内的家族システム

英語名 Internal Family Systems
読み方 インターナル ファミリー システムズ
難易度
所要時間 30分〜1時間(1セッション)
提唱者 Richard C. Schwartz(1990年代)
目次

ひとことで言うと
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人の心には複数の**「パーツ(サブパーソナリティ)」が存在し、それぞれが独自の感情・信念・役割を持っているという前提に立ち、パーツ同士の関係を整理して「セルフ(本来の自己)」**のリーダーシップを回復する心理モデル。リチャード・シュワルツが家族療法の枠組みを個人の内面に応用して開発した。

押さえておきたい用語
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押さえておきたい用語
セルフ(Self)
すべてのパーツの上位に位置する本来の自己。好奇心・思いやり・冷静さ・勇気といった「8つのC」の資質を持ち、パーツを統合するリーダー役。
マネージャー(Manager)
日常的に傷つくことを予防するパーツ。完璧主義、過剰な計画、他者の顔色をうかがうなどで安全を保とうとする。
ファイアファイター(Firefighter)
感情の痛みが噴出したとき緊急消火するパーツ。過食、飲酒、衝動買い、怒りの爆発など、手段を選ばず苦痛を止めようとする。
エグザイル(Exile)
過去の傷つき体験を抱えた追放されたパーツ。痛みが大きすぎるため、マネージャーやファイアファイターによって意識の外に押し込められている。
アンバードニング(Unburdening)
エグザイルが抱えている古い痛みや信念を手放すプロセス。IFS療法のゴールの一つ。

内的家族システムの全体像
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内的家族システム:パーツの構造とセルフの役割
心のパーツ構造とセルフのリーダーシップセルフ(Self)好奇心・思いやり・冷静さ・勇気マネージャー予防的に守る完璧主義・過剰計画他者の顔色をうかがうファイアファイター緊急消火する過食・衝動買い怒りの爆発・回避行動エグザイル追放された傷ついた子ども孤独・恥・恐怖「自分は価値がない」守る守るセラピーセルフ主導の統合プロセス①パーツに気づく「今どのパーツが 活性化してる?」②パーツと対話「何を守ろうと してくれてるの?」③荷を下ろすエグザイルの痛みを手放す(アンバードニング)
IFSセッションの進め方フロー
1
パーツの認識
今活性化しているパーツに気づく
2
セルフへの移行
パーツに少し退いてもらいセルフの視点を回復
3
パーツとの対話
セルフからパーツの役割と恐れを尋ねる
統合と解放
エグザイルの荷を下ろしパーツの役割を更新

こんな悩みに効く
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  • 「やりたい」と「怖い」が同時に湧いて動けなくなる
  • 普段は冷静なのに、あるトリガーで突然怒りが爆発する
  • 自分の中に矛盾する感情があり、どれが本当の自分かわからない
  • 頭では「大丈夫」と思っても、身体が拒否反応を示す

基本の使い方
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今活性化しているパーツに気づく

感情が強く動いたとき、「これは自分のどのパーツが反応しているのか」と問いかける。

  • 身体のどこに感覚があるか(胸の圧迫、胃の締めつけなど)に注意を向ける
  • そのパーツに名前をつける(「批判する声」「怖がっている子ども」など)
  • 複数のパーツが同時に活性化していることもある。まずは最も強いものに焦点を合わせる
セルフの視点に移行する

パーツと自分を分離し、好奇心を持ってパーツを観察する姿勢を取り戻す。

  • 「自分はこのパーツそのものではない。このパーツを見ている自分がいる」と確認する
  • パーツに「少し退いてくれますか」と丁寧にお願いする
  • 好奇心・思いやりが感じられたら、セルフの視点に立てている証拠
パーツの意図を尋ねる

セルフからパーツに向かって**「何を守ろうとしているの?」**と問いかける。

  • どんなに厄介なパーツにも肯定的な意図がある(怒りのパーツも「傷つかないように守っている」)
  • パーツが安心するまで話を聴く。急かさない
  • パーツの背後にエグザイル(傷ついた子どものパーツ)がいることが多い
エグザイルのケアと役割更新

保護パーツの許可を得た上で、エグザイルにセルフから思いやりを届ける

  • エグザイルに「もうあの頃とは違う。今は私がいる」と伝える
  • 古い痛みを手放す(アンバードニング)ワークを行う
  • 保護パーツに「もうその役割はいらない。新しい仕事を見つけよう」と提案する

具体例
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例1:会議で意見を言えないデザイナー

30歳のUIデザイナー。デザインレビューで自分の案を批判されると黙り込んでしまい、毎回後から「あのとき言い返せばよかった」と後悔する。年次評価で「もっと主張してほしい」とフィードバックされた。

IFSのセルフワークに取り組んだ。

パーツの特定:

