ポジショニング戦略(リース&トラウト)

英語名 Ries & Trout Positioning
読み方 リース アンド トラウト ポジショニング
難易度
所要時間 1〜2週間(ポジション策定)
提唱者 Al Ries & Jack Trout(1981年)
目次

ひとことで言うと
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マーケティングの戦場は市場ではなく顧客の頭の中にある。情報過多の時代に勝つには、顧客の心の中に「このカテゴリといえばこのブランド」という独自のポジションを確保すること。リース&トラウトが提唱した、ブランド戦略の古典にして原点。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
ポジショニング
製品やブランドを顧客の心の中で特定の位置に置くこと。製品を変えるのではなく、顧客の認知を変える活動を指す。
心のはしご(Mental Ladder)
顧客がカテゴリ内のブランドをランキング形式で記憶するメンタルモデル。はしごの段数は限られており、通常は3〜7ブランドしか覚えられない。
リポジショニング
競合ブランドのポジションを再定義することで、自社の位置を有利にする戦術。「相手を動かす」ことで自分の場所を作る。
カテゴリ創造
既存カテゴリで1位を取れない場合に、新しいカテゴリを作って1位になる戦略。「1番になれないなら、1番になれる場所を作れ」がその思想。

ポジショニング戦略の全体像
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ポジショニング戦略:顧客の心の中にポジションを築く3つのアプローチ
顧客の心(認知)ここにポジションを確保する1. 先行者として1位を取るカテゴリの第一想起を獲得する例:コーラ=コカ・コーラ2. 競合をリポジショニング競合の弱みを突いて認知をずらす例:Avis「2位だから頑張る」3. 新カテゴリを創造する1位になれる新しいカテゴリを定義する例:レッドブル=エナジー飲料ポジショニングの本質:製品を変えるのではなく、顧客の認知を変える
ポジショニング戦略の策定プロセス
1
競合の認知を調査
顧客の心の中で各ブランドがどう位置づけられているかを把握
2
空きポジション探索
まだ誰も取っていないポジションを見つける
3
ポジション定義
一言で言える独自のポジションを決定
4
一貫した発信
すべてのタッチポイントでポジションを強化

こんな悩みに効く
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  • 製品は良いのに、顧客に選ばれない(認知されていない)
  • 競合と「何が違うの?」と聞かれて、うまく答えられない
  • 広告を打っても記憶に残らず、価格競争に巻き込まれる

基本の使い方
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顧客の認知マップを調査する

まず、ターゲット顧客がカテゴリ内のブランドをどう認識しているかを把握する。

  • 「○○と言えば?」で想起されるブランドをリストアップ(第一想起調査)
  • 各ブランドがどんなイメージで語られているかを収集(アンケート・SNS分析)
  • 顧客の頭の中の「はしご」を可視化する
空きポジションを見つける

競合がまだ占有していないポジションを探す。

  • 属性の空き: 「安い」は取られているが「早い」は空いている
  • ターゲットの空き: 「若者向け」は激戦だが「シニア向け」は手薄
  • 用途の空き: 「業務用」は多いが「家庭用」が少ない
  • 価格帯の空き: 高価格帯と低価格帯の間にギャップがある

空きがなければ、新しいカテゴリを定義して1位を取る方法を考える。

ポジションを一言で定義し、一貫して発信する

見つけた空きポジションを、シンプルな一言にまとめる。

  • 顧客が覚えられるのは「1つのメッセージ」だけ。複数の強みを並べない
  • すべての施策(広告・パッケージ・接客・PR)でそのポジションを強化する
  • 年単位で一貫性を保つ。ポジションをコロコロ変えると認知が混乱する

具体例
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例1:町のベーカリーの「朝5時焼きたて」ポジション

状況: 住宅街に新規オープンするベーカリー。半径500mに大手チェーンのパン屋と個人経営の洋菓子兼パン店がある

顧客の認知マップ:

  • 大手チェーン: 「安い」「種類が多い」「どこにでもある」
  • 洋菓子兼パン店: 「おしゃれ」「ケーキのついでにパンも買える」

空きポジション: 「朝一番の焼きたて」を訴求するプレイヤーがいない。住宅街の住民は出勤前にパンを買いたいが、競合2店は9時以降の開店

ポジション定義: 「朝5時から焼きたて」——早朝の焼きたてパン専門店

施策の一貫性:

  • 店名に「あさごパン」を採用
  • 営業時間を5:00〜13:00に限定(午後は営業しない)
  • SNSで毎朝4:30に「今朝の焼きたて」写真を投稿

開店3ヶ月で「朝パンといえばあの店」という認知が定着。出勤前の常連が150名を超え、13時までに完売する日が週4回に。

例2:BtoB SaaSの「中小企業の経理専用」ポジション

状況: クラウド会計ソフト市場に後発参入するスタートアップ。大手A社(シェア50%)とB社(シェア30%)が圧倒的

顧客の認知マップ:

  • A社: 「とりあえずA社」「機能が多い」「大企業も使っている」
  • B社: 「UIがきれい」「フリーランス向け」

空きポジション: 「従業員10〜50名の中小企業の経理担当」にとって、A社は機能過多で設定が面倒、B社はフリーランス向けで法人機能が足りない

ポジション定義: 「中小企業の経理さんが迷わない会計ソフト」

リポジショニング戦術:

  • LP上で「A社の設定画面は127項目。うちは23項目で完了」と比較
  • 導入事例を中小企業の経理担当者に限定(「大企業向け」のA社と対比)
  • 機能追加の要望があっても、中小企業に不要な機能は断る

参入2年で中小企業セグメントでシェア15%を獲得。「中小の会計ソフト=このサービス」という認知を確立した。

例3:地方温泉地の「ワーケーション温泉」カテゴリ創造

状況: 年間観光客が10年で40%減少した地方温泉地。近隣に有名温泉地が2つあり、「泉質」「歴史」では勝てない

顧客の認知マップ:

  • A温泉: 「名湯」「歴史がある」「高級旅館」
  • B温泉: 「コスパがいい」「家族旅行」

空きポジション: 「仕事をしながら温泉に入れる場所」は誰も取っていない。リモートワーク普及で需要はあるが、温泉地にWi-Fi環境は整っていない

カテゴリ創造: 「ワーケーション温泉」という新カテゴリを定義

施策:

  • 全旅館にWi-Fi増強とコワーキングスペースを設置(行政と共同投資)
  • 「午前中は仕事、午後は温泉」というモデルプランを発信
  • 「ワーケーション温泉」で検索1位を取るSEO施策

1年後、平日稼働率が35%→62%に改善。「温泉でワーケーション」と言えばこの温泉地が第一想起されるようになった。既存の「泉質・歴史」で戦わず、新カテゴリで1位を取った事例。

やりがちな失敗パターン
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  1. 「うちは全部できます」と言ってしまう — 何でもできるは、何も印象に残らないのと同じ。ポジショニングの本質は「捨てること」。1つのポジションに絞る勇気が必要
  2. 競合と同じ土俵で戦おうとする — 「うちの方が品質がいい」「うちの方が安い」では、既に認知を持っている競合には勝てない。顧客の頭の中で先に場所を取った者が有利
  3. ポジションを頻繁に変える — 新しいCMOが来るたびにメッセージが変わる企業は多い。ポジショニングは短期施策ではなく、年単位の一貫性が認知を作る
  4. 自社視点でポジションを決める — 「最高品質」と自社が思っていても、顧客がそう認識していなければポジションは存在しない。起点は常に顧客の認知にある

まとめ
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リース&トラウトのポジショニング戦略が教えるのは、「良い製品を作れば売れる」というのは幻想だということ。顧客の頭の中には限られた数のブランドしか入れない。その限られた席を確保するには、先行者として1位を取るか、競合をリポジショニングするか、新カテゴリを作るか——3つのアプローチしかない。そして一度獲得したポジションは、一貫した発信で守り続けなければ、すぐに忘れ去られてしまう。