ひとことで言うと#
競争の激しいレッドオーシャンから、競争のないブルーオーシャンへと組織ぐるみで移行する5ステップの実践プロセス。ブルーオーシャン戦略の「考え方」を、現場で動かせる「やり方」に落とし込んだフレームワーク。
押さえておきたい用語#
- レッドオーシャン(Red Ocean)
- 既存プレイヤーが限られた需要を奪い合う競争の激しい市場のこと。価格競争に陥りやすく、利益率が下がり続ける。
- ブルーオーシャン(Blue Ocean)
- 競争相手がいない、または極めて少ない未開拓の市場空間を指す。需要を奪い合うのではなく、新たに創り出す。
- パイオニア・マイグレーター・セトラー(PMS)マップ
- 自社の事業ポートフォリオを開拓者・移行者・定住者の3タイプに分類し、成長余地を可視化するツール。
- ノンカスタマー(Non-Customer)
- まだ自社の市場に入っていない非顧客のこと。3つの層に分類し、新たな需要の源泉として分析する。
- 人間らしさのプロセス(Humanness Process)
- シフトに関わるメンバーの不安や抵抗を受け止め、心理的な納得感を醸成しながら変革を進める手法。
ブルーオーシャンシフトの全体像#
こんな悩みに効く#
- 既存事業の利益率がじりじり下がっていて、価格競争から抜け出せない
- ブルーオーシャン戦略の考え方は知っているが、具体的に何から手をつければいいかわからない
- 新市場を開拓したいのに、社内の抵抗が強くて変革が進まない
- 「差別化しろ」と言われても、業界の枠組みの中でしかアイデアが出ない
基本の使い方#
自社の事業・製品を**パイオニア(開拓者)・マイグレーター(移行者)・セトラー(定住者)**の3つに分類する。
- セトラー: 業界標準と変わらない事業。価格競争に巻き込まれやすい
- マイグレーター: 多少の改善はあるが、根本的な差別化には至っていない
- パイオニア: 顧客に新しい価値を提供している事業
セトラーに偏っているなら、シフトの緊急度が高い。チームで「うちの事業は今どこにいるのか」を率直に話し合う。
業界の主要な競争要因を横軸に並べ、各社がどれだけ力を入れているかを折れ線グラフで描く。
- 自社と主要競合の価値曲線を重ねてみる
- カーブの形が似ていれば、それは「同質化」の証拠
- 「業界では当たり前だが、顧客は本当に求めているのか?」と問いかける
このステップで、業界全体が暗黙に前提としている競争のルールが見えてくる。
まだ市場に来ていない「非顧客」を3つの層に分けて分析する。
- 第1層: 市場の端にいて、いつでも離脱しうる「すぐ去る顧客」
- 第2層: 意識的にこの市場を選ばなかった「拒否する非顧客」
- 第3層: 市場とは無縁と思い込んでいる「未開拓の非顧客」
既存顧客だけを見ていては新市場は見つからない。非顧客が「なぜ買わないのか」を深掘りすると、シフトのヒントが現れる。
6つの視点で業界の境界を越える可能性を探る。
- 代替産業に目を向ける
- 業界内の他の戦略グループを見る
- 買い手グループを再定義する
- 補完財・補完サービスを取り込む
- 機能志向と感性志向を切り替える
- **時間軸(トレンド)**を活用する
各パスから出てきたアイデアを4アクションフレームワーク(除去・削減・増加・創造)で整理し、新しい価値曲線を描く。
描いた新戦略を小さく試し、フィードバックを得てから本格展開する。
- ブルーオーシャン見本市: 社内外のステークホルダーに新コンセプトを提示し、反応を確認する
- 迅速な市場テスト: 限定的な地域・顧客セグメントで試す
- スケールアップ: テスト結果をもとに微調整し、全社展開へ
全ステップを通じて「人間らしさのプロセス」を忘れないこと。現場メンバーが自分の言葉で語れるようになるまで対話を重ねる。
具体例#
従業員120名の地方スーパーA社。大手チェーンとの価格競争で営業利益率が**1.8%**まで低下していた。
Step 1(現在地の把握): PMSマップに商品カテゴリを配置したところ、売上の**75%**がセトラー領域(他店と同じナショナルブランド中心)だった。
