ひとことで言うと#
顧客企業の中で自社の提案を社内に推進してくれる「チャンピオン」が本当に機能する人物かどうかを評価し、不足する要素を補強するためのチェックリスト。大型案件の受注は、チャンピオンの質で決まる。
押さえておきたい用語#
- チャンピオン(Champion)
- 顧客企業の内部で自社の提案を積極的に推進してくれるキーパーソンのこと。営業が直接アクセスできない意思決定者に代わって働きかける存在。
- エコノミックバイヤー(Economic Buyer)
- 最終的な購買決定権と予算権限を持つ人物を指す。チャンピオンがこの人物にアクセスできるかが案件成否を左右する。
- インフルエンス(Influence)
- チャンピオンが社内で持つ発言力・信頼度のこと。肩書きではなく、実際に意思決定を動かせるかどうかで判断する。
- パーソナルウィン(Personal Win)
- チャンピオンが提案の採用によって個人的に得るメリットやキャリア上の利益。組織の利益だけでなく個人の動機を理解することが重要。
チャンピオン・チェックリストの全体像#
こんな悩みに効く#
- 商談は順調なのに稟議の段階で止まってしまう
- 窓口担当者が「上に話してみます」と言ったまま音沙汰がない
- 大型案件で誰を味方につければいいかわからない
基本の使い方#
顧客企業の中で、自社の提案を推進してくれそうな人物を見つける。
- 商談中に最も積極的に質問してくる人物
- 現状の課題を自分ごととして語る人物
- 社内での発言力がありそうな役職・ポジションの人物
ポイント: 窓口担当者がチャンピオンとは限らない。「この案件を通したい」という個人的な動機がある人物を探す。
候補者が真のチャンピオンかどうかを4要件で評価する。
- パワー: 決裁者にアクセスでき、社内で影響力があるか
- ペイン: 課題を定量的に把握し、解決の緊急度が高いか
- ビジョン: 導入後の成功像を描け、自社ソリューションの価値を理解しているか
- パーソナルウィン: 導入成功が本人のキャリアや評価にプラスになるか
ポイント: 4つすべてが揃って初めて「真のチャンピオン」。1つでも欠けていたら、その要素を営業側から補強する。
チャンピオンが社内で戦えるよう、必要な材料を提供する。
- 社内説明用のサマリースライド(3〜5枚)
- ROI試算シート(導入前後の比較)
- 同業界の導入事例(「あの会社も使っている」という安心材料)
- 想定される反対意見への回答集(FAQ形式)
ポイント: チャンピオンに「営業資料」をそのまま渡すのではなく、社内プレゼン用に作り直す。チャンピオン自身の言葉で話せるレベルにする。
具体例#
状況: 従業員60名のHRテックSaaS。従業員800名のメーカー人事部に評価システムを提案。窓口の人事係長が好意的で「ぜひ導入したい」と言っていたが、3ヶ月経っても稟議が通らず失注。
失敗分析(チェックリストで振り返り):
| 要件 | 評価 | 実態 |
|---|---|---|
| パワー | × | 係長で決裁者(人事部長)への影響力が弱い |
| ペイン | ○ | 現場の課題をよく理解していた |
| ビジョン | △ | 自分の業務改善は描けたが、全社的なROIは説明できなかった |
| パーソナルウィン | △ | 失敗リスクを恐れて積極的に推進しなかった |
再アプローチ: 6ヶ月後、人事企画課の課長(元経営企画出身、社内改革プロジェクトの実績あり)にアプローチ。4要件すべてが○の真のチャンピオンだった。課長用にROI試算書と導入ロードマップを作成し、経営会議で通す支援を行った。
再アプローチから2ヶ月で年間契約額720万円の受注に成功。最初の失注から学んだ「チャンピオンの質」が勝敗を分けた。
状況: 従業員150名のITコンサルティング会社。大手小売チェーン(従業員3,000名)にPOS刷新+データ分析基盤の提案。見積額8,000万円。窓口はIT推進室の室長だが、社内での立場が微妙な状況。
チェックリスト評価:
| 要件 | 初期評価 | 補強策 |
|---|---|---|
| パワー | △(IT推進室は新設で影響力未知数) | 経営企画部長との3者ミーティングを設定 |
| ペイン | ○(POS老朽化で店舗運営に支障) | 課題の定量化(POS障害による売上損失: 年間4,500万円)を共同で試算 |
| ビジョン | △(技術面は理解しているが経営効果を説明できない) | 同規模小売の導入事例をまとめた5ページの資料を作成 |
| パーソナルウィン | ○(IT推進室の実績作りが本人のミッション) | — |
育成プロセス:
- 室長と一緒にROI試算ワークショップを実施(2時間×2回)
- 社内プレゼン用スライドを営業側で下書きし、室長がカスタマイズ
- 想定される反対意見(「そこまでの投資が必要か」「他社でいいのでは」)への回答を準備
- 経営会議の前にリハーサルを実施
室長が経営会議で自信を持ってプレゼンし、1回目の経営会議で8,000万円の予算承認を獲得。IT推進室は「成果を出す部署」として社内評価が上がり、翌年度もデータ活用プロジェクト(追加3,000万円)の発注につながった。
状況: 従業員20名の情報セキュリティ会社。従業員400名の中堅病院にセキュリティ監査+対策導入を提案。窓口の情報システム課長は「必要だと思う」と言うが、動きが鈍い。
チェックリスト評価:
| 要件 | 評価 | 問題点 |
|---|---|---|
| パワー | ○ | 院長との距離は近い |
| ペイン | △ | 「何となく不安」レベルで定量的な認識なし |
| ビジョン | × | セキュリティ対策後の具体像を描けていない |
| パーソナルウィン | × | 「事故が起きたら自分の責任になる」という防衛意識のみ |
補強策: ペインの定量化が必要と判断。厚生労働省の医療機関へのサイバー攻撃統計と、同規模病院でのインシデント事例(診療停止3日間、損害額2,800万円)をまとめた資料を提供。「事故が起きた場合のコスト」と「予防投資のコスト」を比較する1枚のサマリーを作成した。
さらに院内の看護部長(電子カルテのヘビーユーザーで、システム停止への危機感が強い)を第2のチャンピオンとして巻き込み、院長への直接プレゼンを実現。
情報システム課長と看護部長の2名体制で院内を動かし、提案から4ヶ月で年間契約480万円を受注。単独のチャンピオンでは動かなかった案件が、2人目を加えることで加速した。
やりがちな失敗パターン#
- 窓口担当者をチャンピオンと思い込む — 好意的な反応=チャンピオンではない。4要件で客観的に評価し、パワーとパーソナルウィンが欠けていないか確認する
- チャンピオンを武装させずに放置する — 「あとは社内で通してください」は無責任。社内説明資料、ROI試算、FAQ集など戦うための武器を提供する
- チャンピオンが1人しかいない — 1人に頼ると異動・退職で案件が消える。複数の部署にチャンピオン候補を持つ「マルチスレッド」が安全策
- パーソナルウィンを無視する — 組織メリットだけでは人は動かない。「この提案が通ると、あなた自身にとってどう良いか」を一緒に言語化する
まとめ#
チャンピオン・チェックリストは、顧客社内の推進者を「パワー・ペイン・ビジョン・パーソナルウィン」の4要件で評価し、不足要素を営業が補強するフレームワーク。大型案件の受注確度はチャンピオンの質に直結するため、「好意的な窓口担当者」と「真のチャンピオン」を区別することが第一歩になる。