ひとことで言うと#
**Vision(ビジョン)・Values(価値観)・Methods(方法)・Obstacles(障害)・Measures(指標)**の5要素で目標を構造化するフレームワーク。Salesforce創業者マーク・ベニオフが「全社員が同じ方向を向くために必要な1枚の文書」として考案し、創業初日から現在まで使い続けている。
押さえておきたい用語#
- Vision(ビジョン)
- 何を達成したいかを一文で表した到達目標。全員が暗唱できるシンプルさが求められる。
- Values(バリュー)
- ビジョンを達成する過程で最も大切にする価値観。優先順位をつけることが重要。
- Methods(メソッド)
- ビジョンを達成するための具体的なアクションのリスト。「何をやるか」と「何をやらないか」を明確にする。
- Obstacles(オブスタクル)
- ビジョン達成を阻む障害やリスク。事前に特定することで対策を打てる状態にしておく。
- Measures(メジャー)
- 進捗を測る定量的な指標。数字で測れるものだけを記載する。
V2MOMの全体像#
こんな悩みに効く#
- OKRやKPIを設定しているが、部門間でバラバラの方向を向いている
- 戦略はあるが、具体的な行動に落ちていない
- 「何を優先すべきか」の判断基準がチームによって異なる
基本の使い方#
全社V2MOMがすべての起点になる。CEOが書き、全社に公開する。
- Vision: 一文で。「○○を通じて△△を実現する」
- Values: 3〜5個。順番が優先順位を示す
- Methods: 5〜10個の具体的なアクション。「やらないこと」も明記
- Obstacles: ビジョン達成を阻む3〜5個のリスク
- Measures: 5〜8個の数値指標
Salesforceでは全社V2MOMは毎年1月に発表され、ベニオフ自身が全社ミーティングで説明する。
全社V2MOMを起点に、各部門のV2MOを作成。さらにチーム→個人へ展開する。
- 部門のVisionは全社のMethodsの1つから導かれる
- 個人のV2MOMは「自分がこの四半期で何に集中するか」を明確にする
- 全員のV2MOMが全社V2MOMに紐づいていることが重要
Salesforceでは全社員のV2MOMが社内システムで公開されており、誰でも閲覧できる。
V2MOMは「書いて終わり」ではない。
- 四半期ごとにMeasuresの進捗を確認する
- 外部環境が変わった場合はMethodsやObstaclesを更新する
- Visionは年間を通じて不変が原則。頻繁に変えると組織がブレる
- 進捗が悪い場合は「Obstaclesの見積もりが甘かった」か「Methodsが適切でなかった」かを分析する
具体例#
Salesforceは創業以来、毎年V2MOMを策定している。マーク・ベニオフのV2MOMが全社の起点。
2024年度(推定)の全社V2MOMの構造:
| 要素 | 内容(概要) |
|---|---|
| Vision | AI + Data + CRMで顧客の成功を実現する世界No.1プラットフォーム |
| Values | 1. 顧客の成功 2. イノベーション 3. 信頼 4. 平等 5. サステナビリティ |
| Methods | Einstein AIの全製品統合 / Data Cloud の拡大 / パートナーエコシステムの強化 / 営業効率の改善 |
| Obstacles | AIへの顧客の不安 / 競合の追い上げ / マクロ経済の不透明さ |
| Measures | ARR成長率 / NRR(純収益維持率) / AI機能のアダプション率 / 顧客満足度スコア |
このV2MOMが全世界 7万人以上 の社員のV2MOMの起点となり、全員が同じ方向を向く仕組みになっている。ベニオフは「V2MOMなしにSalesforceは経営できない」と公言している。
BtoB SaaS企業(従業員50名)。営業部門は「新規顧客の獲得」、プロダクト部門は「既存機能の改善」に集中しており、方向性がバラバラだった。
CEOが全社V2MOMを策定。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| Vision | 中小企業の経理業務を 50% 自動化するプロダクトNo.1になる |
| Values | 1. 顧客課題の深い理解 2. 品質最優先 3. データで判断 |
| Methods | ① AI自動仕訳の精度を98%→99.5%に / ② エンタープライズ市場へ参入 / ③ やらないこと: 新機能の追加(精度を優先) |
| Obstacles | エンジニア採用の困難 / 競合のAI機能リリース / 既存顧客の解約リスク |
| Measures | AI自動仕訳精度 / エンタープライズ契約数 / NRR / CSAT |
営業部門のV2MOMは全社の「② エンタープライズ参入」から展開。プロダクト部門は「① AI精度向上」から展開。
「やらないこと(新機能追加の凍結)」を明文化したことで、営業が「こんな機能があればもっと売れる」と要望を出す頻度が激減。プロダクトチームはAI精度に集中でき、3ヶ月で 98% → 99.2% に到達。エンタープライズ契約も年間 5社 を獲得した。
子どもの教育支援を行うNPO法人(常勤スタッフ15名、ボランティア80名)。活動が多岐にわたり、「結局何を最優先にすべきか」がスタッフ間で共有できていなかった。
代表がV2MOMを初めて策定。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| Vision | 経済的理由で学習機会を失う子どもをゼロにする |
| Values | 1. 子どもファースト 2. 継続性(一時的支援で終わらない) 3. 地域との連携 |
| Methods | ① オンライン学習支援を全国展開 / ② 企業スポンサーを10社獲得 / ③ やらないこと: イベント型の単発支援 |
| Obstacles | ボランティアの確保 / 対象家庭へのリーチ / 活動資金の安定化 |
| Measures | 支援対象の子ども数 / 学習継続率(3ヶ月以上) / スポンサー獲得数 / 寄付総額 |
「やらないこと」を明記した結果、毎年恒例だったチャリティイベント(準備に月40時間)を中止し、その工数をオンライン支援の仕組み作りに投入。
1年後: 支援対象の子ども数は 120名 → 340名 に拡大。学習継続率は 45% → 72%。企業スポンサーも 3社 → 11社 に増加。「何をやらないか」を決めたことが、組織の集中力を劇的に高めた。
やりがちな失敗パターン#
- Visionが長すぎる ── 3行のVisionは誰も覚えない。一文で言い切れる粒度に凝縮する
- Obstaclesを書かない ── 障害を事前に特定しないと、起きてから慌てる。「うまくいかない理由」を正直に書く勇気が大事
- 全社V2MOMなしに部門V2MOMを作る ── 起点がないと各部門が好き勝手にVisionを設定し、アラインメントが取れない
- Measuresを定性的に書く ── 「顧客満足度を上げる」では測れない。「CSAT 4.2以上」のように数字で定義する
まとめ#
V2MOMはSalesforceが創業以来25年以上使い続けている目標管理フレームワーク。Vision→Values→Methods→Obstacles→Measuresの5要素で「なぜ→何を→どうやって→何が障害→どう測る」を一気通貫させる。OKRと比較して「Values(価値観)」と「Obstacles(障害)」が明示されている点が特徴。全社→部門→個人にカスケードし、全員のV2MOMを透明に公開することで、7万人規模でも全社が同じ方向を向ける仕組みだ。