マッキンゼー7Sモデル

英語名 McKinsey 7S Framework
読み方 マッキンゼー セブンエス フレームワーク
難易度
所要時間 2〜4時間
提唱者 Tom Peters & Robert Waterman(McKinsey, 1980年代)
目次

ひとことで言うと
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Strategy(戦略)、Structure(組織構造)、Systems(制度)、Shared Values(共有価値観)、Style(経営スタイル)、Staff(人材)、Skills(スキル) の7つのSで組織を診断するフレームワーク。マッキンゼーのトム・ピーターズとロバート・ウォーターマンが提唱した。戦略だけ変えても組織は変わらない——7つの要素が揃って初めて戦略が機能するという考え方。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
ハードのS(Hard S)
Strategy・Structure・Systemsの3つ。経営判断で比較的短期間に変更できる要素を指す。
ソフトのS(Soft S)
Shared Values・Style・Staff・Skillsの4つ。人や文化に関わるため、変更に時間がかかる要素。変革の成否を左右するのは多くの場合こちら側。
Shared Values(シェアード バリューズ)
組織の中心に位置する共有された価値観・理念。7Sモデルの図では中央に配置され、他の6つのSすべてに影響を与える。
整合性(Alignment)
7つのSが矛盾なく噛み合っている状態のこと。1つのSを変えたとき、他のSとの整合性が崩れていないかを確認するのが7S分析の核心。

マッキンゼー7Sモデルの全体像
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7Sモデル:中心の共有価値観と6つの要素が相互に影響し合う
Shared Values共有価値観ハードのSStrategy ─ 戦略競争優位を築く方針Structure ─ 組織構造指揮命令系統・部門構成Systems ─ 制度評価・会計・意思決定プロセスソフトのSStyle ─ 経営スタイルリーダーシップ・社風Staff ─ 人材採用・育成・配置Skills ─ スキル組織の強み・能力
7S分析の進め方フロー
1
7要素を棚卸し
各Sの現状を書き出す
2
整合性を診断
要素間の矛盾・ズレを特定
3
あるべき姿を描く
理想の7Sバランスを定義
アクションプラン
ズレを埋める施策を実行

こんな悩みに効く
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  • 戦略は正しいはずなのに、なぜか実行がうまくいかない
  • M&Aや組織再編の後、何から手をつければいいかわからない
  • 組織のどこにボトルネックがあるのか特定できない

基本の使い方
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7つのSの現状を棚卸しする

まず各要素について「今どうなっているか」を事実ベースで書き出す。

  • Strategy: 何で勝とうとしているか?差別化の方向性は?
  • Structure: 事業部制?マトリクス組織?レポートラインは?
  • Systems: 評価制度、予算配分、意思決定プロセスは?
  • Shared Values: 社員が本当に大事にしている価値観は?(掲げているものではなく)
  • Style: トップダウン?ボトムアップ?会議はどう進む?
  • Staff: どんな人材がいる?足りないのは?離職率は?
  • Skills: 組織として何が得意?何ができない?
要素間の整合性を診断する

7つの要素を21ペア(7C2=21)でクロスチェックする。全ペアを見る必要はなく、明らかにズレている組み合わせに集中する。

  • Strategy × Structure: 「イノベーション戦略」なのに「縦割り組織」→ 矛盾
  • Systems × Staff: 「挑戦を奨励」なのに「減点主義の評価」→ 矛盾
  • Shared Values × Style: 「顧客第一」と言いながら内部報告に時間の70%→ 矛盾
あるべき姿を定義し、ギャップを埋める
ズレが見つかったら、「どちらに合わせるか」を決める。基本は Shared Values(共有価値観)を起点に、他の6つを揃えていく。ハードのS(Strategy・Structure・Systems)は比較的早く変えられるが、ソフトのS(Style・Staff・Skills)は時間がかかるため、先に着手する。

具体例
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例1:急成長ベンチャーが組織崩壊の予兆を診断する

背景: 従業員が1年で50名→180名に急拡大したフィンテック企業。離職率が前年比3倍に悪化

S現状問題
Strategy「スピード最優先」で市場シェア拡大
Structureフラット組織(マネージャー不在)180名でフラットは限界
Systems評価制度なし。昇給は社長の裁量不公平感が離職の主因
Shared Values「自由と自律」人によって解釈がバラバラ
Style創業者のカリスマ型リーダーシップ社長が全員を見きれない
Staffエンジニア偏重。マネジメント人材ゼロミドルマネジメントの空白
Skillsプロダクト開発力は業界トップクラス組織運営のノウハウ皆無

