ひとことで言うと#
フィードバックを**Situation(いつ・どこで)→ Behavior(何をしたか)→ Impact(その結果どうなったか)**の3要素で伝える手法。「あなたはいつもダメだ」のような主観的・感情的なフィードバックを避け、事実ベースで具体的に伝えることで、相手が受け取りやすくなる。ネガティブにもポジティブにも使える万能ツール。
押さえておきたい用語#
- Situation(シチュエーション)
- フィードバック対象の行動が起きた具体的な場面・時間・場所のこと。「最近」「いつも」ではなく「昨日の15時のMTGで」のように特定する。
- Behavior(ビヘイビア)
- 相手が実際にとった観察可能な行動のこと。性格や意図の推測ではなく、ビデオカメラに映るような客観的事実だけを描写する。
- Impact(インパクト)
- その行動がチームや周囲に与えた具体的な影響・結果のこと。「私は〜と感じた」「チームに〜が起きた」のように自分の視点から伝える。
- フォワードフィードバック
- 過去の問題を指摘するのではなく、未来の行動に焦点を当てた提案のこと。SBIの後に「次回は〜すると良くなる」と添えることで、行動変容を促す。
SBIフィードバックの全体像#
こんな悩みに効く#
- フィードバックしたいが、どう伝えれば角が立たないか悩む
- 「もっと頑張れ」のような曖昧なフィードバックしかできない
- 褒めるときも具体性がなく、「いいね」で終わってしまう
基本の使い方#
いつ・どこで起きた出来事かを具体的に示す。
- 「昨日の15時のクライアントMTGで」
- 「先週金曜のスプリントレビューの場で」
- 「今朝のSlackの #dev チャンネルで」
NGパターン: 「最近」「いつも」「前から思ってたんだけど」→ これだと相手は「いつの話?」となり、防御的になる。
コツ: できるだけ直近の具体的な場面を1つだけ選ぶ。複数の場面をまとめて指摘すると「攻撃された」と感じやすい。
相手が実際にやった行動を、事実として客観的に述べる。
- 「プレゼン中に、クライアントの質問に対してデータを3つ引用して回答していた」
- 「MTGの開始10分後に入室して、前の議論の文脈を確認せずに発言を始めた」
絶対に避けること:
- 性格や人格の評価(「あなたは無責任だ」)
- 推測や解釈(「やる気がないんだと思うけど」)
- 一般化(「いつも遅刻する」)
ポイントはビデオカメラに映る行動だけを描写すること。カメラは感情や意図を映さない。
その行動が周囲やチーム、自分にどんな影響を与えたかを伝える。
ポジティブな場合:
- 「おかげでクライアントの信頼を得られて、次のフェーズの受注につながった」
- 「チーム全体が安心して発言できる雰囲気になった」
ネガティブな場合:
- 「他のメンバーが議論をやり直すことになり、30分のロスが生じた」
- 「クライアントが不安そうな表情をしていて、信頼に影響しそうだと感じた」
コツ: Impactは「私は〜と感じた」「チームに〜という影響があった」のように自分の視点から伝える。「あなたのせいで失敗した」は攻撃になる。
具体例#
状況: SaaS企業の開発チーム(8名)。マネージャーの斎藤さんが、メンバーの松本さんのチーム定例での行動についてフィードバックしたい。松本さんは技術力が高いが、会議中にスマホを触る癖があり、他のメンバーが不満を感じていた。
SBIフィードバックの実施:
S(状況): 「今日の14時のチーム定例で」 B(行動): 「佐々木さんが改善案を説明しているとき、途中でスマホを触り始めて、説明が終わった後に『すみません、もう一度言ってもらえますか』と聞き返していたよね」 I(影響): 「佐々木さんの表情が曇ったのが見えたし、自分のアイデアが大事にされていないと感じたかもしれない。チーム内の発言意欲にも影響すると思う」 +提案: 「松本さんの技術的な意見はチームにとって本当に貴重だから、会議中はスマホをカバンに入れて、全員の話に集中してもらえると嬉しい」
比較(SBIを使わなかった場合):
| アプローチ | 発言例 | 結果 |
|---|---|---|
| 曖昧なFB | 「最近、会議中の態度が気になる」 | 松本さん: 「態度って何のこと?」→ 防御的に |
| 人格批判 | 「集中力がないよね」 | 松本さん: 「そんなことない」→ 反発 |
| SBI形式 | 上記の具体的なFB | 松本さん: 「確かに。気をつけます」→ 行動変容 |
2週間後の変化:
- 松本さんは会議中のスマホ使用をゼロに
- 佐々木さんからの発言が増加(月4件→月11件)
- チームの「会議が有意義」スコアが3.2→4.1に改善
SBI形式にすることで「攻撃」ではなく「事実の共有」として伝わり、松本さんは防御的にならず行動を変えられた。同じ内容でも伝え方のフレームワークが結果を変える。
