GEマトリクス

英語名 GE-McKinsey Matrix
読み方 ジーイー マッキンゼー マトリクス
難易度
所要時間 4〜8時間
提唱者 マッキンゼー & ゼネラル・エレクトリック
目次

ひとことで言うと
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事業を**業界の魅力度(高/中/低)×自社の競争力(高/中/低)**の9つのマスに配置し、PPM(BCGマトリクス)より多角的に事業ポートフォリオの投資判断を行うフレームワーク。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
業界の魅力度(Industry Attractiveness)
市場規模、成長率、収益性、競争強度、規制環境など複数の指標を加重平均で総合評価した業界の魅力スコアのこと。単一指標ではなく多面的に評価する点がPPMとの違い。
事業の競争力(Business Unit Strength)
市場シェア、ブランド力、技術力、コスト競争力などその事業における自社の相対的な強さを総合評価したスコアのこと。競合と比較した相対評価が重要。
加重スコアリング(Weighted Scoring)
複数の評価指標に重要度に応じた重みをつけて加重平均を算出する手法のこと。重み合計100%で各指標を1〜5点で評価する。
PPM(BCGマトリクス)
市場成長率×相対市場シェアの2軸で事業を4象限に分類するBCG開発のポートフォリオ分析手法のこと。GEマトリクスの前身で、よりシンプルだが評価軸が限定的。
選択的投資(Selective Investment)
GEマトリクスの中間領域に位置する事業に対する条件付きの投資判断のこと。改善の見込みがあるかどうかで投資継続か撤退かを見極める。

GEマトリクスの全体像
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業界の魅力度×自社の競争力の9象限マトリクス
GEマトリクス(9象限)自社の競争力積極投資リソースを集中成長を加速最優先で投資選択的投資競争力の強化が条件条件付きで投資慎重に検討魅力的だが自社の力不足提携・M&Aで補強?選択的投資強みを活かせる分野に集中セグメント特化選択的維持現状維持でキャッシュを確保効率化に注力段階的撤退投資を抑え撤退を準備キャッシュ回収維持・効率化強みはあるが市場が縮小傾向利益最大化段階的撤退市場も競争力も中程度以下売却検討撤退市場も競争力も低い早期撤退・リソース解放
GEマトリクスの作成フロー
1
業界の魅力度評価
複数指標を加重スコアリング
2
自社の競争力評価
競合比較で客観的にスコア化
3
9象限にマッピング
各事業をプロットして可視化
投資方針の決定
積極投資・維持・撤退を判断

こんな悩みに効く
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  • PPMでは「市場成長率×シェア」の2指標だけで判断が粗すぎると感じる
  • 事業ごとに異なる業界特性を考慮して投資判断をしたい
  • 新規参入を検討している市場の魅力度を客観的に評価したい

基本の使い方
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ステップ1: 業界の魅力度を評価する

各事業が属する業界の魅力度を複数の指標で総合的にスコアリングする

代表的な評価指標:

  • 市場規模と成長率
  • 業界の収益性(利益率の水準)
  • 競争の激しさ(参入障壁、競合の数)
  • 技術変化のスピード
  • 規制環境・政治リスク

各指標に**重みづけ(合計100%)**をして、1〜5点で評価。加重平均で総合スコアを算出する。

ポイント: 評価指標は業界によって変える。画一的に当てはめず、その業界で本当に重要な要因を選ぶこと。

ステップ2: 自社の競争力を評価する

各事業における自社の強さを複数の指標で総合的にスコアリングする

代表的な評価指標:

  • 市場シェア
  • ブランド力
  • 技術力・品質
  • コスト競争力
  • 営業力・チャネル
  • 経営陣の能力

同様に重みづけをして加重平均スコアを出す。

ポイント: 客観的なデータを根拠にする。「なんとなく強い」は禁止。競合比較ができるとなお良い。

ステップ3: 9象限にマッピングして方針を決める

縦軸に業界の魅力度、横軸に自社の競争力を置き、各事業をプロットする

競争力:高競争力:中競争力:低
魅力度:高積極投資選択的投資慎重に検討
魅力度:中選択的投資選択的維持段階的撤退
魅力度:低維持・効率化段階的撤退撤退
  • 左上エリア(積極投資): リソースを集中。成長を加速させる
  • 対角線上(選択的): 条件付きで投資。改善の見込みがあるかで判断
  • 右下エリア(撤退): 早めに見切りをつけ、リソースを解放する

ポイント: 円の大きさで売上規模、円グラフで利益率を示すと視覚的にわかりやすい。

具体例
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例1:総合エレクトロニクスメーカーが5事業のポートフォリオを見直す

