ひとことで言うと#
Goal(目標)→ Reality(現状)→ Options(選択肢)→ Will(意志)の4ステップで進めるコーチングの定番モデル。答えを教えるのではなく、質問を通じて相手自身に気づかせるのがポイント。1on1の「何を話せばいいかわからない」問題を一発で解決する。
押さえておきたい用語#
- Goal(ゴール)
- GROWのG。コーチングセッションで達成したい目標や理想の状態のこと。具体的であるほど後のステップが明確になる。
- Reality(リアリティ)
- GROWのR。目標に対する現在の状況や立ち位置のこと。事実ベースで正直に把握することが重要。
- Options(オプションズ)
- GROWのO。目標と現状のギャップを埋めるための選択肢や打ち手のこと。最低3つは出すのがコツ。
- Will(ウィル)
- GROWのW。選択肢の中から実際に行動することを本人が決め、コミットするステップを指す。
- コーチング
- 答えを教えるのではなく、質問を通じて相手自身に気づきと行動を引き出す対話手法のこと。GROWモデルはコーチングの代表的なフレームワーク。
GROWモデルの全体像#
こんな悩みに効く#
- 1on1がいつも雑談か進捗確認で終わってしまう
- 部下にアドバイスしても、なかなか行動に移してくれない
- コーチングに興味はあるが、具体的なやり方がわからない
基本の使い方#
まず「何を達成したいか」をクリアにする。
使える質問:
- 「今日のこの30分で、何が得られたら嬉しい?」
- 「3ヶ月後、どんな状態になっていたい?」
- 「理想の姿を具体的に描くと?」
コツ: 抽象的な目標(「成長したい」)を具体的にする(「自分一人でクライアントへの提案ができるようになりたい」)。ここが曖昧だと、後のステップが全部ぼやける。
目標に対して今どこにいるかを正直に見つめる。
使える質問:
- 「今の状況を10点満点で表すと何点?」
- 「目標に対して、今できていることは?」
- 「何が一番の障害になっている?」
- 「これまでに試したことは?」
コツ: ここはジャッジせずにただ聴く。「それはダメだね」ではなく「なるほど、そういう状況なんだね」と受け止める。現状を正確に認識することが、次のステップの質を決める。
目標と現状のギャップを埋める方法を複数出す。
使える質問:
- 「他にどんな方法が考えられる?」
- 「もし制約がなかったら何をする?」
- 「似た状況を乗り越えた人はどうしていた?」
- 「まだ試していないことは?」
コツ: 最低3つは選択肢を出す。1つ目は大抵「当たり前の答え」、2つ目で少し視野が広がり、3つ目あたりから本当に面白いアイデアが出る。リーダーが「こうしたら?」と提案するのは最後の手段。
選択肢の中から実際にやることを決め、コミットする。
使える質問:
- 「この中で、まず何から始める?」
- 「いつまでにやる?」
- 「実行する自信は10点中何点?」(7点以下ならハードルを下げる)
- 「サポートが必要なことはある?」
コツ: 本人が選んだ行動であることが重要。リーダーが決めた行動は「やらされ感」になる。自分で決めたことは、自分で責任を持つ。
具体例#
従業員12名の美容室「HAIR BLOOM」。オーナーの田中さんが、入社3年目のスタイリスト佐藤さんと月1回のコーチング面談を実施。
Goal(目標): 田中「次の3ヶ月で、どうなっていたい?」 佐藤「指名率を上げたいです。今は42%で、店の平均55%に届いていないので…55%まで持っていきたいです」 田中「55%になったら、何が変わる?」 佐藤「自信がつくし、売上も月8万円くらい上がるはずです」
Reality(現状): 田中「42%という数字、自分ではどう見てる?」 佐藤「新規のお客様がリピートしてくれないんです。技術には自信があるんですが…」 田中「これまで何か試した?」 佐藤「仕上がりの写真を丁寧に撮るようにしました。でもそれだけじゃ足りなくて」
Options(選択肢): 田中「他にどんな方法がありそう?」 佐藤「①カウンセリングの時間を今の5分から10分に伸ばす ②施術中にヘアケアのアドバイスをメモにして渡す ③SNSで自分のスタイル作品を発信する」 田中「制約なしで考えると?」 佐藤「④指名率が高い先輩の接客を1週間観察させてもらう…これが一番学べるかも」
Will(意志): 佐藤「まず④を今月やります。並行して②のメモも始めます」 田中「自信は?」 佐藤「9点。先輩にもうお願いしていいですか?」 田中「もちろん。来月の面談で変化を聞かせて」
→ 3ヶ月後、佐藤さんの指名率は**42%から58%**に。カウンセリングの質が変わったことで新規リピート率が大幅に改善。オーナーは一度もアドバイスしていない。質問だけで本人が答えを見つけた。
