ひとことで言うと#
Strategy(戦略)、Structure(組織構造)、Systems(制度)、Shared Values(共有価値観)、Style(経営スタイル)、Staff(人材)、Skills(スキル) の7つのSで組織を診断するフレームワーク。マッキンゼーのトム・ピーターズとロバート・ウォーターマンが提唱した。戦略だけ変えても組織は変わらない——7つの要素が揃って初めて戦略が機能するという考え方。
押さえておきたい用語#
- ハードのS(Hard S)
- Strategy・Structure・Systemsの3つ。経営判断で比較的短期間に変更できる要素を指す。
- ソフトのS(Soft S)
- Shared Values・Style・Staff・Skillsの4つ。人や文化に関わるため、変更に時間がかかる要素。変革の成否を左右するのは多くの場合こちら側。
- Shared Values(シェアード バリューズ)
- 組織の中心に位置する共有された価値観・理念。7Sモデルの図では中央に配置され、他の6つのSすべてに影響を与える。
- 整合性(Alignment)
- 7つのSが矛盾なく噛み合っている状態のこと。1つのSを変えたとき、他のSとの整合性が崩れていないかを確認するのが7S分析の核心。
マッキンゼー7Sモデルの全体像#
こんな悩みに効く#
- 戦略は正しいはずなのに、なぜか実行がうまくいかない
- M&Aや組織再編の後、何から手をつければいいかわからない
- 組織のどこにボトルネックがあるのか特定できない
基本の使い方#
まず各要素について「今どうなっているか」を事実ベースで書き出す。
- Strategy: 何で勝とうとしているか?差別化の方向性は?
- Structure: 事業部制?マトリクス組織?レポートラインは?
- Systems: 評価制度、予算配分、意思決定プロセスは?
- Shared Values: 社員が本当に大事にしている価値観は?(掲げているものではなく)
- Style: トップダウン?ボトムアップ?会議はどう進む?
- Staff: どんな人材がいる?足りないのは?離職率は?
- Skills: 組織として何が得意?何ができない?
7つの要素を21ペア(7C2=21)でクロスチェックする。全ペアを見る必要はなく、明らかにズレている組み合わせに集中する。
- Strategy × Structure: 「イノベーション戦略」なのに「縦割り組織」→ 矛盾
- Systems × Staff: 「挑戦を奨励」なのに「減点主義の評価」→ 矛盾
- Shared Values × Style: 「顧客第一」と言いながら内部報告に時間の70%→ 矛盾
具体例#
背景: 従業員が1年で50名→180名に急拡大したフィンテック企業。離職率が前年比3倍に悪化
| S | 現状 | 問題 |
|---|---|---|
| Strategy | 「スピード最優先」で市場シェア拡大 | ─ |
| Structure | フラット組織(マネージャー不在) | 180名でフラットは限界 |
| Systems | 評価制度なし。昇給は社長の裁量 | 不公平感が離職の主因 |
| Shared Values | 「自由と自律」 | 人によって解釈がバラバラ |
| Style | 創業者のカリスマ型リーダーシップ | 社長が全員を見きれない |
| Staff | エンジニア偏重。マネジメント人材ゼロ | ミドルマネジメントの空白 |
| Skills | プロダクト開発力は業界トップクラス | 組織運営のノウハウ皆無 |
最大のズレ: Strategy(スピード拡大)× Structure(フラット維持)× Systems(評価制度なし)。戦略に組織が追いついていない。
対策として、まずStructureにミドルマネージャー層を新設し、外部から経験者を3名採用。Systemsには四半期ごとのOKR評価を導入した。6ヶ月後、離職率は 月4.2%→1.8% に改善。
背景: 従業員1,200名の化学メーカー。中期経営計画で「DXによる生産性30%向上」を掲げたが、1年経っても進捗率8%
| S | 掲げていること | 実態 |
|---|---|---|