Step 2(戦略キャンバス): 地域の競合5社と比較すると、価格・品揃え・営業時間の曲線がほぼ一致。唯一、A社だけが地元農家23軒との直接取引ネットワークを持っていた。
Step 3(非顧客の発見): 第2層の非顧客として「共働きで買い物に行けない30〜40代世帯」が浮上。この層は地域人口の**38%**を占めていたが、既存の宅配サービスでは生鮮品の品質に不満を持っていた。
Step 4〜5: 「朝採れ地元野菜を当日配達」する定期宅配サービスを設計。まず半径10kmの500世帯にテスト提供し、継続率**82%**を確認してから全域に展開した。
開始から18か月で宅配売上が月商の**22%を占め、営業利益率は4.5%**に改善。既存店舗の売上を食わずに、新たな需要を掘り起こした形になった。
従業員45名の商業印刷会社。ペーパーレス化の進行で売上が5年間で**35%**減少し、単価も年々下がっていた。
PMSマップで分析すると、全事業がセトラー。戦略キャンバスを描いたところ、同業他社とほぼ同じ曲線で「納期・価格・紙質」の3要素だけで競っていた。
転機は非顧客分析にあった。第3層として「デザイン部門を持たない従業員50名以下の中小企業」を特定。彼らは名刺やパンフレットを発注するたびに外部デザイナーとの調整に平均12日を費やしていた。
6パスの「補完サービス」の視点から、印刷の前工程であるデザイン・ブランディングを一括で請け負うサービスを立ち上げた。デザインテンプレート80種類を用意し、ヒアリングから納品まで最短5日に短縮。
初年度に42社と契約し、客単価は従来の印刷のみと比べて3.2倍に上昇。印刷の受注も連動して増え、粗利率は**18% → 34%**になった。
創業90年、客室数15室の温泉旅館。コロナ後の観光需要回復後も平日稼働率は**28%**にとどまっていた。週末はほぼ満室なのに、平日の空室が経営を圧迫する構造から抜け出せない。
戦略キャンバスで地域の宿泊施設8軒を比較すると、「温泉の泉質・料理・接客・価格」で競っており、差がつきにくい。一方、非顧客分析で浮かんだのが「リモートワーク可能だが自宅では集中できないIT系フリーランス」という第2層。彼らは旅館を「仕事場」として検討すらしていなかった。
旅館の広い和室にスタンディングデスクと100MbpsのWi-Fiを設置。「午前は仕事、午後は温泉」を打ち出し、平日限定の月額プラン(月4泊で68,000円、食事付き)を設計した。
SNSでの口コミが広がり、開始6か月で月額会員が23名に到達。平日稼働率は**62%**まで回復した。従来の観光客とは利用曜日が重ならないため、既存のサービス品質も維持できている。「泊まる場所」ではなく「働く場所」として再定義したことが、この旅館にとってのブルーオーシャンだった。
やりがちな失敗パターン#
- いきなりStep 4から始める — 現在地も業界構造も把握せずにアイデア出しに走ると、既存の枠内のアイデアしか出ない。Step 1〜3の「現状直視」がシフトの土台になる
- 非顧客分析を省略する — 既存顧客の声だけを聞いていると、改善はできても新市場は見つからない。第2層・第3層まで丁寧に掘ることで初めて「業界の外」が見える
- 人間らしさのプロセスを軽視する — 戦略がどれだけ正しくても、現場が腹落ちしていなければ実行されない。「なぜ変わる必要があるのか」をメンバー自身が語れる状態を作ることが不可欠
- テストなしで全面展開する — 頭の中のブルーオーシャンが本当に存在するかは、市場に聞くしかない。小さく試して検証するステップを飛ばすと、大きな損失につながる
まとめ#
ブルーオーシャンシフトは、レッドオーシャンからブルーオーシャンへ移行するための5ステップの実践プロセス。PMSマップで現在地を確認し、戦略キャンバスで業界の常識を可視化し、非顧客分析で新しい需要の手がかりをつかみ、6パスフレームワークで具体的な道筋を描く。戦略の正しさだけでなく、組織の納得感を大切にする「人間らしさのプロセス」が全ステップを貫いている点が、このフレームワーク最大の特徴。