従業員80名のSaaS企業。開発マネージャーの木村さんが、入社2年目の中村さんと週次1on1。中村さんのコードレビュー通過率は30%(チーム平均65%)で、本人も悩んでいる。
Goal(目標): 木村「今日は何について話したい?」 中村「コードレビューの通過率を上げたいです。今は1回で通るのが30%。これを3ヶ月で70%にしたいです」 木村「70%になったら、日々の仕事はどう変わる?」 中村「手戻りが減って、1スプリントで2機能は多く出せるようになります」
Reality(現状): 木村「よく指摘されるポイントを分類すると?」 中村「命名規則が40%、エラーハンドリング漏れが35%、テスト不足が25%くらいです」 木村「これまでに何か対策した?」 中村「コーディング規約は読みましたが、実際のコードに落とし込めてなくて…」
Options(選択肢): 木村「改善するためにどんな方法がありそう?」 中村「①レビュー前にセルフチェックリストを作る ②先輩のPRを週3本読んで学ぶ ③ペアプログラミングをお願いする」 木村「他には?制約なしで考えると?」 中村「④過去3ヶ月の自分のレビューコメント87件を全部読み返して、パターンを分析する…これが一番効きそうかも」
Will(意志): 木村「どれから始める?」 中村「④をまず今週やります。そこで見つけたパターンをもとに①のチェックリストを来週作ります」 木村「実行できる自信は?」 中村「8点です。金曜の午後に2時間ブロックします」 木村「いいね。来週の1on1で進捗を聞かせて」
→ 1ヶ月後にチェックリストが定着し、通過率は**30%から52%に。3ヶ月後には73%**を達成。木村さんは一度もアドバイスしていない。質問だけで中村さん自身が解決策を見つけた。
病床数200の総合病院。看護師長の山本さんが、2年目看護師の鈴木さんと月2回のコーチング面談。鈴木さんは夜勤時の急変対応に不安を抱えている。
Goal(目標): 山本「今日のこの時間で、何が得られたら嬉しい?」 鈴木「夜勤で患者さんの急変があったとき、もっと落ち着いて動けるようになりたいです」 山本「具体的にはどんな状態?」 鈴木「急変対応の初動5分間で、BLS手順を見ずに実行できて、医師への報告をSBARで30秒以内に伝えられる状態です」
Reality(現状): 山本「今の自分を10点満点で表すと?」 鈴木「4点です。先月の急変時、頭が真っ白になってしまって…マニュアルを見ながら対応しました。先輩が来てくれなかったらと思うと怖いです」 山本「4点のうち、できている部分は?」 鈴木「バイタルの異常値には気づけます。気づいてから動くまでが遅いんです」
Options(選択肢): 山本「どうしたら自信がつきそう?」 鈴木「①シミュレーション研修に月2回参加する ②急変対応チェックカードを自作してポケットに入れておく ③夜勤前にSBARの練習を5分やる」 山本「もし何でもできるとしたら?」 鈴木「④救急外来に1ヶ月研修に行かせてもらう…実戦経験が一番足りないので。あと⑤急変対応が得意な中堅の田村さんと同じ夜勤シフトを3回組んでもらって、動きを間近で学ぶ」
Will(意志): 鈴木「まず②を今週作ります。③も明日の夜勤から始めます。⑤は師長に相談してもいいですか?」 山本「もちろん、シフト調整するね。自信は?」 鈴木「7点です。②と③は今日からできるので」 山本「7点か。何があれば8点になる?」 鈴木「田村さんが快く引き受けてくれたら8点です」
→ 2ヶ月後、鈴木さんは夜勤中の急変対応で初動5分以内にBLS開始、SBAR報告を25秒で完了。本人の自己評価は4点から8点に。看護師長は「こうしなさい」と一度も言わず、質問と環境調整だけで成長を支援した。
やりがちな失敗パターン#
- Goalを飛ばしてRealityから始める — 「最近どう?」から入ると愚痴大会になりがち。まず「今日何を得たいか」を決めることで、会話に方向性が生まれる
- Optionsで自分の答えを押しつける — 「こうすればいいんじゃない?」とリーダーが言ってしまうと、コーチングがティーチングになる。まず本人に3つ出させてから、どうしても必要なら「1つ追加してもいい?」と許可を取る
- Willが曖昧なまま終わる — 「頑張ります」で終わると何も変わらない。何を・いつまでに・どのレベルでやるかを具体的にする
- Realityで評価・ジャッジしてしまう — 「それは君の努力不足だよ」と言った瞬間、相手は本音を閉ざす。Realityフェーズでは事実の確認だけに徹する。「なるほど、そういう状況なんだね」と受け止めてから、Optionsに進む
まとめ#
GROWモデルは、コーチングの基本にして最強の型。Goal→Reality→Options→Willの4ステップを順に進めるだけで、相手が自分で答えを見つけて動き出す。「教える」のではなく「引き出す」。次の1on1で、まずGoalの質問から始めてみよう。