3つのなぜ(営業版)

英語名 Three Whys Sales
読み方 スリー ワイズ セールス
難易度
所要時間 商談内で5〜10分
提唱者 トヨタ生産方式の「5つのなぜ」を営業ヒアリングに応用
目次

ひとことで言うと
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顧客の回答に対して**「なぜ」を3回重ねて質問する**ことで、表面的な要望の裏にある根本課題を引き出すヒアリング技法。製造業の品質改善で使われる「5つのなぜ」を営業の商談に応用したもので、3回の深掘りで実用的な深さに到達する。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
表面課題(Surface Problem)
顧客が最初に口にする自覚している困りごとのこと。「作業が遅い」「人が足りない」のように現象レベルで表現される。
根本課題(Root Cause)
表面課題の奥にある本当の原因。3回の「なぜ」で掘り下げると、プロセスの欠陥や意思決定の構造的な問題にたどり着く。
ペインポイント(Pain Point)
顧客が感じている具体的な痛みを指す。根本課題に近いほど、解決されたときの感謝とインパクトが大きくなる。
リフレーミング(Reframing)
顧客の課題を別の角度から捉え直すこと。3回の「なぜ」で根本課題が見えると、提案の切り口が変わる。

3つのなぜの全体像
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3回の「なぜ」で表面課題から根本課題に到達する
表面課題(顧客の最初の発言)「営業の効率が悪い」なぜ?①1段目の深掘り「見込み客のフォローが漏れている」なぜ?②2段目の深掘り「顧客情報がExcelで属人管理」なぜ?③根本課題(提案の核心)「営業プロセスの標準化と可視化ができていない」根本課題に対して提案することで、表面的な対症療法ではない本質的なソリューションになる
3つのなぜの実践フロー
1
表面課題をキャッチ
顧客が最初に口にした困りごとをそのまま受け止める
2
3回の「なぜ」で深掘り
共感を示しながら段階的に根本原因を探る
3
根本課題を合意
「つまり本質的な課題は〇〇ですね」と確認する
根本課題に対する提案
表面ではなく本質に刺さる提案を設計する

こんな悩みに効く
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  • 顧客の要望通りに提案しても「なんか違う」と言われる
  • ヒアリングが浅くて提案の切り口が見つからない
  • 競合と同じような提案になってしまい差別化できない

基本の使い方
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表面課題を受け止める
顧客が最初に口にした困りごとを否定せずそのまま受け止める。「営業の効率が悪い」「コストが高い」「人が足りない」など、多くの場合は現象レベルの発言。この段階では「なるほど、効率にお悩みなんですね」と共感を示す。
共感→「なぜ」→共感のサイクルで3回掘る
「なぜですか」と直球で聞くと詰問に感じる。「それはどういう場面で特に困りますか」「何がそうさせているのでしょうか」「その状況になった背景は何かありますか」のように、表現を変えながら3回深掘りする。各回の回答に必ず共感を挟む。
根本課題を一文にまとめて合意する
3回の深掘りで見えた根本課題を「つまり、〇〇が本質的な課題ということですね」と一文にまとめて確認する。顧客が「そうです、まさにそれです」と言えば成功。この合意が提案の出発点になる。

具体例
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例1:IT企業が人材派遣会社の本当の課題を引き出す

従業員30名のIT企業が、人材派遣会社(従業員80名)にシステム提案のためヒアリングを実施。

3回の深掘り

深さ質問顧客の回答
表面「今のお悩みは?」「請求業務に時間がかかりすぎる」
なぜ①「具体的にどこで時間がかかります?」「派遣スタッフの勤怠データの突合に毎月3日かかる」
なぜ②「なぜ突合に3日も?」「クライアント50社のフォーマットが全部違うから手作業」
なぜ③「フォーマット統一はできないのですか?」「クライアントに依頼しづらい。うちの立場が弱いので」

見えた根本課題

表面的には「請求業務の効率化」だが、根本は「クライアントとの力関係で業務フローを標準化できない」こと。

提案の変化

当初は「請求書作成ツール」の提案を予定していたが、根本課題に合わせて「多フォーマット自動取込+突合エンジン」を提案。クライアントのフォーマットを変えずに突合を自動化する方向に転換した。

