RACIマトリクス

英語名 RACI Matrix
読み方 レイシー マトリクス
難易度
所要時間 1〜2時間
提唱者 プロジェクトマネジメント分野
目次

ひとことで言うと
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Responsible(実行責任者)、Accountable(説明責任者)、Consulted(相談先)、Informed(報告先) の4つの役割でタスクごとの担当を整理するマトリクス。「誰がやるのか」「誰が最終決定するのか」を明確にすることで、責任の曖昧さをなくす。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
Responsible(実行責任者)
実際にそのタスクを手を動かして実行する人。1つのタスクに複数人いることもある。
Accountable(説明責任者)
そのタスクの最終的な承認・決定権を持つ人。各タスクに必ず1人だけ。「誰が最終責任を取るか」を明確にする。
Consulted(相談先)
実行前に意見やアドバイスを求められる人。双方向のコミュニケーションが発生する。専門家やステークホルダーが該当。
Informed(報告先)
結果や進捗を事後に報告される人。一方向のコミュニケーション。知っておく必要があるが意思決定には関与しない。

RACIマトリクスの全体像
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タスク×関係者のマトリクスにR・A・C・Iを割り当てる
RResponsible実行責任者実際に手を動かす人複数人もOK「やる人」AAccountable説明責任者最終承認・決定権必ず1人だけ「決める人」★最重要CConsulted相談先事前に意見を求める双方向コミュニケーション「聞く人」IInformed報告先事後に結果を伝える一方向コミュニケーション「知る人」マトリクスの構造イメージタスク\担当者PM開発デザインQA要件定義ACCIUI設計ICRI実装IRCIテストICIRリリース判断RCIC※ Aは各行に必ず1人だけ(ここでは省略表示)
RACIマトリクス作成の流れ
1
タスク・関係者をリストアップ
具体的にタスクを分解し、関係者を洗い出す
2
RACIを割り当て・チェック
各セルにR・A・C・Iを記入し、Aが各タスクに1人か確認
全員で合意
認識のズレを解消し、全員が納得した状態にする
4
運用・アップデート
共有ドキュメントとして参照し、体制変更時に更新する

こんな悩みに効く
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  • 「誰がやるの?」が曖昧で、タスクが宙に浮く
  • 複数の人が同じことをやっていたり、逆に誰もやっていなかったりする
  • 部門をまたぐプロジェクトで、責任の押し付け合いが起きる

基本の使い方
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ステップ1: RACIの4つの役割を理解する

各タスクに対して、関係者を4つの役割に分類する。

  • R(Responsible): 実際にそのタスクを実行する人。作業の担い手
  • A(Accountable): 最終的な承認・決定権を持つ人。各タスクに必ず1人
  • C(Consulted): 実行前に相談される人。専門知識を持つアドバイザー
  • I(Informed): 結果を事後に報告される人。知っておく必要がある関係者

最重要ルール: Aは各タスクに必ず1人だけ。2人以上いると「誰が最終責任を持つのか」が曖昧になる。

ステップ2: タスクと関係者をリストアップする

縦軸にタスク(またはプロセス)、横軸に関係者を並べたマトリクスを作る。

  • タスクは具体的に分解する(「マーケティング」ではなく「LP制作」「広告運用」「効果測定」)
  • 関係者は個人名またはチーム名で書く
  • 抜け漏れがないよう、プロジェクトの全工程を洗い出す
ステップ3: 各セルにRACIを割り当てる

マトリクスの各セルに、R・A・C・Iのいずれかを記入する。空欄(関与なし)もOK。

チェックポイント:

  • すべてのタスクにAが1人いるか?(0人も2人以上もNG)
  • Rがいないタスクはないか?(誰もやらないタスクは進まない)
  • 1人にRが集中しすぎていないか?(ボトルネック発生のサイン)
  • Cが多すぎないか?(相談先が多いと意思決定が遅くなる)
ステップ4: 関係者全員で合意し、運用する

作ったRACIマトリクスを全員で確認し、合意する。一方的に決めてはいけない。

  • 「自分はCだと思っていたのにRになっている」といった認識のズレを解消する
  • 合意後はチームの共有ドキュメントとして常に参照できるようにする
  • プロジェクトの進行に合わせて、必要に応じてアップデートする

具体例
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例1:SaaS企業の新機能リリースプロジェクト(5部門)——意思決定速度が2倍に

背景: PMの山田さんが毎回のリリースで「誰が最終GOを出すのか」で揉める問題を解決したかった。

作成したRACIマトリクス:

