ひとことで言うと#
問題や提案を**C(顧客)A(実行者)T(変換)W(世界観)O(オーナー)E(環境制約)**の6つの視点から分析し、関係者の認識のズレや見落としを防ぐフレームワーク。ピーター・チェックランドのソフトシステム方法論(SSM)から生まれた。
押さえておきたい用語#
- C:Customers(顧客)
- そのシステムや変革によって直接影響を受ける人々。恩恵を受ける人だけでなく、不利益を被る人も含めて把握する。
- A:Actors(実行者)
- 変革やプロセスを実際に遂行する人々。誰がやるのかを明確にすることで、実現可能性を検証できる。
- T:Transformation(変換)
- システムが行うインプットをアウトプットに変える核心的な変換プロセス。「何が」「何に」変わるのかを一文で表す。
- W:Weltanschauung(世界観)
- この変革を意味あるものにしている前提や価値観。ドイツ語で「世界の見方」を意味し、関係者ごとに異なる世界観が対立の根本原因になることが多い。
- O:Owner(オーナー)
- そのシステムを停止または変更する権限を持つ人。意思決定の最終責任者を特定する。
- E:Environmental Constraints(環境制約)
- 法規制、予算、技術的制約、文化など、変革の外部から加わる制約条件。自分たちでは変えられない所与の条件を指す。
CATWOE分析の全体像#
こんな悩みに効く#
- プロジェクトの要件がまとまらず、関係者ごとに言うことが違う
- 提案が通らない原因が分からない(論理的には正しいはずなのに)
- 問題を分析しているが、何かの視点が抜けている気がする
- ステークホルダー間の対立の根本原因を特定したい
基本の使い方#
何について分析するのかを一文で定義する。
- 「新しい人事評価制度の導入」「ECサイトのリニューアル」など具体的に
- 範囲が広すぎると分析が発散するので、プロジェクトや施策の単位に絞る
- 問題と解決策の両方について分析すると、抜け漏れがさらに減る
T(変換)を先に定義してから、残りの5要素を埋めていく。
- T(変換): インプットが何で、アウトプットが何かを一文で書く(例: 「紙の申請書 → デジタル承認フロー」)
- C(顧客): この変換で影響を受ける人をすべてリストアップ。恩恵を受ける人だけでなく、不利益を被る人も
- A(実行者): 実際に手を動かす人は誰か。スキルとリソースは足りているか
- W(世界観): この変換が「良い」とされる理由は何か。どんな前提や価値観に基づいているか
- O(オーナー): このプロジェクトを中止できる権限を持つ人は誰か
- E(環境制約): 法規制、予算上限、技術的制約、組織文化など、変えられない条件
6要素の中で**W(世界観)**が最も重要。関係者ごとに世界観が異なることが対立の根本原因。
- 同じプロジェクトでも、技術者の世界観(「最新技術で最適化すべき」)と経営者の世界観(「コストを抑えるべき」)は違う
- 世界観のズレが見つかったら、どちらが正しいかを議論するのではなく「両方を満たす変換(T)は何か」を探る
- 顧客(C)の世界観も忘れずに把握する。提供者側の世界観だけで設計すると顧客不在になる
CATWOEで見つかった抜け漏れやズレを提案に反映する。
- 影響を受けるのに考慮されていない顧客(C)がいたら、対応策を追加する
- 実行者(A)のスキルが足りないなら、トレーニングや外部支援を計画に入れる
- オーナー(O)の承認基準を事前に把握し、提案に反映する
- 環境制約(E)に抵触する要素があれば、設計を修正する
具体例#
従業員300名のサービス業。紙ベースの経費精算をデジタル化するプロジェクトが立ち上がったが、要件定義が3か月間まとまらなかった。経理部は「自動化」を求め、営業部は「操作が簡単なもの」を求め、情シスは「既存システムとの統合」を重視していた。
CATWOE分析を実施:
| 要素 | 分析結果 |
|---|---|
| C(顧客) | 全従業員(申請者)、経理部(処理者)、派遣スタッフ(見落とし: 社員番号がない) |
| A(実行者) | 情シス3名 + ベンダー1社 |
| T(変換) | 紙の領収書と申請書 → デジタル承認・自動仕訳 |
| W(世界観) | 経理:「正確性と監査対応」、営業:「手間をかけたくない」、情シス:「技術的に美しいシステム」 |
| O(オーナー) | CFO(予算権限)、取締役会(1,000万円超は承認必要) |
| E(環境制約) | 電子帳簿保存法の要件、既存会計ソフト(変更不可)、予算800万円 |
分析で3つの発見があった:
- 派遣スタッフが顧客から漏れていた(月30件の経費申請がある)
- 世界観のズレが未解決だった。経理の「正確性」と営業の「簡単さ」は、承認ステップ数で対立していた
