段階別プライシング設計

英語名 Tiered Pricing Framework
読み方 ティアード プライシング フレームワーク
難易度
所要時間 設計に1〜2週間、検証は継続的
提唱者 行動経済学の極端回避性(松竹梅の法則)をベースにした価格戦略
目次

ひとことで言うと
#

3つの価格帯を用意し、真ん中のプランに顧客を誘導する料金設計手法。人間の「極端を避けて中間を選ぶ」心理を活用し、売りたいプランの選択率を高める。

押さえておきたい用語
#

押さえておきたい用語
極端回避性(Extremeness Aversion)
選択肢が3つあると最も高いものと最も安いものを避け、中間を選びやすくなる心理傾向を指す。松竹梅の法則とも呼ばれる。
アンカリング(Anchoring)
最初に提示された数字が判断の基準点になる認知バイアス。最上位プランの価格が「高い」という基準を作り、中間プランを割安に感じさせる効果がある。
デコイ効果(Decoy Effect)
明らかに劣る選択肢を加えることで、特定の選択肢の魅力を相対的に高める手法。段階別プライシングでは最上位プランがデコイの役割を果たすことがある。
ARPU(Average Revenue Per User)
ユーザー1人あたりの平均売上のこと。段階別プライシングの成否を測る代表的な指標。

段階別プライシング設計の全体像
#

段階別プライシング:3つのプランで中間に誘導する構造
松(Premium)最上位プランアンカーとして機能全機能+専任サポート竹(Standard)売りたい本命プラン価格と機能のバランス◎極端回避性で選ばれるおすすめ梅(Basic)最廉価プラン機能を絞り込み「物足りない」と感じさせる差を小さく差を大きく15%選択率60%選択率25%選択率松竹の価格差を小さく、竹梅の価格差を大きくすると竹への誘導力が高まる
段階別プライシング設計の進め方フロー
1
本命プランの決定
最も売りたいプランの機能と価格を先に設計する
2
上位プランの設計
本命の1.5〜2倍の価格でアンカーを設定する
3
下位プランの設計
機能を削り「足りない」と感じるラインに調整する
選択率の検証
竹の選択率が50%以上になるまで価格差と機能差を調整する

こんな悩みに効く
#

  • 安いプランばかり選ばれてARPUが上がらない
  • 価格を提示するとき「高い」と言われてしまう
  • 料金プランの数が多すぎて顧客が迷っている

基本の使い方
#

本命プラン(竹)を先に設計する

最も多くの顧客に選んでほしいプランを最初に決める。

  • 顧客の主要な課題を8割以上解決する機能を搭載
  • 利益率と顧客満足度がバランスする価格帯を設定
  • 機能の過不足がないか既存顧客にヒアリング

ポイント: 上位・下位プランより先に竹を設計する。竹が「基準」であり、松と梅は竹を引き立てるための存在。

上位プラン(松)でアンカーを作る

竹の1.5〜2倍の価格で最上位プランを設計する。

  • 竹にない付加価値(専任サポート、SLA保証、カスタマイズなど)を追加
  • 少数の大口顧客が選んでも利益が出る設計にする
  • 松の存在が竹を「お得に見せる」アンカーになる

ポイント: 松は「実際に売れなくてもいい」プラン。竹を安く感じさせるための比較基準として機能する。

下位プラン(梅)で下限を設定する

竹の**50〜70%**の価格で最廉価プランを設計する。

  • 核心機能のみに絞り、「これだと足りない」と感じるラインに調整
  • 竹との価格差を大きくしすぎない(竹の魅力が薄れる)
  • 梅→竹へのアップグレード導線を明確にする

ポイント: 梅を安くしすぎると竹の選択率が下がる。「あと少し出せば竹が買える」と思わせる絶妙な設定が重要。

具体例
#

例1:BtoB SaaSが料金プランを3段階に再設計

状況: 従業員40名のプロジェクト管理SaaS。月額980円の単一プランで提供していたが、ARPU向上のために段階別プライシングを導入。

設計内容:

プラン月額(1ユーザー)主な機能
エンタープライズ(松)2,980円全機能+専任CS+API連携+SLA 99.9%
ビジネス(竹)1,980円ガントチャート+レポート+外部連携5種
スターター(梅)980円タスク管理+基本カンバンのみ

価格差の設計: 松←→竹が1,000円差、竹←→梅も1,000円差。機能差は竹←→梅の方を大きくし、「あと1,000円で使える機能がこんなに増える」と感じさせた。

指標単一プラン時3プラン導入後(6ヶ月)
ARPU980円1,720円
竹の選択率58%
解約率8.2%5.4%

ARPUは75%向上し、竹を選んだ顧客は機能が充実しているため解約率も改善した。

例2:地方の結婚式場が3つのプランで客単価を引き上げ

状況: 年間120組を受注する地方の結婚式場。平均単価280万円が3年連続で下落傾向にあり、料金体系を見直し。

設計内容:

プラン価格内容
プレミアム(松)480万円全館貸切+海外ドレス+映像演出+専属プランナー
スタンダード(竹)350万円チャペル+披露宴+衣装2着+アルバム+ムービー
シンプル(梅)220万円挙式+会食(30名まで)+衣装1着

工夫: 見学時にまずプレミアムの会場を案内し、「ここまでは不要だけど、スタンダードなら手が届く」という心理を狙った。梅のシンプルプランは「親族のみの少人数婚」として別ニーズも取り込む設計にした。

導入後1年の選択率は松12%、竹61%、梅27%。平均客単価は280万円から338万円に上昇し、年間売上は約6,960万円増加している。

例3:フリーランスのWebデザイナーが制作メニューを3段階化

状況: 独立3年目のWebデザイナー。「いくらですか?」と聞かれるたびに個別見積もりを出していたが、安い案件ばかり受注してしまい月商が伸び悩み。

設計内容:

プラン価格内容
フルパッケージ(松)80万円デザイン+コーディング+SEO設計+写真撮影+月次レポート
スタンダード(竹)45万円デザイン+コーディング+SEO基本設定+CMS導入
ライト(梅)18万円テンプレートベースのLP1ページ

提案書にはまずフルパッケージを提示し、次にスタンダードを「多くのお客様が選ばれています」と添えて説明。ライトは「まずは試してみたい方向け」と位置付けた。

導入前の平均受注単価は22万円だったが、3段階化の6ヶ月後には41万円に上昇。月の案件数は5件から4件に減ったが、月商は110万円から164万円へ49%増となった。受注単価が上がったぶん制作に時間をかけられるようになり、紹介経由の問い合わせも増えた。

やりがちな失敗パターン
#

  1. 松と竹の価格差が大きすぎる — 松が高すぎるとアンカーではなく「論外」になり、竹も高く感じてしまう。松は竹の1.5〜2倍が目安
  2. 梅の機能が充実しすぎる — 梅で十分と判断されると竹の選択率が下がる。梅は「あと少し出せば…」と感じるギリギリのラインに設計する
  3. 4つ以上のプランを作る — 選択肢が増えると「選択のパラドックス」が発生し、顧客は決断を先送りする。基本は3つに絞る
  4. プラン間の違いが分かりにくい — 比較表を用意せずテキストだけで説明すると、顧客は「何が違うの?」で離脱する。一覧表での比較を必ず見せる

まとめ
#

段階別プライシングは、3つの価格帯を設計し「極端回避性」で本命プランへ誘導する手法。まず売りたいプラン(竹)を決め、アンカーとなる松と引き立て役の梅で挟む。価格差と機能差のバランスが成否を分けるため、選択率データを見ながら継続的に調整する。