月間 3日の手作業2時間 に短縮され、年間で 約480万円 の人件費削減効果を実現。顧客からは「最初の要望通りに提案されていたら、ここまでの効果は出なかった」と評価された。

例2:広告代理店がアパレルブランドの売上低迷の真因を発見する

従業員15名の広告代理店が、中堅アパレルブランド(年商8億円)から「Web広告の効果が落ちている」と相談を受けた。

3回の深掘り

  • 表面: 「Web広告のCPAが 3,800円 から 6,200円 に悪化した」
  • なぜ①: 「広告のクリック率は変わらないが、サイトのCVRが下がっている」
  • なぜ②: 「サイトを見に来た人が商品ページで離脱する。特にスマホの離脱率が 82%
  • なぜ③: 「去年サイトリニューアルしたが、スマホの商品画像が小さく、サイズ表が見にくいとCS(顧客対応)に問い合わせが増えている」

根本課題の発見

広告の問題ではなく「サイトリニューアルでスマホのUXが悪化した」ことが真因だった。

広告費の増額(月 50万円 追加)ではなく、スマホUIの改善( 120万円 の一時投資)を提案。商品画像の拡大表示とサイズガイドの改善により、3か月後にCVRが 1.2% → 2.1% に回復し、CPAは 6,200円 → 3,500円 に改善。広告費を増やさずに売上が月 350万円 増加した。

例3:オフィス家具メーカーが建設会社の「椅子を買いたい」の裏側を探る

従業員45名のオフィス家具メーカーに、地方の建設会社(従業員60名)から「事務所の椅子を30脚買い替えたい」と問い合わせがあった。

普通なら: カタログを送って見積もりを出す。

3回の深掘り

  • 表面: 「椅子が古くなったので買い替えたい。予算は 100万円
  • なぜ①: 「社員から腰痛の訴えが増えている。特に事務職の 7名 が通院中」
  • なぜ②: 「在宅勤務が増えて、出社時に長時間座ることが減ったのに、座ると余計に腰が痛いらしい」
  • なぜ③: 「実は最近、腰痛で退職した事務員が 2名 いる。社長が『健康経営に取り組め』と号令を出した」

根本課題

「椅子の買い替え」ではなく「健康経営の実現と人材定着」が本質。

椅子30脚の見積もり(100万円)だけでなく、「健康経営パッケージ」として提案を拡張。エルゴノミクスチェア30脚 + スタンディングデスク10台 + 腰痛予防セミナー1回のセットで 180万円 の提案に。

社長が「まさにこういうのを求めていた」と即決。単なる椅子の買い替えなら100万円の案件だったが、根本課題に対する提案に変えたことで 80%のアップセル を実現した。

やりがちな失敗パターン
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  1. 「なぜ」を詰問口調で聞く:「なぜですか」を3回連続で聞くと尋問になる。「それはどういう背景がありますか」「何がきっかけで」「具体的にはどういう状況ですか」と表現を変える。

  2. 回答に共感せずに次の「なぜ」を重ねる:共感なしに質問を続けると、顧客は「取り調べを受けている」気分になる。各回の回答に「それは大変ですね」「なるほど」と共感を挟んでから次の質問に進む。

  3. 3回で止めずに掘りすぎる:5回も6回も掘ると顧客が疲弊する。営業のヒアリングでは3回が実用的な深さ。3回で十分な根本課題が見えなければ、別の角度から質問する。

  4. 深掘りした結果を提案に反映しない:せっかく根本課題を引き出しても、結局用意していたテンプレ提案を出してしまう。深掘りの成果は必ず提案の切り口に反映する。

まとめ
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顧客が最初に口にする課題は、ほぼ間違いなく表面的なものにすぎない。3回の「なぜ」で根本課題まで到達し、そこに対して提案することで、「わかっている営業」「他社とは違う提案」という評価を得られる。共感→深掘り→共感のリズムを保ちながら自然に掘り下げ、根本課題を一文にまとめて顧客と合意するところまでがこの技法の一連の流れになる。