ティール組織

英語名 Teal Organization
読み方 ティール オーガニゼーション
難易度
所要時間 理解2〜3時間、導入は年単位
提唱者 フレデリック・ラルー
目次

ひとことで言うと
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フレデリック・ラルーが『Reinventing Organizations』で提唱した組織モデル。**自主経営(Self-management)・全体性(Wholeness)・進化する目的(Evolutionary Purpose)**の3つの柱を持ち、上司の指示なしにメンバーが自律的に動く組織を目指す。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
自主経営(Self-management)
階層的な管理構造をなくし、メンバーが自分たちで意思決定する仕組み。承認を仰ぐのではなく、助言プロセスに基づいて行動する。
全体性(Wholeness)
メンバーが職場でありのままの自分でいられる状態。プロフェッショナルな仮面だけでなく、感情や直感も含めた「全人的な自分」を持ち込める文化。
進化する目的(Evolutionary Purpose)
組織の存在意義を経営者がトップダウンで決めるのではなく、組織自体が生命体のように目的を感じ取り、変化し続けるという考え方。
助言プロセス(Advice Process)
意思決定の際に上司の承認ではなく、影響を受ける人と専門家に助言を求めたうえで、本人が最終決定するプロセス。ティール組織の中核的な意思決定手法。

ティール組織の全体像
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3つの柱と組織進化の段階
自主経営Self-management階層なし助言プロセスで決定役割は流動的全体性Wholenessありのままでいられる感情・直感も活かす心理的安全性が前提進化する目的Evolutionary Purpose組織の目的は固定しない環境に応じて変化する「組織が何を望むか」を問うラルーの組織進化5段階Red力による支配Amber規則と階層Orange実力主義・成果Green文化と合意Teal自主経営・全体性「どの段階が正しい」ではなく事業や組織の状況に適した段階を選ぶ
ティール組織への移行フロー
1
経営者の内省
経営者自身がティール的な世界観を持てるか、自問から始める
2
小さな実験
1チームで助言プロセスや自主的な意思決定を試す
3
仕組みの整備
役割定義・紛争解決・情報公開のルールを作る
文化として定着
自主経営が「特別なこと」ではなく「当たり前」になる

こんな悩みに効く
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  • 優秀な人材が「裁量がない」と言って辞めていく
  • 承認待ちが多すぎて、組織全体の動きが遅い
  • 「指示されたことしかやらない」文化を変えたい

基本の使い方
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助言プロセスを導入する

ティール組織の意思決定の中核。上司の承認ではなく、2種類の人に助言を求めたうえで本人が決定する。

  • 影響を受ける人: この決定で仕事が変わる同僚やチームメンバー
  • 専門知識を持つ人: その領域に詳しい社内外の専門家
  • 助言を聞いたうえで「最終決定は提案者本人が行う」のがポイント。全員の合意は不要
役割を固定せず流動的に設計する

肩書きではなく「役割(ロール)」で組織を構成する。1人が複数の役割を持ち、状況に応じて役割が変わる。

  • 「マーケティング部長」→ 「リード獲得ロール」「ブランド設計ロール」「分析ロール」に分解
  • 役割は定期的に見直し、不要になったら廃止、必要があれば新設
  • ホラクラシーのように役割のガバナンス会議を定例化する方法もある
全体性を支える場を作る

メンバーがありのままの自分でいられるための具体的な仕組みを用意する。

  • チェックイン: 会議の冒頭で「今の気分」を一言ずつ共有する
  • 紛争解決プロセス: 対立が起きたとき、まず1対1で話し、解決しなければメディエーター(調停者)を入れる
  • 情報のフルオープン: 財務情報を含め、すべての情報をメンバーに公開する

具体例
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例1:IT企業が助言プロセスで意思決定を3倍速にする

状況: 従業員40名のWeb制作会社。すべての案件でディレクター→部長→社長の3段階承認が必要で、見積もり回答に 平均5日。競合に案件を取られるケースが月 4件 あった。

ティール的施策の導入

  • 300万円以下の案件は担当ディレクターが助言プロセスで決定。経理担当と類似案件の経験者に助言を求めたうえで自分で決裁
  • 300万円超の案件のみ社長の助言を必須に(承認ではなく助言)
  • 全案件の受注額・利益率をSlackの専用チャンネルでリアルタイム公開
指標導入前導入6か月後
見積もり回答日数平均5日平均1.5日
月間の案件取りこぼし4件1件
社長の案件関与時間週15時間週4時間

社長は空いた時間を新規事業の立ち上げに充てることができた。

例2:介護事業者が現場チームの自主経営で利用者満足度を上げる

状況: 3拠点で訪問介護を提供する事業者(従業員60名)。ケアの判断はすべてサービス提供責任者(サ責)に集中。サ責が休むとスケジュール変更も利用者対応もストップし、利用者から「連絡がつかない」という苦情が月 10件 以上。

自主経営の導入

  • 3〜4名の小チーム制にし、チーム内でスケジューリング・利用者対応を自律的に実施
  • サ責は「困ったときの相談相手」に役割を変更
  • 利用者の状態変化への対応は、助言プロセスに基づいてヘルパーが現場判断

利用者からの苦情は月 10件 → 2件 に減少。ヘルパーの「仕事のやりがい」に関するアンケートスコアが 3.2/5.0 → 4.1/5.0 に改善し、離職率は 年28% → 年15% に低下。

例3:食品メーカーが工場の品質管理にチェックイン文化を取り入れる

状況: 従業員200名の菓子メーカー。工場のライン作業者がヒヤリハットや体調不良を言い出せず、品質事故が半年で 3件 発生。「現場で何が起きているか見えない」と品質管理部が危機感を持っていた。

全体性(Wholeness)の施策

  • 毎朝のラインミーティングで「今日の体調と気になっていること」を30秒ずつ共有(チェックイン)
  • 「体調が悪い」と言った作業者は、本人の判断で軽作業に移動可能(助言プロセスの簡易版)
  • ヒヤリハット報告を「チームの安全貢献」として可視化し、月間レポートで全社共有

導入1年後、ヒヤリハット報告は 月5件 → 月22件 に増加し、品質事故は 半年で3件 → 年間ゼロ を達成。「朝のチェックインで『今日は集中力が落ちている』と言えるだけで、自分もチームも安心できる」というコメントが現場から出ている。

やりがちな失敗パターン
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  1. 経営者が本気でないのに「自主経営」を宣言する — 困ったときに経営者が権限を取り戻すと、メンバーの信頼は一気に崩壊する。覚悟がなければ始めないほうがよい
  2. 助言プロセスを「合意形成」と混同する — 全員の合意を求めると意思決定が遅くなる。助言は聞くが、決定は提案者が行う原則を徹底する
  3. 階層をなくすだけで仕組みを入れない — マネージャーを廃止しても、紛争解決プロセスや情報公開の仕組みがなければカオスになる
  4. 全社一斉に移行しようとする — まず1チームで実験し、うまくいった仕組みを他のチームに広げるアプローチが現実的

まとめ
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ティール組織は「階層をなくすこと」が目的ではなく、自主経営・全体性・進化する目的の3つの柱で「人間の可能性を最大限に引き出す組織」を作ることが本質。全社一斉導入ではなく、小さなチームでの実験から始め、助言プロセスやチェックインなど具体的な仕組みを1つずつ導入するのが現実的な第一歩になる。