ハーバード流交渉術

英語名 Harvard Negotiation (Getting to Yes)
読み方 ハーバードりゅう コウショウジュツ
難易度
所要時間 交渉準備に1〜2時間
提唱者 ロジャー・フィッシャー、ウィリアム・ユーリー
目次

ひとことで言うと
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「立場(ポジション)」で争うのではなく、「利害(インタレスト)」に焦点を当てて、双方が満足する合意を見つけるための交渉フレームワーク。ハーバード大学の交渉学プロジェクトから生まれた、世界標準の交渉術。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
ポジション(Position)
交渉で相手に要求する具体的な条件のこと。「500万円にしてほしい」「納期は来月まで」など表面的な主張〜を指す。
インタレスト(Interest)
ポジションの裏にある本当に求めていることのこと。「予算内に収めたい」「品質を確保したい」など、利害の本質〜である。
BATNA(Best Alternative To a Negotiated Agreement)
交渉が決裂した場合の最善の代替案のこと。BATNAが強いほど交渉で有利な立場に立てる〜である。
ZOPA(Zone Of Possible Agreement)
双方の許容範囲が重なる合意可能な領域のこと。ZOPAが存在しなければ合意は不可能〜である。

ハーバード流交渉術の全体像
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4つの原則で立場の争いから利害の創造へ
❶ 人と問題を分離する相手は「敵」ではなく「一緒に問題を解決するパートナー」❷ 立場→利害にフォーカス要求の裏にある「本当に求めていること」を探る❸ 選択肢を創造するパイの奪い合いではなくパイ自体を大きくする発想❹ 客観的基準で合意市場価格・業界標準・前例データに基づく合理的な判断BATNA = 交渉力の源泉代替案が強い=余裕を持って交渉できる準備が交渉の8割を決める — 利害・BATNA・客観的基準を事前に整理Getting to Yes — ハーバード大学 交渉学プロジェクト
ハーバード流交渉術の進め方フロー
1
人と問題を分離
感情的にならず事実と利害にフォーカスする
2
利害を探る
「なぜその条件が重要か」で本当のニーズを発見
3
選択肢を創造
AかBかではなく第三の案を一緒にブレスト
客観的基準で合意
市場価格・業界標準など客観データで合理的に決着

こんな悩みに効く
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  • 交渉がいつも「勝つか負けるか」の勝負になってしまう
  • 相手の要求に押されて不利な条件を飲んでしまう
  • 交渉後に「もっとうまくやれたのに」と後悔する

基本の使い方
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人と問題を分離する

交渉相手を「敵」ではなく、「一緒に問題を解決するパートナー」と捉える。

  • 感情的にならず、事実と利害にフォーカスする
  • 「あなた」ではなく「この問題」について話す
  • 相手の面子を潰さない配慮をする

ポイント: 「あなたの提案はおかしい」→「この条件だと双方に課題がありそうです」と言い換える。

立場ではなく利害に焦点を当てる

お互いの「要求(立場)」の裏にある「本当に求めていること(利害)」を探る。

  • 相手が「値下げしてほしい」と言う → 本当の利害は「予算内に収めたい」かもしれない
  • 自分が「納期は変えられない」と言う → 本当の利害は「品質を保ちたい」かもしれない

ポイント: 「なぜその条件が重要なのですか?」と聞くことで、利害が見えてくる。

お互いの利益になる選択肢を創造する

「AかBか」の二者択一ではなく、第三の選択肢を一緒に考える。

  • 値下げの代わりに、支払い条件を分割にする
  • 納期は変えないが、先に一部を納品する
  • ブレインストーミング的に複数の案を出し合う

ポイント: パイの奪い合いではなく、パイ自体を大きくする発想が鍵。

客観的基準で合意する

「どちらが強いか」ではなく、客観的な基準で合意を判断する。

  • 市場価格、業界標準、前例、専門家の見解
  • 「この条件は業界の標準的な水準と比較してどうでしょうか」
  • 双方が納得できる基準を事前に合意しておく

ポイント: 感情論ではなく、データや基準に基づく議論にすることで、合理的な合意が生まれる。

具体例
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例1:システム開発の受託交渉で予算ギャップを解決

