Go/No-Goディールレビュー

英語名 Go No Go Deal Review
読み方 ゴー ノーゴー ディール レビュー
難易度
所要時間 レビュー1回あたり30〜60分
提唱者 プロジェクトマネジメント領域のGo/No-Go判定を営業に応用
目次

ひとことで言うと
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案件を追うか撤退するかを感覚ではなく構造化された判定基準で決めるレビュープロセス。「勝てない案件に時間を使わない」という規律を組織に定着させ、営業チーム全体の受注率と生産性を引き上げる。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
Go/No-Go(ゴー・ノーゴー)
案件を追求する(Go)か撤退する(No-Go)かの二択判定。曖昧な「様子見」を排除し、明確な意思決定を迫る仕組み。
マストウィン基準(Must-Win Criteria)
Go判定に必ず満たすべき最低条件を指す。1つでも欠けていればNo-Goとする絶対基準。
ショルダーウィン基準(Should-Win Criteria)
満たしていると受注確率が大きく上がる推奨条件のこと。マストウィンを満たした上で、総合的な勝率を評価するために使う。
サンクコストバイアス
「ここまでやったのだから」と過去の投資を理由に撤退できなくなる心理的傾向。Go/No-Go判定で最も注意すべきバイアス。

Go/No-Goディールレビューの全体像
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Go/No-Go判定:2段階フィルターで案件を見極める
マストウィン基準(必須)✓ 予算が確保されている✓ 決裁者にアクセスできる✓ 顧客の課題を自社で解決できる✓ 導入時期が明確→ 1つでもNGなら即No-Goショルダーウィン基準(推奨)○ チャンピオンが存在する○ 競合より優位な差別化がある○ 同業種の実績がある○ リソースに余力がある→ 3/4以上でGo、2以下で要検討2段階フィルターで判定Go全力でリソースを投入勝ちに行くアクション計画No-Go丁寧に撤退しリソースをGo案件に振替No-Goは「負け」ではなく「勝てる案件にリソースを集中する戦略的判断」
Go/No-Goレビューの進め方フロー
1
マストウィン確認
必須条件を1つずつチェックし、未達があれば即No-Go
2
ショルダーウィン評価
推奨条件の充足数で勝率を見積もる
3
リソース対効果の判断
投入工数に見合うリターンがあるか最終確認する
Go/No-Go判定
明確に宣言し、判定に基づいてアクションを開始する

こんな悩みに効く
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  • 「いけるかも」と追い続けた案件が半年後に失注する
  • 営業チームが低確度案件に工数を取られ、重要案件を落とす
  • 撤退の判断が属人的で、基準がチームで統一されていない

基本の使い方
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マストウィン基準を定義する
自社の営業モデルに合わせて「これがなければ絶対に受注できない」条件を4〜5項目定める。予算の存在、決裁者へのアクセス、自社ソリューションとの適合、導入時期の明確さが一般的な項目。チーム全員で合意し、例外を作らないルールにする。1つでもNGならNo-Goと決めることで、判定の曖昧さを排除する。
ショルダーウィン基準を設定する
マストウィンを満たした案件に対して、受注確率をさらに高める条件を4〜6項目設定する。チャンピオンの存在、競合との差別化ポイント、同業種の実績、リソースの余力などが典型的な項目。各項目を○/×で評価し、充足率で勝率を見積もる。
レビュー会議を定例化する
新規案件が発生したタイミング、またはステージが進んだタイミングでGo/No-Goレビューを実施する。営業担当者がプレゼンし、営業マネージャーと1〜2名の同僚が評価する構成が効果的。担当者自身のバイアスを第三者の視点で補正する。レビュー結果は必ず文書化し、CRMに記録する。
No-Go案件を丁寧にクローズする
No-Goと判定したら速やかに顧客に伝える。「今回は御社のご要件に十分にお応えできる確信が持てないため」のように誠実に辞退する。関係を壊さず撤退することで、将来の機会につなげる。空いたリソースはGo案件に即座に振り向ける。

具体例
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例1:ITコンサル会社がコンペ参加可否を判定する

従業員30名のITコンサル会社に、地方銀行(従業員800名)からRFP(提案依頼書)が届いた。案件規模は 4,500万円。コンペ参加企業は5社。

マストウィン基準の確認

基準状況判定
予算確保RFPに明記、4,500万円
決裁者アクセス情報システム部長が窓口
技術適合要件の85%は自社技術で対応可
導入時期来年度4月稼働(明確)

