ひとことで言うと#
新規事業やスタートアップのアイデアを**7つの領域(ドメイン)**で体系的に評価するフレームワーク。「市場は魅力的か」「業界構造は有利か」「チームに実行力はあるか」を、マクロ・ミクロの両面から検証し、致命的な見落としを事前に防ぐためのチェックリスト。
押さえておきたい用語#
- マクロ市場(Market Domain - Macro)
- 参入しようとする市場全体の規模・成長性・トレンド。大きく成長している市場なのか、縮小している市場なのかを見る。
- ミクロ市場(Market Domain - Micro)
- ターゲットとする特定セグメントの顧客ニーズと行動。「買いたい」と言う人が本当にいるか、お金を払う意欲があるかを確認する。
- マクロ業界(Industry Domain - Macro)
- ポーターの5フォースなどで測る業界構造の魅力度。参入障壁、競合の激しさ、代替品の脅威など。
- チームドメイン
- 創業チームや事業推進チームの能力・経験・ネットワーク・コミットメント。同じアイデアでもチーム次第で成否が分かれる。
7ドメインモデルの全体像#
こんな悩みに効く#
- 新規事業のアイデアに自信はあるが、客観的に評価する基準がない
- ビジネスプランコンテストに応募するが、弱点がどこかわからない
- 投資先の選定に使える体系的な評価軸が欲しい
基本の使い方#
まず「市場」の魅力度を2つのレベルで確認する。
- マクロ: 市場全体の規模(TAM)、成長率、トレンド。公開データ・業界レポートで確認
- ミクロ: ターゲット顧客に直接会い、ニーズの強さと支払意欲を検証する
- マクロが大きくてもミクロで「お金を払う顧客がいない」なら致命的
次に「業界構造」の有利さを確認する。
- マクロ: 5フォース分析で業界の収益構造を把握。利益を上げやすい業界か?
- ミクロ(差別化): 自社の提供する価値は競合と何が違うか?その違いは持続するか?
- 業界が魅力的でも、差別化できなければ価格競争に巻き込まれる
最も見落とされがちだが最も重要な領域。
- ミッション: なぜこの事業をやるのか。困難があっても続ける覚悟はあるか
- 実行力: この事業を成功させるためのスキル・経験がチームにあるか。足りないスキルを補える人材は確保できるか
- つながり: 仕入先、販路、キーパーソンとのネットワーク。ゼロからだと時間がかかるものがある
具体例#
状況: 会社員2人がペット向けの手作りフード宅配サービスを起業しようとしている
7ドメイン評価:
| ドメイン | 評価 | 理由 |
|---|---|---|
| 1. 市場マクロ | ◎ | ペット食品市場は年率8%成長。飼い主の高齢化で「手間なく高品質」のニーズ拡大 |
| 2. 業界マクロ | ○ | 大手の寡占ではあるが、D2C新興ブランドの参入余地はある |
| 3. ターゲット顧客 | ◎ | インタビュー20名中15名が「月5,000円なら試す」と回答 |
| 4. 差別化 | ○ | 獣医監修のレシピ。ただし模倣は比較的容易 |
| 5. ミッション | ◎ | 2人とも元ペット業界勤務で強い思い入り |
| 6. 実行力 | △ | マーケティング経験がない。物流・製造のノウハウも不足 |
| 7. つながり | △ | 食品工場や物流パートナーの候補がまだない |
判断: 市場とミッションは強いが、実行力とつながりに弱点。条件付きGo — マーケティング経験者の追加採用と、OEM工場のパートナーシップ締結を起業前の条件とした。
状況: 自動車部品メーカーの社内ベンチャー制度で提案された「工場見学をマッチングするWebプラットフォーム」の評価
7ドメイン評価:
| ドメイン | 評価 | 理由 |
|---|---|---|
| 1. 市場マクロ | △ | 工場見学市場は小さい(年間推定50億円程度) |
| 2. 業界マクロ | ○ | 既存プレイヤーがほぼいない(ブルーオーシャン) |
| 3. ターゲット顧客 | △ | ヒアリング結果、「見学したい」企業は多いが「お金を払いたい」企業は少ない |
| 4. 差別化 | ○ | 自社の工場ネットワークを活用できる |
| 5. ミッション | ○ | 製造業の魅力発信に共感するメンバー |
| 6. 実行力 | △ | Web開発経験がチームにない |
| 7. つながり | ◎ | 取引先250社のネットワークが既にある |
判断: No-Go。市場規模が小さく、顧客の支払意欲が弱い。つながりは強いが、それだけでは事業として成立しない。アイデアをピボットし、「工場DX診断サービス」(既存のつながりと製造知識を活かし、支払意欲の高い顧客課題に切り替え)として再提案した。
状況: 兼業農家(みかん栽培)が、観光農園+農泊を始めたいと考えている
7ドメイン評価:
| ドメイン | 評価 | 理由 |
|---|---|---|
| 1. 市場マクロ | ◎ | 農泊・グリーンツーリズム市場は年率15%成長。インバウンド需要も追い風 |
| 2. 業界マクロ | ○ | 地域に同業者は少ない。ただし参入障壁は低い |
| 3. ターゲット顧客 | ◎ | SNS調査で「みかん狩り+農泊」への関心が高い層を確認 |
| 4. 差別化 | ○ | 50年のみかん栽培ノウハウ。ただし「農泊」自体は差別化が弱い |
| 5. ミッション | ◎ | 地域の農業を次世代に残したいという強い志 |
| 6. 実行力 | △ | 接客・集客の経験がない |
| 7. つながり | ○ | 地元の観光協会・JA・旅館との関係あり |
判断: 条件付きGo。差別化を強化するため「みかん畑でのグランピング体験」に特化(ただの農泊ではなく体験型に差別化)。接客スキルは観光協会の研修プログラムで補う。初年度は週末のみの営業からスタートしてリスクを抑える方針。
やりがちな失敗パターン#
- 市場の魅力度だけで判断する — 「市場が大きい=成功する」ではない。業界構造が悪ければ利益が出ず、チームが弱ければ実行できない。7ドメインすべてを見る
- ミクロ検証をスキップする — マクロデータで「市場は成長中」と確認しただけで安心するのは危険。実際にお金を払う顧客が存在するかはインタビューでしかわからない
- チームの弱点を楽観視する — 「やりながら学ぶ」は美しいが、致命的なスキル不足は事業を殺す。足りないスキルの補い方を事前に具体的に計画する
- 1ドメインの強みで他の弱点をカバーできると思う — 「チームは最強だから市場が小さくても大丈夫」とはならない。各ドメインには最低ラインがあり、それを下回れば他がいくら強くても致命傷になる
まとめ#
7ドメインモデルの価値は「情熱だけで突っ込まない」ための冷静なチェック機能にある。新規事業には「やりたい」という熱量が不可欠だが、それだけでは足りない。市場・業界・チームの7領域を1つずつ検証し、致命的な穴がないかを確認してから踏み出す方が、結果として成功確率は上がる。すべてが◎である必要はないが、致命的な×が1つでもあればそれを解消してから進むべきだ。「準備をしすぎて動けない」のも問題だが、「検証なしに動く」のはもっと大きな問題になる。