ひとことで言うと#
対立が起きたときの対処スタイルを 「自己主張性」と「協調性」 の2軸で5つに分類するモデル。競争・協調・回避・妥協・受容の5モードを状況に応じて使い分けることが、対立マネジメントの鍵になる。
押さえておきたい用語#
- 自己主張性(Assertiveness)
- 自分の意見や利益をどれだけ押し通そうとするかの度合い。高いほど自分の立場を優先する。
- 協調性(Cooperativeness)
- 相手の意見や利益をどれだけ満たそうとするかの度合い。高いほど相手の要望を重視する。
- 競争(Competing)
- 自己主張が高く協調性が低い対処スタイル。自分の立場を押し通すアプローチ。
- 協調(Collaborating)
- 自己主張も協調性も高いスタイル。双方の利益を最大化する解を探るアプローチで、Win-Winを目指す。
- 回避(Avoiding)
- 自己主張も協調性も低いスタイル。対立そのものから距離を取る対処法。
トーマス・キルマンの対立モードの全体像#
こんな悩みに効く#
- 対立が起きるといつも同じパターン(回避or競争)で対処してしまう
- チーム内の意見対立が感情的なぶつかり合いに発展しがち
- 「揉めたくないから黙っておく」が蔓延し、本音が出ない
基本の使い方#
TKI(Thomas-Kilmann Instrument)の診断ツールで自分の傾向を知る。多くの人には無意識のクセがある。
- 日本のマネージャーは「回避」「受容」が多い傾向
- 「いつも回避してしまう」と気づくだけで、次の選択肢が増える
5つのモードに優劣はない。場面ごとに最適なモードが異なる。
| モード | 使うべき場面 |
|---|---|
| 競争 | 安全に関わる判断、不正への対応 |
| 協調 | 重要な課題で双方の利益が大きい |
| 妥協 | 時間制約があり、暫定解が必要 |
| 回避 | 些細な問題、感情が高ぶりすぎている |
| 受容 | 自分が間違っていた場合、関係維持が優先 |
「今の議論、どのモードで臨む?」と明示的に確認する習慣をつける。
- 会議の冒頭で「今日は協調モードで全員のWin-Winを探そう」と宣言
- 議論が白熱したら「一旦回避モードに切り替えて、来週改めて議論しよう」とモード変更を提案
具体例#
状況: 従業員40名のSaaS企業。デザインチーム(5名)は「ユーザー体験を最優先にフルリニューアル」を主張。開発チーム(8名)は「技術負債の返済が先。リニューアルは半年後」と譲らない。
最初のアプローチ: 妥協(Compromising)
- 「半分だけリニューアルしよう」と折衷案を出したが、中途半端なUIが生まれ、ユーザー満足度が NPS -15 → -22 に悪化
切り替え: 協調(Collaborating)
- 両チーム合同で2時間のワークショップを実施
- 「ユーザーが最も困っている画面TOP3」と「技術負債が最もひどいモジュールTOP3」を重ね合わせた結果、3つのうち2つが一致していることが判明
- 「技術負債を返しながらUI改善もできる」箇所から着手する共通ロードマップを策定
3か月後、NPSは -22 → +8 に改善。デザインと開発の合同ランチが月1回定例化した。
状況: 化学プラント(従業員120名)。ベテラン作業員が「この手順のほうが早い」と安全マニュアルを無視した作業手順を若手に教えていた。
班長の判断: 競争(Competing)を選択
- 安全に関わる問題では妥協も回避もしてはいけないと判断
- 「手順を守らないなら作業を止めます」と明確に伝え、その場でラインを停止
- ベテラン作業員は反発したが、翌日の安全ミーティングで事故データを提示
| 項目 | マニュアル遵守時 | 独自手順時 |
|---|---|---|
| 作業時間 | 45分 | 32分 |
| ヒヤリハット発生率 | 0.3% | 2.1% |
| 過去3年の労災件数 | 0件 | 同様手順で他工場2件 |
データを見たベテラン作業員が自ら「マニュアルに従います」と表明。「安全に関しては競争モードが正解だった」と班長が後日の研修で共有し、全班長の判断基準として定着した。
状況: 子ども支援NPO(理事5名、職員8名)。理事の間で「地域密着で深く支援する派」と「オンラインで広く支援する派」が1年以上平行線。
フェーズ1: 回避(Avoiding)から脱出
- 事務局長が「この対立を放置すると来年度の予算が組めない」と期限を設定
- 回避モードのままだと組織が機能停止すると全員で認識
フェーズ2: 協調(Collaborating)を試みる
- 外部ファシリテーターを招き、「受益者にとって最善は何か」を軸に議論
- 3時間のワークショップで、地域拠点 3か所 を維持しつつ、オンライン相談窓口を新設する案が浮上
フェーズ3: 受容(Accommodating)の場面
- オンライン担当の理事が「地域拠点の予算を削らない」という条件を受け入れ、初年度はオンラインを小規模でスタートすることに同意
翌年度のオンライン相談利用者は 月120件 に達し、うち 38% が地域拠点への来所につながった。両派が「やってよかった」と評価。
やりがちな失敗パターン#
- 「協調」だけが正解だと思い込む — Win-Winは理想だが、時間も労力もかかる。些細な問題に毎回協調モードで臨むと疲弊する。回避や受容が適切な場面もある
- 自分のデフォルトモードに気づかない — 無意識に競争ばかり、回避ばかりを選んでいると、チームの信頼を失う。まず自覚することがスタート
- モードの切り替えを怠る — 最初に選んだモードが機能しないとき、固執せず別のモードに切り替える柔軟さが必要
- 対立を「悪いこと」として避ける — 健全な対立はイノベーションの源泉。対立そのものを排除するのではなく、処理の仕方を変える
まとめ#
トーマス・キルマンの5つの対立モードに優劣はない。大切なのは、状況に合ったモードを意図的に選べること。自分のデフォルトモードを知り、チーム内で「今はどのモードで臨もう?」と共有するだけで、感情的なぶつかり合いが建設的な議論に変わる。