ハーシー=ブランチャードSL

英語名 Situational Leadership
読み方 シチュエーショナル リーダーシップ
難易度
所要時間 30分〜1時間
提唱者 ポール・ハーシー、ケン・ブランチャード
目次

ひとことで言うと
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部下の能力とやる気(成熟度)に応じて、リーダーの関わり方を4段階で切り替えるモデル。「良いリーダーシップは1つではない」という前提に立ち、相手の状態を見て指示型・コーチ型・支援型・委任型を使い分ける。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
成熟度(Readiness)
部下がそのタスクに対して持つ**能力(スキル)と意欲(コミットメント)**の組み合わせ。タスクごとに異なる点がポイント。
指示的行動(Directive Behavior)
リーダーが何を・いつ・どうやるかを具体的に伝える行動。タスクの手順や基準を明示する。
支援的行動(Supportive Behavior)
リーダーが部下の意見を聴き、励まし、意思決定に参加させる行動。関係性の構築とモチベーション維持に重点を置く。
委任(Delegating)
部下に判断と実行の両方を任せるスタイル。能力も意欲も高い部下に対して用いる。過干渉を避けることが信頼の表明となる。

ハーシー=ブランチャードSLの全体像
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部下の成熟度に応じた4つのリーダーシップスタイル
支援的行動(高→)指示的行動(高→)S3: 支援型能力あり × 意欲が揺れる傾聴・共同意思決定で支えるS2: コーチ型能力不足 × 意欲が下がり気味指示しつつ「なぜ」を説明するS4: 委任型能力あり × 意欲も高い任せて見守るS1: 指示型能力不足 × 意欲は高い具体的に手順を教える
部下の成熟度に応じたスタイル選択フロー
1
タスクを特定
部下に任せたいタスクを具体的に定義する
2
成熟度を評価
そのタスクに対する能力と意欲を見極める
3
スタイルを選択
S1〜S4から適切なリーダーシップスタイルを選ぶ
段階的に委任
成熟度の向上に合わせてスタイルを移行する

こんな悩みに効く
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  • 全員に同じ指導方法で接しているが、うまくいく人といかない人がいる
  • 優秀な部下に細かく指示しすぎて、モチベーションを下げてしまった
  • 新人にいきなり任せたら、品質が大幅に低下した

基本の使い方
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タスク単位で成熟度を見極める

成熟度は「人」に固定されるものではなく「タスク」ごとに変わる。ベテランでも新しいタスクでは成熟度が低いことがある。

  • 能力: そのタスクの経験・知識・スキルがあるか
  • 意欲: そのタスクへのやる気・自信・コミットメントがあるか
4つのスタイルから適切なものを選ぶ
スタイル部下の状態リーダーの行動
S1: 指示型能力低・意欲高(新人など)具体的に手順を教え、こまめに確認する
S2: コーチ型能力低・意欲低下指示しつつ「なぜこうするか」の理由を説明する
S3: 支援型能力高・意欲が不安定傾聴し、一緒に考え、励ます
S4: 委任型能力高・意欲高ゴールだけ伝えて任せる
成熟度の成長に合わせてスタイルを移行する

部下が成長したらスタイルを切り替える。いつまでも指示型のままだと自立が遅れる。

  • S1 → S2 → S3 → S4 の順に移行するのが基本
  • 逆行もあり得る(新しいタスク、環境変化時)

具体例
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例1:Web制作会社のディレクターが新人デザイナーを育てる

状況: 入社1か月目の新人デザイナー。デザインツールの基礎は学校で学んでいるが、クライアントワークは初めて。やる気は十分。

スタイルの推移

時期成熟度スタイル具体的な関わり
1か月目能力低・意欲高S1: 指示型ワイヤーフレームのテンプレートを渡し、毎日30分のレビュー
3か月目能力やや低・意欲低下S2: コーチ型「なぜこのレイアウトにするか」をクライアントの要望から説明
6か月目能力中・意欲回復S3: 支援型初稿を自分で考えてもらい、迷ったときだけ相談に乗る
12か月目能力高・意欲高S4: 委任型小規模案件を丸ごと任せ、完了後にレビューのみ

1年後、新人は単独で月 3案件 を回せるようになり、クライアント評価で 4.5/5.0 を獲得した。

例2:物流会社の倉庫マネージャーがベテランパートの意欲低下に対処する

状況: 倉庫のピッキング作業歴8年のベテランパート社員(55歳)。スキルは申し分ないが、新しいWMS(倉庫管理システム)の導入で「もうついていけない」と発言。出勤日の欠勤も増えていた。

成熟度の評価

  • ピッキング作業: 能力高・意欲低 → S3: 支援型
  • 新システム操作: 能力低・意欲低 → S2: コーチ型

S3(既存業務)の対応

  • 1on1で不安を傾聴。「自分の経験が役に立たなくなる」という恐れが根本にあった
  • 「あなたの8年の経験は新システムでも活きる。操作方法が変わるだけ」と伝え、新人教育のサブリーダーを依頼

S2(新システム)の対応

  • 操作手順を大きめの文字で印刷したマニュアルを個別に用意
  • 最初の2週間は隣で一緒に操作し、「なぜこの順番でやるか」を説明

1か月後に欠勤がゼロに戻り、3か月後にはシステム操作を自力でこなせるようになった。「教える役を任されたのがうれしかった」と本人が話している。

例3:NPOのプロジェクトリーダーがボランティアスタッフに合わせた関わり方をする

状況: 環境保護NPOの清掃イベント(月1回、参加者30〜50名)。常連ボランティア10名と、毎回変わる新規参加者がいる。リーダー1名でどう指揮するかが課題。

参加者を成熟度で分類し、スタイルを使い分け

対象スタイル具体的な関わり
初参加者S1: 指示型開始前にブリーフィングで手順を説明、ペアを組ませる
2〜3回参加S2: コーチ型「なぜこのエリアから清掃するか」の理由を添えて指示
常連(半年以上)S3: 支援型エリアリーダーとして初参加者の面倒を見る役割を依頼
ベテラン常連S4: 委任型イベント企画や新規エリアの開拓を丸ごと委任

この運用に変えてから、初参加者のリピート率が 25% → 48% に上昇。ベテランからは「任されている実感がある」との声が出て、年間のイベント開催数を12回から18回に拡大できた。

やりがちな失敗パターン
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  1. 全員に同じスタイルで接する — 新人にもベテランにも同じ指示の出し方をすると、新人は迷い、ベテランはやる気をなくす
  2. 人にレッテルを貼る — 「Aさんは指示待ちだからS1」と固定してしまう。成熟度はタスクごとに異なり、時間とともに変わる
  3. 委任型に移行しない — いつまでも手取り足取りだと、部下の自立を妨げる。「もう任せて大丈夫」と判断する基準を持つ
  4. 意欲低下を能力の問題と誤認する — 「できない」のではなく「やりたくない」状態を見逃すと、指示を増やすだけで逆効果になる

まとめ
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SLモデルの要点は「部下を変えるのではなく、自分の関わり方を変える」こと。同じ部下でもタスクが変われば成熟度は変わるし、成長に伴ってスタイルも移行する。「今この人にはどの関わり方が最適か」を常に問い続ける姿勢が、リーダーとしての柔軟さにつながる。