ひとことで言うと#
「業界の魅力度」と「自社の競争力」の2軸で事業を9つのマスに分類し、どこに投資し、どこから撤退すべきかを判断するフレームワーク。BCGマトリクスの「市場成長率×市場シェア」が単純すぎるという反省から生まれた、より多角的な事業評価ツール。
押さえておきたい用語#
- 業界の魅力度(Industry Attractiveness)
- 市場規模、成長率、収益性、競争環境、技術変化の速度など外部要因の総合評価。自社の力では変えにくい「場」としての魅力を測る。
- 競争力(Competitive Strength)
- 市場シェア、ブランド力、技術力、コスト優位性、顧客基盤など自社がその業界で戦える力の総合評価。
- 9セル(Nine-Cell Matrix)
- 魅力度と競争力をそれぞれ高・中・低の3段階に分け、3×3=9つのセルに事業をプロットする。セルの位置によって「投資」「選択的投資」「撤退」の方針が決まる。
- 加重スコア
- 各評価項目に重要度の重みをつけてスコアを算出する方法。「市場成長率は重要度0.3、規制リスクは0.1」のように配分し、恣意性を減らす。
GE・マッキンゼーマトリクスの全体像#
こんな悩みに効く#
- 事業が増えすぎて、どこにリソースを集中すべきかわからない
- 「赤字だが将来性がある事業」と「黒字だが先細りの事業」の優先順位をつけられない
- 事業撤退の判断基準が属人的で、感情論になりやすい
基本の使い方#
各事業が属する業界を、以下のような項目で評価する。
- 市場規模と成長率(大きく伸びている市場か)
- 業界の収益性(利益率の平均はどの程度か)
- 競争の激しさ(プレイヤー数、参入障壁)
- 技術変化の速度、規制リスク
各項目に重要度の重みを配分し(合計1.0)、1〜5点で評価して加重スコアを算出する。
自社がその業界でどれだけ戦えるかを評価する。
- 市場シェアとシェアの推移
- ブランド力・認知度
- 技術力・特許・独自ノウハウ
- コスト構造の優位性
- 顧客基盤の強さ
こちらも同様に加重スコアを算出する。
各事業を9セル上に配置し、位置に応じた方針を設定する。
- 左上3セル(緑): 積極投資 — 人材・資金を優先配分
- 対角線3セル(黄): 選択的投資 — 条件次第で投資か縮小かを判断
- 右下3セル(赤): 撤退・縮小 — キャッシュを回収して他事業に振り向ける
具体例#
状況: 売上50億円の食品メーカー。漬物事業(主力)、冷凍食品事業(3年前参入)、惣菜EC事業(1年前開始)の3事業を持つ
評価結果:
| 事業 | 業界魅力度 | 競争力 | セル位置 |
|---|---|---|---|
| 漬物事業 | 低い(市場縮小) | 強い(シェア1位) | 左下 |
| 冷凍食品事業 | 高い(成長市場) | 弱い(後発・シェア0.5%) | 右上 |
| 惣菜EC事業 | 高い(急成長) | 中程度(差別化あり) | 中央上 |
投資方針:
- 漬物事業: 限定投資。追加投資は抑え、キャッシュカウとして利益を確保
- 冷凍食品事業: 大手と正面勝負は無理。撤退してリソースを惣菜ECに集中
- 惣菜EC事業: 積極投資。漬物の製造ノウハウを活かしたD2C展開を強化
冷凍食品からの撤退で浮いた年間3億円を惣菜ECに投入し、2年後にEC売上が5億円→15億円に成長した。
状況: 売上200億円のITサービス企業。SIer事業、クラウドSaaS事業、セキュリティコンサル事業、レガシー保守事業の4つを運営
評価結果:
| 事業 | 業界魅力度 | 競争力 | 方針 |
|---|---|---|---|
| SIer事業 | 中程度 | 強い | 選択的投資(利益重視) |
| クラウドSaaS | 高い | 中程度 | 積極投資 |
| セキュリティコンサル | 高い | 強い | 積極投資 |
| レガシー保守 | 低い | 中程度 | 縮小・撤退 |
アクション:
- レガシー保守の新規受注を停止し、既存顧客をクラウド移行に誘導
- SIer事業の利益をクラウドSaaSの開発投資に充当
- セキュリティコンサルに専門人材を10名採用
3年後、クラウドSaaSとセキュリティの売上構成比が20%→45%に上昇。全社営業利益率が8%→14%に改善した。
状況: 5教室を運営する学習塾。少子化で市場が縮小する中、どの教室に投資すべきか迷っている
評価(教室ごとに「地域の魅力度×教室の競争力」で分析):
| 教室 | 地域魅力度 | 教室の競争力 | 方針 |
|---|---|---|---|
| A教室(駅前) | 高い(人口増加地域) | 強い(口コミ評価1位) | 積極投資:増床・講師増員 |
| B教室(住宅街) | 中程度 | 中程度 | 現状維持:コスト管理を徹底 |
| C教室(郊外) | 低い(人口減少地域) | 弱い(大手塾が近隣に進出) | 撤退:年度末で閉鎖 |
結果: C教室の閉鎖で固定費が年間800万円削減。その資金でA教室を拡張し、定員を1.5倍に。A教室の年間売上が2,400万円→3,800万円に成長した。
感情的に「どの教室も大切」と考えがちだが、マトリクスで数値化することで、合理的な撤退判断が可能になった。
やりがちな失敗パターン#
- 評価項目の重みづけを「全部均等」にしてしまう — 業界によって重要な要素は異なる。IT業界なら技術変化の速度が重要で、食品業界なら規制環境が重要になる。重みこそが戦略的判断の核心
- スコアリングが「気分」になる — 「なんとなく3点」ではなく、データや根拠に基づいて評価する。可能ならチームで合議し、個人の思い込みを補正する
- マトリクスを作って満足する — 配置した後の「だからどうするか」が本題。投資額・人員配置・撤退スケジュールまで具体化しなければ、きれいな図で終わる
- 撤退の判断を先送りする — 右下に位置する事業は早期に意思決定するほど損失が小さい。「もう少し様子を見よう」が最も高くつくパターンである
まとめ#
GE・マッキンゼーマトリクスは「どの事業に賭けるか」を9つのセルで可視化する道具であり、限りある経営資源を配分するための共通言語になる。業界の魅力度と自社の競争力を分けて評価することで、「儲かっているが先がない事業」と「赤字だが将来性のある事業」を冷静に比較できる。ただし、マトリクスが教えてくれるのは「方向性」であって「正解」ではない。最終的に投資と撤退を決めるのは経営者の意志であり、このフレームワークはその判断の精度を高めるためにある。