状況: クライアントが「500万円以内で全機能を実装してほしい」、開発会社は「800万円は必要」と主張。ギャップ300万円

利害に焦点:

  • クライアントの利害: 今期の予算内に収めたい(来期は別予算あり)
  • 開発会社の利害: 品質を下げたくない、赤字は避けたい

選択肢の創造:

クライアント開発会社
案1: 2期分割今期500万+来期300万適正利益確保
案2: スコープ調整600万でコア機能のみ品質を維持
案3: 成果報酬500万+成果報酬20%成功時の上乗せ

客観的基準: 類似プロジェクトの市場価格を調査→機能あたり単価で妥当性を確認

結果: 案1を採用。クライアントは予算内に収まり、開発会社は適正利益を確保。長期取引関係にも発展し、翌年は追加で2案件を受注。

例2:SaaSの年間契約交渉で双方が満足する合意

状況: 大手企業の購買部門が「年間契約額1,200万円を1,000万円に値下げしてほしい」と要求。SaaS企業としては利益率を維持したい。

利害の探索:

  • 購買部門の利害: 「前年比コスト削減の実績」を社内で示したい(KPIにコスト削減率がある)
  • SaaS企業の利害: 単価を下げたくないが、3年契約は欲しい(解約リスク低減)

創造した選択肢: 年間契約額は1,200万円のまま据え置き。ただし3年契約で活用支援サービス(年額200万円相当)を無償提供。購買部門は「200万円分のサービスを獲得」として社内にコスト削減実績を報告可能。

結果: 単価を一切下げずに3年契約を獲得。購買部門も「200万円のコスト削減」実績を社内報告でき、双方ハッピー。LTVは単年契約時の3.5倍に。

例3:地方企業の代理店契約交渉

状況: 地方の食品メーカーが東京の大手販売代理店と契約交渉。代理店は「手数料30%」を要求。メーカーは「20%が限界」と主張。

利害:

  • メーカー: 粗利率を守りたい + 東京市場に進出したい
  • 代理店: 高い手数料が欲しい + 独自商品のラインナップを充実させたい

選択肢の創造:

  • 手数料は25%で折り合い(中間値)
  • ただし、メーカーが代理店限定のオリジナル商品を開発(原価は安いが利益率が高い)
  • オリジナル商品の手数料は**15%**に設定(代理店は独占販売で差別化)

客観的基準: 食品業界の代理店手数料の相場(20〜28%)を複数ソースで確認

結果: 標準商品25%+オリジナル商品15%のハイブリッド手数料で合意。メーカーの平均手数料は実質22%に。代理店はオリジナル商品が人気となり年間売上が前年比140%に。

やりがちな失敗パターン
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  1. 立場の主張合戦をする — 「500万」「800万」「間を取って650万」は交渉ではなく妥協。利害を探ることで、もっと良い解が見つかる
  2. 準備不足で臨む — 相手の利害、自分のBATNA(代替案)、客観的基準を事前に整理しておく。準備が交渉の8割を決める
  3. 「いい人」になりすぎる — Win-Winを目指すことと、自分の利害を主張しないことは違う。自分の利害もしっかり伝える
  4. BATNAを持たずに交渉する — 代替案がないと「この交渉が決裂したら困る」という弱みが透ける。必ず事前に最善の代替案を準備しておく

まとめ
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ハーバード流交渉術は、「立場」で争うのではなく「利害」に焦点を当て、双方が満足する合意を創造するフレームワーク。人と問題を分離し、客観的基準で判断することで、感情に流されない合理的な交渉ができる。ビジネスだけでなく、あらゆる場面で使える普遍的なスキル。