ひとことで言うと#
業界内の企業を2つの戦略的特性(価格帯と製品ライン幅、地理的範囲と垂直統合度など)を軸にした2次元マップに配置し、戦略が類似する企業をグループとして囲むことで、業界の競争構造を一目で把握するフレームワーク。マイケル・ポーターが『競争の戦略』で提唱した。同じグループ内の企業は最も激しく競合し、グループ間には移動障壁がある。
押さえておきたい用語#
- 戦略グループ(Strategic Group)
- 同じ業界内で類似した戦略を採用している企業の集合。価格帯、品質水準、ターゲット顧客、流通チャネルなどが近い企業同士がグループを形成する。
- 移動障壁(Mobility Barrier)
- あるグループから別のグループに移る際に立ちはだかるコストや能力の壁。ブランド構築の時間、技術開発の投資、チャネル構築のコストなどが該当。
- 戦略的特性(Strategic Dimension)
- マップの軸として使う企業の戦略を特徴づける変数。業界によって適切な軸は異なる。
- 空白スペース(White Space)
- マップ上に企業が存在しない領域。未開拓の戦略ポジションが潜んでいる可能性がある一方、構造的に成立しない場合もある。
戦略グループマップの全体像#
こんな悩みに効く#
- 「業界の競合」を漠然と捉えていて、直接のライバルと間接的な競合を区別できていない
- 自社のポジションが業界全体の中でどこに位置するか、客観的に把握したい
- 新規参入や戦略転換を検討する際に、空いているポジションがないか探したい
- 同じグループ内の競争が激化していて、グループ外に移動する選択肢を検討したい
基本の使い方#
業界内で企業の戦略を最もよく区別できる変数を2つ選ぶ。
- よく使われる軸: 価格帯、製品ラインの幅、地理的範囲、垂直統合度、技術力、ブランド力、チャネル戦略
- 相関が低い2つの軸を選ぶことがポイント。相関が高い軸を選ぶと企業が対角線上に並んでしまい、グループの識別が困難になる
- 不確かな場合は、3〜4パターンの軸の組み合わせで描いてみて、最もグループが鮮明に分かれるものを採用する
業界の主要企業を10〜20社程度選び、2つの軸に沿ってマップ上に配置する。
- 各企業の円の大きさで売上規模や市場シェアを表現すると情報量が増える
- 正確な座標よりも、企業間の相対的な位置関係が重要
- 自社を目立つ色で配置し、最も近い競合がどこかを確認する
位置が近い企業群を円や楕円で囲み、グループ名を付ける。
- 1つのグループに2〜5社が含まれるのが典型的
- 孤立している企業はユニークな戦略を持っているか、中途半端なポジションにいる
- グループ間の距離が移動障壁の大きさを暗示する
マップ上の構造を分析し、戦略的な示唆を読み取る。
- 空白スペース: なぜそこに企業がいないのか。構造的に成立しないのか、まだ誰も挑戦していないだけか
- グループ内の競争強度: 同じグループ内の企業数が多いほど競争は激しい
- グループ間の移動: 移動障壁を越えるコストと、移動先の収益性を比較する
- 時系列変化: 3年前・5年前のマップと比較し、企業やグループの移動トレンドを読む
具体例#
クラフトビールメーカー(年商2億円)がビール業界の戦略グループマップを描いた。軸は「価格帯(縦軸)」×「流通チャネルの幅(横軸)」。
描かれたグループ:
- グループA(大手メーカー3社): 中〜低価格×全チャネル。量販店・コンビニ・飲食店に全面展開
- グループB(輸入ビール5銘柄): 高価格×限定チャネル。百貨店・専門酒販店中心
- グループC(クラフトビール12社): 高価格×極狭チャネル。直売所・通販・特定飲食店のみ
自社はグループCの端にいた。空白スペースとして浮かび上がったのは「中価格帯×中程度のチャネル幅」。つまりスーパーマーケットで日常的に買えるクラフトビールのポジションだった。
