ひとことで言うと#
マネージャーのさらに上の上司が、直属の部下を飛び越えてその下のメンバーと定期的に1on1を行い、現場の本音や組織課題を早期に把握する手法。Intelのアンディ・グローブが『High Output Management』で推奨した。
押さえておきたい用語#
- スキップレベル(Skip-Level)
- 組織階層の1段階を飛ばすこと。部長がマネージャーを飛ばしてメンバーと話す、VPが部長を飛ばして課長と話す、といった関係を指す。
- 直属マネージャー(Direct Manager)
- スキップレベル1on1において飛ばされる側の中間管理職。この人のマネジメント品質を間接的に把握することもスキップレベルの目的の一つ。
- シグナル(Signal)
- 現場メンバーの発言から読み取れる組織の健康状態を示す兆候。一人の発言だけでは判断できないが、複数のスキップレベルで同じ話が出たら強いシグナルになる。
- セーフティネット(Safety Net)
- 直属マネージャーとの関係に問題があるとき、メンバーが別の相談先を持てる仕組み。スキップレベル1on1はこの役割も果たす。
スキップレベル1on1の全体像#
こんな悩みに効く#
- 組織の問題が自分の耳に届くのが遅く、気づいたときには手遅れになっている
- 中間管理職のマネジメント品質にばらつきがあるが、直接見えない
- エンゲージメント調査のスコアが低いが、具体的に何が問題か分からない
- 現場メンバーとの距離が遠くなり、「雲の上の人」になってしまっている
基本の使い方#
スキップレベルを始める前に、必ず中間管理職に意図を説明する。
- 「あなたを監視するためではなく、組織全体の健康状態を把握するため」と明確に伝える
- 「メンバーから聞いた個人的な話をあなたに報告することはない」という約束をする
- 直属マネージャー自身もスキップレベルの恩恵(上からのサポートが増える)を理解できるよう説明する
全メンバーと均等に機会を設ける。特定の人だけとやると「呼ばれた人は何かあったのでは」と思われる。
- 頻度は四半期に1回が目安。直下の人数が多い場合は半期に1回でも可
- 1回30〜45分。カジュアルな場(ランチ、カフェ)でもよい
- 全員と同じ頻度で行うことで「特別な意味」を排除する
評価面談ではないので、メンバーが話したいことを話せる場にする。
- 「最近の仕事で一番楽しいことは?」「チームで改善したいことは?」など、オープンクエスチョンを使う
- 「マネージャーのこと、どう思う?」と直接聞かない。代わりに「チームの意思決定プロセスはうまくいっている?」と聞く
- 複数のメンバーから同じ話題が出たら、それは個人の問題ではなく組織のシグナル
収集した情報を個人攻撃ではなく構造改善に使う。
- 「Aさんがこう言っていた」と個人を特定して中間管理職に伝えない
- 「複数のメンバーから○○というテーマが出ている」とパターンとして共有する
- 中間管理職と一緒に改善策を考える姿勢を取る(上から指摘するのではなく)
- 対応した結果をメンバーにもフィードバックし、「声を上げた意味があった」と実感させる
具体例#
VPoE(VP of Engineering)が、傘下のエンジニア40名と四半期ごとにスキップレベル1on1を開始した。1巡目の10名との対話で、3名が共通して「技術的負債の返済に時間が取れず、成長実感がない」と話した。
直属のEMに確認すると「メンバーからそういう相談は受けていない」とのこと。メンバーは「EMに言っても優先度が変わらないと思って諦めていた」と本音を漏らしていた。
VPoEは個人名を出さず「技術的負債への不満が複数のチームから出ている」とEMに共有し、スプリントの20%を負債返済に充てるルールを導入。3か月後のスキップレベルで同じテーマが出なくなり、直後のエンゲージメントサーベイでも「成長機会」のスコアが3.1 → 3.8(5点満点)に改善。
もしスキップレベルをしていなければ、この3名のうち少なくとも1名は半年以内に退職していただろう、とVPoEは振り返っている。
営業部長(課長3名、メンバー計18名を統括)。業績は好調だが、特定の課のメンバーだけ有給取得率が**40%**と他課(75%)より極端に低かった。
半期に1回のスキップレベル1on1を実施。該当する課の6名と順番に話したところ、4名が「課長が休むことに否定的な雰囲気を出す」「有給申請すると『その日は誰がカバーするの?』と聞かれる」と語った。
部長は課長に「メンバーの有給取得率が低い。何か原因に心当たりはあるか?」とオープンに聞いた。課長は「自分が休まないタイプなので、メンバーにもそうあるべきだと無意識に思っていた」と自覚。
部長は課長を責めるのではなく、「まず課長自身が月1回は有給を取るところから始めよう」と提案。3か月後、課長が率先して休暇を取るようになり、課の有給取得率は40% → 68%に改善。メンバーの残業時間も月平均22時間 → 15時間に減少した。
50名規模の会社が30名規模の会社を買収し、統合作業が進行中。CEO自ら、被買収側の全メンバー30名と2か月かけてスキップレベル1on1(1人30分)を実施した。
対話で見えてきたパターン:
| シグナル | 言及した人数 | 深刻度 |
|---|---|---|
| 「評価制度が変わるのか不安」 | 22名 | 高い |
| 「前の会社の良い文化が消えそう」 | 18名 | 高い |
| 「新しい上司との関係がまだ築けていない」 | 14名 | 中程度 |
| 「ツールが統一されず二重作業」 | 10名 | 中程度 |
最も多かった「評価制度の不安」に対し、CEOは統合後の評価制度を3か月以内に発表するとコミットし、被買収側メンバーから2名を評価制度設計チームに入れた。
「前の文化を残したい」に対しては、被買収側の良い文化(週次の全社ランチ、ペアワーク制度)を統合後の会社にも正式に導入することを決定。
スキップレベルなしに統合を進めていれば、被買収側メンバーの**30〜40%が1年以内に離職するリスクがあった(業界平均)。実際の1年後の離職は3名(10%)**にとどまり、PMI(Post Merger Integration)の成功事例となった。
やりがちな失敗パターン#
- 直属マネージャーに伝えずに始める — 中間管理職が「頭越しに部下と話された」と感じると信頼関係が壊れる。必ず事前に目的を共有し、協力関係を築く
- 聞いた話を個人名付きでフィードバックする — 「Aさんがあなたのことをこう言っていた」と伝えると、メンバーは二度と本音を話さなくなる。パターンとして伝える
- 問題がなければやめてしまう — スキップレベルは問題発見だけでなく、予防と関係構築の機能もある。問題がない時期こそ続ける価値がある
- 特定のメンバーだけと頻繁にやる — 「よく呼ばれる人」「呼ばれない人」ができると、組織に不公平感と憶測が広がる。全員均等が原則
まとめ#
スキップレベル1on1は、組織階層を一段飛ばして現場メンバーと直接対話し、通常のレポートラインでは上がってこない組織課題やシグナルを早期にキャッチする手法である。成功のカギは透明性。直属マネージャーへの事前説明、全メンバーとの均等な機会設定、個人を特定しないフィードバックという3つのルールを守ることで、「監視」ではなく「組織の健康診断」として機能する。