| Strategy | DXで生産性30%向上 | 現場は「また上のお題」と冷めている |
| Structure | DX推進室を新設(5名) | 既存の製造部門と権限が曖昧 |
| Systems | DX関連のKPIを設定 | 評価制度は従来のまま。DXに時間を使っても評価されない |
| Shared Values | 「品質と安全が第一」 | DX=効率化=品質低下という誤解が蔓延 |
| Style | トップダウン。工場長の権限が強い | 工場長がDXに懐疑的 |
| Staff | 平均年齢48歳。IT人材は情シス3名のみ | デジタルリテラシーの底上げが必要 |
| Skills | 製造プロセスの匠の技 | データ分析・デジタルスキルが不足 |
7S分析で浮かび上がったのは、ハードのS(Strategy)だけ変えて、ソフトのS(Style・Staff・Skills)を放置しているという構図。
改善の順序:
- Systems: DX貢献を評価項目に追加(全体の20%)
- Staff/Skills: 全社員向けDXリテラシー研修(年40時間)を義務化
- Style: 最も影響力のある工場長をDX推進室の「顧問」に任命し当事者化
- Shared Values: 「品質のためのDX」とリフレーミング。品質向上事例を月次で共有
取り組み開始から8ヶ月後、DX進捗率は 8%→47% に。工場長自らがタブレットで品質データを確認する姿が、現場の空気を変えた。
背景: 設立12年の教育系NPO。年間予算8,000万円のうち75%が助成金。助成金の採択率が年々低下し、3年後の存続が危うい
| S | 現状 | あるべき姿 |
|---|---|---|
| Strategy | 助成金申請が「戦略」になっている | 自主事業収入50%を目指す |
| Structure | プロジェクト単位。事業開発の担当なし | 事業開発チームを新設 |
| Systems | 助成金の報告書作成に工数の30%を消費 | 報告業務を効率化し事業開発に充てる |
| Shared Values | 「教育で社会を変える」 | 変えない。これが核 |
| Style | 合議制。全員の合意がないと動けない | 事業判断は代表に権限委譲 |
| Staff | 教育のプロ揃い。ビジネス経験者ゼロ | 事業開発経験者を1名採用 |
| Skills | プログラム設計力は高い | 値付け・営業・マーケティングが弱い |
Shared Values(教育で社会を変える)を中心に据えつつ、Strategy(自主事業拡大)に合わせてStructure・Staff・Skillsを再設計。企業向け研修プログラムを新規開発し、初年度で 売上1,200万円(全体の15%)を達成。助成金依存率は75%→62%に低下した。合議制を一部緩和したことで意思決定スピードも上がり、提案から実行までの期間が平均4ヶ月→1.5ヶ月に短縮。
やりがちな失敗パターン#
- ハードのSだけ変えてソフトのSを無視する — 戦略や組織図を変えても、人の行動や文化が変わらなければ元に戻る。変革の本丸はソフトのSにある
- Shared Valuesを「掲げている理念」で書いてしまう — 壁に貼ってある理念ではなく、「社員が本当に日々の判断基準にしている価値観」を書くこと。建前と本音のギャップこそが問題の根源であることが多い
- 7要素を並列に扱ってしまう — 7つのSは対等ではない。Shared Valuesが中心にあり、残り6つはそこから整合性を取る。中心を決めずに個別最適を進めると、かえってバラバラになる
- 一度やって「診断完了」とする — 組織は常に変化する。戦略が変われば7Sのバランスも変わる。四半期に一度は見直して、ズレが広がっていないか確認する
まとめ#
7Sモデルの核心は「戦略だけでは組織は変わらない」という洞察にある。戦略(Strategy)を変えるなら、組織構造(Structure)も、評価制度(Systems)も、人材(Staff)も、スキル(Skills)も、経営スタイル(Style)も一緒に揃えなければならない。そして、すべての起点になるのが中心の共有価値観(Shared Values)。7つの歯車が噛み合って初めて、組織は戦略どおりに動き出す。