330ml缶・税込350円の新ラインを開発。地元スーパー15チェーンに配荷を獲得した。大手のような全国展開はせず、半径100km圏に限定することで物流コストを抑え、利益率を確保。新ラインの売上は初年度で8,000万円に達し、全社売上は2億円→2.8億円に成長した。
従業員8名のWeb制作会社。戦略グループマップを「案件単価(縦軸)」×「提供サービスの範囲(横軸)」で描いた。
- グループA(大手代理店系): 高単価×フルサービス(戦略〜制作〜運用)
- グループB(中堅制作会社): 中単価×制作特化
- グループC(フリーランス・小規模): 低単価×制作特化
自社はグループCの上端に位置していた。平均案件単価は80万円。同グループ内には競合が30社以上ひしめき合い、価格競争が激しかった。
グループBを飛び越えてグループAの下端に移動する戦略を選択。移動障壁は「戦略コンサルティング能力」だった。
施策:
- 社員2名をUXリサーチとマーケティング戦略に再教育(6か月間の研修投資300万円)
- サービス名を「Web制作」から「デジタル戦略パートナー」に変更
- 事前の戦略ワークショップ(有料30万円)を必須プロセスに組み込み
1年後、平均案件単価は80万円→250万円に上昇。案件数は減ったが、売上は6,400万円→1億円に成長。同時に旧グループCの価格競争から完全に脱出できた。
首都圏で訪問介護を展開する事業者(スタッフ60名、年商4億円)。競争が激しくなり、新規利用者の獲得が難しくなっていた。
介護サービス業界の戦略グループマップを「サービスの専門性(縦軸)」×「対応エリアの広さ(横軸)」で描いた。
- グループA(大手チェーン3社): 汎用サービス×広域展開
- グループB(中規模事業者8社): 汎用サービス×中域展開 ←自社はここ
- グループC(専門特化2社): 認知症ケア特化×狭域展開
自社がいるグループBには8社がひしめき合い、ケアマネージャーからの紹介を奪い合っていた。一方、グループCは2社しかなく、利用者の待機列ができているほど需要が供給を上回っていた。
認知症ケアに特化する移動を決断:
- 認知症ケア専門研修を全スタッフに実施(費用400万円)
- 認知症ケア専門士の資格取得を会社負担で支援し、1年で12名が取得
- サービスエリアを3区に絞り、密度を上げて即応力を強化
2年後、認知症ケア専門のブランドが地域で認知され、ケアマネージャーからの指名紹介率は15%→52%に上昇。利用者単価も汎用サービス時代より25%高い水準を維持し、年商は4億円→5.2億円に成長した。
やりがちな失敗パターン#
- 軸の選定を適当にする — 業界の競争構造を反映しない軸を選ぶと、グループが不自然に分かれる(または分かれない)。複数の軸の組み合わせを試してから決定する
- 自社グループ内の競合だけを見る — 同じグループ内が最大の競争相手ではあるが、グループを超えた移動や新規グループの出現も見逃さない
- 空白スペースを無条件に「チャンス」と判断する — そのポジションに企業がいないのには理由があることも多い。構造的に利益が出ないのか、まだ誰も試していないだけなのかを見極める
- 静的な1枚で満足する — 企業の戦略は変化する。年次でマップを更新し、グループの移動トレンドを追跡する
まとめ#
戦略グループマップは、業界内の企業を2つの戦略的特性でプロットし、類似戦略の企業をグループとして囲むことで、競争構造を一目で把握するフレームワークだ。描くことで「自社の最も直接的な競合は誰か」「グループ間の移動障壁は何か」「空いているポジションはあるか」が明確になる。最も重要な判断は**「今のグループにとどまるか、別のグループに移動するか」**。グループ内の競争が激化しているなら、移動障壁を越えるコストを払ってでも別のポジションを取ることが、長期的な収益性を守る選択になり得る。