最大のズレ: Strategy(スピード拡大)× Structure(フラット維持)× Systems(評価制度なし)。戦略に組織が追いついていない。

対策として、まずStructureにミドルマネージャー層を新設し、外部から経験者を3名採用。Systemsには四半期ごとのOKR評価を導入した。6ヶ月後、離職率は 月4.2%→1.8% に改善。

例2:老舗メーカーがDX戦略を打ち出したが現場が動かない

背景: 従業員1,200名の化学メーカー。中期経営計画で「DXによる生産性30%向上」を掲げたが、1年経っても進捗率8%

S掲げていること実態
StrategyDXで生産性30%向上現場は「また上のお題」と冷めている
StructureDX推進室を新設(5名)既存の製造部門と権限が曖昧
SystemsDX関連のKPIを設定評価制度は従来のまま。DXに時間を使っても評価されない
Shared Values「品質と安全が第一」DX=効率化=品質低下という誤解が蔓延
Styleトップダウン。工場長の権限が強い工場長がDXに懐疑的
Staff平均年齢48歳。IT人材は情シス3名のみデジタルリテラシーの底上げが必要
Skills製造プロセスの匠の技データ分析・デジタルスキルが不足

7S分析で浮かび上がったのは、ハードのS(Strategy)だけ変えて、ソフトのS(Style・Staff・Skills)を放置しているという構図。

改善の順序:

  1. Systems: DX貢献を評価項目に追加(全体の20%)
  2. Staff/Skills: 全社員向けDXリテラシー研修(年40時間)を義務化
  3. Style: 最も影響力のある工場長をDX推進室の「顧問」に任命し当事者化
  4. Shared Values: 「品質のためのDX」とリフレーミング。品質向上事例を月次で共有

取り組み開始から8ヶ月後、DX進捗率は 8%→47% に。工場長自らがタブレットで品質データを確認する姿が、現場の空気を変えた。

例3:NPO法人が助成金依存から脱却を図る

背景: 設立12年の教育系NPO。年間予算8,000万円のうち75%が助成金。助成金の採択率が年々低下し、3年後の存続が危うい

S現状あるべき姿
Strategy助成金申請が「戦略」になっている自主事業収入50%を目指す
Structureプロジェクト単位。事業開発の担当なし事業開発チームを新設
Systems助成金の報告書作成に工数の30%を消費報告業務を効率化し事業開発に充てる
Shared Values「教育で社会を変える」変えない。これが核
Style合議制。全員の合意がないと動けない事業判断は代表に権限委譲
Staff教育のプロ揃い。ビジネス経験者ゼロ事業開発経験者を1名採用
Skillsプログラム設計力は高い値付け・営業・マーケティングが弱い

Shared Values(教育で社会を変える)を中心に据えつつ、Strategy(自主事業拡大)に合わせてStructure・Staff・Skillsを再設計。企業向け研修プログラムを新規開発し、初年度で 売上1,200万円(全体の15%)を達成。助成金依存率は75%→62%に低下した。合議制を一部緩和したことで意思決定スピードも上がり、提案から実行までの期間が平均4ヶ月→1.5ヶ月に短縮。

やりがちな失敗パターン
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  1. ハードのSだけ変えてソフトのSを無視する — 戦略や組織図を変えても、人の行動や文化が変わらなければ元に戻る。変革の本丸はソフトのSにある
  2. Shared Valuesを「掲げている理念」で書いてしまう — 壁に貼ってある理念ではなく、「社員が本当に日々の判断基準にしている価値観」を書くこと。建前と本音のギャップこそが問題の根源であることが多い
  3. 7要素を並列に扱ってしまう — 7つのSは対等ではない。Shared Valuesが中心にあり、残り6つはそこから整合性を取る。中心を決めずに個別最適を進めると、かえってバラバラになる
  4. 一度やって「診断完了」とする — 組織は常に変化する。戦略が変われば7Sのバランスも変わる。四半期に一度は見直して、ズレが広がっていないか確認する

まとめ
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7Sモデルの核心は「戦略だけでは組織は変わらない」という洞察にある。戦略(Strategy)を変えるなら、組織構造(Structure)も、評価制度(Systems)も、人材(Staff)も、スキル(Skills)も、経営スタイル(Style)も一緒に揃えなければならない。そして、すべての起点になるのが中心の共有価値観(Shared Values)。7つの歯車が噛み合って初めて、組織は戦略どおりに動き出す。