業界の魅力度の評価(EV用バッテリー事業の場合):

評価指標重みスコア(1-5)加重スコア
市場成長率30%51.50
業界収益性25%30.75
参入障壁20%40.80
技術変化スピード15%40.60
規制リスク10%30.30
合計100%3.95(高)

各事業のマッピング結果:

事業業界の魅力度自社の競争力方針
EV用バッテリー高(3.95)高(4.10)積極投資
産業用センサー中(3.20)高(3.80)選択的投資
家庭用オーディオ低(2.10)中(3.00)段階的撤退
スマホ部品高(3.70)低(2.20)慎重に検討
産業用ロボット高(4.20)中(3.40)選択的投資

意思決定: EV用バッテリーに研究開発費の40%(年間120億円)を重点配分。家庭用オーディオは2年以内に事業売却を検討。スマホ部品は技術提携で競争力を補えるか半年で見極める。撤退で浮いたリソース30億円を産業用ロボットの強化に充当

例2:中堅食品メーカーが3事業の投資優先順位をGEマトリクスで決める

状況: 年商500億円。冷凍食品・菓子・調味料の3事業を展開。中期経営計画の策定にあたり、限られた投資枠(年間50億円)の配分を決めたい。

評価結果:

事業業界の魅力度自社の競争力象限
冷凍食品高(4.2): 市場成長率8%、共働き世帯増加高(3.9): シェア3位、品質評価トップ積極投資
菓子中(3.0): 市場横ばい、競合多数中(3.1): シェア7位、ブランド認知は高い選択的維持
調味料低(2.3): 市場縮小、PB台頭高(4.0): シェア2位、独自製法に強み維持・効率化

投資配分の決定:

  • 冷凍食品: 30億円(新工場建設、商品ライン拡充)→ 3年でシェア2位を目指す
  • 菓子: 15億円(既存ブランドの強化に絞る)→ 利益率改善に注力
  • 調味料: 5億円(コスト削減のための設備更新のみ)→ キャッシュカウとして利益を最大化

**ポイントは、冷凍食品への集中投資で3年後に売上200億円→300億円を目指す。調味料の安定利益で全社の収益基盤を支える。

例3:ITサービス企業が新規事業の参入判断にGEマトリクスを応用する

状況: 年商80億円のSIer。既存のシステム受託開発が成熟し、成長率が鈍化。新規事業として3つの候補を検討中。

新規事業候補の業界魅力度評価:

候補市場成長率収益性参入障壁技術変化総合スコア
AIコンサル25%速い4.3(高)
クラウド移行15%中程度3.5(中)
IoTプラットフォーム20%低(現時点)速い3.2(中)

自社の競争力評価:

候補技術力人材顧客基盤ブランド総合スコア
AIコンサル低(AI人材5名)活用可能弱い2.5(低)
クラウド移行高(経験者30名)直接活用中程度3.8(高)
IoTプラットフォーム一部活用弱い2.2(低)

判断: AIコンサルは業界魅力度は高いが自社の競争力が低い(「慎重に検討」象限)。クラウド移行は業界魅力度・競争力とも中〜高で「選択的投資」象限。最も確実に勝てる事業として年間10億円を投資し、3年でARR20億円を目指す。AIコンサルはまず5名のAI人材を20名に増やすための採用・育成に1年かけ、競争力を高めてから本格参入する。

やりがちな失敗パターン
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  1. 評価指標の重みづけが恣意的 — 「自分たちが有利になるように」重みを調整してしまう。経営陣だけでなく外部の視点も入れて、指標と重みの妥当性を検証すること
  2. PPMと同じ使い方をしてしまう — GEマトリクスの利点は多面的な評価ができること。市場成長率とシェアだけで判断するなら、PPMで十分。評価指標の選定と重みづけに時間をかけるのがこのフレームワークの本質
  3. 一度作って固定してしまう — 業界の魅力度も自社の競争力も変化する。年1回はスコアを見直し、マッピングを更新すること。前回と比較することで事業の軌道変化が見える
  4. 撤退判断を先送りする — 右下エリアに位置する事業を「まだいける」と温存し続けると、全社のリソースを蝕む。撤退基準を事前に数値で定め(例: 2年連続で営業利益率-5%以下なら売却検討)、感情に流されない意思決定を行う

まとめ
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GEマトリクスは、PPM(BCGマトリクス)を発展させ、業界の魅力度と自社の競争力を多面的に評価して9象限で投資判断を行うフレームワーク。市場成長率とシェアだけでは捉えきれない業界特性や自社の強みを加味できるのが強み。手間はかかるが、精度の高いポートフォリオ戦略を立てたい企業に最適。