プロフィット・ファースト

英語名 Profit First Method
読み方 プロフィット ファースト メソッド
難易度
所要時間 1〜2日(初期設定)
提唱者 Mike Michalowicz(2014年)
目次

ひとことで言うと
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従来の「売上 − 経費 = 利益」の順番を逆転させ、**「売上 − 利益 = 経費」**とする財務管理手法。売上が入ったらまず利益分を別口座に移し、残った金額で経費を賄う。「利益は結果」ではなく「利益を先に取る」ことで、経費が自然に圧縮される仕組み。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
利益口座(PROFIT Account)
売上から真っ先に利益分を移す専用口座。この口座のお金は原則として手をつけない。
所得口座(OWNER’S PAY Account)
経営者自身の報酬を確保するための口座。「自分の給料は後回し」を防ぐ仕組み。
税金口座(TAX Account)
納税資金を事前に積み立てる口座。決算時に「税金が払えない」という事態を防ぐ。
配分比率(Target Allocation Percentages / TAPs)
売上に対する利益・報酬・税金・経費の目標配分率。業種や売上規模によって適切な比率は異なる。

プロフィット・ファーストの全体像
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プロフィット・ファースト:売上の配分フロー
売上入金収入口座1. 利益口座目標: 売上の5〜20%2. 所得口座目標: 売上の5〜50%3. 税金口座目標: 売上の15%前後4. 経費口座残り全額(削減対象)従来: 売上−経費=利益(利益は残りカス)PF: 売上−利益=経費売上が入金されたら、まず利益・報酬・税金を先に確保する残ったお金で経費を賄うから、自然に無駄が削れる
プロフィット・ファースト導入の4ステップ
1
現状の配分比率を算出
今の利益・報酬・税金・経費の比率を把握する
2
目標比率を設定
業種別の推奨TAPsを参考に目標を決める
3
銀行口座を開設
利益・所得・税金・経費の4口座を用意する
4
月2回の配分実行
10日と25日に売上を各口座に振り分ける

こんな悩みに効く
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  • 売上は伸びているのに、なぜか手元にお金が残らない
  • 「来月の税金が払えるか不安」という状態が毎年続いている
  • 経費削減が必要なのはわかっているが、何から切ればいいかわからない

基本の使い方
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現状の配分比率を計算する

過去12ヶ月の実績から、売上に対する各項目の比率を算出する。

  • 利益率(税引前利益 ÷ 売上)
  • 経営者報酬率(オーナーの報酬 ÷ 売上)
  • 税金率(法人税等 ÷ 売上)
  • 経費率(上記以外のすべて ÷ 売上)

多くの中小企業で「利益率0〜3%、経費率85〜95%」という実態が明らかになる。

目標配分比率を設定し口座を開設する

現状と目標のギャップを確認し、四半期ごとに1〜2ポイントずつ近づける計画を立てる。

  • いきなり理想の配分にすると経費が回らなくなる。段階的に移行するのが鉄則
  • 物理的に別の銀行口座を開設する(メインバンクとは別の銀行が望ましい)
  • 利益口座は「手をつけにくい」場所に置くのがコツ(ネットバンキングのない口座など)
月2回のリズムで配分を実行する

毎月10日と25日に、収入口座の残高を各口座に振り分ける。

  • 配分後の経費口座の残高でやりくりする
  • 経費が足りない場合は「どの経費を削るか」を考える(これが仕組みのキモ)
  • 四半期に1回、利益口座から50%を「ボーナス」として受け取る(残りは緊急資金)

具体例
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例1:Web制作フリーランスの立て直し

状況: 年商800万円のWebデザイナー。月の売上は安定しているが、毎年の確定申告で「税金が払えない」と焦る。手元に貯金がほぼゼロ

現状の配分: 利益0% / 報酬50% / 税金0%(貯めていない)/ 経費50%(ソフト代・外注費・機材・交際費)

目標配分(初期): 利益5% / 報酬50% / 税金15% / 経費30%

実行したこと:

