ひとことで言うと#
受注(Win)と失注(Loss)の案件を振り返り、勝敗の要因を構造的に分析して次の営業活動にフィードバックする手法。「なぜ勝てたか」「なぜ負けたか」を属人的な感想ではなくデータで解明する。
押さえておきたい用語#
- ウィン(Win)
- 受注に至った商談。勝因の再現性を高めるために分析対象とする。
- ロス(Loss)
- 失注した商談。敗因を特定し再発防止策を設計するための分析対象。
- No Decision
- 競合に負けたのではなく、顧客が「何も買わない」と判断した案件を指す。失注とは別カテゴリで分析する。
- ウィンレート(Win Rate)
- 商談総数に対する受注件数の割合。ウィン・ロス分析の最重要KPIである。
- ポストモーテム(Post-mortem)
- 案件終了後に行う振り返り分析。成功・失敗の両方について実施する考え方。
ウィン・ロス分析の全体像#
こんな悩みに効く#
- 失注理由が「価格」で片付けられ、本当の敗因が組織に蓄積されない
- トップ営業の勝ちパターンが暗黙知のまま共有されていない
- 四半期レビューで「次は頑張ろう」以上の改善施策が出てこない
基本の使い方#
直近四半期の全案件からWin・Loss・No Decisionを分類する。全件分析が理想だが、リソースが限られる場合は以下を優先する。
- 大型案件(年間契約額が平均の2倍以上)
- 僅差の勝敗(最終2社に残った案件)
- 想定外の結果(勝てるはずだった失注、難しいはずだった受注)
案件終了後 2週間以内 に顧客へインタビューを依頼する。担当営業ではなく第三者(マネージャーやセールスオペレーション)が聞くと、顧客が本音を話しやすい。
質問項目の例:
- 最終的に決め手になったポイントは何か
- 検討中に最も懸念していたことは何か
- 他社と比較して当社が劣っていた点はどこか
- 社内の意思決定プロセスで障壁になったことはあるか
| カテゴリ | 分析観点 |
|---|---|
| 製品・機能 | 必要な機能は満たしていたか |
| 価格・条件 | 価格は競合と比較して妥当だったか |
| 営業プロセス | 適切なタイミングで適切な情報を提供できたか |
| 関係構築 | キーマンとの信頼関係は構築できていたか |
| タイミング | 顧客の予算サイクルや導入期限に合っていたか |
| 競合優位性 | 競合に対する差別化ポイントは伝わっていたか |
各カテゴリを 勝因/敗因/影響度(高・中・低) で整理する。
具体例#
従業員200名のクラウドERP企業。直近2四半期で失注率が 42% → 55% に悪化し、原因を分析した。
分析対象: 失注18件(うちNo Decision 5件)
| 敗因カテゴリ | 件数 | 影響度「高」の割合 |
|---|---|---|
| 製品・機能 | 4件 | 25% |
| 価格・条件 | 6件 | 50% |
| 営業プロセス | 3件 | 33% |
| 関係構築 | 8件 | 75% |
| タイミング | 2件 | 50% |
| 競合優位性 | 7件 | 57% |
顧客インタビューで判明した真の敗因は「価格」ではなく関係構築の不足だった。8件中6件で「経営層との接点がなかった」と回答。営業は「価格で負けた」と報告していたが、実際は意思決定者にリーチできていなかったことが根本原因。
対策として経営層向けの業界別ビジョンセッション(30分)を標準プロセスに組み込んだところ、翌四半期のウィンレートが 45% → 58% に回復した。
従業員25名のデジタル広告代理店。受注案件15件を分析して勝ちパターンを抽出した。
受注案件の共通要因:
| 勝因 | 出現率 | 具体的な行動 |
|---|---|---|
| 初回提案前の競合調査共有 | 87%(13/15件) | 顧客業界の広告出稿状況レポートを無料提供 |
| 2回目商談での成果シミュレーション | 80%(12/15件) | 具体的なCPA・CV数をスプレッドシートで提示 |
| 決裁者同席の最終プレゼン | 73%(11/15件) | CMOまたはマーケ部長が参加 |
一方、失注案件ではこの3要素がすべて揃った案件はゼロだった。
この分析結果から「競合調査レポート → 成果シミュレーション → 決裁者プレゼン」の3ステップを営業プレイブックに標準化。新人営業にも同じ手順を徹底させた結果、チーム全体のウィンレートが 38% → 52% に向上している。
従業員400名の産業機械メーカー。年間の失注案件48件中、No Decisionが 21件(44%) を占めていることが判明。
No Decision案件の顧客インタビュー(13件実施)で浮かび上がったパターン:
| 停滞理由 | 件数 | 典型的な顧客コメント |
|---|---|---|
| 社内合意形成の失敗 | 6件 | 「現場は欲しいが経営層の承認が取れなかった」 |
| ROIの不明確さ | 4件 | 「導入効果を数字で説明できず稟議が通らなかった」 |
| 他の投資案件に予算を奪われた | 3件 | 「DX投資に予算が回ってしまった」 |
対策は2つ。まず、ROI試算ツール(Excel)を営業全員に配布し、顧客がそのまま稟議書に添付できる形式にした。次に、案件の初期段階で「予算の競合」(同時期に検討中の他の投資案件)を確認する質問を商談チェックリストに追加した。
翌年度のNo Decision率は 44% → 23% に低下。ウィンレート自体も 31% → 40% に改善した。
やりがちな失敗パターン#
営業の自己申告だけで分析する — 失注理由を担当営業に聞くと「価格」と答えがち。顧客インタビューを省略すると、本当の敗因(関係構築不足、タイミングのズレ)を見逃す。第三者による顧客ヒアリングが分析の生命線。
Win案件を分析しない — 失注の振り返りだけで満足し、受注案件の分析を怠る。勝てた理由を構造化しなければ、成功の再現性は上がらない。Win分析はLoss分析と同じかそれ以上に重要である。
分析結果を個人の評価に使う — 「あなたの失注率が高い」と個人攻撃の材料にすると、営業が正直に情報を出さなくなる。分析の目的はプロセス改善であり、個人の責任追及ではないことを明示する。
改善施策が抽象的すぎる — 「もっと丁寧に提案する」「関係構築を強化する」では行動が変わらない。「初回商談前に業界レポートを送付する」「2回目商談で必ずROI試算を提示する」のように、具体的なアクションに落とす。
まとめ#
ウィン・ロス分析は、受注・失注の理由を属人的な感覚から構造的なデータに変換する手法である。顧客インタビューによる真の要因特定と、6カテゴリによる分類、複数案件の横断パターン抽出が分析の核になる。分析で終わらせず、プレイブックや標準プロセスへの反映まで行い、ウィンレートの変化を追跡するところまでがこの手法の範囲である。