Will/Skillマトリクス

英語名 Will/Skill Matrix
読み方 ウィル スキル マトリクス
難易度
所要時間 30分〜1時間
提唱者 マックス・ランズバーグ
目次

ひとことで言うと
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メンバーを**Will(やる気)Skill(能力)**の2軸で4象限に分類し、それぞれに合った関わり方を選ぶフレームワーク。「全員同じマネジメント」ではなく、相手に合わせた接し方を設計するためのツール。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
Will(意欲)
そのタスクや役割に対するやる気・モチベーションのこと。自発的に動くか、締切を意識しているかなどで判断する。
Skill(能力)
そのタスクや役割に対する知識・技術・経験のこと。過去の成果物の品質や自力での遂行力で判断する。
委任(Delegate)
Will高×Skill高のメンバーに対し、大きな裁量を与えて任せる関わり方。細かい指示は不要で、成果を認めることが重要。
指導(Guide)
Will高×Skill低のメンバーに対し、具体的な手順を教えながら成功体験を積ませる関わり方。やる気を活かすティーチングが中心。
刺激(Excite)
Will低×Skill高のメンバーに対し、モチベーション低下の原因を掘り下げ、新しい挑戦を与える関わり方。

Will/Skillマトリクスの全体像
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2軸で4象限に分類し、それぞれに最適な関わり方を選ぶ
Will(意欲)▲Skill(能力)▶指導(Guide)Will高 × Skill低やる気はあるが経験不足→ 具体的に教え、小さな成功を積ませるペアワーク・毎日のふりかえり委任(Delegate)Will高 × Skill高やる気も能力も高い→ 任せて見守る成果を認め、挑戦的な仕事を週1報告・裁量権の拡大指示(Direct)Will低 × Skill低やる気も能力も不足→ 明確なタスクと期限を設定小さな成果を一緒に喜ぶ毎日の進捗確認・具体的指示刺激(Excite)Will低 × Skill高能力はあるがやる気が低い→ 原因を掘り下げ、新しい役割や裁量を与える1on1での傾聴・役割変更
Will/Skillマトリクス活用の流れ
1
メンバーを観察
WillとSkillの両面を特定タスクごとに評価する
2
4象限にマッピング
委任・指導・刺激・指示の象限に分類する
3
関わり方を選択・実践
象限に合った関わり方で育成・支援する
1〜3ヶ月で再評価
定期的に再マッピングし、成長を可視化して循環する

こんな悩みに効く
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  • 同じ指導をしているのに、伸びるメンバーと伸びないメンバーがいる
  • やる気はあるのにスキルが追いつかない人への接し方がわからない
  • 能力は高いのにモチベーションが低い人をどう扱えばいいか悩んでいる

基本の使い方
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ステップ1: 2軸を理解する

縦軸にWill(意欲・やる気)、横軸に**Skill(スキル・能力)**を取り、4象限を作る。

Skill高Skill低
Will高委任(Delegate)指導(Guide)
Will低刺激(Excite)指示(Direct)

重要なのは、WillもSkillも固定ではないということ。同じ人でもタスクや時期によって変わる。

ステップ2: メンバーを象限にマッピングする

各メンバーについて、特定のタスクや役割に対してどの象限にいるかを判断する。

判断のヒント:

  • Will: 自発的に動くか? 質問や提案が出てくるか? 締切を意識しているか?
  • Skill: 過去の成果物の品質は? 自力でどこまで進められるか? 判断の精度は?

注意: 人全体をラベリングするのではなく、「この人は〇〇というタスクにおいてこの象限」という使い方をする。

ステップ3: 象限ごとに関わり方を変える
  • Will高×Skill高(委任): 任せて見守る。細かい指示は不要。成果を認めてさらに挑戦的な仕事を与える
  • Will高×Skill低(指導): やる気を活かしてティーチング。具体的な手順を教え、小さな成功体験を積ませる
  • Will低×Skill高(刺激): 能力はあるので、なぜやる気が下がっているかを1on1で掘り下げる。新しい役割や裁量を与える
  • Will低×Skill低(指示): 明確なタスクと期限を設定。短いサイクルで進捗確認し、小さな成果を褒める
ステップ4: 定期的に見直す

1〜3ヶ月ごとにマッピングを更新する。

  • 「指導」→「委任」に移行していれば成長している証拠
  • 「委任」→「刺激」に移行していたら、燃え尽き兆候かもしれない
  • 変化がないなら、関わり方自体を見直す

