ひとことで言うと#
個人ではなくチーム全体を対象にコーチングを行い、メンバー間の関係性・対話・協働のしかたを変えることでチームの成果を引き上げるアプローチ。Peter HawkinsやDavid Clutterbuckらが体系化した。
押さえておきたい用語#
- チームコーチング(Team Coaching)
- 個人コーチングとは異なり、チームという集合体そのものを成長させることを目的としたコーチング手法。
- システミック・コーチング(Systemic Coaching)
- チームを取り巻く**組織全体のシステム(利害関係者・文化・構造)**まで視野に入れてコーチングする考え方。Peter Hawkinsが提唱した。
- コミッショニング(Commissioning)
- チームの存在意義や期待される成果を、スポンサー(上位組織・経営層)と合意するプロセスを指す。
- タスク機能とプロセス機能(Task & Process)
- チームが「何を達成するか」がタスク機能、「どう協働するか」がプロセス機能。両輪で回すことが重要である。
- 心理的安全性(Psychological Safety)
- メンバーが失敗やアイデアを安心して共有できるチーム内の信頼の土壌のこと。チームコーチングの前提条件にあたる。
チームコーチングの全体像#
こんな悩みに効く#
- チームの目標は決まっているのに、メンバーがバラバラに動いてしまう
- 会議で本音が出ず、表面的なやりとりに終始している
- 個々の能力は高いのに、チームとしての成果が伸び悩んでいる
- 部門横断プロジェクトで、お互いの信頼関係がまだ薄い
基本の使い方#
まず「今このチームはどこにいるのか」を全員で共有する。アンケートや対話を通じて、以下を明らかにする。
- 目標の共有度: チームのゴールを全員が同じ言葉で説明できるか
- 関係性の質: メンバー間で率直なフィードバックができているか
- 役割の明確さ: 誰が何を担い、どこに隙間があるか
- 外部との接続: ステークホルダーの期待とチームの認識にズレがないか
ここを飛ばすと、コーチが的外れな介入をしてしまう。
チームコーチが中立的なファシリテーターとなり、日常の業務会議では出てこない「本音」を引き出す場を設計する。
- 「困っていること」「期待していること」を全員が順番に話す
- 他のメンバーはまず聞くことに徹し、判断やアドバイスを挟まない
- チーム全体のパターン(暗黙のルール、避けている話題)を観察し、フィードバックする
心理的安全性が十分でない段階では、ペアやサブグループでの対話から始めるとよい。
対話で得た気づきを、実際の業務で試す。ここが個人コーチングと最も異なるポイント。
- 会議の進め方を変える(例: 毎回冒頭5分で「今の気持ち」をチェックイン)
- 意思決定のプロセスを見直す(合意形成のルールを明文化する)
- 定期的にチームの「プロセス」を振り返る時間を設ける
「やってみてどうだった?」をチーム全体で振り返り、やり方を調整していく。
コーチの介入頻度を徐々に減らし、チーム自身がプロセスを回せる状態を目指す。
- チーム内にファシリテーター役を育てる
- 定着した行動パターンをチームの「グラウンドルール」として明文化する
- 3〜6か月後に改めてチームの状態を測定し、変化を確認する
具体例#
ITサービス企業の営業チーム(8名、マネージャー1名+メンバー7名)。前四半期の達成率は72%。メンバー個人の能力に問題はないが、案件情報の共有が少なく「全員がソロプレイヤー」状態だった。
チームコーチがまず実施したのは、各メンバーへの15分ヒアリングと、チーム全体でのワークショップ(2時間)。そこで浮かび上がったのは「他人の案件に口を出すのは失礼」という暗黙ルールの存在だった。
コーチはこのパターンをチームに共有し、「案件の相互レビュー」を週1回の会議に組み込むことを提案。最初は遠慮がちだったが、3週間目に若手メンバーの提案がベテランの大型案件を動かしたことで空気が変わった。
翌四半期の達成率は105%。「知見を出し合う文化」が定着し、平均案件単価も**23%**上昇した。
従業員1,200名のメーカーで、開発・製造・営業・品質保証の4部門から12名が集められた新製品プロジェクト。初回会議で各部門が自部門の都合を主張し合い、2時間で何も決まらなかった。
外部コーチが介入し、まずコミッショニングから再スタート。経営層を交えて「このプロジェクトに何を期待するか」を明文化した。次に、各部門の「大事にしていること」をカードに書き出してテーブルに並べるワークを実施。すると開発の「技術的完成度」と営業の「納期最優先」が正面衝突していることが全員の目に見える形になった。
コーチが問いかけたのは「この対立をどう扱いたいですか?」という一言だけ。結果、チーム自身が「技術要件の優先度を3段階に分け、Phase1では必須要件のみ対応」というルールを自力で生み出した。
プロジェクトは当初計画から2週間の前倒しで完了。品質保証部門のリーダーは「初めて他部門の制約を理解できた」と振り返っている。
職員35名の介護施設。年間離職率が28%に達し、採用コストだけで年間400万円以上かかっていた。退職面談では「人間関係」が理由の**65%**を占めていたが、具体的に何が問題なのか経営側は把握できていなかった。
施設長が外部のチームコーチに依頼し、まず5つのフロアチーム(各7名)ごとに月1回の「チーム対話」を導入。最初の2か月は「業務の困りごと」をテーマにし、3か月目から「お互いへの期待」に踏み込んだ。
あるフロアでは、夜勤の引き継ぎが「メモ1枚」で済まされていたことが日勤スタッフの不満の根源だと判明。チーム全体で引き継ぎフォーマットを作り直し、口頭での申し送り時間を5分→15分に拡大した。
取り組み開始から1年後、離職率は28% → 13%に低下。採用コストは年間180万円削減され、何より「相談しやすくなった」という職員アンケートのスコアが4.1 → 4.6(5点満点)に改善した。
やりがちな失敗パターン#
- 個人コーチングの延長で進めてしまう — メンバー一人ひとりに個別にコーチングしても、チームの関係性は変わらない。チームコーチングは「チームという場」に介入するもの。個人面談はあくまで補助的に使う
- 対話の場だけ作って行動変容につなげない — ワークショップで「いい話ができた」で終わると、翌週には元通り。対話の後に「月曜から何を変えるか」を具体的に決め、次回の冒頭で必ず振り返る
- コーチが答えを出してしまう — チームの課題にコーチが解決策を提示すると、チームは自分で考える力を失う。コーチの役割は問いを投げ、チーム自身の力で答えにたどり着くプロセスを支えること
- 心理的安全性が低いまま深いテーマに踏み込む — 信頼関係が未成熟な段階で「本音を言おう」と迫ると逆効果になる。まずは小さな成功体験(安全な話題での対話)を積み重ねてから、徐々に深い領域に入る
まとめ#
チームコーチングは、個人ではなくチーム全体の関係性と協働のしかたに働きかけるアプローチ。Hawkinsの5つの機能(コミッショニング・明確化・共創・外部接続・学習)を軸に、対話の質とチームの行動パターンを変えていく。大切なのは、コーチが答えを与えるのではなく、チーム自身が「自分たちのやり方」を見つけるプロセスを支えること。まず小さな対話の場から始めて、変化を積み重ねていくのが現実的な第一歩になる。