状況: BtoB営業チーム(15名)。マネージャーの小林さんは「うちのチームは褒めない文化」に課題を感じていた。メンバーへのFBはほぼ「改善系」のみで、良い仕事をしても「お疲れ」で終わり。エンゲージメントスコアの「上司に認められている」の項目が2.4/5.0と低迷。
ポジティブSBIの導入ルール:
- 週に1回以上、各メンバーにポジティブSBIを伝える
- Slackの #kudos チャンネルでもSBI形式で称賛を投稿する
- 月次MTGで「今月のベストSBI」を共有する
具体例(小林さん→新人の渡辺さん):
S: 「昨日の初回商談で」 B: 「クライアントが『予算がない』と言ったとき、すぐに値引きに走らず、まず『今一番困っていることは何ですか?』と質問を深掘りしていたよね」 I: 「あの質問のおかげで、クライアントの本当の課題が見つかって、解決策を提案できた。渡辺さんのヒアリング力がなければ、ただの価格交渉で終わっていたと思う」
チームへの波及:
- ポジティブSBIがSlackで共有されることで、「何が良い行動か」のチーム基準が可視化
- メンバー同士も真似してSBI形式で互いを称賛するようになった
6ヶ月後の変化:
| 指標 | Before | 6ヶ月後 |
|---|---|---|
| 「上司に認められている」 | 2.4/5.0 | 4.1/5.0 |
| チーム内の相互称賛数(Slack) | 月2件 | 月28件 |
| 初回商談からの成約率 | 18% | 27% |
| メンバーの離職意向 | 3名 | 0名 |
ポジティブSBIは「何が良かったか」を具体的に伝えるため、良い行動が「再現可能」になる。「いいね」という曖昧な称賛を「具体的なSBI」に変えただけで、チーム全体のスキルが底上げされた。
状況: 地方の総合病院(看護部門30名)。インシデント(ヒヤリハット)報告が月平均3件と極端に少なく、問題が隠蔽されている懸念があった。原因は「報告すると叱られる」文化。師長がインシデント報告を受けると「なんでそんなミスをしたの」と人格批判に近いフィードバックをしていた。
SBI導入の背景:
- 看護部長が「叱る文化」が報告を減らしていると気づく
- 師長5名にSBIフィードバック研修を実施
SBIへの変更:
| 場面 | Before(師長の反応) | After(SBI形式) |
|---|---|---|
| 投薬量ミス報告 | 「注意力が足りない!」 | S:「昨日の準夜勤で」B:「ダブルチェックを1回省略した」I:「患者さんに影響はなかったが、もし投薬量が違っていたら重大な事態になる」+提案:「忙しい時こそチェックリストを使おう」 |
| インシデント報告 | 「こんなミスするなんて信じられない」 | 「報告してくれてありがとう。状況を詳しく教えて」 |
| 良い対応の報告 | (特に何も言わない) | S:「今朝の急変対応で」B:「BLS手順を正確に実行しながら同時に応援を呼んでいた」I:「あの冷静な判断で患者さんの命が助かった。チーム全体の安心感にもつながった」 |
導入後の変化:
| 指標 | Before | 6ヶ月後 |
|---|---|---|
| インシデント報告数 | 月平均3件 | 月平均22件 |
| 重大インシデント発生率 | 年4件 | 年1件 |
| 「上司に相談しやすい」 | 18% | 72% |
| 看護師の離職率 | 22%/年 | 14%/年 |
| 患者安全スコア | 3.2/5.0 | 4.3/5.0 |
インシデント報告が3件→22件に増えたのは「ミスが増えた」のではなく「報告しやすくなった」から。SBI形式に変えたことで「叱られる」から「事実を一緒に振り返る」文化に転換し、小さな問題を早期に拾えるようになった。医療安全は「報告の量」が命。
やりがちな失敗パターン#
- BehaviorとImpactが混ざる — 「あなたの態度が悪くて、みんな困っている」は行動(B)が抽象的で、影響(I)と一体化している。行動は「具体的に何をしたか」、影響は「それによって何が起きたか」を明確に分ける
- ネガティブだけに使う — SBIは改善フィードバックのイメージが強いが、ポジティブフィードバックにこそ威力を発揮する。「具体的に何が良かったか」を伝えることで、良い行動が定着する
- フィードバックを溜め込む — 3ヶ月前の行動をSBIで指摘されても「今さら?」となる。SBIは48時間以内に使うのがベスト。鮮度が命
- 「S」を省略する — 「あなたのプレゼンはデータが弱い」ではどの場面か不明。具体的な状況を示さないと相手は「いつの話?」と混乱し、受け取れない
まとめ#
SBIフィードバックは、フィードバックを「状況→行動→影響」の3要素に分解するだけで、感情的にならず、相手が受け取りやすい形に変換できる手法。ネガティブもポジティブも、このフォーマットに当てはめれば具体的で再現性のあるフィードバックになる。次の1on1やふりかえりで、まず1つ、SBI形式でフィードバックを伝えてみよう。