ひとことで言うと#
案件を追うか撤退するかを感覚ではなく構造化された判定基準で決めるレビュープロセス。「勝てない案件に時間を使わない」という規律を組織に定着させ、営業チーム全体の受注率と生産性を引き上げる。
押さえておきたい用語#
- Go/No-Go(ゴー・ノーゴー)
- 案件を追求する(Go)か撤退する(No-Go)かの二択判定。曖昧な「様子見」を排除し、明確な意思決定を迫る仕組み。
- マストウィン基準(Must-Win Criteria)
- Go判定に必ず満たすべき最低条件を指す。1つでも欠けていればNo-Goとする絶対基準。
- ショルダーウィン基準(Should-Win Criteria)
- 満たしていると受注確率が大きく上がる推奨条件のこと。マストウィンを満たした上で、総合的な勝率を評価するために使う。
- サンクコストバイアス
- 「ここまでやったのだから」と過去の投資を理由に撤退できなくなる心理的傾向。Go/No-Go判定で最も注意すべきバイアス。
Go/No-Goディールレビューの全体像#
こんな悩みに効く#
- 「いけるかも」と追い続けた案件が半年後に失注する
- 営業チームが低確度案件に工数を取られ、重要案件を落とす
- 撤退の判断が属人的で、基準がチームで統一されていない
基本の使い方#
具体例#
従業員30名のITコンサル会社に、地方銀行(従業員800名)からRFP(提案依頼書)が届いた。案件規模は 4,500万円。コンペ参加企業は5社。
マストウィン基準の確認
| 基準 | 状況 | 判定 |
|---|---|---|
| 予算確保 | RFPに明記、4,500万円 | ✓ |
| 決裁者アクセス | 情報システム部長が窓口 | ✓ |
| 技術適合 | 要件の85%は自社技術で対応可 | ✓ |
| 導入時期 | 来年度4月稼働(明確) | ✓ |
マストウィンは全クリア。
ショルダーウィン基準の評価
| 基準 | 状況 | 判定 |
|---|---|---|
| チャンピオン | 情報システム部の係長が好意的 | ○ |
| 競合優位 | 地銀での実績なし、大手3社が有利 | × |
| 同業種実績 | 信用金庫1件のみ | △ |
| リソース余力 | 主力コンサル2名が別案件で満稼働 | × |
ショルダーウィンは 1/4 で基準未達。特にリソース制約が深刻で、「無理にアサインすると既存案件の品質が落ちる」と判断。No-Go の判定を下した。
RFPへの丁寧な辞退レターを送り、リソースを既存の 6,000万円 案件(Go判定済み)に集中。結果的にその案件を受注し、利益率も 25% を確保できた。
従業員150名のSaaS企業で、営業チーム12名が月次のGo/No-Goレビューを導入した。導入前の課題は「営業担当者がパイプラインの案件を手放さない」こと。平均パイプライン滞留期間が 128日 と長期化していた。
判定基準の設計
マストウィン4項目 + ショルダーウィン5項目 = 計9項目のスコアシートを統一。
3か月間の運用結果
| 月 | レビュー対象 | Go | No-Go | 保留→再評価 |
|---|---|---|---|---|
| 1月 | 45件 | 28件 | 12件 | 5件 |
| 2月 | 52件 | 30件 | 15件 | 7件 |
| 3月 | 48件 | 32件 | 11件 | 5件 |
3か月で計 38件 をNo-Go判定。営業1人あたり月平均 18時間 の工数が浮き、Go案件へのタッチポイント頻度が週1回→週2回に増加。
四半期の受注率は 22% → 31% に改善。パイプライン滞留期間は 128日 → 74日 に短縮された。営業マネージャーは「No-Goを出す勇気が組織文化になった」と振り返っている。
従業員45名の建設コンサル会社が、県の河川改修設計業務(予算 8,000万円)の入札参加を検討。過去3年間で類似案件に5回入札し、受注は 1回 のみ(勝率20%)だった。
これまでの問題
「公共案件は出せば出すほどチャンスが増える」という方針で、Go/No-Go判定なしに全案件に入札していた。その結果、技術提案書の作成工数が年間 2,400時間(実質3人月)に達し、受注案件の品質に影響が出始めていた。
Go/No-Go基準の導入
| マストウィン | 具体的な基準 |
|---|---|
| 技術適合 | 業務実績要件を満たすか |
| 配置技術者 | 条件を満たす技術者が空いているか |
| 地理的優位 | 対象地域から2時間以内にアクセス可能か |
| 利益率 | 想定利益率15%以上を確保できるか |
今回の河川改修案件を評価すると、配置技術者の要件(河川設計10年以上の経験者)を満たす技術者が全員稼働中で No-Go 判定に。
年間の入札数は 15件 → 8件 に絞り込んだが、1件あたりの提案品質が向上し、勝率は 20% → 50% に上昇。年間受注額はほぼ変わらず、提案作成工数は 2,400時間 → 1,200時間 に半減した。
やりがちな失敗パターン#
サンクコストで撤退できない:「もう提案書を3回出している」「先方の部長と3回会った」という過去の投資を理由にGoを出し続ける。Go/No-Go判定は「これからの勝率」だけで判断するもの。過去の投資は判定に含めない。
マストウィンに例外を作る:「予算は未定だけど技術適合が完璧だからGo」のように、必須条件の未達を他の好条件で帳消しにしてしまう。マストウィン基準に例外を認めた瞬間、基準そのものが形骸化する。
No-Go判定の共有を怠る:判定結果を営業担当者の胸の内に留め、チームに共有しない。結果として、別の担当者が同じ案件を追い始める。判定はCRMに記録し、理由とともにチームに開示する。
Go判定後のアクション計画がない:「Go」と判定して安心し、具体的に何をいつやるかを決めない。Go判定はスタート地点であり、受注までのアクションプラン(担当・期限・マイルストーン)をその場で策定する。
まとめ#
Go/No-Goディールレビューは、マストウィン基準とショルダーウィン基準の2段階フィルターで案件の追求可否を構造的に判断する仕組みである。No-Goという判断を「負け」ではなく「勝てる案件への集中」と捉え、チーム全体でその文化を共有することが受注率改善の鍵になる。定例レビューで運用を定着させ、判断基準を継続的に磨いていく。