|---|---|---|---|---|---|
| 自社開発・成功 | -2,000万 | +2,400万 | +400万 | 70% | +280万 |
| 自社開発・遅延 | -3,000万 | +1,200万 | -1,800万 | 30% | -540万 |
| SaaS・フィット | -200万 | +1,500万 | +1,300万 | 80% | +1,040万 |
| SaaS・要カスタマイズ | -700万 | +900万 | +200万 | 20% | +40万 |
- 自社開発の期待値 = 280万 + (-540万) = -260万円
- SaaS導入の期待値 = 1,040万 + 40万 = +1,080万円
SaaS導入の期待値が1,080万円と圧倒的に高い。自社開発は「成功したとき」のリターンは大きいが、遅延リスク込みで考えるとマイナス。リスク調整後の合理的な判断はSaaS導入。
状況: 個人経営のラーメン店。1号店の月商350万円(利益率18%)。駅前に好物件が出たが、2号店の出店には初期投資1,500万円が必要。
□ 判断:2号店を出店するか?
枝A:出店する(初期投資1,500万円)
- ○ 繁盛する(確率50%)→ 月商300万円(利益率15%)= 年間利益540万円
- ○ 普通(確率35%)→ 月商200万円(利益率10%)= 年間利益240万円
- ○ 不振(確率15%)→ 月商100万円(利益率-5%)= 年間損失60万円
枝B:出店しない
- 1号店に集中。現状維持 = 年間利益756万円(変化なし)
3年間の期待値(初期投資込み):
| シナリオ | 確率 | 3年間利益 | 投資回収後 | 期待値 |
|---|---|---|---|---|
| 繁盛 | 50% | +1,620万 | +120万 | +60万 |
| 普通 | 35% | +720万 | -780万 | -273万 |
| 不振 | 15% | -180万 | -1,680万 | -252万 |
- 出店の期待値 = 60万 + (-273万) + (-252万) = -465万円
- 出店しない = 0円
期待値はマイナス465万円。「繁盛する」シナリオでも3年で初期投資を回収しきれない。出店するなら、初期投資を1,000万円以下に抑えるか、繁盛確率を高める施策(事前マーケティング・デリバリー併用など)を検討すべき。
状況: 32歳のWebエンジニア。現職の年収550万円。転職オファー(年収700万円)とフリーランス独立の2つの選択肢がある。
□ 判断:キャリアをどうするか?
枝A:転職する(年収700万円)
- ○ 会社にフィット(確率70%)→ 年収700万円が安定的に続く
- ○ フィットせず1年で再転職(確率30%)→ 1年は700万、その後550万に戻る
枝B:フリーランスになる
- ○ 案件が安定(確率40%)→ 年収900万円
- ○ まあまあ(確率40%)→ 年収600万円
- ○ 案件獲得に苦労(確率20%)→ 年収350万円
3年間の期待値(現職を基準 = 0):
| 選択肢 | シナリオ | 確率 | 3年間収入 | 現職比 | 期待値 |
|---|---|---|---|---|---|
| 転職・フィット | 70% | 2,100万 | +450万 | +315万 | |
| 転職・ミスマッチ | 30% | 1,800万 | +150万 | +45万 | |
| フリー・安定 | 40% | 2,700万 | +1,050万 | +420万 | |
| フリー・まあまあ | 40% | 1,800万 | +150万 | +60万 | |
| フリー・苦労 | 20% | 1,050万 | -600万 | -120万 |
- 転職の期待値 = 315万 + 45万 = +360万円
- フリーランスの期待値 = 420万 + 60万 + (-120万) = +360万円
期待値はほぼ同じ(+360万円)。ただし分散が異なる。転職はローリスク・ミドルリターン、フリーランスはハイリスク・ハイリターン。リスク許容度で選ぶべき。貯蓄が1年分以上あり、案件獲得のネットワークがあるならフリーランス、安定重視なら転職が合理的。
やりがちな失敗パターン#
- 確率や数値の精度にこだわりすぎる — デシジョンツリーの目的は「完璧な予測」ではなく「判断の構造化」。数値は概算でよく、大事なのは選択肢と結果の全体像が見えること
- 選択肢を2つに絞ってしまう — 「やるか、やらないか」だけでなく「段階的にやる」「一部だけやる」「パートナーと組む」など、第3の選択肢を意識的に探す
- 一度描いたら更新しない — 状況が変わったら確率や数値も変わる。デシジョンツリーは「一度描いて終わり」ではなく、新しい情報が入るたびにアップデートする
- 期待値だけで判断する — 期待値が高くても、最悪ケースの損失が許容できないなら選ぶべきではない。期待値に加えて「最悪ケースに耐えられるか」も必ず確認する
まとめ#
デシジョンツリーは、複雑な意思決定を「見える化」して合理的な判断を導くツール。選択肢・確率・結果を一枚の図にすることで、直感に頼らない意思決定ができる。大きな判断を前にしたら、まずは紙に四角を一つ描くところから始めてみよう。