チーム全体のマップを俯瞰すると、育成の偏りリソース配分の問題も見えてくる。

具体例
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例1:SaaS企業カスタマーサクセスチーム(6人)——象限別マネジメントで解約率18%改善

背景: CS部門のマネージャー山田さんが「顧客オンボーディング」タスクに対してチームをマッピング。

メンバーWillSkill象限関わり方
Aさん(4年目)委任エンタープライズ案件を任せ、週1の報告のみ
Bさん(1年目)指導Aさんとペアで担当、毎日15分の振り返り
Cさん(6年目)刺激1on1で原因を聞く→新規プロセス設計リードに抜擢
Dさん(異動3ヶ月)指示1日3タスクの明確な指示、小さな成功を称賛
Eさん(2年目)指導→委任スキル向上に合わせて裁量を段階的に拡大
Fさん(3年目)刺激新しいツール導入プロジェクトのリードを提案

3ヶ月後の変化:

  • Bさん: 指導→委任へ移行(独力でオンボーディング完遂)
  • Cさん: 刺激→委任へ復帰(プロセス設計にやりがい)
  • Dさん: 指示→指導へ移行(チームに馴染み始めた)

成果: チーム全体の顧客解約率が**月4.5%→3.7%**に改善(18%減)。画一的マネジメントをやめただけで、全員のパフォーマンスが上がった。

例2:建設会社の現場監督チーム(8人)——ベテランのWill低下を見逃さなかった

背景: 施工管理の現場リーダー佐藤さんが「安全管理業務」に対してマッピングを実施。

注目したのはベテランのEさん(15年目)。スキルは圧倒的に高い(Will低×Skill高 = 刺激象限)が、最近ヒヤリハット報告を出さなくなっていた。

指標マッピング前3ヶ月後
Eさんのヒヤリハット報告数月0件月4件
Eさんの後輩指導時間週0時間週3時間
チーム全体の安全KPI78点91点

佐藤さんが1on1で掘り下げると、「同じ作業の繰り返しで意味を感じない」とのこと。そこで「安全教育プログラムの設計」という新しい役割を提案。Eさんは15年の知見を体系化することに意欲を取り戻した。

成果: Eさんが作った安全教育プログラムで新人の事故率が42%低下。Eさん自身もWill高×Skill高に復帰。「能力が高いのにやる気がない」の裏には必ず理由がある。それを聴くことがマネジメントの第一歩。

例3:地方銀行の営業チーム(10人)——四半期ごとの再マッピングで育成を加速

背景: 支店長の鈴木さんが「法人融資営業」に対してチーム全体を四半期ごとにマッピング。

Q1(4月)のマッピング結果:

象限人数構成比
委任(Will高×Skill高)2人20%
指導(Will高×Skill低)3人30%
刺激(Will低×Skill高)3人30%
指示(Will低×Skill低)2人20%

問題は「刺激」象限が30%もいたこと。ベテラン3人がルーティン業務に飽きていた。鈴木さんは3人それぞれに「新規事業融資」「DX支援コンサル」「後輩育成リーダー」の新ミッションを割り当てた。

Q4(翌1月)のマッピング結果:

象限人数構成比変化
委任5人50%+30%
指導3人30%±0%
刺激1人10%-20%
指示1人10%-10%

成果: 法人融資の新規獲得件数が前年比137%マッピングを「一度きりの診断」ではなく「四半期の定点観測」にしたことで、チーム全体の成長軌道が可視化できた。

やりがちな失敗パターン
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  1. 人にラベルを貼ってしまう — 「あの人はWill低だから」と固定的に見ると、関係が硬直する。あくまでタスク×時期の組み合わせで判断すること
  2. Will低の原因を掘り下げない — やる気がない=サボっている、ではない。環境・評価・健康・プライベートなど、原因は多様。まず聴くことが先
  3. 全員に「委任」を目指す — リスクの高い仕事では、ベテランにも「指導」寄りの関わりが必要なこともある。象限は目指すゴールではなく、今の最適解を見つけるツール
  4. マッピングを本人に見せてしまう — 「あなたはWill低と判断しました」と伝えるのは逆効果。マッピングはマネージャーの内部ツールであり、本人には関わり方の変化として自然に伝わるべき

まとめ
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Will/Skillマトリクスは、「メンバー全員に同じマネジメントをする」という罠から抜け出すためのツール。やる気と能力の組み合わせで関わり方を変えるだけで、育成の効率は大きく変わる。まずは次の1on1の前に、相手がどの象限にいるか考えてみよう。