  • 批判されたとき活性化するパーツ:「シャットダウンする子ども」(身体が固まり声が出なくなる)
  • 背後にいたエグザイル: 小学校の図工の時間に作品を全員の前で笑われた記憶を抱えていた

マネージャーパーツの意図: 「また笑われたら恥ずかしい。黙っていれば安全だ」

セルフからの対話:

  • マネージャーに「守ってくれてありがとう。でも今は小学校じゃない。ここでは意見を求められている」と伝えた
  • エグザイルに「あのとき笑われたのは辛かったね。でも今の同僚は君の意見を聴きたがっている」と声をかけた

結果: 次のレビューで批判を受けたとき、まず「シャットダウンしたがるパーツがいるな」と気づき、深呼吸してから「その指摘は理解した上で、ここは意図があって残したい」と初めて反論できた。3か月後、レビューでの発言回数は2倍になり、上司から「明らかに変わった」と評価された。

例2:部下を叱りすぎてしまう管理職

42歳の製造部門マネージャー。部下がミスをすると瞬間的に強い口調で叱責してしまい、3人が異動願を出した。本人も「あんな言い方をするつもりはなかった」と後悔するが止められない。

社内カウンセラーがIFSの視点で面談。

パーツの特定:

  • 怒りが爆発するパーツ: ファイアファイター(「甘い対応は許さない」)
  • その背後のエグザイル: 新入社員時代にミスで上司から全員の前で罵倒された記憶。「ミス=破滅」という信念を抱えていた

ファイアファイターの意図: 「ミスを放置すると自分もあのときのように叱られる。先に潰さなければ」

セルフからの対話:

  • ファイアファイターに「部下を守ろうとしてくれているのはわかる。でもこの方法では逆に人が離れている」と伝えた
  • エグザイルに「あのとき罵倒されたのは理不尽だった。でも今の自分はもう新人ではない」と語りかけた
  • ファイアファイターに新しい役割を提案:「叱る代わりに、冷静なフィードバックで部下の成長を助ける」

結果: 部下のミスに反応する前に「ファイアファイターが来た」と気づけるようになった。叱責の頻度は月8回 → 1回に激減。部下からの信頼が回復し、異動願の取り下げが2件あった。

例3:転職を決断できない30代エンジニア

35歳のバックエンドエンジニア。現職に不満があり転職サイトを見るが、いざ応募しようとすると強い不安で手が止まる。この状態が2年続いていた。

IFSセルフワークで内的対話を試みた。

パーツの特定:

  • 転職を推進するパーツ:「挑戦者」(「もっと成長できる場所がある」)
  • ブレーキをかけるパーツ: マネージャー(「失敗したら取り返しがつかない」)
  • さらに奥のエグザイル: 高校受験に失敗し、第二志望の学校で3年間劣等感を抱えた記憶

2つのパーツの対立: 挑戦者が「行こう」と言うたびにマネージャーが「待て」と止め、エネルギーが相殺されて動けなくなっていた。

セルフからの介入:

  • マネージャーに「もし転職して失敗しても、あの高校受験のときとは違う。今は経験もスキルもある」と伝えた
  • エグザイルに「受験に落ちたのは辛かった。でもそれは君の能力の問題じゃなかった」と声をかけた
  • 挑戦者とマネージャーに「2つの声を統合しよう。慎重に準備しながら挑戦する、という道がある」と提案した

結果: まず3社だけ応募すると決めた。マネージャーのパーツが「準備は十分か」と確認する声に変わり、面接対策を入念に行った結果、第一志望の企業から内定を獲得。年収は15%アップで転職を実現した。

やりがちな失敗パターン
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  1. パーツを排除しようとする — 「この怒りのパーツを消したい」はIFSの趣旨と真逆。すべてのパーツには肯定的意図があり、敵ではなく味方として対話する
  2. 保護パーツの許可なくエグザイルに接近する — マネージャーやファイアファイターの信頼を得る前にエグザイルに直接触れると、保護パーツが暴走して症状が悪化する
  3. セルフに移行できていないまま対話する — パーツに乗っ取られた状態で別のパーツに話しかけても、パーツ同士の口論になる。「好奇心がある状態か」を必ず確認する
  4. 深い傷に独りで踏み込む — 日常レベルのパーツワークはセルフヘルプで可能だが、幼少期のトラウマに触れる作業は訓練を受けたIFSセラピストと行う

まとめ
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内的家族システム(IFS)は、心の中に複数のパーツが共存しているという前提に立ち、それぞれのパーツの役割と意図を理解した上でセルフのリーダーシップを回復する心理モデルである。マネージャー(予防)とファイアファイター(緊急消火)が守っているエグザイル(傷ついた子ども)に、セルフから思いやりを届けることで内的な安定が生まれる。パーツを敵視するのではなく**「全員に良い意図がある」**と認めることが、このモデルの最も重要な前提である。