  • 3つの追加口座を開設(利益・税金は地方銀行の窓口のみ口座にして手をつけにくくした)
  • 月2回、売上の5%を利益口座、15%を税金口座に自動送金設定
  • 経費30%に収めるため、月額のサブスク契約を精査 → 使っていないツール3つを解約(月2.5万円削減)
  • 外注費を見直し、一部の作業を自分で巻き取り(月3万円削減)

1年後の結果: 利益口座に40万円、税金口座に120万円が積み上がった。確定申告時の納税を口座残高で余裕を持って支払い、利益口座からの四半期ボーナス(約5万円×4回)で初めて「利益を実感」できた。

例2:従業員15名のIT受託開発企業

状況: 売上2億円、営業利益率2%(400万円)。経営者は「人件費が高いから利益が出ない」と考えていた

現状の配分: 利益2% / 報酬8% / 税金3% / 経費87%

目標配分(1年後): 利益5% / 報酬10% / 税金5% / 経費80%

段階的な移行:

  • Q1: 利益3%に引き上げ → 経費84%に抑える必要。オフィスの使っていない会議室を返却(月15万円削減)
  • Q2: 利益4%に → 全社のSaaSツールを棚卸し。重複ツールを統合して月20万円削減
  • Q3: 利益5%に → 低採算の保守案件2件を値上げ交渉。1件は受注継続、1件は失注(結果的に利益率は改善)
  • Q4: 目標達成

結果: 1年後の営業利益は400万円→1,000万円に。経費を7ポイント削減した内訳は「無駄な固定費の削減」が大半で、品質や社員の待遇は落としていない。「経費の上限を先に決めると、本当に必要なものだけが残る」ことを実感した。

例3:夫婦経営の飲食店(カフェ)

状況: 月商120万円の小さなカフェ。夫婦で経営し、アルバイト2名。開店3年目で設備投資のローン返済もあり、いつも月末に資金繰りが厳しくなる

現状の配分: 利益0% / 報酬25%(夫婦の生活費)/ 税金0% / 経費75%(原材料・家賃・人件費・ローン)

目標配分(6ヶ月後): 利益3% / 報酬25% / 税金8% / 経費64%

実行したこと:

  • 小さな金庫を2つ購入し「利益」「税金」のラベルを貼った(口座開設が面倒な場合の代替)
  • 毎月10日と25日に売上を仕分け
  • 経費64%に収めるため:
    • 原材料の仕入先を見直し、地元農家からの直接仕入れで原価を5%削減
    • 電気代の契約プランを変更(月1.2万円削減)
    • メニューを「利益率の高い商品」に絞り込み、低利益の12品目を廃止

6ヶ月後: 利益金庫に21万円、税金金庫に57万円が貯まった。メニュー削減により食材ロスも減り、原価率が38%→32%に改善。「月末の不安がなくなった」のが最大の変化だった。

やりがちな失敗パターン
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  1. いきなり理想の配分比率にしてしまう — 現状の経費率が90%の企業がいきなり65%を目指すと、事業が回らなくなる。四半期ごとに1〜2ポイントずつ移行するのが成功の鍵
  2. 利益口座のお金を「緊急時」に使ってしまう — 一度手をつけると歯止めが利かなくなる。口座を物理的にアクセスしにくくする工夫(窓口のみ口座・別銀行)が重要
  3. 経費削減ではなく売上増加で解決しようとする — 売上が増えてもパーキンソンの法則で経費も増える。先に利益を確保する仕組みがなければ、売上が倍になっても利益はゼロのまま
  4. 口座を作っただけで配分を実行しない — 月2回のリズムを3ヶ月続ければ習慣になるが、最初の1ヶ月が一番サボりやすい。カレンダーにリマインダーを設定して確実に実行する

まとめ
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プロフィット・ファーストの強みは、意志の力ではなく「仕組みの力」で利益を生み出す点にある。口座を分けて先に利益を取り、残りで経営する——たったこれだけのルールが、経費の自然な圧縮を引き起こす。財務の知識がなくても実行でき、フリーランスから中堅企業まで規模を問わず適用できる。まずは利益配分1%から始めて、四半期ごとに引き上げていく。小さく始めて確実に続けることが、利益体質への最短ルートになる。