- 電子帳簿保存法の要件(タイムスタンプ、検索性)が設計に反映されていなかった
世界観の対立は「申請は3タップ以内、チェックはシステムが自動で行う」という設計方針で解消。派遣スタッフ用のゲストアカウント機能を追加し、法令要件をチェックリスト化して設計に組み込んだ。要件定義は2週間でまとまった。
SaaS企業の新機能「AIチャットボット」のローンチ提案が、経営会議で2回否決された。プロダクトマネージャーは「技術的には完成しているのになぜ」と困惑していた。
PMがCATWOE分析で提案を見直した:
| 要素 | 当初の提案 | CATWOE分析後 |
|---|---|---|
| C | 既存顧客 | 既存顧客 + 無料プランユーザー(AIコスト増) + カスタマーサポートチーム(問合せ内容が変わる) |
| A | エンジニアチーム5名 | エンジニア5名 + CSチーム(導入支援が必要) |
| T | 手動の問合せ対応 → AI自動対応 | 同左 |
| W | 「AIで効率化すれば顧客満足度が上がる」 | 経営陣の世界観: 「AI運用コストが利益を圧迫するリスク」 |
| O | CEO | CEO + CFO(コスト面の懸念あり) |
| E | 技術的制約なし | AI API利用料(月額推定80万円)、個人情報保護方針 |
否決の原因はW(世界観)のズレだった。PMは「顧客満足度の向上」を語っていたが、経営陣は「コストインパクト」を懸念していた。また、CFOがオーナーとして関与すべきだったのに、提案ではCEOだけを説得対象にしていた。
修正した提案では:
- AI APIコストを従量課金の上限付きプランで提示(月額上限50万円)
- 無料プランユーザーのAI利用を月10回に制限
- CFO向けに6か月のROI予測を追加
3回目の経営会議で全会一致で承認された。
私立大学(学生数4,000名)。コロナ後もハイブリッド授業を継続していたが、学生満足度が対面授業と比べて22ポイント低い状態が続いていた。IT部門は「通信環境の問題」と判断し、回線増強に2,000万円を投資したが、満足度は改善しなかった。
教務部長がCATWOE分析を実施:
| 要素 | 分析結果 |
|---|---|
| C | 学生、保護者(学費に見合う教育か懸念)、教員、就活先企業(スキルの質) |
| A | 教員200名(ITリテラシーに大きなばらつき) |
| T | 対面と同等の学習体験 → オンラインでの知識・スキル習得 |
| W | IT部門:「技術で解決する」、教員:「対面と同じ講義をオンラインで流せばよい」、学生:「双方向のやりとりがほしい」 |
| O | 学長、教務委員会 |
| E | 教員の授業裁量権(大学の自治)、予算制約、著作権法(教材のオンライン配信) |
世界観のズレが明確になった。IT部門は技術、教員は「配信」と捉えていたが、学生が求めていたのは「双方向性」だった。回線増強は技術的には正しかったが、問題の核心とズレていた。
また、実行者(A)の分析で、教員200名のうちオンラインでの双方向授業のスキルを持つのは**約30名(15%)**に過ぎないことが判明。
対策として:
- 双方向授業のスキルを持つ教員30名によるピアトレーニングを実施(各学部2名がトレーナー役)
- 環境制約を踏まえ、教員の自由度を維持しつつ「授業中に最低1回は学生参加型の活動を入れる」というガイドラインを策定
1学期後、オンライン授業の満足度が対面比-22pt → -8ptに改善。特に「質問しやすさ」のスコアが大幅に向上した。
やりがちな失敗パターン#
- T(変換)を曖昧にしたまま他の要素を議論する — 「何を何に変えるか」が明確でないと、関係者ごとに違うものを分析してしまう。Tを一文で定義することから始める
- C(顧客)を「恩恵を受ける人」だけで考える — 不利益を被る人を見落とすと、ローンチ後に反発を受ける。「この変換でマイナスの影響を受ける人は?」と必ず問う
- W(世界観)を分析せずに対立を「意見の違い」で片付ける — 表面的な意見の違いの裏にある世界観を掘り下げないと、妥協案しか出ない。世界観レベルで合意できれば、解決策は自然と収束する
- E(環境制約)を「仕方ない」で終わらせる — 制約は受け入れるものだが、「本当に変えられないか」を一度は問い直す。制約だと思い込んでいたものが、実は交渉可能な場合もある
まとめ#
CATWOE分析は、問題や提案をC(顧客)A(実行者)T(変換)W(世界観)O(オーナー)E(環境制約)の6視点で構造化するフレームワークである。特にW(世界観)の分析が核心で、関係者間の対立や合意形成の難航は、多くの場合「何が正しいか」ではなく「何を大事だと思っているか」の違いに起因する。6つの視点を埋めるだけで、見落としていた顧客、考慮していなかった制約、認識のズレが浮かび上がり、提案の質が一段上がる。