ひとことで言うと#
案件数 × 成約率 × 平均単価 ÷ 平均リードタイムの4変数で、パイプラインの「速度」を1つの数値で測る方程式。どの変数を改善すれば最も効果的かを特定し、打ち手の優先順位を決める。
押さえておきたい用語#
- セールスベロシティ(Sales Velocity)
- 一定期間にパイプラインが生み出す売上の速度のこと。単位は「円/日」で表す。
- パイプライン(Pipeline)
- 商談の発生から受注までの一連の進捗管理プロセスを指す。
- リードタイム(Lead Time)
- 商談が発生してから受注または失注が確定するまでの所要日数である。
- ウィンレート(Win Rate)
- パイプライン上の商談総数に対する受注件数の割合。成約率とも呼ぶ。
- ACV(Annual Contract Value)
- 年間契約金額。SaaSなど定期契約ビジネスで平均単価として使う指標。
セールスベロシティ方程式の全体像#
こんな悩みに効く#
- 「案件を増やせ」「単価を上げろ」と複数のKPIを同時に追いかけて、どれも中途半端になっている
- パイプラインの金額は大きいのに、実際の売上が伸びない理由がわからない
- 営業チームごとにどこがボトルネックかを客観的に比較できない
基本の使い方#
直近四半期のデータを使い、以下の4変数を算出する。
| 変数 | 算出方法 | 例 |
|---|---|---|
| 案件数 | 期間内に発生した有効商談数 | 50件 |
| 成約率 | 受注件数 ÷ 商談総数 | 30%(15/50件) |
| 平均単価 | 受注総額 ÷ 受注件数 | 200万円 |
| リードタイム | 商談開始〜受注の平均日数 | 60日 |
方程式に当てはめて計算する。
SV = 50 × 0.30 × 200万円 ÷ 60 = 50万円/日
この数値が「現在のパイプラインが1日あたり50万円の売上を生み出している」ことを意味する。月換算で約1,500万円。
| 改善対象 | 改善後の値 | 新SV | 改善額/日 |
|---|---|---|---|
| 案件数 50→55 | +10% | 55万円 | +5万円 |
| 成約率 30%→33% | +10% | 55万円 | +5万円 |
| 平均単価 200万→220万 | +10% | 55万円 | +5万円 |
| リードタイム 60→54日 | -10% | 55.6万円 | +5.6万円 |
この例ではリードタイム短縮が最もインパクトが大きい。実際にはチームの現状と改善余地を考慮して、最も「改善しやすく効果が大きい」変数に集中する。
具体例#
従業員60名のプロジェクト管理SaaS。セールスベロシティを初めて算出した。
| 変数 | 現状値 |
|---|---|
| 案件数 | 月80件 |
| 成約率 | 25% |
| 平均ACV | 120万円 |
| リードタイム | 90日 |
SV = 80 × 0.25 × 120万 ÷ 90 = 26.7万円/日
4変数のシミュレーションで、リードタイムが90日→70日(22%短縮)になれば SV = 34.3万円/日 と最大の改善幅になると判明。
対策として「初回デモから2営業日以内にトライアル環境を提供」「3回目の商談で必ず意思決定者を同席」の2ルールを導入。リードタイムが 90日 → 68日 に短縮され、SVは 26.7 → 35.3万円/日 に向上した。月間換算で約260万円の売上増に相当する。
従業員150名の人材派遣会社。営業部長は「案件が足りない」と考えていたが、方程式で分析すると見え方が変わった。
| 変数 | 自社 | 業界平均 | 差 |
|---|---|---|---|
| 案件数 | 月120件 | 月80件 | +50% |
| 成約率 | 12% | 28% | -57% |
| 平均単価 | 45万円 | 50万円 | -10% |
| リードタイム | 21日 | 25日 | -16% |
自社SV = 120 × 0.12 × 45万 ÷ 21 = 30.9万円/日 業界平均SV = 80 × 0.28 × 50万 ÷ 25 = 44.8万円/日
案件数は業界平均の1.5倍あるのにSVが低い原因は、成約率 12% の異常な低さだった。大量に案件を作っても質が伴っていなかった。
対策としてディール・クオリフィケーション基準を導入し、スコア60点未満の案件はパイプラインに入れないルールにした。案件数は120→75件に減ったが、成約率が 12% → 24% に倍増。SVは 30.9 → 51.4万円/日 に改善した。
従業員35名の工業用部品商社。営業5名のチーム別にSVを算出して比較した。
| チーム | 案件数 | 成約率 | 平均単価 | LT | SV |
|---|---|---|---|---|---|
| Aチーム | 40件 | 35% | 80万円 | 30日 | 37.3万円/日 |
| Bチーム | 55件 | 30% | 35万円 | 25日 | 23.1万円/日 |
Bチームは案件数でAチームを上回るが、平均単価が半分以下のためSVが大幅に低い。小口案件を大量にこなすスタイルが収益性を圧迫していた。
Bチームの改善策として、既存取引先へのクロスセル提案(部品だけでなく保守契約・消耗品定期便を追加)を導入。平均単価が 35万→58万円 に上昇し、SVは 23.1 → 38.3万円/日 にまで改善。Aチームを上回る結果を出した。
やりがちな失敗パターン#
4変数を同時に改善しようとする — すべてを少しずつ良くしようとすると、リソースが分散して効果が出ない。シミュレーションで最もインパクトが大きい1変数に集中するのが方程式の使い方。
案件数だけを追いかける — 「とにかく商談を増やせ」は最も安易な打ち手。質の低い案件が増えると成約率が下がり、リードタイムも伸びて、SV全体はむしろ低下する。
チーム間比較をせずに全社平均だけで見る — 全社平均のSVだけを見ると、チームごとのボトルネックの違いが見えない。Aチームは成約率、Bチームはリードタイムというように、改善ポイントはチームで異なる。
リードタイムの短縮を「値引きで即決」と勘違いする — リードタイム短縮は商談スピードの効率化であり、値引きで受注を急ぐこととは違う。値引きで短縮すると平均単価が下がり、SVは結局改善しない。
まとめ#
セールスベロシティ方程式は、営業パイプラインの生産性を「案件数 × 成約率 × 平均単価 ÷ リードタイム」の1つの数値で測る。4変数それぞれの改善シミュレーションにより、最もインパクトの大きいボトルネックを客観的に特定できる。チーム間比較にも有効で、「何が足りないか」を感覚ではなく数字で議論するための共通言語になる。