タスクPMエンジニアデザイナーQA事業部長
要件定義ACCII
UI設計ICRII
実装IRCII
テストICIRI
リリース判断RCICA
社内アナウンスRIIIA

導入前の問題:

  • リリース判断で毎回3〜4人が「自分に相談がなかった」と不満
  • 平均意思決定時間: 4.2日
  • 手戻り率: 23%

導入後の成果:

指標BeforeAfter変化
リリース判断の平均所要時間4.2日1.8日57%短縮
「相談がなかった」クレーム月5件月0件ゼロ
手戻り率23%9%61%減

「リリース判断のAは事業部長」と明確にしたことで、PMが判断材料を揃えて事業部長に確認するフローが定着。全員の役割が明確になり、無駄な会議が3つ消えた。

例2:建設会社の大規模プロジェクト(4社合同・30人)——責任の押し付け合いを解消

背景: 元請け・設計事務所・設備会社・内装会社の4社合同プロジェクト。各社の責任範囲が曖昧で、問題が起きるたびに「それはうちの仕事じゃない」が発生。

RACI作成前の状況:

  • 工程遅延: 月平均3.5件
  • 責任所在の議論にかかる時間: 週4時間
  • 手戻り工事: 半年で12件

主要タスクのRACIマトリクス(一部抜粋):

タスク元請けPM設計事務所設備会社内装会社
基本設計承認ARCI
設備配管設計ICR/AC
内装仕上げICIR/A
施工スケジュール調整R/ACCC
検査・引き渡しARRR

6ヶ月後の成果:

指標BeforeAfter変化
工程遅延/月3.5件0.8件77%減
責任議論の時間/週4時間0.5時間88%減
手戻り工事/半年12件3件75%減
プロジェクト総コスト8%削減

4社の代表者が1日かけてRACIを作成した時間は、半年間で何百時間もの「責任議論」を節約した。部門横断・会社横断のプロジェクトでこそRACIの威力は最大になる。

例3:市役所の住民サービスDX推進(6課連携)——たらい回し件数85%減

背景: 市のDX推進で「オンライン申請システム」を導入するプロジェクト。情報政策課・市民課・税務課・福祉課・総務課・広報課の6課が関与するが、「誰が何をやるのか」が不明確だった。

RACI作成前の問題:

  • 住民からの問い合わせのたらい回し: 月40件
  • 「うちの課の仕事じゃない」発生頻度: 週6回
  • システム要件の決定: 3ヶ月以上かかっている

作成したRACIマトリクス(主要タスク):

タスク情報政策課市民課税務課福祉課総務課広報課
システム要件定義R/ACCCII
申請フォーム設計RACCII
セキュリティ審査RIIIAI
住民向け説明会CRIIIR/A
運用マニュアル作成ARRRII

1年後の成果:

指標BeforeAfter変化
たらい回し件数/月40件6件85%減
要件決定にかかる期間3ヶ月+3週間75%短縮
課間の認識齟齬週6回週1回未満85%減
オンライン申請利用率0%34%

行政は「縦割り」と言われるが、RACIで横の連携を明文化すれば壁は薄くなる。特に「Aを1人に決める」ルールが、合議制に慣れた組織の意思決定を加速させた。

やりがちな失敗パターン
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  1. 全員がRになっている — 「みんなで責任を持とう」は聞こえがいいが、実際は誰も責任を取らない状態になる。Rは本当に手を動かす人だけに
  2. Aが形骸化している — 名前だけAで、実際は誰も最終判断しない。Aの人は「承認する/しない」の意思決定を本当に行う人にする
  3. 作って満足する — RACIは運用してこそ意味がある。タスクが追加されたり体制が変わったりしたら、すぐにアップデートする
  4. タスクの粒度が粗すぎる — 「マーケティング」のような大きなくくりでRACIを作ると、実際の業務で使えない。「LP制作」「広告運用」「効果測定」のように具体的に分解する
  5. Cを増やしすぎる — 「念のため相談」でCが5人以上いるタスクは、調整コストが膨大になる。本当に専門知識が必要な人だけをCにする

まとめ
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RACIマトリクスは、「誰が何をするか」を4つの役割で明確にするシンプルなツール。特に部門横断プロジェクトや新しいチームで威力を発揮する。作るときは必ず関係者全員で合意すること。そして「Aは各タスクに1人だけ」のルールを徹底することが、責任の曖昧さをなくす最大のポイント。