マストウィンは全クリア。

ショルダーウィン基準の評価

基準状況判定
チャンピオン情報システム部の係長が好意的
競合優位地銀での実績なし、大手3社が有利×
同業種実績信用金庫1件のみ
リソース余力主力コンサル2名が別案件で満稼働×

ショルダーウィンは 1/4 で基準未達。特にリソース制約が深刻で、「無理にアサインすると既存案件の品質が落ちる」と判断。No-Go の判定を下した。

RFPへの丁寧な辞退レターを送り、リソースを既存の 6,000万円 案件(Go判定済み)に集中。結果的にその案件を受注し、利益率も 25% を確保できた。

例2:SaaS企業が月次パイプラインレビューでNo-Go判定を下す

従業員150名のSaaS企業で、営業チーム12名が月次のGo/No-Goレビューを導入した。導入前の課題は「営業担当者がパイプラインの案件を手放さない」こと。平均パイプライン滞留期間が 128日 と長期化していた。

判定基準の設計

マストウィン4項目 + ショルダーウィン5項目 = 計9項目のスコアシートを統一。

3か月間の運用結果

レビュー対象GoNo-Go保留→再評価
1月45件28件12件5件
2月52件30件15件7件
3月48件32件11件5件

3か月で計 38件 をNo-Go判定。営業1人あたり月平均 18時間 の工数が浮き、Go案件へのタッチポイント頻度が週1回→週2回に増加。

四半期の受注率は 22% → 31% に改善。パイプライン滞留期間は 128日 → 74日 に短縮された。営業マネージャーは「No-Goを出す勇気が組織文化になった」と振り返っている。

例3:建設コンサルが公共案件の入札可否を判定する

従業員45名の建設コンサル会社が、県の河川改修設計業務(予算 8,000万円)の入札参加を検討。過去3年間で類似案件に5回入札し、受注は 1回 のみ(勝率20%)だった。

これまでの問題

「公共案件は出せば出すほどチャンスが増える」という方針で、Go/No-Go判定なしに全案件に入札していた。その結果、技術提案書の作成工数が年間 2,400時間(実質3人月)に達し、受注案件の品質に影響が出始めていた。

Go/No-Go基準の導入

マストウィン具体的な基準
技術適合業務実績要件を満たすか
配置技術者条件を満たす技術者が空いているか
地理的優位対象地域から2時間以内にアクセス可能か
利益率想定利益率15%以上を確保できるか

今回の河川改修案件を評価すると、配置技術者の要件(河川設計10年以上の経験者)を満たす技術者が全員稼働中で No-Go 判定に。

年間の入札数は 15件 → 8件 に絞り込んだが、1件あたりの提案品質が向上し、勝率は 20% → 50% に上昇。年間受注額はほぼ変わらず、提案作成工数は 2,400時間 → 1,200時間 に半減した。

やりがちな失敗パターン
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  1. サンクコストで撤退できない:「もう提案書を3回出している」「先方の部長と3回会った」という過去の投資を理由にGoを出し続ける。Go/No-Go判定は「これからの勝率」だけで判断するもの。過去の投資は判定に含めない。

  2. マストウィンに例外を作る:「予算は未定だけど技術適合が完璧だからGo」のように、必須条件の未達を他の好条件で帳消しにしてしまう。マストウィン基準に例外を認めた瞬間、基準そのものが形骸化する。

  3. No-Go判定の共有を怠る:判定結果を営業担当者の胸の内に留め、チームに共有しない。結果として、別の担当者が同じ案件を追い始める。判定はCRMに記録し、理由とともにチームに開示する。

  4. Go判定後のアクション計画がない:「Go」と判定して安心し、具体的に何をいつやるかを決めない。Go判定はスタート地点であり、受注までのアクションプラン(担当・期限・マイルストーン)をその場で策定する。

まとめ
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Go/No-Goディールレビューは、マストウィン基準とショルダーウィン基準の2段階フィルターで案件の追求可否を構造的に判断する仕組みである。No-Goという判断を「負け」ではなく「勝てる案件への集中」と捉え、チーム全体でその文化を共有することが受注率改善の鍵になる。定例レビューで運用を定着させ、判断基準を継続的に磨いていく。