ひとことで言うと#
営業パイプラインの各案件に対して予算・決裁者・課題・タイムラインなどの評価軸で受注確度をスコアリングし、限りある営業リソースを高確度案件に集中させる手法。「全案件を均等に追う」から「勝てる案件を選んで勝ちに行く」への転換を実現する。
押さえておきたい用語#
- BANT(バント)
- **Budget(予算)・Authority(決裁権)・Need(ニーズ)・Timeline(導入時期)**の4要素で案件を評価する基本フレームワーク。
- MEDDIC(メディック)
- Metrics・Economic Buyer・Decision Criteria・Decision Process・Identify Pain・Championの6要素で案件を深掘りする高度な案件評価手法。
- パイプライン(Pipeline)
- 初回接触からクロージングまでの商談の進捗状況を管理する仕組みを指す。各ステージの案件数と金額で売上予測を立てる。
- フォーキャスト(Forecast)
- 一定期間内の受注見込み金額の予測。クオリフィケーションの精度がフォーキャスト精度に直結する。
- Go/No-Go判定
- 案件を継続追跡するか撤退するかの意思決定ポイントのこと。クオリフィケーションスコアに基づいて判断する。
ディール・クオリフィケーションの全体像#
こんな悩みに効く#
- パイプラインに案件は多いが受注率が低い
- 全案件に均等に時間を使い、結果的にどれも中途半端になる
- フォーキャストの精度が悪く、月末に計画未達が発覚する
基本の使い方#
具体例#
従業員25名のWeb広告代理店で、営業3名が計30件の案件を抱えていた。受注率は 18% で、営業マネージャーは「案件数は十分なのに数字が足りない」と悩んでいた。
クオリフィケーションの実施
全30件を5軸(予算・決裁者・課題・時期・競合)で各3点満点、合計15点でスコアリング。
| 判定 | スコア | 件数 | 合計金額 |
|---|---|---|---|
| A(12〜15点) | 高確度 | 5件 | 2,400万円 |
| B(9〜11点) | 中確度 | 8件 | 3,600万円 |
| C(6〜8点) | 低確度 | 12件 | 4,800万円 |
| D(5点以下) | 撤退候補 | 5件 | 1,200万円 |
営業3名の工数分析をしたところ、C/D判定の17件に全体工数の 52% を使っていた。
リソース再配分後の結果
D判定5件は丁寧にお断りし、C判定12件は月1回のメール+自動ナーチャリングに切り替え。空いた工数をA・B案件に集中した結果、3か月後の受注率が 18% → 34% に改善。受注金額は月平均 380万円 → 620万円 に伸びた。
従業員500名のERPベンダーで、四半期のフォーキャスト精度が ±35% と大きくブレていた。営業担当者の主観的な「受注確度70%」という報告が当てにならず、経営層からの信頼が低下。
統一評価基準の導入
MEDDICベースの6項目評価を導入し、各項目に客観的な基準を設定。
| 評価項目 | 3点(確認済み) | 2点(一部確認) | 1点(未確認) |
|---|---|---|---|
| Metrics | ROI試算を顧客と合意 | 定性的な期待効果のみ | 効果の議論なし |
| Economic Buyer | 直接対話済み | 存在を特定済み | 不明 |
| Decision Criteria | 評価基準を文書で入手 | 口頭で確認 | 不明 |
| Decision Process | 承認フローを把握 | 一部把握 | 不明 |
| Identify Pain | 定量化された課題 | 定性的な課題認識 | 課題不明確 |
| Champion | 社内推進の行動確認 | 好意的な担当者あり | 不在 |
導入効果
四半期末のパイプラインレビューで全80件を評価。営業担当者が「確度80%」と報告していた案件のうち 23% がスコア上はC判定(低確度)だった。この可視化により、フォーキャストの精度が2四半期で ±35% → ±12% に改善。経営層との信頼関係も回復し、投資判断のスピードが上がった。
シリーズAのSaaSスタートアップ(従業員20名、営業2名)が、月15件の新規商談に対応していた。営業2名で全件を均等に追っており、毎月の受注は 2〜3件(受注率 15%)。ARR目標の達成には受注率 30% が必要だった。
シンプルな4軸評価の導入
スタートアップの営業フェーズに合わせて、評価軸を4つに絞った。
- 予算: 予算確保済み(3)/ 予算枠あり(2)/ 予算未定(1)
- 課題の緊急度: 今四半期中に解決したい(3)/ 半年以内(2)/ いつか(1)
- 意思決定者の関与: 商談に同席(3)/ 存在を把握(2)/ 不明(1)
- 自社プロダクトとのフィット: 標準機能で対応可(3)/ カスタム必要(2)/ ギャップ大(1)
月15件を初回商談直後にスコアリングし、9点以上をA、7〜8点をB、6点以下をCに分類。
運用結果(3か月間)
A判定(平均月4件)に営業工数の 65% を集中。B判定(平均月5件)は週1回のフォロー。C判定(平均月6件)はセルフサーブ資料を送付し、反応があった場合のみ対応。
受注率はA判定案件で 55%、B判定で 20%、C判定で 5%。全体の受注率が 15% → 28% に向上し、ARR目標の達成ラインに乗せることができた。
やりがちな失敗パターン#
「営業の勘」でスコアを甘くする:担当者が自分の案件に愛着を持ち、客観的な基準より高いスコアを付けてしまう。特に長期間追っている案件は「ここまでやったのだから」とサンクコストバイアスが働く。マネージャーとの合同レビューで基準を統一する。
評価して終わり、リソース配分を変えない:スコアリングだけ実施しても、全案件を均等に追い続けたら意味がない。D判定案件からの撤退は心理的に難しいが、その工数をA案件に振り向ける判断がクオリフィケーションの本質。
初回評価のまま放置する:スコアは商談の進展とともに変動する。週次レビューで更新しないと、実態とスコアが乖離し、判定の信頼性が崩壊する。CRMにスコア更新日を記録し、2週間以上更新されていない案件をアラート対象にする。
評価項目が多すぎて運用が定着しない:理想を追って10項目以上にすると、営業担当者が面倒になり入力しなくなる。まずは4〜5項目で始め、運用が回ってから項目を追加する方が定着する。
まとめ#
受注率を上げる最もシンプルな方法は、勝てる案件を見極めてそこにリソースを集中させることにある。予算・決裁者・課題・時期・競合の5軸で全案件をスコアリングし、ABCD判定でリソース配分にメリハリを付ける。週次の再評価でスコアを最新に保ち、フォーキャスト精度と受注率の両方を改善していく。