ステークホルダーマッピング(営業版)

英語名 Stakeholder Mapping Sales
読み方 ステークホルダー マッピング セールス
難易度
所要時間 1案件あたり30〜60分
提唱者 エンタープライズ営業における組織分析手法として発展
テンプレート あり ↓
目次

ひとことで言うと
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顧客組織の意思決定に関わるキーパーソンを役割・影響力・態度の3軸で整理し、誰にどんなアプローチをすべきかを可視化する手法。「担当者としか話していない」状態から脱却する。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
ステークホルダー(Stakeholder)
商談の意思決定や推進に影響を与える関係者の総称。
エコノミックバイヤー(Economic Buyer)
最終的な購買決定権と予算承認権限を持つ決裁者を指す。
チャンピオン(Champion)
顧客社内で自社の導入を積極的に推進してくれる社内支援者を指す。
ブロッカー(Blocker)
導入に対して反対・慎重姿勢を持ち、意思決定を阻害する可能性のある人物である。
インフルエンサー(Influencer)
決裁権は持たないが、決裁者の判断に大きな影響力を持つ人物。

ステークホルダーマッピング(営業版)の全体像
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顧客組織の意思決定関与者マッピング構造
顧客の意思決定構造経済的決裁者Economic Buyer最終決裁権 + 予算権限インフルエンサー決裁者の判断に影響を与えるチャンピオン社内で積極的に導入を推進ブロッカー導入に反対・慎重姿勢エンドユーザー実際に製品を使う現場担当者ゲートキーパー情報の流れを管理(購買部・IT部門)影響推進抵抗
ステークホルダーマッピングの進め方フロー
1
関係者の洗い出し
意思決定に関わる全員をリストアップ
2
役割と態度の分類
各人の役割・影響力・賛否を整理
3
アプローチ設計
誰に何をどの順で伝えるか計画
組織的合意形成
全キーパーソンの賛同を得て受注

こんな悩みに効く
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  • 担当者との関係は良好なのに、稟議の段階で突然ストップする
  • 最終局面で「聞いていなかった」という未知の関係者が登場する
  • 顧客組織の誰に何を伝えるべきかが整理できていない

基本の使い方
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ステップ1:関係者を漏れなくリストアップする

商談に関与しうる人物を以下の観点から洗い出す。

  • 直接ヒアリングしている相手(担当者・窓口)
  • その人の上司・上位意思決定者
  • 予算を管理する部門の責任者
  • 製品を実際に使うエンドユーザー
  • 購買や法務など承認プロセスに関わる部門
  • 外部アドバイザー(コンサルタント、業界団体)

「この商談の結果に影響を与える可能性がある人」を広めに拾う。

ステップ2:各人の役割・影響力・態度を整理する
項目分類
役割決裁者 / チャンピオン / インフルエンサー / ユーザー / ゲートキーパー / ブロッカー
影響力高(決裁権あり) / 中(発言権あり) / 低(間接的)
態度推進(積極的) / 中立 / 消極的 / 反対

この3軸で全員を一覧表にまとめる。

ステップ3:人物ごとのアプローチ戦略を設計する
態度アプローチ
推進者社内説得用の武器(資料・データ)を提供する
中立者個別面談で関心事を把握し、メリットを個別に訴求する
消極的懸念点を具体的にヒアリングし、一つずつ解消する
反対者直接説得ではなく、推進者経由で間接的にアプローチする

アプローチの順序は「推進者の武装 → 中立者の取り込み → 反対者の懸念解消」が基本。

具体例
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例1:HRテック企業が300名規模メーカーの組織を攻略する

従業員40名のHRテックSaaS企業。従業員300名の精密機器メーカーに人事評価システムを提案する。

ステークホルダーマップ:

人物部署・役職役割影響力態度
山田部長人事部長チャンピオン推進
佐藤CFO経営企画決裁者中立
田中課長情シス課長ゲートキーパー消極的
鈴木主任人事主任ユーザー推進
高橋常務取締役インフルエンサー中立
伊藤部長製造部長ブロッカー反対

最大のリスクは情シス田中課長の消極姿勢と、製造部の伊藤部長の反対。田中課長はセキュリティ懸念、伊藤部長は「現場の負担が増える」という理由。

アプローチ:

  • 田中課長 → セキュリティ認証資料とAPI仕様書を先に提供し、技術面の懸念を解消
  • 伊藤部長 → チャンピオンの山田部長経由で「製造部の評価が見える化され、昇給・昇格の根拠が明確になる」というメリットを伝達

結果、田中課長が「中立」に転じ、伊藤部長も「運用負荷が最小限なら」と条件付き賛成に。 受注まで67日 で成約した。

例2:セキュリティベンダーが金融機関の7名の関係者を整理する

従業員90名のセキュリティベンダー。地方銀行(従業員1,200名)にセキュリティ監視サービスを提案。関係者が7名と多く、誰を優先すべきか整理が必要だった。

マッピング後に判明した構造:

  • CISO(最終決裁者)は外部採用で着任2か月目。自分の成果を早く出したい状態
  • システム部の副部長がブロッカー。既存ベンダーとの関係が深い
  • 監査部長がインフルエンサー。直近の金融庁検査で指摘を受けており、セキュリティ強化に前向き

従来の営業ならシステム部のブロッカーを説得しようとするが、マッピングの結果から監査部長をテコにCISOにアプローチする戦略に変更。

監査部長に「金融庁指摘事項への対応として、このサービスがどう機能するか」をレポートにまとめて提供。監査部長がCISOに直接推薦した結果、システム部のブロッカーは上からの指示で協力に転じた。提案から受注まで 45日、通常の金融機関案件(平均120日)の3分の1で成約している。

例3:教育ICT企業が自治体の教育委員会を攻略する

従業員20名の教育ICT企業。人口8万人の市の教育委員会にタブレット学習システムを提案。

自治体特有の意思決定構造をマッピングした結果:

人物役割影響力態度攻略ポイント
教育長決裁者中立成果データ重視
指導主事チャンピオン推進現場改善に熱心
学校長(A校)ユーザー代表推進パイロット校候補
学校長(B校)ブロッカー反対ICT苦手意識が強い
財政課長ゲートキーパー消極的費用対効果を重視
議会文教委員インフルエンサー中立市民受けを意識

アプローチ設計:

  1. A校でパイロット導入し、3か月で成績データを収集(推進者の武装)
  2. 指導主事と連携し、パイロット成果を教育長に報告(中立者→推進者化)
  3. 財政課長には国の補助金活用スキームを提案(消極的→中立化)
  4. B校の学校長には教員向け操作研修を無料で実施(反対→消極的に緩和)

パイロット3か月後、テスト平均点が 12点向上 という具体的成果が出た。教育長が「全校展開」を決定し、財政課長も補助金活用で予算の 65% を国庫負担にできることで同意。年間契約 1,800万円 で受注した。

やりがちな失敗パターン
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  1. 担当窓口だけをマッピングして満足する — 直接やり取りしている1〜2名だけをマップに載せ、意思決定プロセスの全体像を把握しない。最低でも「決裁者」「チャンピオン」「ブロッカー」の3角形は必ず埋める。

  2. ブロッカーを無視する — 反対者がいることを認識しつつ、直接対話を避ける。ブロッカーは消えないので、「なぜ反対しているか」の理由を把握し、間接的にでも懸念を解消する策を打つ必要がある。

  3. マップを1回作って更新しない — 商談が進むにつれて人事異動、新任者の参加、態度の変化が起きる。少なくとも月1回はマップを見直し、変化がないか確認する。

  4. 全員に同じ資料で同じ説明をする — 決裁者が知りたいのはROI、ユーザーが知りたいのは操作性、ゲートキーパーが知りたいのはセキュリティ。関心事が違う相手に同じプレゼンをしても響かない。

まとめ
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ステークホルダーマッピングは、顧客組織の意思決定構造を可視化し、誰にどんな順序でアプローチすべきかを設計する手法である。決裁者・チャンピオン・ブロッカーの3角形を最低限押さえたうえで、各人の関心事に合わせた個別アプローチを設計することが受注確度を高める。商談の進行に合わせたマップの更新も欠かせない。

ステークホルダーマッピング(営業版)のフレームワークテンプレート

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