ひとことで言うと#
ROE(自己資本利益率)を「売上高利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ」の3要素に分解して、収益性のどこに強み・弱みがあるかを診断する手法。1920年代にデュポン社で開発された。ROEが高い(低い)理由を「なぜ」まで掘り下げられるのがポイント。
押さえておきたい用語#
- ROE(Return on Equity)
- 自己資本利益率。株主が出した資本に対して、企業がどれだけの利益を生んだかを示す指標。ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本。
- 売上高利益率(Profit Margin)
- 売上に対する利益の割合。**「いくら売って、いくら残るか」**を示す。高いほど効率的に利益を出している。
- 総資産回転率(Asset Turnover)
- 総資産に対する売上の割合。**「資産をどれだけ効率的に使って売上を生んでいるか」**を示す指標。
- 財務レバレッジ(Financial Leverage)
- 総資産 ÷ 自己資本。借入金をどれだけ活用しているかを示す。レバレッジが高いほどROEは上がるが、財務リスクも増える。
デュポン分析の全体像#
こんな悩みに効く#
- ROEが低いと言われたが、何をどう改善すればいいかわからない
- 競合と比べて自社の収益構造のどこが弱いのか特定したい
- 財務データはあるが、経営判断につなげる分析の切り口がない
基本の使い方#
ROE = 売上高利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ。各要素を業界平均と比較し、どの要素が足を引っ張っているかを特定する。
- 利益率が低い → コスト構造に問題がある or 価格競争に巻き込まれている
- 回転率が低い → 資産の使い方が非効率(在庫過多、遊休設備など)
- レバレッジが低い → 自己資本が過剰で資本効率が悪い(保守的すぎる)
具体例#
背景: 年商500億円の家電メーカー。ROEが 4.2% で業界平均(8.5%)を大きく下回っている
デュポン分解:
| 指標 | 自社 | 業界平均 | 差分 |
|---|---|---|---|
| 売上高利益率 | 2.8% | 5.2% | -2.4pt |
| 総資産回転率 | 0.85回 | 0.92回 | -0.07回 |
| 財務レバレッジ | 1.76倍 | 1.78倍 | ほぼ同じ |
| ROE | 4.2% | 8.5% | -4.3pt |
診断: 回転率とレバレッジは業界並みだが、売上高利益率が大幅に低い。原因を掘り下げると、低価格帯商品の売上比率が65%を占め、粗利率が業界平均より8ポイント低い
改善策: 高付加価値のプレミアムラインを投入。IoT連携機能を搭載した新製品を価格帯1.5倍で販売開始
2年後、プレミアムラインが売上の22%を占め、売上高利益率が 2.8%→4.6% に。ROEは 4.2%→7.0% まで回復した。
背景: 全国80店舗の生活雑貨チェーン。ROEは 6.1% で業界平均(9.3%)に届かない
デュポン分解:
| 指標 | 自社 | 業界平均 |
|---|---|---|
| 売上高利益率 | 4.8% | 4.5% |
| 総資産回転率 | 0.72回 | 1.18回 |
| 財務レバレッジ | 1.77倍 | 1.76倍 |
診断: 利益率は業界平均を上回っているのに、総資産回転率が極端に低い。原因は在庫回転日数が95日(業界平均58日)と突出して長いこと。売れ筋以外の商品が倉庫に滞留している
改善策:
- 在庫回転日数95日以上の商品(全SKUの35%)を特定し、段階的に処分・縮小
- 発注サイクルを月次→週次に変更。少量多頻度発注に切り替え
- 売場面積あたりの売上(坪効率)を店舗KPIに追加
1年半で在庫回転日数が 95日→62日 に改善。総資産回転率は 0.72→0.98 に向上し、ROEは 6.1%→8.4% に改善された。
背景: シリーズBのSaaS企業。投資家から「ROEが -12% だが、いつ黒字化するのか」と質問されている
デュポン分解(現状と3年後の計画):
| 指標 | 現在 | 3年後(計画) |
|---|---|---|
| 売上高利益率 | -18% | +8% |
| 総資産回転率 | 0.65回 | 1.2回 |
| 財務レバレッジ | 1.03倍 | 1.5倍 |
| ROE | -12% | +14.4% |
投資家への説明ポイント:
- 利益率: 現在は顧客獲得コスト(CAC)で赤字だが、LTV/CAC比率は4.2倍。解約率1.8%を維持すれば、3年目にはCAC回収が進み利益率+8%に転換
- 回転率: SaaSの特性上、ARR(年間経常収益)が積み上がるため回転率は自然に改善。追加の固定資産投資はほぼ不要
- レバレッジ: 黒字化後に成長投資用の借入を適度に活用し、資本効率を高める
デュポン分解で「どの要素が・いつ・どう改善するか」を示したことで、投資家の理解を得てシリーズBを 15億円 でクローズ。
やりがちな失敗パターン#
- レバレッジだけでROEを上げようとする — 借入を増やせば数字上のROEは上がるが、財務リスクも増える。景気悪化時に返済に窮するケースが多い
- 3要素のうち1つだけ見る — 「利益率が高いからOK」ではない。在庫が膨らんで回転率が悪化していれば、ROEは上がらない。3要素のバランスを見る
- 単年度のスナップショットで判断する — 3〜5年の推移を見ることで、改善傾向か悪化傾向かがわかる。単年度の数字は一時的な要因で歪むことがある
- 業界特性を無視して比較する — 製造業は利益率が低く回転率で稼ぐ、不動産業はレバレッジが高い、など業界ごとの構造が異なる。異業種と比較しても意味がない
まとめ#
デュポン分析は「ROEを上げろ」と言われたときに「具体的にどこを改善すべきか」を教えてくれるフレームワーク。売上高利益率・総資産回転率・財務レバレッジの3つに分解することで、収益性の弱点が明確になる。改善の優先順位を決めるときは、3要素のうち業界平均から最も乖離している要素に集中するのが定石。シンプルだが、財務データから経営の打ち手を導き出す基本ツールとして今も現役で使われている。